11. 蛙とトシちゃん(3)
※ 2025/6/17 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
その日の学校の帰り道、私はシュンちゃんにトシちゃんとのことを聞いた。
「シュンちゃん、いつのまにトシちゃんと仲良しになったの?」
「…………」
最初、シュンちゃんは黙っていた。
──あ、もしかしてシュンちゃんは大人しいから、トシちゃんに何か弱みを握られて、パシリにでもなったのかも?
私は良からぬ想像をした。
シュンちゃんはそんな心配そうな私の表情に気がついたのかニッコリ笑った。
「ウウン、大丈夫だよ。そうだな、セリちゃんだけには言ってもいいかな」
「シュンちゃん……」
「あのね、僕たちがよく行く中央公園の途中に、雑木林があるでしょう」
「ウン、シュンちゃんと夏に蝉取りしたところだよね」
「そう、僕一人で秋から冬にかけて、カエルの観察をしてたんだ。その時小学校低学年かな、三人で木の棒で冬眠中のヒキガエルをいたぶってたんだ」
「え、ヒキガエル?」
「うん、ヒキガエルって池や田んぼにいなくて、林の木の側にいるんだよ。色が褐色で、冬眠中は林や森の土の中に潜るんだ」
「へえ、そうなんだ」
──そう、シュンちゃんはカエルが大好き。
小さな青ガエルが一番好きといってたけど、カエル全般が好きだといってた。
私も紫陽花にぴょんと乗っかっている小さな雨ガエルは、シュンちゃんとよく観に行ってから、その愛らしさに気づいて好きになった。
だけどヒキガエルは──。
「そう、ヒキガエルは見た目がイボとかマダラでボコボコがあるから、人からは気持ち悪がられるんだ。その棒でつついてた少年たちも『気持ち悪いなぁこいつ、汚いねえ、ほれほれ!』って何度も言いながら楽しんでた」
「酷い…………」
「うん、子供は弱っているヒキガエルが面白いんだろうね。でも、カエルは死にそうだったんだ」
「ええ、駄目だよ、酷いよ」
私は楽しそうに、ヒキガエルを苛める少年たちを想像して顔が火照ってきた。
「だから僕ね、思わずその子たちに『生物なんだから悪戯しちゃだめだよ』って注意したんだ。だけど小さい声の僕なんか気にもとめずに『うるさいな、ばあか。あっちいけよ!』って彼等に無視された──僕は『どうしよう、カエルが死んじゃう』って焦っていたら「お前ら、いい加減にしろや───!」って大きな声がしたんだ、振り向いたら、そこにあのトシ君がいたんだ。
「トシちゃんが?」
「ウン、そしたらトシ君、少年たちをあっという間にけちらして、ヒキガエルを元の土の中に、そっと逃がしてくれたんだ。あの時の少年たちの、怯えた顔がおかしかったな。トシ君てあの見た目だろう?──彼等は怖くなって一目散に逃げちゃった! 僕には彼がヒーローみたいにカッコ良く見えたんだ──その後、トシ君もカエルや他の生き物が好きで、この雑木林を時々探索してるんだって。それから僕たちは、たまにだけど一緒に野鳥の声を聞いたり、冬の虫や生き物を何度か観察したりして仲良くなったんだ」
シュンちゃんは頬をバラ色に染めて、その時の状況を思い出して誇らしげにいった。
「そうだったんだ。だからシュンちゃんは、クラスのグループ学習を決める時も、ツトム君にトシちゃんを仲間に組入れるのを推薦したのね」
「ウン、彼が素行が悪くなったキッカケは、両親が中一の時、喧嘩してお父さんが出ていっちゃった時期があったんだって──その時、トシ君は大好きなお父さんがいなくなったから、グレちゃったんだって。それでクラスメートと喧嘩して一人ぼっちになったらしいよ。でも二年生になる前に、お母さんとお父さんが仲直りして、三者面談も二人一緒に出てくれたから良かったて、笑って云ってた」
「ええー!そんなことまで、トシちゃんがシュンちゃんに話したの?」
私はびっくりした。
──そこまで二人は仲良しになったんだ、あのトシちゃんが他人に打ち明け話なんてビックリだよ!?
「う~ん、セリちゃん。このことは絶対に内緒ね」
シュンちゃんは少し彼の秘密を話して失敗した、という顔をした。
「うん、内緒にする。本人にも言わない。でもシュンちゃんすごいよ、トシちゃんてお家の事情を話すタイプじゃない子だよ」
「うん、僕も最初は怖かったけど、ヒキガエルの処置見てとってもいい子だなって。あと何度か会ってたらお家のことも話してくれたんだ……彼と話すると、とっても繊細で優しい子だから僕も好きになった」
「シュンちゃん……」
私は夕日を浴びたシュンちゃんの横顔が、眩しくて仕方がなかった。
そうなんだよ。
シュンちゃんか隣にいると、昔から不思議な安心感というか、とても居心地がいいの。
トシちゃんも両親の不和などで辛かった心が、きっとシュンちゃんに慰められたんだろう。
「シュンちゃん、今日は久しぶりに公園を通っていこうよ。桜は散っちゃったけど、きっとチューリップや薔薇の花が満開だし、昨日、雨が降ったから小さい池のオタマジャクシも泳いでるかもしれないよ」
「そうだね。セリちゃん、そうしよう」
「ウン、そうしよう!」
私とシュンちゃんは、久々に手を繋いで公園へ歩いて行った。




