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在りし日の光景

先の先。主人公の過去に触れる話として作成しました。

が、今後使う予定が今のところないためボツとして投稿します。

「ここはどこだ?」


目が覚めた俺は見知らぬ場所にいた。

畑が見える事から村であろう事は分かる。

だが、俺はここに来た記憶がない。

どうしてここに、何故居るのか、それが一切分からず困惑する。

覚えてる最後の記憶は母様に縋り付いて眠った事だけ。

そこからどれくらい眠っていたのか分からないが、ここはもしや夢の中だろうか。

頬を抓って確かめてみる。


「…………痛くはないな。本当に夢の中なのか?」


頬を触っている感覚があるが、痛みはない。

夢の中だと断言はできないが、現実でないのは確かだろう。

こんなリアルな夢があるかという疑問はあるが、実際に体験している以上あるとしか言えないだろう。

このままジッとしていたら覚めるだろうか、ふとそんな疑問が湧く。

気になった物は試したくなり1、2分ほど何もせずに待って見る。


………


……………


……………………


(何してるんだろうな、俺)


検証結果は何も起こらず、ただただ時間だけが経過した。

このままジッとしていた所で何も変わらないと分かっただけ、成果があったと言えるだろう。

特にやる事もないため、脱出の手掛かりを探しながら村の中を歩く。

村の中には人は居らず、物寂しさがある。

時代に置いていかれた村と言った感じだろうか。

笑い声もしなければ、気配もしない。

誰も居ない村に孤独感を感じるが、怖いとは思えない不思議な感覚。

やはり、ここは夢の中ではないかと思う。

試しに近くに咲いていた花に触れる。

手の動きに合わせて動きはするが、音はしない。

グラフィックだけは良いVRゲームをやっている気分になる。

なんというか、虚無だった。

無意味な行動に嫌気が差し、立ち上がる。


「ん?なんだあれ」


ちょうど顔を上げたタイミングで遠くに建物が見えた。

山の中腹に設けられた建物は遠目ではあるが、神社っぽく見える。

入り口があるかと視線を下に向ければ山の前に鳥居がある事に気付く。

ちょうどこの道を真っ直ぐ進んだ先だ。

特に目的もなく動いていた俺は興味が惹かれるまま鳥居に向けて歩いて行く。

風に揺れる稲穂を、用水路を通る水を眺めながら歩くが、やはり音はせず。

ただただ無音の景色が広がるばかり。

画質だけは良いテレビを見ている気分になる。

いくら恐怖を感じないとは言え、飽きてきた。

夢なら早く覚めたいものだと思いながら歩け続け、鳥居へと辿り着く。

異様に時間が掛かった、そう思いながら鳥居の先へと目を向ける。


「う~~ん………なんだか知ってる場所だな?」


既視感があった。

村では感じなかった感覚に、何処で見た事があったかと記憶を漁る。

真っ先に思い浮かべたのは母様の社に続く階段だった。

あの階段は長いこと手入れがされず、枯れ葉や欠けがあったが、幅や段差がピッタリ合う気がするのだ。

気がするだけなので、本当にそうなのかは分からない。

だが、何も関係がないという事はないだろう。

俺の記憶にない以上、母様の記憶の可能性が高いのだ。

脱出の糸口になるかは分からないが、行ってみない事には始まらない。

神社に向かうべく俺は階段を登り始める。


(肝試しに来たのが最初だったんだよな。まさか母様と遭遇すんなんて考えてもいなかったけど)


