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最後の晩餐

「もう2人とも帰るのか?」


居間にて、俺は夕食を食しながら対面に座る伊神と一鬼に聞いた。

あれからまだ数時間しか経っていないのに明日には立つなんて早すぎないか?

もう少しゆっくりしてけば良いのに、そんな意味を込めて聞いたのに2人は笑う。


「残念だけど、用事があってね。そんなゆっくりしていられないんだ」

「ワシも同じだ。用がなければもう少し鏡と一緒に居りたかったぞ」


残念ではあるけど、用事があるなら仕方ない。

少しだけ気落ちしてしまう俺に、伊神は「でも」といって言葉を続ける。


「ナツキが着いてくるのなら話は別だけどね」

「許すわけないじゃろ!」


バチン!っと痛い音を響かせて、母さんが伊神の頭を叩く。

驚き目を見開く俺の先で、伊神が頭を擦りながら抗議するように目を細めて母さんを見る。


「ただの冗談だったのに酷いじゃないか」

「冗談で言って良いことと悪いことがあるのじゃ。お主はそれでも大人かの?」

「うわっ、差別だ。差別主義者がいるよ。ナツキ、酷いと思わない?」

「いや、俺を巻き込まないでくれよ」


母さんを怒らすことをした伊神が悪いと思う。おれ知らない。

ぷいっとそっぽを向けば、伊神が「この裏切り者!」と叫ぶが、そもそも裏切ってすらいないからな?

そのまま母さんと言い争いになる伊神を置いて、俺は一鬼を見る。


「改めてだけどさ。ありがとう、一鬼」


お礼の言葉に一鬼は口角をあげる。


「ワシはほとんど何もしとらん。だが、礼は受け取ろう」

「なぁ、酒を注いでも良いか?」

「別に構わぬが、どうした?」

「良いから良いから」


あえてその質問には答えず、一鬼が手にもつ徳利に瓶酒を注ぐ。この瓶酒、匂いだけでもクラっとくるぐらい強いアルコール度数を誇っている。

これを飲んでるのにビクともしない一鬼の酒の強さに、さすがは鬼と驚きつつも、注ぎ終えた俺はジュースの入ったコップを手にもつ。


「なぁ、杯を交わすって知ってるか?」

「知っとるぞ。ヤクザ物で兄弟の契りを交わすやつだろう?」

「おっ、やっぱり知ってた?あれ、1度やってみたかったんだよ、俺」

「なるほどな。だからわざわざ注いだのか」

「そういうこと。ただ、今の俺は酒飲めないから、ジュースで妥協するしかないのが残念だけど」


無理やり飲むこともできるけど、それしたら母さんに怒られるのは確実だしな。

少しばかり悔しさを滲ませる俺の頭を一鬼は撫でる。


「ジュースだろうが、酒だろうが、どちらでも出来ることだ。なにを飲もうが、交わす2人にとって大事なものとなるのだ。逆に、記憶に残りやすいと思うぞ?」

「たしかに、そうかもな。というか、何気に頭を撫でているな?」

「嫌だったか?」


聞かれると答えに窮する。嫌か好きかで言えば好きだ。前世でも撫でられるのが好きだったし。

ただ、ここ最近やたら撫でられることが多すぎて、違和感もなく受け入れてる自分自身が恐ろしくなったのだ。

元男として、また大人として、子供扱いされるこの状況を許容すべきではない。

このままなぁなぁのまま流されてしまえば、撫でられただけでエヘヘと笑うようになってしまうかも知れない。

それだけは頑固として許してはならないと、熱く語れば一鬼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「被害妄想が過ぎるとも言えんのが困るな」

「えっ、もしかして……」


いや、嘘だよな?もう既にそうなってるのか……?

縋るような眼差しを向ける俺に、なんとも言いづらそうに口を開きかけた一鬼。その横から飛び出すように伊神が顔を見せる。


「うわっ!!」

「ナツキは気づいていなかったようだけど、もう既に頭を撫でられるだけで喜ぶようになっちゃってるよ。実際、ほら。自分の尻尾を見てみなよ」


指で示される先におそるおそる目を向ければ、フリフリと嬉しそうに揺れる己の尻尾が。意識して動かしていないのに、こうも揺れるなんて。

隠していた本音が剥き出しにされるようなこの感じ。顔が熱くなるのを自覚する。

これは違うと、そう思いこもうとするのに、周囲から向けられる生暖かい視線。

あっ、これ駄目だ。激しい羞恥心に負け、俺は尻尾を抱きかかえて部屋を飛び出す。


「違うからな!喜んでないから!!」


部屋中に響き渡る俺の声。これが俗にいう負け犬の遠吠えだとは、この時の俺は気づかなかった。


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