06. 感じの悪いツトム君とさっぱりキミちゃん
※ 2025/6/17 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
「キーンコーン、カーンコーン」と学校の鐘がなった。
一年四組の午前中の授業が終わってお昼時間だ。
「シュンちゃん、お昼どうする? お弁当もってきた?」
「ウン、お弁当持ってきたよ」
「そう、だったら一緒に食べようよ、このクラスはね、近い席の人たちと机をくっつけて食べるんだよ」
「そうなんだ……」
シュンちゃんは、蚊の鳴くような小さき声で返事をした。
「初日だから緊張して疲れたでしょう」
「そんなことないよ。セリちゃんが一緒だから心強かった」
シュンちゃんのにこりとした笑顔は本当に、私が同じクラスで嬉しそうみたい!
黒縁の瓶底メガネだと、シュンちゃんの可愛い眼がよく見えないけど、それでも私はシュンちゃんが笑っているのがわかった。
──良かった。とりあえず、今日の午後は確か体育の先生が休みで自習だったから、シュンちゃんと学校を廻ってあげたいな。
体育は、体育館で自由運動でもいいから、学校見学もOKだよね。
などと私はメチャクチャなことを考えていた。
「セリカ!」
後ろを振り向くと、小学校から幼馴染の堀口努君が、怒ったように口をへの字に曲げていた。
黒髪サラサラのイケメン君。
中学一年生なのに既に身長が百七十センチと大柄だ。
クラスで一番背の高い。
勉強もできてスポーツ万能。
おまけにクラスの委員長。
性格もリーダーシップがあって何かと頼れる存在。
バスケット部所属で女子には、凄く人気がある。
すでに一年女子の中では、親衛隊なるものが出来ていた。
でも私は中学生になってからの、ツトム君が少し鼻についてる。
言葉にこそ出していないが「俺はモテるんだぞ」みたいなこれみよがしの感じが何か嫌だ。
少女漫画によくいる “出来すぎ君”
なんだか無性に癪にさわった。
ちなみに三番目の拓斗兄は、三年生になるとバスケ部キャプテンになった。
ツトム君は拓人兄にまるで舎弟みたいに、いつもぺこぺこしている。
これだから体育系は嫌なんだよ。
拓人兄は「わかってんな、ツトム。お前がセリカを守るんだぞ!変な男にちょっかいださせるんじゃないぞ!」と私のお守りを任されていた。
だからなのか私はクラスの男の子たちから、からかわれたことは一度もない。
というより、私は六月になっても必要以外クラスの男子とも女子とも話をしなかった。
なんというか私は自分から率先して友達をつくるタイプじゃないし、別に話したいとも思わなかったから。
せいぜい偶然ぶつかったら「悪い」とか「ゴメン」といわれて「ううん、大丈夫」くらいだ。
それにしてもツトム君ておかしくない?
私のお守りなんか断ればいいのに。
中学生になってまで「なぜツトム君にお守りされなきゃいけないんだ」と内心、私は気に入らないけど、三人兄弟の過保護は未だに続いている。
それでもツトム君はニヤニヤして
「いんだよ。俺はお前のお守りを好きでやってるんだから」だって。
面倒見よすぎ、一人っ子だから妹が欲しいのかしら?
時々、私はツトム君にうんざりして「君は保父さんかい?」って突っ込みしたくなる。
◇
「そいつ、本当にお前の幼馴染なのか?」
そのツトム君だが、つっけんどん私に聞いてきた。
「そうよ、五歳の時、信州のおばあちゃん家に住んでた時のお友だちよ。シュンちゃん、彼は堀口努君、クラスの委員長だよ」
「よ、よろしく、北野俊一です」
「北野さあ、変だよ、お前のそのメガネ」
ツトム君はシュンちゃんに挨拶もせずに、不躾な態度を取る。
何が気に入らないのか、さっきからムッとした表情を崩さない。
「僕、凄く眼が悪くて……レンズが厚くなっちゃうんだ……」
シュンちゃんは、明らかにツトム君を怖がっている。
「はあ? 今はレンズを薄くできるメガネもあるはずだけどな、いつの時代だよ。それダサすぎくね!」
「あ、あの……」
私は堪らなくなった。
「ちょっとツトム君、何なのその態度は、シュンちゃんにとっても失礼じゃない!」
私はありったけの大声で叫んだ。
「セリカ……」
流石のツトム君も、私が怒鳴ったのでびっくりした顔をした。
近くにいたクラスメートたちも、驚いたように私達を茫然と見てる。
私のムカムカした気分は、それだけでは収まらなかった。
「人のモノにケチつけるなんて最低。瓶底メガネのどこが悪いのよ、いいじゃない、シュンちゃんが気に入ってるんだから!」
「……セリちゃん、あ、もういいから……」
逆にシュンちゃんは困った顔になった。
「はあん? セリちゃんて……お前なんだよ。セリカになれなれしく呼びやがって」
「何よ、なんか文句あるの?」
とツトム君の言い方が余りにもシュンちゃんを、馬鹿にした感じするから更に言い返した。
「ああ、分かった、分かった。セリカとメガネ、ゴメンな。俺が悪かったよ。そいつも一緒にメシ食うのか?」
「当然でしよ、だって私の隣の席だし。先生もシュンちゃんと、仲良くしろっていったじゃない!」
「まあ、転校生だしな、別にいいけどさ……」
ツトム君は、つきあってらんねえみたいな顔をして、投げやりにいった。
私は、機嫌の悪いツトム君を無視して、後ろのツトム君の机に「ドン!」と、自分の机を乱暴に強く押し付けた。
「ほら、ツトム君の机も、後ろのキミちゃんの机にくっつけるよ。いいよねキミちゃん!」
「え、ああ……わかった」
キミちゃんは、私とツトム君の喧嘩腰の態度に、ポカーンと口を開けて見ていたので、はっとして慌てていった。
「よ、よろしく、北野俊一です」
とシュンちゃんは仰々しく、キミちゃんに頭をぺこりと下げて挨拶をした。
「え、あたしは相原貴美子っていうの。よろしくね」
キミちゃんは、ツトム君と違ってごくごく普通の態度で、シュンちゃんに挨拶をした。
シュンちゃんの後ろの席の女子は、相原貴美子ちゃん。
通称“キミちゃん”だ。
私の親友ともいうべき頼もしき幼馴染。
キミちゃんも中一の女子では、大柄の方で身長は百六十センチもある。
彼女もスポーツ万能でバレー部に所属している。
性格はとっても男っぽくて、サバサバしてて女子に人気がある。
あ、キミちゃんは別に私の“お守り”でもなんでもない。
だけど小学生の頃から大柄なキミちゃんは、背が低くて痩せてる私を守って、盾になるように歩く女の子だった。




