ボツ2
続きの部分になります。
ただ、最終的にボツになりました。
最初はただ心霊スポット巡りをするつもりだった。
旅先で訪れた町で、地元で有名な心霊スポットがあると聞き興味本位で訪れたのが始まりであった。
夜も深け、丑三つ時まであと少しという時間帯。
山奥深く、舗装されていない道を通れねば辿り着けない場所にソレはあった。
「ここが1つ目の心霊スポット、巫女の霊が出るって噂の廃神社か。思ったよりも雰囲気があるなぁ」
懐中電灯の照らす先、神社の入り口に立つは古びた鳥居。
放置されてから何年、何十年と経ち、いつ朽ちてもおかしくない程にボロボロの鳥居だ。
未だに原型を止めているのが不思議なくらいにはボロボロであった。
その先には長い階段が存在し、階段を覆うように幾つもの鳥居が連なる。
一番上へと目を向ければ他よりも一回りも二回りも大きい鳥居が存在し、きっとそこに社があろうと察せられた。
鳥居の多さからして元は稲荷神社だろうか。
つい、そんなことを考えてしまう。
稲荷神社と言えば狐だが、この辺に狐が生息していたりしないだろうか。
居たら会ってみたいと思う。
画面越しでしか見たことのない狐というのを生で見てみたかったのだ。
探索中に遭遇できたら良いなと、そんな淡い希望を持って鳥居を潜り――――空気の変化に驚く。
「ッ!?」
ザワリと、森が鳴く。
侵入が来たと、追い出せとばかりに四方八方から音を鳴らす。
ザワザワ、ザワザワと、まるで威嚇音のように。
次いで感じるは空気の変化。気温が下がり、寒さが肌を刺す。
悪感が背筋をなぞり肌が粟立ち本能が逃げろと訴える。
こんな感覚は初めてですぐにでも帰ろうかと考えてしまう。
(だが、待てよ)
これはチャンスじゃないか、そう考えてしまった。
過去幾つもの心霊スポットを訪れ、検定があるとしたら1級を取れると自負する俺だが、未だに1度も幽霊というのを見た試しがない。
そんな時に訪れたここだ。命の危険があるかも知れない。
だが、死ぬって訳でもない筈だ。
だったらせめて1度その姿を拝んでから帰ったって問題はないだろう。
その時の俺は初めて幽霊が見えるかも知れないと興奮していた。
そこで帰れば良かったと何度後悔したところで過去は変わらない。
意気揚々と階段を登り、神社へと辿り着く。
そこは予想に反してとても綺麗な場所であった。
人の手が入っているのか、朽ちた様子もなければゴミが溜まっている様子もない。
管理人でも居るのかと考えてしまう。
入って来ちゃマズかったかと思いながらも来た以上はせめて幽霊を見てから帰りたい。
さっそく中を探索しようかと考えたその時だ。
「ようこそ、稲荷神社へ。妾は歓迎するぞ」
「うおっ!?」
耳元だ。いま耳元から声を掛けられた。
驚き、思わず跳び跳ねる。
慌てて距離を取り背後を振り向けば――人外がいた。
長髪の黒髪に柔和な笑みを浮かべ、巫女服を纏う。
一見すれば巫女のようだが、頭の天辺から生える二対の耳がただの人ではないと教えてくれる。
背に生えた尾と合わせ、その特徴はまさしく獣人そのもの。
創作の中の存在と出会えたというのに、俺は嬉しさではなく恐怖を感じていた。
「はは、そんなに慌てて逃げんでもよいではないか。妾はお主を喰ったりせんぞ?」
ニコニコと笑う様子からは確かに、襲う気はないのだろう。
だが、それとは別に彼女の纏う雰囲気が異質過ぎた。
次元が異なると、格が違うと言えば良いか、言語化できない感覚に戸惑う。
だから、つい疑問が口を突いて出た。
「…………あんた、何者だよ」
「妾か?妾はここの神じゃ。元、とは付くがの。久方ぶりの人の来訪につい、出迎えただけの神じゃよ」
「は、ははは―――マジかよ」
信じられないし、信じたくない。
だが、その様子からして嘘は言っていないのだろう。
この感覚にも神であったからと言ってしまえば納得も出来なくは、ない。
