15. 最終話 蛍舞う夜のプロポーズ
※2025/6/17 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
その後、私は中間テストや模試テストもがんばって勉強して、とても良い成績を収めた。
苦手な科目はシュンちゃんが家庭教師になってくれて、毎日学校帰りにお互いの家へ行き交いながら勉強に付き合ってくれたので塾に行かなくても済んだ。
ある日、シュンちゃん家で夕食もご馳走になった時。
シュンちゃんが「今週末、学校の開校記念日で三連休でしょう。久々に里のおばあちゃん家へ家族で行くんだけど、セリちゃんも一緒に行かない?」
と私を誘ってくれた。
「え、あの村里のおばあちゃんのとこ?」
「うん、ほら今、ホタルの季節だから久々に見に行こう、ってなったんだよ、おばあちゃんも年だから心配だしね」
「ええ、行きたい。私も一緒に行ってもいいんですか?」
私はシュンちゃんのお母さんに聞いた。
「勿論よ、セリカちゃんは私の娘同然ですもの。模試の結果もとっても良かったらしいじゃないの。たまには息抜きもしないとね!」
と、シュンちゃんのお母さんは、シュンちゃんと良く似たやさしい顔で微笑んでくれた。
「はい、家族に聞いてみます!」
最近、私は受験勉強で疲れていた中、シュンちゃんのお母さんの励ましがとてもうれしかった。
◇
五歳で、喘息の療養の為に半年間だけ住んだ信州の里の村。
もう、何年も来てなかった。
久しぶりにあった私のおばあちゃんも、シュンちゃんのおばあちゃんも元気で私達を迎えてくれた。
二人とも「腰が少々曲がって痛い」といってたけど、私達が来てくれてとっても嬉しそうだった。
その夜、シュンちゃん家でたらふくご馳走を食べたあと、私とシュンちゃんは二人だけで、秘密の場所へいった。
シュンちゃんのお母さんとお父さんは「二人でいってらっしゃい!」となぜか気を利かせてくれた。
「大丈夫、他にもゲンジホタルが見れる場所があるんだよ」って、シュンちゃんが教えてくれた。
月明かりのない夜、大分真っ暗になってきた。
シュンちゃんと、手を繋ぎながら歩く田んぼ道。
川ぞいの橋についた。
子供の時、シュンちゃんが教えてくれた『秘密の場所』
✧ ✧ ✧ ✧
「わあ、あの頃と、変わらない。変わらないよ、シュンちゃん!」
「そうだね、ここ数年、ホタルが見れる場所も、自然環境が崩壊して減ったって聞くけど、ここはまだ大丈夫だ」
と小さき声のシュンちゃんが真面目な顔をしていう。
隣にいるとシュンちゃんは三年生になってから、大分背が伸びて、私より十センチくらい高くなっていた。
シュンちゃんの大人びた横顔を見ながら、私はちょっとドキドキした。
そんな自分の感情を抑えたくなって私は言った。
「ゲンジボタルが今、光の信号をお互い出してオスとメスが出会ってるのよね」
「セリちゃん、よく覚えてたね」
「うん、あれからホタルの本で調べたの」
あ、シュンちゃんに褒められてうれしい。
「ゲンジボタルやヘイケボタル、あとヒメボタルが、日本のホタルでは光が強いのよね」
「そうだよ、セリちゃん僕ね、ホタルや蛙などの小さな生き物を守っていきたいんだ、だから日本に帰ってきて、日本の高校で勉強して、いつか生物や自然を守っていく大人になりたいんだ」
「私も、シュンちゃんと一緒にカエルやホタルが絶滅しないように少しでも努力したい。あとね、私にとってはシュンちゃんが、私のホタルなの。シュンちゃんと再会した時それがわかったの。私の色のなかったいつもの生活が、キラキラに光り輝きはじめたの」
私は、ホタルのキラキラと、ゆらめく情景に心が躍らされたのか、ついつい本音をいってしまった。
シュンちゃんの顔は暗くて良く見えなかったけど、ところどころでホタルの光が私たちを照らしだす。
ふいに、シュンちゃんが私の手をそっと掴んだ。
「!?」
シュンちゃんの方から、手を掴まれるのは初めてだったので、ちょっとドキッとした。
いつも、私からしか手をつながなかったのだ。
──あ、シュンちゃんの手が汗ばんでて、少し震えてる。
「セリちゃん、ありがとう。僕セリちゃんが大好きだよ」
「シュンちゃん……」
「僕ね、こんなに小さな声しかでないでしょう──体も細いし。ようやく最近背が伸びてきたけど。ツトム君やトシ君みたいにスポーツもできないし、カッコよくもないし、男っぽくもない、セリちゃんを守ることもできない。ずっとそう思ってたんだ……」
シュンちゃんの最後の言葉が消え入りそうになった。
「そんなことないよ、私はシュンちゃんといると、呼吸がとても楽にできて、とっても喋れるのよ」
「うん、そうなんだね。こんな僕を必要としてるセリちゃんがとっても嬉しかった。公園で再会して僕に抱きついてくれたでしょう。転校した初日、挨拶できない僕を庇ってくれた時もあった。セリちゃんは弱虫な僕を、いつも助けてくれた」
「シュンちゃん……」
私は何だか、感無量になった。
シュンちゃんが、わたしのことそんな風に思ってくれて嬉しかった。
だってシュンちゃんは、これまでカエルとかオタマジャクシとか生物の話しかしゃべらなかったのに。
シュンちゃんは不意に言った。
「セリちゃん、ぼくたち一緒に住もう!」
「え?」
「あ、今すぐじゃないよ。僕たちが働いて大人になってからだけど、動物やいきものをたくさん飼って。一緒に勉強して一緒にご飯食べて、毎日笑おう」
「シュンちゃん。それって……」
「うん、この場所で言いたかったの。セリちゃん、将来僕のお嫁さんになってください!」
「…………」
私は胸が詰まって何にもしゃべれなくなった。
「セリちゃん、あの返事は……?」
「……はい シュンちゃん」
私は、消え入りそうな小さき声で承諾した。
シュンちゃんが瓶底メガネを取って、ゆっくりと自分の顔を私の顔に近づけてきた。
ほたるの光の中で、私とシュンちゃんの顔がそっと重なった。
金色、金色 淡いひかりの粒、
キラ キラ キラ キラ、
ゆらゆら、ゆらゆら、ゆれる。
光の玉、光の粒、キラキラ、ゆれて
とひかう、とひかう、 ホタルの群
川のせせらぎ、ヤマセミ 鳴く声、
セリちゃん、泣いた、泣いた、最後に笑った、
シュンちゃん、良かった、良かった、良かった。
静かな夜の川すじ 風のない夜、
シュンちゃんと、手をつないで帰ったホタル道。
──完──
※ 2025/6/15 大幅加筆修正済み
1年前に書いた作品です。
梅雨の季節に幼馴染の少年少女の恋物語。
シュンちゃんとセリカがこの先も“おままごと”といわれるような可愛らしいカップルでいて欲しい。
最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。
<(_ _)>
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