もう元には戻れない(完成)
出来は良い。
個人的に過去1かも?
ただ、前話がボツった以上、これもボツになりました。
どうにかこの展開に繋げられないかと試行錯誤してたのですが、結局は無理。
というか、このクオリティーに合わせようとした結果、他全てがボツった感じです。
「はぁ~~、これが今の俺か……」
姿見を前に俺は項垂れた。
鏡に映った自分の姿を直視して現実を受け入れられなかったのだ。
まさか、まさか本当に――――
「幼女に変わっちまうなんて……」
元の面影など一切感じられない見た目は、あの神を幼くした姿に見える。
あの神と同じ黒髪、同じ金の瞳、そして頭の天辺から生える二対の耳までそっくりだ。
骨格から何から何まで変わってしまえば親友だろうが親だろうが、俺だと気付く事は出来ないだろう。
人ではあり得ない耳もそうだし、腰の付け根から生える尻尾がある時点で俗世で生きて行くことは難しい。
よしんば、生きて行くことが出来たとしても世にも珍しい獣人だ。
人道を問わない科学者の実験体や権力者の愛玩にされるだけだろう。
姿形を変えられた時点で――もはや人ではない。
強い絶望感が胸に去来する。
――ちょっとした肝試しのつもりだったのに
――あの時来るなんて考えなければ
――これから俺はどうなるのか
様々な思いが心を駆け巡る。
ネガティブになっては駄目だと思うのに、絶望的な状況を前に止まる事など出来ない。
呆けた表情で鏡を見ることしか出来ない俺の背後で扉が開く。音に釣られて鏡越しに見た人物に思わず絶句した。
神だ。俺をこんな姿に変えた元凶だ。
鮮烈に思い起こされるあの夜の出来事。
「あぁ………あぁ………」
へたり込む。腰が抜け、足腰が立たない。
逃げたい思いとは裏腹に体は言うことを聞かない。
何か、何か手立てはないかと考える内、俺は自然と床を這っていた。
少しでも遠くに逃げるため床を這い、逃げようとする。
だが、ここは部屋の中だ。逃げられるのも限界がある。
現に、這った先には壁しか存在しない。
少し歩いただけで辿り着く距離だ。
左右に逃げようとも距離が伸びるだけで結果は変わらない。
もう逃げる事は出来ないのか、そう思うだけで筆舌しがたい絶望が心を侵食する。
それが嫌で、認めたくなくて、無意識に壁に爪を立てていた。
壁があるならそれを壊せば良い、無意識にそんな事を考えてしまったのだろう。
か細い声で呻き声を上げながら壁を引っ掻く。
きっと、今の俺を見たら目にハイライトが無いんだろうな。
こんな状況にも関わらず、心の中でそう思う。
いや、この状況だからこそだろう。一周回って理性を取り戻したのだ。
とは言っても、体は言うことを聞かず相変わらず壁を引っ掻き続けている。
脳だけが理性を取り戻したのだ。
故に気付けた。先程から神が来ないことに。
どうして、そう疑問に思い後ろを見やる。
(―――は?)
神は笑っていた。それも俺の横で。
何が楽しいのかニコニコと笑っていたのだ。
頭が真っ白になる。体の動きが止まり、呆然と神を見上げていた。
「なんじゃ、もう良いのか?」
その表情は、瞳は語っていた。
俺の抵抗が可愛くて仕方がない、と。
そこでふと思い出す。あの夜、神はなんと言っていたか。
そう、確か――
「人の絶望顔を見るのが好き」
「よく覚えていたのぅ。さすがは我が娘じゃ」
そう言って神は俺の頭を撫でる。
まるで我が子を褒める親のように。
いや、実際向こうからしたらそうなのだろう。
俺からしたら決して親と認めたくないが。
「爪を怪我しとるな。どれ、この母が治してやる故、手を貸すのじゃ」
抵抗はしなかった。した所で無意味だと思い知られたばかりなのだ。
言われるまま俺は手を神の手に乗せる。
そこで初めて自分の手が血で濡れていた事に気付く。
爪はボロボロで、裂けた皮から血が流れている。
とても痛々しく、痛みを感じていなかったのが不思議なくらいだ。
すぐに治るような傷ではないが、神はどうやって治すのだろうか。
疑問に思いながらも神の一挙手一投足に注目する。
だが、そんな俺の目の前で起こった事は見ているからと言って理解できる事ではなかった。
「ふぅ」
神がやったのはたった1つ。
息を吹き掛けた、ただそれだけ。
だが、その結果は驚くべき物だった。
吹き付けられた先から手の傷が消え、元から怪我などしていなかったと言わんばかりに綺麗な状態へと戻る。
傷の消えた手を持ち上げ、グーパーと動かしてみるが痛みはない。
まじまじと見ても傷がないのだから凄いものだ。
これが神パワーかと、つい感心してしまう。
「うむ、綺麗になったのじゃ。どうじゃ、痛みはあるかの?」
「無い……これどうやってるんだ……?」
「お主の言う神パワーじゃ。妾も原理は理解しとらん」
「心を読んでたのかよ……」
今さら驚きはしないが、心を読まれて良い気分はしない。
それに、原理が分からないって使って大丈夫なのかと不安になる。
神なら、だったなら自分の力を理解しておくべきだろう。
そう思うが、言える勇気はなく心の中に仕舞っておく。
気が付けば先程まで存在した恐怖が消えていた。
怪我を治してくれたから、というのも勿論あるが、今のやり取りで少なくとも危害を加えてくる事はないと分かったからだ。
それに、わざわざ娘にした者を殺す理由がないし、する意味が分からないというのもある。
希望的観測に過ぎないが、考えたらキリがない。
今は取り敢えず、この神の娘として過ごすしかないのだ。
(まずは、そうだな――試しに母さんと呼んでみるとするか)