それも“元”神とかいうヤバい奴だ。
今更ながらに来たことを後悔した。
もう遅いかも知れないが、交渉次第では帰してくれるだろうか。
そんな淡い希望の元、会話を試みる。
「さ、参拝に来たら神様と会えるなんて俺も幸運だな」
「ほう?とてもそうは見えぬが?」
「いやいや、本当だって。今は突然の事に驚いてるだけでさ」
「ふふふ、そうかそうか。で、初めて会う神はどうじゃ?」
俺の嘘が見抜かれている。
見抜いていながらこの状況を楽しんでいるぞ、この神様。
俺の抵抗なんてペットがじゃれているようなものなんだろう。
これは素直に言った方が安牌かと思案する。
…………
………………
……………………
答えは出ない。
というか、この状況で正解などあるのだろうか。
此方は完全に手の平の上で心を読まれてる可能性があるのだ。
下手したら今も心を読んでいて俺の苦悩を楽しんでいる可能性だってある。
ただの凡人に過ぎない俺ではこの状況を覆す方法が思い付かない。
これはもはや当たって砕けろ精神で挑むしかないだろう。
成功したら万々歳、失敗しても死にはしない……筈だ。
取り敢えずやらない事には始まらない。
一度深呼吸をし、覚悟を決める。
「とても美人で驚いてるよ。それで、素直に言わせてもらうけど帰っても良いか?」
「ほぉ、素直にお願いするとは潔が良いな。妾が心を読んでるのも当てるとは中々できることではないぞ?」
「それはどうも。で、帰してくれるのか?」
「ふむ、どうしようかのぉ…………」
悩ましげな声を上げ、右往左往する。
緊張の一瞬に汗を掻く。
無事に帰して欲しいが、侵入者をタダで帰してくれるほどこの神様が優しいとは思えない。
せめて軽い罰だけで済んで欲しいと願う。
「―――――そうじゃ、1つ勝負をせぬか?」
「勝負?」
「うむ、勝負と言うたが正しくは遊びじゃ。鬼ごっこはしたことはあるかの?」
「まぁ、小さい頃に何度か……でも、なんで鬼ごっこなんだ?」
「昔、童たちとよく鬼ごっこをしておったのでな。懐かしくてやりたくなったのじゃ」
「へぇ、そんなことしてたのか」
まだ人と神――神秘が近しい頃の話だろうが、そんな過去があることに驚く。
そんな俺の反応に神は苦笑し、懐かしげに目を細める。
「昔の話じゃよ。話を戻すが、妾が鬼をやるのでお主が逃げる役じゃ。妾から逃げ切れたらお主を解放してやろう。どうじゃ、やるか?」
「範囲と時間、それと俺が負けた場合はどうなる?」
「範囲は無し、どこまでも逃げるが良い。時間は、そうじゃの…………1時間でどうじゃ?」
「1時間かぁ……」
「それと負けた場合は妾の言うことを1つ聞いてもらうぞ。死にはせぬから安心せい」
「う~~~~~ん」
長いと思うが、下手に突いて変な条件が追加されたら困るし、なにより罰ゲームが一番の悩みだ。
何をさせられるか怖い。
一生ここに居ろとか言われるのだろうか。
色々考えてみるが答えは出ない。
だが、死ぬ危険がないだけまだマシ、か。
それに、そんなのなくても俺に有利な条件だ。
役割が逆であれば俺の勝ち目はなかったはず。
なにせここは神様のテリトリーだ。
本気で逃げられてしまえば捕まえることは出来ない。
向こうもそれが分かっているからこそ、あえて有利な方を譲ったのだ。
「分かった。それで勝負しよう」
「決まりじゃ。妾は十分数えてからお主を追いかける故、頑張って逃げるのじゃ」
「良いのか?俺が言うのもなんだがハンデがありすぎる」
「心配せずとも良い。このぐらいのハンデがなければ一瞬で終わってしまうのでな。一方的な勝負ほどつまらぬ物はなかろう?」
「それもそうか。なら、ありがたく逃げさせてもらうわ」
「それで良い」
神は満足げに頷く。
この時間でどのくらい距離を稼げるかが命運を分けるだろう。
鳥居の前に立ち、合図を待つ。
風が吹く。
今日1の風だ。
それを合図に神は言う。
「では、スタートじゃ」