さくらの希望。野望?
買ったぁって!この山を?森を?土地を?!
ちょっと理解が追い着かない。
そもそも山や森ってそう簡単に買えるのか?ましてやお金はどうしたんだ?
「あれ?あんまり驚かないね」
いやいやいやいやいや、驚きで上半身を起こしましたよ。でもさくらは私の横で寝そべったままゴロゴロ、ニコニコしている。
「いや、驚いたよ普通に!」
エルフを妻に持ち、ハーフエルフを子に持つ事以上の驚きは無いかも知れないが、驚いた。
私は(エルフ達程では無いが)気持ちが顔に出ずらいみたいだ。
生まれてすぐに母の姉妹が赤児の私を笑わせようと奮闘したがダメで、彼女たちの機嫌を損ねてしまったらしい。
それは幼少の頃も同じで『笑わない子』と思われていたそうだ。
高校生時代には担任教師から1年生の最初の三者面談の時に
「いつ、お宅のお子さんから殴られるかと思いヒヤヒヤしてましたよ」
と言われ皆で大笑いした。私の顔色が読めなかったらしい。
別に鉄仮面だとか仏頂面をしている分けでは無いが、黙って真顔でいると『怒ってる』『恐い』『不満を持ってる』等々、非常にイメージが悪い。よって私の第一印象はほぼ悪い。もう慣れた。諦めてる。
でも、お笑い番組を観てバカ笑いもするし、サッカーの試合で負けた時は悔しくて涙が出た、仲間達とバカ騒ぎした事なんて幾度も有る、至って普通。自分としては表情豊かなんだがなぁ。
「さくら、この土地(山)を買ったって言ったけど、リーザ、、、ママは知ってるの?」
実年齢が20歳だとしても、一人で勝手に決めれる事では無いだろう。
「うん、知ってるよ。だってこの場所ママに聞いたんだもん」
まあ、リーザに黙っては無理だろうしな。え?知らなかったの私だけって事だよな。
ちょっとムクレ面。
「あははお父さん、サプライズだよ」
さくらは得意顔。
サプライズ?何の?
私は広げたシートに座ったまま、さくらはゴロゴロしたまま話しを進めた。
「それで、ここはどんなトコなの?山ってどうすれば買えるものなの?幾らぐらいするものなの?さっぱり分からないし金額も想像つかない」
さくらは、淡々としゃべり出した。
「ここはね、接道(土地に接している道路)が無いから実は安いの。普通に家や土地を買うのと一緒だよ」
いや、家や土地を買う事だって簡単では無いし普通じゃ無い。
さくらは起き上がると、ここから見える景色を見渡しながら説明してくれた。
「大きさはね、野球のグランド2個分ぐらい。単位面積で表すと大体約2ヘクタール」
ヘクタールって単位がピンと来ないが、野球場2個分ぐらいかぁ。
「金額は『奥さんお買い得ですよ~』の約100万円」
100万円!どこから出した、そんな金!
「税金の方も心配無かれ、総資産価値から非課税でーす」
そっか、土地には税金掛かるもんなぁ。でも非課税!?
「色々と木の面倒をみてあげたり、問題事が出た時の対応として元々の持ち主の方と地元の森林組合の方達にお願いしてます」
山の維持管理か。思っても無かった。それ、誰かの入れ知恵か?
「へへ、ほぼ完璧でしょ」
色々と何か、驚いてる。感心もしてる。
「色々な書類作成や手続きは会合で知り合った司法書士の人に正規の値段で頼んだんだ」
ふう~ん。
「でもあれでしょ、お金はどうしたのか」
うんうん、と頷く。
「パンパカパーン、わたくしさくら、稼ぎました!」
いや、稼いだって、100万円って大概だよ!
