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引きこもり冒険者のおバカな英雄譚  第一部 暴れまくって王国を救う?   作者: 牟川
第1章 冒険者大会の狂った前夜祭
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第39話 ≪脱兎の耳≫の危機


 ホテルを出た俺は、直ぐに市警本部へと向かった。

 

 上司の命令……その最後の部分が、どうしても頭から離れない。既に国家憲兵隊は、何か重要な情報を掴んでいるのであろうか。


 もし仮にそうなら、俺は一体何のために(・・・・)捜査するのだ。


 いや、これはそもそも俺の個人的な活動だった。友人だったオーガスト惨殺事件の真相を暴くためのな。

 そのために俺は動くのだ。


 

 さて、市警本部着くなり、俺はボブ警部を呼ぶよう受付に申し出た。

 しかし、彼は席を外しているそうだ。要するに、まだ市警本部長から説教を喰らっているということだろう。市警本部の目の前で被疑者を取り逃がしたわけだし、長丁場になりそうだな。


 そうなると市警本部にはこれ以上の用はない。

 そこで俺は探偵の事務所へ行ったのだが、探偵も不在だったため、結局冒険者ギルドに戻って来た。

 予定よりも数十分早い。


「おや、イゴルさん」


 休憩中なのか、受付嬢のヒルダが声をかけて来た。

 

「……」


 俺は無言で、ヒルダに視線を送る。


「イルザさんとはご一緒ではないのですか? 」


「ああ。互いに用事があってな。それで、別行動をしてたんだ」

 

「そうなんですか。話には聞いてましたが、お二人は兄妹なのですよね? 」


 要するに、実感が沸かないのだろう。

 俺とイルザでは、周囲の評価が違い過ぎる。『引きこもりのイゴル』と、『遊撃騎士団の副団長イルザ』なのだから。


「まあ俺自身、あいつが遊撃騎士団の副団長なんかをやっているのは、驚きだよ」


「いえ、私はむしろイゴルさんのことが気になってしまって……」


「何が気になるんだ? 」


「……いえ」


 要するに、俺がどうして引きこもりになってしまったのかを聞きたいのだろう。

 だが、それをわざわざ話すつもりはない。誰が、好き好んで言うか。


「ヒルダはやたら、俺を気に掛けるが、他の冒険者に対してもそうなのか」


「他の冒険者は、殆どパーティーを組んで行動してますから、私が何度も声をかけているのはイゴルさんくらいですね。ソロで活動する人もわずかにいますが、それも上級レベルの冒険者です」


「要するにF級冒険者でソロは止めろと? 」


「……別に、無理強いしているつもりはないですけど、本当に心配なのです」



 それからヒルダと他愛ない雑談を続けていると、用事を済ませたのか、イルザがやって来た。


「お待たせ。あら、ヒルダさん。休憩中ですか? 」


「はい。遅めの昼休憩を頂いている最中です」


 さて、イルザと合流したは良いものの、夕方の会議まで時間がある。何をして、暇を潰したものか……。


「ヒルダさん、お話し中ごめんなさいね。ちょっと兄を借ります」


 イルザはそう言うと、俺の袖を引っ張りギルド支部の応接室へと向かった。何か大事な話でもあるのだろう。


 応接室に入るなり、イルザが口を開く。


「兄さん。前は『脱兎の耳』に居たんだよね? 」


「あ、ああ。まあな」


 わざわざ、応接室にまでやって来て話すようなことではないだろう。俺が『脱兎の耳』に所属していたことくらい、周知の事実だ。特に、あの日のことを知っている冒険者も多いことだろう。


 『脱兎の耳』リーダーのデニスが、俺を追放した日のことである。


「その『脱兎の耳』に所属しているメンバーが、みんな行方不明なの」


「……行方不明? 」


 まさか、国家憲兵隊がデニスを捕らえられなかったことの腹いせで『脱兎の耳』のメンバーたちを逮捕したのだろうか……。

 可能性はある。


 だが、問題はいつから行方不明なのかだ。


「兄さん、何か知らない? 」


「そもそも、『脱兎の耳』のメンバーたちが行方不明なのはいつからだ? 」


「少なくとも昨日の夜までは、存在を確認できているわ。デニスのことが気になったメンバーが受付に訊ねていたらしいから」


 なるほど。

 昨日までは行方が判っているなら、やはり国家憲兵隊による逮捕も可能性の1つに揚げることができる。


 しかし、単に何かしらの依頼を受けていて、不在に過ぎない場合も考えられるが……。


「何か依頼でも受けているのでは? 」


「『脱兎の耳』のメンバーが、依頼を受けた形跡はない。さっき、受付に調べさせたから」


「なら単に、自宅で引きこもっている可能性もあるだろう」


「それは無いわ」


「どうしてだ? 」


「……今朝、あちこちで火事騒ぎがあったわよね? 」


「そういえば、朝刊で記事になっていたし、ユウの奴もその話をしていたな」

 

 ユウは、近所で火事があったためにあまり寝られなかったと言っていた。確かに王都ムー市内で同じ時間帯に、複数の火事があったという事実は不自然だ。同一犯による放火が考えられる。


「今朝あった火事は、全て『脱兎の耳』メンバーの自宅で起こったことなのよ」


「全て『脱兎の耳』メンバーの自宅? 」


 少なくとも国家憲兵隊が、放火をすることはない。

 例えば、捜査中に何かしらの手違いで発火したことで火事になる可能性を完全に否定することはできないが、『脱兎の耳』所属のメンバー全員の自宅で同時多発的に起こる可能性は、はっきり言って0だ。


 ならば一体誰が、どのような目的で放火したのだろうか?

 それとも、『脱兎の耳』メンバーによる自作自演なのだろうか?


 いずれにせよ、また1つ、日常では起こり得ない大きな事件が起こったことに間違いない。

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