あの子の行方
幸せとは。きっとこの答えを知る者はいないでしょう。
この小説はそんな問いに対する私の答えです。
どうか、皆さんが天使に出会えますように。
※「死」や「自殺」などの表現が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。
世界は回る。私がいなっくなっても変わらず回る。
これは、私が死んだ後の話。
「、、、南無阿弥陀仏、、」
喪服に身を包んだ人々はある寺院の中で涙をこらえている。中には、嗚咽を漏らす人も。
その姿を微笑みながら眺める一人の少女がいた。
「何泣いてんだか。」
叔母さんに支えられながら啜り泣いてるかつての母親を見ると、笑いがこみあげてくる。
どうせ悲しくなんか、ないくせに。
私はたいして親というものが好きではなかった。いや、愛せなくなってしまったというほうが正しいだろうか。
まあ、愛がどうとか今更関係ないんだけど。
詰まんない葬儀が終わってつぎは告別式みたいだ。
こんな儀式して意味あんのかねえ。本人成仏できてないのに。
私はある家の屋根に上って、仰向けに寝転がった。
んて空よりも地面を見ているほうが落ち着いたから知らなかった。
ふと、何かの本で幾つもの星の中で一番輝いている星は、死んだ、自分にとって一番大切な人の魂だ、という言葉を思い出した。
今夜星を見る人はいるのかな。
懐かしむのも馬鹿らしい、ありふれた日常がよみがえってくる。
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扉を開いたその先は真っ暗な闇。
誰も帰っていないみたいだ。今日は話があると言ったはずなのに、忘れているみたいだ。私の母はそういうひとだ。
コンビニで買った夕食を食べていると、扉が開く音がした。父が帰ってきたみたいだ。時
刻は11時。いつものことだ。
「おかえり」
「....ああ」
私の隣を過ぎた瞬間甘い香りが舞った。
「そういえばお前、前回のテスト、順位落ちたんだって?」
「うん。」
「お前の唯一の取柄は俺から受け継いだ頭の良さなんだから。失望させるなよ。」
「…はい」
努力の証明は難しい。私は努力とは才能があるからこそ成り立つものだと思う。才能のない努力家は所詮才能のある人間には勝てない。そして、才能のない努力家は言う、「自分には才能がなかった」と。才能のある人間は言う「努力の結果です」と。
しかし、これを唯一覆すものが勉強だと思う。勉強に才能は関係ない。と、そう信じたい。
私の部屋は台所の横にある階段を上ってすぐのところにある。
ここは楽園だ。どんな悪魔にも侵されない、唯一の空間。
私はきっと恵まれているのだと思う。家は割と裕福だと思うし、成績もそこそこ。友達だって親友とは言えないが、休み時間に話すくらいの人はいる。
だから、きっと、不幸だなんて感じちゃいけないと思う。
息が苦しいと、助けを求める権利は、私にはない。
ちらりと、一昨日読んだ本が目に入った。この本は、主人公が世間に、絶望し、嫌って、最後は自ら命をたった話だった。
自殺とは、世間一般的には恥じるべき行為だろう。折角の命を粗末にするなんて、罰当たりだと。
私はいまいちその意見に賛成できない。生から逃げようとする人を、私たちは止めてよいのだろうか。他人の気持ちを理解することは不可能だ。例えしたとしても、した気になっているだけで、それはただの偽善だ。
だから私たちはその人の苦しみを理解できないし、助けるなんて無理だ。
命をたって何が悪い?
本人が苦しみから解放され、幸せを感じられたらそれで十分じゃないか。
確かに、生きることはいいことだ。だがしかし、幸せを感じるために、自ら苦しみの沼に飛び込むなんて馬鹿馬鹿しい。
「この本の主人公は幸せになれたかな。」
微かな希望を添えたその言葉は勝手に口から零れ落ちた。
窓の外を見た。外は星一つなく、まるで黒い布が覆いかぶさっているみたいだ。私には、とても窮屈に感じられた。
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夜空を吸い込まれるように見つめていたら、いつの間にか眠っていたみたいだ。
幽霊にも眠ることができるなんて、驚きだ。
朝になった街の風景は変わらず冷たかった。私には呪われたかのように会社に向かう大人たちがどうにも怖かった。大人になりたくない拒絶と、このままでいるのはいやだという焦燥で朝はいつも板挟み状態だった。
ところで私は、いつまでこうして漂わないといけないんだ?
霊は何か生きていたころに思い残しがあると成仏できないなんて話、聞いたことあるな。
でも、思い残しなんて、心当たりがみじんもない。
居場所もやることもない私は、ただひたすらに街を彷徨った。
「こんなところあったんだ。」
そこは古びた公園で、滑り台と、ブランコしかなかった。
すると、遠くから鈴が鳴るような笑い声が聞こえた。
どうやら、子供が二人と(友達同士だろうか)、母親が二人この公園に遊びに来たみたいだ。
私には彼女らが天使のように見えた。死んだ人間が生きた人間にこんなことを思うなんておかしいだろう。しかし彼女たちか持つ笑顔が、あまりにも美しかったのだ。
私が忘れてしまった何もかもを、彼女たちは持っている気がした。
私は確かに恵まれていた。幸せだった思い出だってある。
ただ、足りなかったのだ。私が本当に欲しかったものが。
愛されたかった。親からは、自慢話の材料としてでなく、友達からは、自分が孤独でないと周りを欺く道具でなく、私自身を見てほしかった。
心を支配していた虚無感が、今、埋まった気がした。
この世界なんて大嫌いだ。ただ、もう少し生きてみたかったな。