登りながら思い出すは母様との出会い。

心霊スポットでちょっとした肝試しのつもりがまさかの神との遭遇。

それも元神とかいうヤバい存在との遭遇だ。

あの時は恐ろしかったし、また同じ状況になったとしても逃げてる。

それがまさか、娘にされて親になってしまうなんて過去の俺に言った所で信用されないだろう。

ソースは俺。たとえ俺じゃなくても信じる奴なんていないだろうがな。

ほんと色々あったな―。元男だって分かっててアレだもんな―。

思い返すのは懊悩の数々。

嫌がる俺を無理やり風呂に入れた上で一緒に入ってくるし。

ベットも一緒でないと嫌だと言って抱き付いて寝るし。

今は女性とは言え、元男として何も思わない訳がない。

母様美人だし、娘の俺としてはもう少し警戒して欲しいと思う。

力で勝てない以上、無理なのは分かってるけどさ。

というか、自然と娘とか言ってる辺りもう戻れないんだと実感する。

もはや嫌だと思わないけど、あの抵抗はなんだったんだと虚しくなる。

というか、獣人の寿命ってどれくらいあるんだ。

母様は例外としても、人間の倍とか生きるのかな。

もしや、一生とか?―――いや、ないない。もし本当だったとしたらゾッとする。

そうなったら俺どうなっているんだろうか。

母様みたいになるとか。母様みたいな話し方して、気に入った人間を娘に変えるなんて事をしてるかも。

…………これ以上考えても坩堝に嵌まるだけだな、うん。

未来の事は今から考えたって仕方がない。未来の事は未来の俺に任せよう。


「――って考えてる間に着いたな」


長いと感じていた登りも、気が付けばあと数段という所まで迫っていた。

どんな景色が待ってるのかと思いながら階段を登り切った先で、俺は驚く事になる。


「ようこそ、稲荷神社へ。お待ちしておりました、ナツキ様」


黒い長髪の女性だった。巫女服を纏い、手には箒を持っている。

彼女の下には落ち葉が溜まっており、今まさに掃除をしていたのだろうと察せられる。

だが、俺が驚いたのはそこじゃない。

人だ。この世界に来て初めて人と出会えた。


「………幻じゃないよな?」

「幻だと思いますか?」


思わず漏れでた問いに、巫女は笑いながら問い返してくる。


「いや、その反応からして幻じゃないな。というか、待ってた?俺のことを?会ったことあったっけ?」

「詳しい話は中で致しましょうか」


質問攻めする俺に対し、巫女は苦笑すると境内に設けれた授与所に俺を案内する。

俺はそれに着いて行きながら境内を見回す。

先程は巫女のインパクトに持って行かれ気付かなかったが、境内をよくよくみると現実との差異に気が付く。

特に御神木は現実より1回りか2回りほど小さい気がするし、鈴緒は真新しい気がする。

どれも気がするだけだが、間違い探ししている気分で楽しかった。


「こちら居間になります。今お茶を用意しますので、お好きな場所に座ってお待ちください」


居間へと通された俺は返事を返し、適当な場所に座る。

居間を見回すが、やはりここにも違いが存在した。

現実では木が育ち過ぎて、日を遮っていたここもこの中では程よく日の差す居心地の良い部屋だし。

殺風景だった部屋の中も、人が住んでいるだけあり物が沢山存在する。

ざっと見ただけでも、仕事道具が多く、併設された販売所に商品を補充できるようにしてあるのだろう。

これが本来の姿かと思うと、現実のこの部屋が如何に物寂しいかが良く分かる。


「お待たせしまし……如何されましたか?」

「あ、いや………ちょっとギャップにやられただけなんで大丈夫です」


どうにか出来ない物かと悩んでいる間に、準備が整ったらしい。

心配を掛けてしまったと反省しながら、目の前に置かれたお茶を一口飲む。


「……美味しい」


母様が淹れるよりも美味しいお茶に自然と口から感想が漏れる。

巫女は嬉しげに笑みを浮かべると感謝を述べ、自身もお茶を飲む。

姿勢良く飲むその姿に綺麗だと思っていると、湯呑みを置いた巫女が居住まいを正し此方を見る。

その真剣な眼差しに思わず釣られ姿勢が伸びた。


「先程のご質問の前に、先に謝罪をさせてください。同村の者がご迷惑をお掛けいたしました」

「……は?いや、え?急に頭を下げられても困るから一度上げてくれ!」


突然の事に驚き戸惑う。

慌てて顔を上げてもらい、理由を聞く。


「すみません。早く謝らなければと先走ってしまいました」

「あぁ、それは良いんだけどさ。同村の者って言っていたけど誰のことを言ってるんだ?」

「餓鬼達の事です。あんな見た目ですが元は私と同じ村の人達だったんですよ」

「アイツらの事か……」


思わず顔を顰めてしまう。

あの時の光景は今思い出しても寒気がする。

元が人だとは思えないほど猟奇的な事を繰り返すアレをどうしても人だとは思えなかった。


「アンタが―――っと、名前を聞いてなかったな。知ってるだろうが改めて、俺の名前はナツキだ。よろしく」

「私はヒバナです。ナツキ様、改めてよろしくお願いいたします」

「会った時からずっと思ってたけど、様はやめてくれ。むず痒い」

「ふふ、ではナツキと呼ばせていただきます」

「あぁ、それで頼む」

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