07. セリカとクラスメートたち
◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなでクラスの皆より少し遅れて、机を四台くっ付けて、ようやく四人でお昼を食べ始めた。
シュンちゃんのお弁当は、おにぎりと卵焼きとウィンナーだった。
「あ、シュンちゃん、昔から卵焼きとウィンナー好きだね」
「うん、僕は卵焼きとウィンナーさえあれば、いいんだ」
シュンちゃんは嬉しそうにいって、おにぎりを美味しそうに食べる
「あれ~あははは。シュンちゃん、ほっぺにご飯粒つけてるよ」
私は思わずシュンちゃんのほっぺについた、ご飯つぶが可愛くて、珍しく声をあげて笑ってしまった。
ついでにシュンちゃんの、ピンクの頬っぺたについたごはん粒をとってあげた。
「あ、ありがとう。セリちゃん」
シュンちゃんは、片手でほっぺたを触った。
「どういたしましてシュンちゃん、笑うと片エクボが出て相変わらず可愛い~」
「え、そうかな。僕、自分の顔って余り良く見ないから気にしたことないよ」
「ううん、私、昔からシュンちゃんのエクボ大~好き!」
私とシュンちゃんは、まるでテレビ番組の“新婚さんカップル”みたいな会話をした。
ふと周りを見ると、なんとなく今日はクラスの空気がザワザワしている。
クラスメートの目線が、私たちをジロジロと、さっきからずっと固唾を飲んで見つめている。
というより、中にはお昼を食べかけの子まで、口をあんぐりと開けっ放しで、シュンちゃんと私を見つめていた。
──あれれ? クラスのみんな、どうしたんだろう? よほどシュンちゃんが珍しいんだろうか?
「ねえ、キミちゃん。シュンちゃんをみんなが見てるけど、転校生ってそんなに珍しいものなの?」
「はぁ? 違うよセリカ、みんなはあんたを見てんのよ!」
「え、何で?」
「何でって、あんたがいつもと、ぜんぜん態度が違うからよ!」
キミちゃんが、ハムサンドを頬張りながら呆れたようにいった。
「え、そうかな?」
「ああセリカ、今日のお前は実におかしいぞ、実におかしいよ、もぐぐッ……」
今度は、ツトム君が黄粉の付いたコッペパンを、ぶちっと歯で噛み切りながら、もぐもぐ食べて呟いた。
「え、そう?」
「「「そうだよセリカちゃん、絶対におかしいよ!」」」
突然周りの席の男子や女子たちが一斉に大合唱のように口を開いた!
「え、何? どうしたのみんな?」
「う、セリちゃん……」
私とシュンちゃんは、周りの反応にギョッとして、目をぱちくり見開いた。
隣のグループの女子たちが、二人、三人食事を食べ終えたのかささっと寄ってきた。
「そうよ、セリカちゃん、本当にびっくり!」
「あたしセリカちゃんが先生に話しかけたの初めて聞いた」
「田中先生も、びっくりした顔してたよね!」
「うん、南さんも堀口君と喧嘩するのね、それもあんな大きな声で!」
「はぁ?」
今度は、後ろのグループの男子たちも寄ってきた。
「俺も、セリカちゃんの笑い声初めてきいた。すっげぇ可愛い!」
「南さんて、こんなに喋る人だったんだ!」
「本当、もっと、お人形のように無口な人だと思ってたよ、でも悪くない!」
「堀口委員長、たじたじになってたじゃん!」
「ちょっとスカッとしたな!」
今度はさっきの女の子たち。
「南さんと、転校生の北野君、すっごく仲良く見えるけど、恋人同士なの?」
「ねえ、この北野君のどこがそんなにいいの?」
などなど。
どさくさまぎれに、凄いことをいう。
何時の間にやら、クラスの半分以上の人が私たちの席の周りにきて、次から次へと矢継ぎ早に私に質問してきた。
「え、そんなことないんだけど……ただ小さい時からシュンちゃんとは仲がいいから……」
「うんうん、北野君と会話してるの聞いてわかったよ」
「ねえ、これからは席が近い私たちにも気軽に話して!」
ふたりの女の子たちが、私にねだってきた。
「うん、分かった……」
私は彼女たちのけんまくにたじたじとなった。
──ひぇ~何なの、この突然の反応は──?
私はもう、びっくり仰天だった!
入学してから早くも三カ月近くたったけど、こんなにクラスメートから注目されたのは初めてだった。
でも、私ってそんなにクラスのみんなと話していなかったのか?
と、ありありと自分が他人から距離を置いていたことに気付かされた。
どうやら、自分は一年四組のクラスメートの一員になっていなかったのだと、改めて理解した。