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一時の休息

「今更なんだが、名前を名乗っても良いか?流石にずっと貴様とかお主とか呼ばれるのはちょっとな……」


本当に今更ではあるが、タイミングの良いこの機会に提案する。

その言葉に1人は納得気に頷き、もう一方は目を見開く。


「そう言えば名を聞いてなかったのぉ。良い機会じゃから、お互いに名乗り合おうぞ」

「まだ名すら交わしてなかったのか!?よくもそれでワシを呼ぼうと思ったものだ。おかしな物でも喰ろうたか?」


それはそう。他人事のように俺は頷く。

俺から助けを求めたとは言え、日の浅い関係の者に協力するなんて普通はあり得ない。

正気を疑う鬼の目線に、神はムッと顔を顰めた。


「別におかしな物は喰ろうてない。原因の一端に妾が関係あるのであれば協力するのはおかしなことでもなかろう?」

「貴様、本当にあのナヨか?為り代わられてはおらぬか?」

「それ以上、現を抜かすのなら本気でやり合うことになるぞ?」


鬼の一言に怒気を顕にして睨む神。

正直、止めて欲しかった。

やっと落ち着いたかと思えば、また一色触発の空気だ。

今度こそ俺の命が終わったかと思ったが、そうは問屋が卸さないらしい。


「ふむ……まぁ、良い。もう既に知っていると思うがワシの名は一鬼(イッキ)。一匹の鬼と書いて一鬼だ。改めてよろしく頼む」


名乗りを終えて一鬼は俺に手を差し出す。

あまりにも当たり前に差し出されるものだから無意識に握り返してしまう。

ゴツゴツと強張った筋肉質の手の固さに、これが鬼の手かと場違いな感想を抱きながら応える。


「俺は伊神(いがみ) (きょう)。鏡と書いて(きょう)だ。此方こそよろしく」


改めて一鬼の顔を見たが恐れはなかった。

先のやり取りか、はたまたそれ以外か、理由は不明だがリラックスして返すことが出来た。


「先に2人だけでするとはつれないのぉ。妾の名はナヨ。“元”稲荷の神、ナヨじゃ。鏡、お主には特別にナヨと呼ぶことを許してやろう」


そこに混じるは神、ナヨ。

先程までの怒りは何処に行ったのか、さも平然とした様子で会話に混じって来た。


「ふん!何が許してやるだ!許可も与えんと呼ばせないとはお主、些か器が小さ過ぎる」

「ふはっ!妾ぐらいしか友の居ないお主には言われたくない。妾以外にお主の名を知ってる者は如何ほどだろうかのぉ?」


「はは………」


食って掛かる一鬼とナヨのやり取りに俺はただ乾いた笑みを浮かべるばかり。

短期間にこのやり取りを見慣れたからだろうか、気を失いかけることなく見ることが出来ている。

なんなら、軽い挨拶にしては本気で殺気をぶつけ合うものだと、感心する余裕すらあるのだ。

そんなやり取りも先と変わらず、数分も経たずに終え、今は互いに席に着いて茶をしばきつつ茶請けに出された菓子を摘まんでいた。


「認めたくはないが、相変わらず旨いな」

「ふふ、そこは素直に褒めるものじゃ。ほれ、こっちも食ってみぃ。妾の自信作じゃ。鏡も食べるか?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


とても和やかだ。

ナヨ特製の茶菓子はどれも美味しく、特に羊羮は絶品であった。

茶との相性をとことん拘ったらしく、茶を含んで嘱すことで甘味を強く感じる。

甘さ控えめとは思えない程の甘さ。しかし、諄い甘さではないのだから不思議なものだ。


………


…………


……………


「あぁ~………和んでるところ申し訳ないんだが、話を戻しても良いか?」

「む?そう言えばそうじゃ。いつもの流れで茶を楽しんでしもうた。すまんのぉ」

「ワシこそすまぬ。つい、いつもの癖で茶を楽しんでしまった」


場の空気を乱すのはどうかと思ったが、気分を害した様子はない。

そのことにホッと安堵しつつ、苦笑してしまう。

とても仲良さそうに見える2人だが、どうやら甘酸っぱい空気はないらしい。

茶飲み友達とでも称せば良いか、とてもまったりとした空気が2人の間には流れている。

だが、その空気もそこまで。慎重な面持ちで一鬼は話し始める。


「して、鏡の体の件だが……」

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