始まりと出会い・上
「―――っと、ここか」
心霊スポットとして有名な廃神社へと俺はやって来ていた。
鬱蒼とした森の中、小山の頂上に建つここはかつて稲荷神社であったという。
訪れる者も管理する者もいなくなったこの神社は廃れ、今は心霊スポットと化してるそうだ。
心霊現象や体験談も多く、巫女の霊を見た人が多いとのこと。
旅先で訪れた町でこの話を聞いた俺は怖いもの見たさで訪れてみた、という訳だ。
「にしても、廃れたにしては綺麗すぎないか?」
人の手が入っていないという話だが、どう見ても人が管理している形跡がある。
間違えた場所に来たかと思いながらもせっかく来たのなら中を見てから帰りたい。
そう思って鳥居を潜り、中を見回す。
「これと言って変化はないな。やっぱり場所を間違えたか……」
入れば少しは変化があるかと期待していたが、やはりというか残念ながらというか何も起こらず。
しっかり確認してから来れば良かったと後悔しながら境内を散策する。
御神木、授与所、絵馬所と見て回るがいたって普通の神社といったところだろうか。
最後にお参りしてから帰ろうかと社の前に立つ。
確か参拝方法があったよなと、あやふやな知識を思い返しながら賽銭を入れ、鈴を鳴らし、礼をする。
(願い事は何にするか……)
寄ったついでぐらいにしか考えていなかったため何も考えず賽銭をしてしまった。
神に祈ったところで叶うとは信じていないが払った分は見返りが欲しいと思う。
無難に安全祈願にしようか、そう考えて心の中で祈る。
(無事に帰れますように)
30秒ほど祈ってから顔を上げる。
「は?」
美女がいた。
それも絶世の美女だ。
社の階段に腰掛け此方を見ている。
いったい何時から、そう疑問に思うがある物を見て疑問が吹き飛ぶ。
「………………しっ………ぽ?」
黄金色をした尻尾が幾つも背から生えていた。
すわ偽物かと思うが、風に揺られて靡く様から偽物ではない。
とても信じられないが本物だろう。
いや、だが、人に尻尾は生えない。
果たして目の前にいる存在は人間なのか。
その疑問は当の本人によって答えられた。
「ふはっ!とても困惑しとるのぉ。お主の思った通り妾は人ではない………なんじゃと思う?」
その瞳は俺がなんて答えるのか興味があると言わんばかりに輝き、俺の答えを待っていた。
この場、この状況に至って目の前の存在が分からないなどと言うつもりはない。
向こうもそれが分かっているからこそ正直に言うか言わないか試している節がある。
いや、遊んでいるか。思わず溜め息を吐く。
というか、さらりと心を読まれている。
あまりにも当たり前に言うものだから疑問に思わなかった。
だが、あの存在であれば造作がないのだろう。
無いとは思うが外れて欲しいと願いつつ答えを言う。
「神か?」
「正解じゃ。もっと正しく言うと元神じゃがの」
「マジかぁ~」
嬉しくない正解に拍手される。
俺からしたら神も元神も大差がないが大事なことなのだろう。
今更ながらさっさと帰れば良かったと後悔する。
「そう言うでない。悲しいではないか」
「気軽に心を読まないでくれ。後、悲しいならもうちょっと悲しそうにしろよ……」
「はは!痛い所を突かれたのぉ。今度からは気を付けるとするのじゃ」
「はぁ」
そうじゃない。
俺が言いたいのはそういうことじゃないんだよ。
そう思うが言ったところで無駄だろう。
いや、実際に無駄だったか。
頭を抱える。面倒くさいのに捕まった。
今すぐ帰りたいがそう易々と帰してはくれないだろう。
話しやすい雰囲気で恐れを抱かずに接せるのが唯一の救いか。
「面倒だとか、帰りたいだとか、お主は妾を何だと思っとるんじゃ。これでも妾、"元"神じゃぞ」
「また………いや、誇らしげに言われても困るからな?こちとら非現実過ぎて困惑中だぞ?」
「そうかの?それは悪いことをした。久方ぶりの人で舞い上がり過ぎてしもうたのじゃ」
神も反省ってするのか。
なんてどうでもいいことを思い、ふと気付く。
「うん?久方ぶりの人?ここには誰も訪れていないのか?」
「そうじゃが?」
「じゃあ、ここの掃除とか管理全部してるのか?」
「そうに決まっとろう。妾の家じゃぞ?自ら綺麗にするのが当たり前――――もしや、今の人は自ら掃除をしないのか?」
信じられない、そう言いたげに神は聞いてくる。
「違う違う。この広い敷地を1人で管理してるのが凄いなって驚いただけだ」
「そうかの?苦でもなかったのじゃが………人からすると大変なのかも知れんのぉ」
そう広い境内を見回し神は言う。
時間があるからでも、掃除が好きな訳でもなく、日課なのだろう。
それが当たり前なのだと、その様子から察せられた。
この神社の中でずっと1人で過ごす。
何時からあるか分からないが寂しくないのだろうか。
ふと、そう疑問に思った。
聞いて良いのか分からない。
地雷の可能性だってあるのだ。
安易に聞いてはいけないと分かっているのに気が付けば口にしていた。
「―――なぁ、ずっと1人で寂しくないのか?」
「寂しい?」
俺の問いかけに神は此方に顔を戻し、不思議そうに首を傾げる。
どうやら寂しいと思ったことはなさそうか。
地雷ではなくて良かったと安堵しつつ、「寂しい」と何度も繰り返し呟く神の様子が気にかかる。
眉間に皺を寄せ悩むこと数分、答えが出たのか神は口を開く。
「ふむ、そう思ったことはない。遥か昔は思ったこともあるが、まだ狐だった頃の話じゃ」
「神になってからはないのか?」
「そうじゃな。昔、お主と同じ質問をされた時も同じ答えを言うた。懐かしいのぉ~」
目を細めどこか遠くを見詰めるその先には誰が見えているのか、それは神にしか分からないだろう。
何気に昔も同じ質問をされたのか、もしやさっき悩んでいたのはその人を思い出すためだろうか。
「俺と同じこと言う人が居たとは驚きだ。もし生きてたら会ってみたかったな」
「もう何百年も前の話だからのぉ、叶わぬ願いじゃ」
「それは残念だ」
首を竦めて見せれば神は愉しげに笑う。
意図していないがお陰で距離が縮まったように感じる。
接していて気付いたがどうやら人と話すのが好きらしい。
ずっとため口で話しているのに怒った様子もないのがその証明だ。
この様子ならもう少し踏み込んでも問題はないだろう。
そう思ったのがいけなかった。




