第11話 趣味は嵌めること
俺の頬に平手打ちを喰らわせた少女が、今こうして俺の目の前で立っている。
相変わらず華奢で小柄な少女のいで立ちは、なんと弱々しいことか。
しかし、その内に秘める信念は強いのかもしれないと思っている。だからこそ俺は、彼女たちの誘いに応じて、パーティメンバーとして付き合ってきたのだ。
「彼らがイゴルの新しいパーティの人たちなの? 」
「いや、即席のパーティだ。今引き受けている依頼が終わったら、解散するよ」
「そ、そうなんだ。そうよね。貴方はソロがお似合いだもん。ずっと一匹狼をやっていればいいわ。だけど、いずれハンターに捕まるのがオチよ」
ハンターに捕まる?
彼女の意味不明な発言に俺は、返す言葉に悩む。
まあ、少なくとも冒険者としてはソロで活動する方が良い、そう俺も思っている。
「ご忠告ありがとう。連れを待たしているから、じゃあな」
俺はそう言って、エリンたちと別れたのであった。
それから、少し進むと一冊の本が落ちていた。誰かの落とし物だろうか……。
俺はそれを拾う。
「何パクってんの? 」
と、脇からミヤビが言う。
「いや、落とし物なら届けてやろうと思ってな。ただ放置され続けるのも可哀想だろう」
俺はそうミヤビに言いつつ、本の表紙を見てみると『王女と傭兵物語』という小説だということが判った。
なるほど。
状況からして、誰が落としたのか大体の目星はつく。
念のために、本に挟んであるしおりを確認してみると、エリン・アストリーと記されていた。
今度会ったときに、返してやるとしよう。
さらに進み、街道を反れて森の中へと入った。
「先に行きなよ」
ミヤビが、俺に先頭を譲ろうとする。
全く、人を盾にするなんてな。
「言っておくが、2人も後方の確認も怠るなよ? いつ襲われるか判らないわけだから」
後方どころか、常にありとあらゆる場所からの攻撃に備えておくことがベストだ。頭上からかもしれないし、地面からかもしれない。
まあ、オオドクヘビがそのような場所から人を襲うことは殆どないにでせよ、他にも魔物はいるわけだ。
「後ろは任せてくれ」
ユウがそう返事する。
俺たちはゆっくりと進んだ。こうして森の中を進むのは、とても懐かしく感じる。懐かしいと言っても、決して良い思い出ではないがな。
「随分慎重だな。アンタなら派手に突き進みそうに思ったけど」
あまりにも遅く感じたのか、ユウがそう文句を言い出してきた。
「そうね。ここまで慎重にならなくても良いんじゃないの? 」
ミヤビもユウと同じく、この状況に飽きてきたのかもしれない。
そんな2人の様子を窺っていた俺は、経験が人を慎重にさせる……そう1人で納得するのであった。
とはいえ、確かに慎重が過ぎるかもしれない。
俺もそう思い、歩みを速くしようとした。だが、今さら先へ進む必要もないようだ。
「確かに、慎重過ぎだったかもな。だが、これ以上は先に進む必要がない」
大きな蛇が何匹も、待ち構えている。
時折、細い舌を突き出して、こちらを見ているのだ。俺たちは、獲物として見られているのだろう。
「うわぁ」
ユウが怯えた声でそう言った。
やはり、彼は臆病なようだな。そして、そんなユウの背中に隠れるようにして立っているミヤビもいる。
「今さらだが、ユウとミヤビは森の前で待ってても良かったな」
元々、俺と2人で交わした約束はそうだった。
複数人で依頼を受けたという言い訳ができるように、依頼の目的地付近まで同行してくれれば、報酬を山分けするというものだ。
「いや、折角の機会なんだしアンタの動きを見たいんだ」
「そうか」
俺はそう言い、オオドクヘビの群れに近づく。
「ふんっ! 」
オオドクヘビの頭を地面に叩きつけるようにして、思いっきり殴りつけた。地面に大きな穴が開く。
「まず一体」
それから2体目、3体目、……あっという間に目標討伐数である20体を越えたのであった。その代償として、周囲の地面に巨大なクレータが出来ており、そのせいで何本かの木が倒壊している。
周囲に、オオドクヘビの姿は見えない。
「……殴って、殺しやがった」
ユウたちが唖然とした表情で、俺を見ていた。
「暇なら、コアの回収を手伝ってくれ」
「お、おう」
そして、3人でオオドクヘビのコアを回収し、直ぐに王都まで戻るのであった。
※
イゴルたちが森でオオドクヘビの討伐を行っていた頃、王都ムーク市のギルド支部では、副支部長とB級冒険者のデニスがため息交じりに話し合っていた。
「デニス君。イゴルの件は、支部長自らが処理することになったよ」
「あの支部長が……ですか。しかし、副支部長の権限は変わらないはずですよね? 」
デニスが言いたいのは、要するに現時点でも副支部長の権限でイゴルを追放できるということだ。
「言いたいことは判る。だが、支部長の顔に泥を塗ることになるだろう? その上、支部長はイゴルの調査を『遊撃騎士団』に依頼している。ここで俺たちが余計なことをすれば、勘ぐられるだろう」
「しかし……」
デニスは自らの欲望のために、イゴルを追放したいのだ。どうにかして、自分が深く関わる形でイゴルを追放したいのである。そのため、自分の知らないところでイゴルが追放になっても面白くないのだ。
「だが、俺たちでも情報収集は続けよう。イゴルの奴を追放する理由を探すためにな」
そう言う副支部長の言葉に、デニスは妙案を思い付いたのであった。支部長が直接動くにしても、自分自身が関われば、それだけで彼の欲求は満たされるのだ。




