第29話 ゲルト・ファミリーの奮闘
「王都ムーク市警察だ! ゲルト・マクンいるか? 」
ボブ警部の声が、店内に響き渡る。
店員、家族連れの客、そしてチンピラどもは唖然としていた。次から次へと続く展開に、もはや追いついていないのだろう。
さらに、十数人もの警官たちが店内に入ってきた。
しかしゲルトだけは、先の波動魔法によって壁に激突しながらも立ち上がり、ボブ警部たちに視線を向ける。
「サツが何の用だよ? 」
小馬鹿にしたような感じだった。
「お前がゲルト・マクンか」
ボブ警部がそう訊ねる。
「そうだけど? 」
「A級冒険者ロモスの殺害容疑で逮捕する」
ボブ警部が逮捕令状を広げながらそう言うと、警官たちが一斉にゲルトを取り囲んだ。
俺も直ぐに動き出す。
俺の動きに勘づいたのか、ゲルトが俺に視線を向ける。その眼から、憎悪の感情がよく伝わってくる。
「要するに、お前は刑事だったんだな」
ゲルトが俺に視線を向けて、そう言う。
「……」
俺は無言で、自身の身分証を見せつけた。
それを見たゲルトが、崩れるように倒れこんだ。もはや、諦めの表情だった。
「……マジか。国家憲兵隊捜査局……そんな奴らが捜査してたなんてな」
そう呟く。
「それほど、大きな事件だってことだ」
「だが、俺もそんな大物になっていたわけだ」
いや、お前はハンター事件の表層部分に過ぎないのだろう。あぶり出さなければならない奴らはもっと大勢いるはずだ。
そう思考を巡らせていると、不意に女性の姿が映った。
「兄さん! 」
イルザだった。
「イルザ……」
思わずそう声にする。
ずっと、俺をつけてきたのであろうか……。
その可能性を完全に排除することはできないが、少なくとも俺の付近で怪しい気配はなかった。
そう考えると、ボブ警部を尾行していたのかもしれない。
市警本部に行く前と出た後で、怪しい気配の数が変わっていたわけだし、その可能性は高いだろう。
「……話は後ね。それよりも、彼らは未だ抵抗の意思があるようだわ」
と、イルザが言う。
「そのようだな」
チンピラどもは、それぞれナイフを取り出して威嚇している。さらに、外から戦闘音も聞こえてきたのであった。
怒号も聞こえる。
声から判断して、どうやらイザークたちが近くにいるようだ。
その状況を察してか、ボブ警部が素早く動きゲルトを取り押さえた。後に続いて、数名の警官もゲルトを取り押さえる。
他の残った警官たちサーベルを抜き、他のチンピラたちを威嚇する。
「ゲルト! お前の手下はどのくらいいるんだ? 」
ボブ警部がそう訊ねる。
「全部合わせたら、ざっと50人くらいはいるだろうな? 」
ゲルトの返答に、ボブ警部が舌打ちした。
数の上では、こちらが不利だ。
しかしこの店内に限って言えば、チンピラどもはナイフを手にしている一方で、警官たちはそれよりも長いサーベルを手にしている。至近距離に近づかれたらアウトだが、一定の距離を保っている状態であるから、警官たちが有利だろう。
それに、チンピラの数も少ないし、S級冒険者のイルザもいるのだ。何とかなるに決まっている。
「店内は任せた。俺は、外の野郎どもをやってくる」
そう言って、俺は店を飛び出した。
もちろん、店内の気配だけは特に注意して意識するつもりだ。何か変な動きでもあったら、直ぐに店内へ戻れるようにな。
店を出ると、チンピラどもがイザークたちを取り囲んでいた。イザークの他に、ロミーナとその妹エリン、そして支部長がいる。
一見すると、多勢に無勢な状況なのだが、イザークたちの健闘があってか、現状の負傷者はチンピラだけのようだ。
「お前ら、助けが必要か? 」
俺はそう言って、イザークたちのところへと駆け寄る。
「イゴル、イルザさんの側にいなくて良いの!? 」
エリンがそう叫ぶ。
「お兄さんとしてのプライドは無いのですか!? 」
さらに、ロミーナもそう叫ぶ。
姉妹揃って、我が妹のイルザが好きなようだ。
そして、支部長が俺の肩を叩いた。
「イゴル君。これはキミが招いた結果だよ? いくら警察の力を借りたからと言っても、このありさまだ。どうするんだ」
と、言う。
支部長に特段焦った様子は感じられない。
とはいえ、このような状況で大人しく説教を受けている暇はない。早いところ、このチンピラどもを制圧してしまうとしよう。




