諦めなければきっと
「それがワシの過去だ」
想像以上に壮絶だった。
愛する妻を失くし、娘さえもナニかと呼ばれる存在に取り込まれる。
その挙げ句、自らも異形と化してしまう。
これは不幸なんて生易し言葉で表現しきれないものだ。
壮絶な過去を経験しながらなお、諦めずこの歳まで娘を取り戻す方法を探して生きて来た一鬼はスゴいと思う。
今回、村の解決に手を貸すのも専門家としての面と、娘の手掛かりを求める面があるとのことだ。
「すまぬな。こんな老い耄れのジジイなんかの話を聞かせて」
「いいや、聞けて良かったよ。一鬼のことを知る事ができたからな。だが、良かったのか?会ってそんな経たない相手に話して」
この話は会って数日の仲で話せるようなものではない。
自分の弱みほど、人は話だからない筈だ。
なのに、話した。聞いた後とは言え思わず確認してしまうのはおかしな事ではないだろう。
「罪滅ぼしの一面もある。境の話を聞いて、申し訳なくなったのだ」
「だけど、あれは一鬼がやった事じゃない」
「ワシはあの子の親だ。たとえ変わり果てようとあの子の父親であることに変わりはない」
先程までの憂いを帯びた瞳は何処に行ったと言うのか。
俺を見詰めるその瞳には覚悟を決めたもの特有の凛とした焔を宿していた。
俺は何も言えなかった。そんな覚悟を持つ者に何を言ったところで無駄だと直感で理解したのだ。
「長々と話してしまったな。付き合ってくれてありがとう、境。明日はよろしく頼む」
「あぁ……」
立ち上がり去って行く一鬼の背を、俺は見ていることしか出来なかった。
それから暫くして、1人っきりの縁側で床に背を預ける。
夜空が綺麗だった。あんな話は聞こえていなかったとばかりに爛々と輝く星々。
素直に羨ましいと思う。
俺もただの星であればこんなに悩むことも、苦労することもなかったんじゃないかと思ったからだ。
「明日、決着が着く」
成功するにしろ失敗するにしろ決着は目前だ。
このタイミングで聞かせれたのは果たして運が良いと言えるかどうか。
ともすれば死亡フラグだ。
思わず笑ってしまう。
「そんなの折ってやるよ」
せっかく得た機会をたかが死亡フラグ如きで折られて堪るか。
伸ばした手で空を握り潰す。
これで死亡フラグは折った。
俺達は死なないし、彼等は救われる。
失敗はしない。
大きく息を吸って吐き出す。
その勢いに合わせ起き上がった俺は一鬼の消えた先に顔を向ける。
「一鬼。絶対に諦めないでくれよ。娘を救うことを」
諦めなければ救われる。
俺が良い例だ。あの環境から助け出され、今度は村を救う手立てを得た。
なら、きっとある筈だ。
1人で無理なら俺が協力する。
2人で無理なら伊神や母さんだっている。
あんたには頼れる奴がいるんだ。
だから、どうか、諦めないでくれ。




