5、フェンリルの名は。
一章〜フォレスト王国カイヴの街〜
「うん、決めました。あなたの名前はフェアディ。フェンリルのフェと、私のファミリーネームのアーティから考えました。どうですか?」
我ながら安直過ぎる気がしないでもない。
『フェアディか。………………ふむ。良いぞ。では改めるか』
フェアディは寝そべる体勢から起き、私の前に行儀良く座る。
『我はフェンリルのフェアディ。これからよろしく頼むぞ』
フェアディがそう言った瞬間、まるでこの契約を祝福するかのように私達を囲って優しく光が溢れた。これは従魔契約が出来たということだろうか。
私は静かに感動に震えた。しかし少し経って、フェアディが気まずそうな顔をしている事に気がついた。
もう契約した仲な為、敬語を使わない方向性でいく。
「どうしたの?」
『あ~、すまん。お前の名前を教えてくれるか?』
言ってなかっただろうか。私は首を傾げて朝のフェアディとの出会いからを思い返す。
言ってない気がする。私はこくんと頷いた。
「言ってないね。私の名前はリティア・パル・アーティ。よろしくね、フェアディ!」
『ああ。ところでリティア、聞いても良いか?』
「何?」
『お前の魔力が他の人間共と違うのはなぜだ?』
唐突にかまされたタックルによろける。反則だと思う。油断していた。
正直、信じられない話だと思う。真実かを疑われ信頼を築けなくなってしまう可能性があるのだから話さない方がいいに決まっている。けれど契約を交わしたのに黙ってはぐらかすのも違う。
「あーー…………。うーん、それはね、あのね」
『何だ、話す気があるのか』
「話したい気持ちはある、けど、ね」
煮え切らない態度を取る私にフェアディが狼フェイスで無言の圧力を掛けてくる。そしていつの間にかどちらが先に降参するかの勝負になっていた。
汗ダラダラな私。
最終的に、私が根負けした。
「私実は、昨日ママ…………ティーア様によって転生したの」『それは神がお前の身体を直接造ったということか?』
「うん」
『だからか』
フェアディは納得したように何度か頷いた。
「それだけ?」
『ん?』
「信じてくれるの?」
私は不安でフェアディに聞かずにはいられなかった。
不安気な顔をしている私をフェアディは得意気に鼻で笑う。
『我は神獣ぞ。発する言葉の嘘誠くらい分かるわ』
荒い鼻息に思わず笑う。
『おい、何を笑っている』
そんな言葉を無視して、私はひとしきり笑う。そして思ったのだ。最初に出会ったモノがフェアディで良かった、と。
「私の前に現れたのがフェアディでよかった。ありがとう」
『あ、ああ』
たじろぐフェアディのもふもふ胸毛に飛び込む。
「フェアディ。貴方とこれからゆっくりとでいいから家族になりたいな」
『………………………』
長い沈黙が場を支配した。
これが答えかと泣きそうになった時。
『家族というモノがいたことがないからよく分からない。だが、リティアとならなってみたいような気がする』
その言葉に泣いた。
嬉しい答えに、ありがとうと言いたかったけれど嗚咽で上手く言葉が出なかった。泣く私にフェアディが戸惑っているのを感じたが、涙はそう簡単に止まらない。
『泣きやめ』
べろべろと大きな舌で涙を舐め取られ、代わりに涎濡れになる。
「あはっ、べたべた」
笑った私にフェアディが安堵の息を吐く。
「フェアディ、ああ言ってくれてありがとう。めっちゃ嬉しい」
『めっちゃ?』
「あー、とても嬉しい、です」
『そうか』
フェアディがそっぽを向く。けれど尻尾がぶんぶんと振れ、全力で喜びを表しているため照れてそうしているのだと丸分かりだ。
「私も家族というものを詳しくは知りません。だからゆっくりと私達なりの家族になっていけたらいいなと思います」
『リティア、分かり辛く照れとるな』
私は黙秘した。
双方共に照れて沈黙するという謎の時間を暫く過ごして、何とかこの時間を断ち切ろうと言葉を発する。というか、そうでなくとも必要な行為をする。
フェアディに従魔の印を着けなくてはいけない。
「フェアディ、従魔の印を着けなきゃいけないんだけど、どこに着ける?」
『前足がいい。首に着けるのは窮屈だから好かぬ』
「分かった。紫でいい?」
『いいが、なんでだ?』
おう、そこは聞かないで欲しかったよ。
「あ~それはですね、その、私の瞳の色だから、です。あっ、嫌なら変え『嫌じゃない。逆に嬉しい』」
フェアディの尻尾は目で捉えきれない程高速で振られていた。
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