第22話 そして地に堕ちる
「副支部長。デニス君のことで少々聞きたいことがある」
廊下を歩いていた副支部長の肩をポンッと叩き、そう声をかけたのは支部長だった。
「デニス君のことで……ですか」
そう返事する副支部長は、早くも動悸が激しくなっていた。
何度もデニスから金銭を受け取っている手前、変に追及されないか……そう心配になったからである。
「まあ、会議室で話そう」
そう言って、支部長は副支部長を連れて会議室へと向かう。
会議室に着くまで、2人は無言だった。
無言の時間がただ過ぎて、会議室に到着する。
「デニス君には、それなりに目をかけていたようだね? 」
「はい。優秀な冒険者なので。彼には色々と期待しているのです」
デニスの実力は、それなりにある。これは支部長も認めている事実である。
「期待しているなら、彼の悪い癖を直してやらんとダメだろ? 」
支部長はあくまでも抽象的な表現に抑えて、そう言った。副支部長がうっかり吐くのを狙ってのことである。
「彼の悪いところ……ですか? 」
そう答えた副支部長の脳裏に浮かんだのは、金銭のやり取りだった。彼自身もその当事者であるため、どうしても真っ先に浮かんでしまうのだ。
「とても、褒められたことではない。極めて問題のある行為だよ。場合によっては、ギルド内部で済まされる問題では無くなる。『王立騎士団』に介入されかねないぞ? 」
『王立騎士団』とは、その名の通りレゲムーク国王に仕える騎士団のことを言う。国王の軍隊、そして国王の警察という性質を有している。例えば、冒険者のクランに過ぎない『遊撃騎士団』とは全く以て性質の異なる組織だ。
「お、『王立騎士団』が、か、介入!? 」
「ああ」
もはや、脅しだった。
あくまでも支部長は、デニスに関して『王立騎士団』が捜査に乗り出すかもしれないと言っているつもりなのだ。
しかし、金銭の授受に関して追及を受けていると勘違いしている副支部長の頭の中は、既に真っ白になっていた。自身が権限ある役職者である以上、最悪の場合『王立騎士団』に捕まる可能性があるからだ。
「じ、実は……」
そして、ついに副支部長は自白したのであった。
自身が、毎月デニスから金銭を受け取っていたことや、問題ある冒険者だと決めつけてギルドからの追放していたのが、事実上デニスだったことを。
※
支部長が、副支部長を追及している頃。
「デニス、単刀直入に言う。今すぐ奴隷として扱っている人たちを解放しろ」
と、イザークが言った。
デニスは今、冒険者ギルド内にある会議室の1つに呼び出されて、追及を受けているのだ。
「何のことですか? 」
「昨日、イゴル・ボルストに絡んでいた3人の男を保護した。彼らから聞いた話では、お前から散々な目に遭わされたようじゃないか? 」
「変な言いがかりはよしてください! 」
デニスは立ち上がり、大声でそう言う。
彼にとっては、昨日3人組が帰ってこなかった理由がはっきりした。よりにもよって、『遊撃騎士団』に保護されてしまったのだ。
心の内では、怒りと焦りの感情が渦巻いていた。
「だが、3人はお前に奴隷として働かされたと言っている。3人が揃って嘘をついているのか? 」
無論、3人の証言が嘘である可能性も否定できないことは、イザークも分かっている。
その上で、デニスに訊ねているのだ。
「正直、僕は冒険者ギルド内ではそれなりに活躍しているほうだと思います。僕に対して妬んでいる連中が徒党を組んで、嘘の証言をしているとしか思えません」
「なるほど」
黒電話が鳴る。
イザークは、受話器を取った。
しばし、電話での応答をした後、受話器を置いて再びデニスに視線を向ける。
「デニスの実力は認める。だが、して良いことと悪いことがあるだろう? 」
「悪いことって何ですか? 言いがかりは不快です。副支部長を直ぐここに呼んでください」
「どうして副支部長を呼ぶ必要があるんだ? 」
「今の事を副支部長に話します。いくらイザークさんが『遊撃騎士団』の幹部だからとはいえ、言いがかりをして良いことにはならないでしょ? 」
「直ぐには無理だな。副支部長にもある疑惑が浮上していて、支部長から追及を受けている」
「副支部長が!? 」
「ああ。ついさっき、キミとの関係について吐いたそうだ。金銭のやり取りがあったそうだな。それも毎月、かなりの大金だったらしいではないか? 」
それを聞いたデニスはパニックに陥った。
金銭の授受があっても、多少なら問題にはされない。しかし、権限のある役職者にかなりの額を渡していたとなれば、話は変わってくる。
「アアアアアアアアアアァァァァ」
と、デニスは喚きだす。部屋の外に漏れているに違いない。
イザークは、憐れむように彼を見つめる。
「まあ良い。今日のところはこれで終わりだ。また明日、事情を聴くから朝9時に冒険者ギルドまで来てくれ」
そう言って、イザークはデニスを帰した。
帰されたデニスの表情は、ついさっきのものとは打って変わって、憎悪そのものに成り代わっていたのである。




