幕間 風呂場での一時
何故だろう。
TS要素を出すだけで執筆に簡単に油が乗るのは。
元々はこう言うのが書きたかった筈なのに何故こうなったのか、疑問が尽きません。
翌朝、飛び上がるように起きた俺は肌に張り付く服の感触に気持ち悪さを感じ、脱衣場に来ていた。
服を脱ぎ、洗濯カゴに入れる。
ブルリと体が震えた。
汗を掻いて体が冷えているからだろう。
体を抱き締め擦りながら風呂場へと向かう。
「うっ」
開いた扉の先から溢れだす湯気に驚きから呻き、咄嗟に目を瞑る。
手で湯気を振り払いながらも目を開けば視界に入るは檜風呂。
家庭にあるとは思えない広い風呂場、その湯気が立つ風呂の蛇口からは絶えず湯が湧き出ており、一定の温度をキープしている。
なんでも、源泉がこの風呂場に繋がっているらしく、湯を炊く必要がないとは母さんの言だ。
壁に近付く。風呂場に設置された木製の梯子、その上へと顔を向けると竹で作られた小さなブラインドが見える。
「よいしょっと」
ブラインドを上まで持ち上げて突起に引っ掛ける。
落ちないように固定するためだ。
ブラインドで隠されたその先、格子窓が露になる。
陽の光が差し、朝の冷たい風が吹く。
眩しくも気持ちの良い風に目を細めて梯子を下る。
改めて見る風呂場は陽の光に照らされ、より一層綺麗な光景へと変わっていた。
夜とはまた違った景色に思わず感嘆の溜め息を漏らす。
「これが家にあるとかほんと、母さんどうやって作ってもらったんだよ」
絶対、20万30万じゃ作れない。
これ作るのにいったいどのくらいかかったのか、考えただけで震えそうになる。
これ以上考えるのは止め、本来の目的を果たすべく幾つか設置された椅子に腰掛け、蛇口を捻った。
ジャーっと音を鳴らすシャワー、雨のように降るそこに手を入れて温度を確かめる。
「少し熱いか」
水を加えて塩梅を探し、納得の行く温度になると頭を入れて濡らす。
汗でくっついた髪を手で解し、シャンプーを泡立て髪に塗る。
ゴシゴシと両手を使い髪全体へと塗るが大変だ。
前なら、首辺りの長さに止めていた為に洗うのは楽であったが、今は腰に届く長さのために雑にやっても時間が掛かる。
(母さんからの一言がなければ軽く洗うだけで終わったのに……)
思い返すは初めてこの姿でお風呂に入った時、風呂場から出て来た俺を見て母さんが怒ったのを思い出す。
『何をやっとるナツキ!濡れたままでは髪質が悪くなるじゃろ!!ほれ、妾が拭いてやるからこっちに来るのじゃ!』
そんなに怒らないでも、とは思うがその時は素直に髪を乾かしてもらった。
だが、その後が問題だった。
俺の洗い方を聞いた母さんは呆れた溜め息を吐く。
『はぁ、もう少し女子としての自覚を持たぬか』
『俺、少し前まで男だったから自覚を持てと言われても困るんだけど』
『困ったのぉ……そうじゃ、妾と入らぬか?』
『は?』
何の冗談だと思った。
幾ら今の俺が女とは言え、元男だ。
それを知っていながらそんな提案するとか、変態なのかと思わず疑ってしまうのも仕方ないと思う。
『なんじゃ。妾と入るのは不服か?』
『不服というか……』
なんで不機嫌になるんだ。
口ごもりながらも、俺は心の中で溜め息を吐く。
このまま入るなんてことになったら俺の理性が保てない。
何か良い案はないかと考え、1つ思い付く。
『今度からちゃんと髪を洗うし、乾かすからそれで許して欲しいんだけど駄目かな?』
『駄目じゃ。言葉だけでは妾は信じぬ。諦めて妾と一緒に――』
『なら、今度同じことあったらずっと一緒に風呂入るんなら良いか?』
『なんじゃと?』
苦渋の決断だった。
もしこれで約束を違えたなんてことになれば一生、俺の理性が試され続けるのだ。
でも、これ以外に頷いてくれそうな案は思い付かなかった。
だから仕方ないと、自らに言い聞かせる。
『良いじゃろ。じゃが、次はないからの?』
『分かったよ。ありがとう、母さん』
『はぁ~、妾も甘くなったものよ。娘の可愛さに負けてしまうとはのぉ』
『はは……』
この体で良かった、なんて思わないが、危険が遠ざかったことには感謝した。
それからだ。丁寧に髪を、身体を洗うようになったのは。
次は無いと知れば誰だって真剣になる。
面倒だと感じつつもあまり手を抜かず全てを洗え終えた俺は湯へと浸かる。
「はぁ~~」
程よい湯加減に思わず声が漏れる。
幼女の可愛らしい声にこれが今の俺の声かと哀愁を抱く。
男の喉太い声を聞くよりなら此方の方が聞いてて耳心地が良い。
だが、俺の声だ。長年慣れ親しんだ声が聞こえなくなるというのは思ったよりも辛い。
早く元に戻りたいと思うものの、今の俺は果たして本心からそう思っているのか疑問を抱く。
一鬼に聞かれた時も答えられなかった疑問に、未だに俺は答えを見つけられない。
湯気が昇る天井を見上げ考えに耽る俺の背後、風呂場唯一の扉が開く。
「ナツキ?こんな朝早くから風呂とは珍しいのぉ」
「え?」
まさか、そんな。
慌てて振り向いたその先に居るは母さんの姿。
それも全裸だ。なんも隠してない。
一瞬の内に顔が赤くなるのを感じる。
咄嗟に顔を反らすが母さんの全裸姿が頭を離れない。
ヤバイと思いつつも、逃げ場などない風呂場に絶望する。
「どうしたのじゃ、そんなに顔を赤くして」
「な、ななななんで全裸なんだよ!?」
「なぜ、と言われても風呂に入りに来たのじゃよ。そこにナツキが居たのは驚いたが、別に困るものでもなかろう?」
困るんだよ、俺が。
ほんと、母さんには俺が元男だということを理解して欲しい。
「まぁ、良い。折角じゃ、妾と一緒に入らぬか?」
「入らないからな!?というか!俺が元男だって知っていながらそんな事を言うの止めてくれ!!」
言ってやった。
妙な達成感を抱きながら母さんの返事を待つ。
「ふはっ!分かっとる、分かっとるぞ。じゃが、ナツキの恥ずかしそうな顔を見ると可愛らしくての。ついついからかいたくなってしまうのじゃ」
分かっていながらやってやがったのか、この母さんは。
遊ばれていたと知り、沸々と怒りが沸く。
やり返したい。何かないか。
そこで思い付く1つの案。
天才的な発想に俺は笑いそうになる口元を隠して、母さんを見る。
この時、大事なのはなるべく目を吊り上げること。
いかにも怒っていますよ、とアピールするためだ。
渾身の嫌悪を口に籠めて俺は言う。
「母さんのこと大嫌い!」
結論から言うと通じなかった。
敗因は1つ、心を読めることを失念していたことだけ。
怒った母さんにたっぷり仕置きされた俺は床に伏してぐったりとする。
容赦のない尻叩きだった。
ジンジンと痛む尻を押さえながら思うことはただ1つ。
絶対にやり返してやるという復讐心だけであった。