「何したの?」
特別なバイトでもしていたのか?気付かなかったなぁ。
「学校、学業に影響が出るようなバイトしたら、ママに殺される」
まあ、そうだろう。
「最近会合に出てるでしょ」
そうみたい。
「そこでアイディアと基礎的な考えを出して、ちょっとAI的なベースプログラム作ったら、報酬だって100万円貰った」
え?いやそれ異常でしょ。アイディアで100万??どんなに凄い内容なんだろう。ああプログラムの開発ね。お金の単位も含めて、私とは別世界、別次元なんだろうな。私にゃ分からん。
「そしたらママがね、全額貯金するか好きな事に使っちゃえばって」
リーザ思い切った事言うなぁ。
「『お金は学校を卒業してから正規に働いて得るものだから、今はその時ではないわ』って」
ふむ、でもどうしたら山を買う事に繋がるのか?
さくらは靴を履き直し、シートを丸めて抱えると
「お父さんついて来て、いい場所があるの」
丘の坂を下り切るとさくらに手を取られ、半分引っ張られるように森の奥に向かって進んだ。
いやいや、やっぱ山を買うって尋常じゃないよなぁ。それも我が娘ながら山を購入した女子大生なんて聞いた試しが無い。
そもそも何で山を買う気になったのかなぁ?きっかけは何だ?
テレビのドラマで犯人の犯罪に及んだ動機を探る、犯罪心理学者の気分だ。
それにしてもさくら、やっぱ歩くの早い。脚強過ぎ!
少し進むと地形は比較的平になり、さくらと並んで歩いた。
けもの道ならず、人の通路として整備されたようだ。
「見て見て〜」
木々の木陰の下、少し開けた場所に着いた。
さくらが示すところには水道の蛇口があり、その1m程横には水が流れ出ている口が備え付けられた桶に水を波波と溜めている。
「コレ、私の力作なんだ」
そう言って得意顔だ。
少し先にある川から太陽光発電を電源としてポンプで水を引き揚げ、そこから森を抜けるように水道パイプを組んだ。運ばれて来た水は自家製ろ過器に入りキレイな水を作り出している。
「川の水、直接飲めそうだけどね、一応用心の為」
さくらは持参したアルミのコップに水を汲むと私に差し出してきた。
一口。
冷たくて美味い!
さくらにサムズアップして答える。
「へへへ、、、ねえお父さん、ココに住もうよ」
突然の申し出。
10年前にここに来た時、さくらは将来森の中で暮らしたいと強く思ったそうだ。
自然を愛し、自然と共に暮らすエルフの性質や理性がそう思わせたのかは不明だ。
私自身も田舎育ちで都会での暮らしに憧れたが、実際に生活を営むのは(今か将来的な事なのかは検討する余地は有るが)都会では無いと漠然ながらにも、何時も思っている。
「そうだなぁ、定年退職したら退職金でここに丸太小屋を建ててもいいかも」
さくらの目が輝いた。
「定年退職かぁ、まだ15年も先の事だよ。いや、あっという間かなぁ」
さくらは、今日からでもここに住むつもりみたいだが。
「そうなるとここに、小屋なんかでは無く実際に住める家を建てる事を学ばなくてはな」
さくらの目は輝いている。
「こういう所に家を建てて住むって事は大変なんだ」
「なんでぇ~」
今度は私か淡々と話す番かな。
「物理的に家を建てるとして、普通に人が暮らす家を建てるとなると自力や自家製ではなかなかいや、かなり難しいだろう。そうなると大工さんや建設業者に頼まなくてはならない。こんな山奥だとやってくれる相手を見つけるのも一苦労しそうだ」
「遠方地、山の中(資材の搬入ルートとなる道が無い)などの理由で一般的な家より割り増し料金を取られそう」
「実際に建物が建ったとして、電気は?ガスは?水はいいか。それと今時なら電波は?どうする?」
「排水施設も大切な事で、台所やお風呂、トイレ。捨てる水をどうする?勝手に流せないしタレ流しだと自然破壊に繋がったりする」
私の答弁は、まだ続く。
「今度は法律的な面で、自分の土地だからといって誰でも好き勝手に家って建てられないんだ。建設法や消防法っていう決まりが有り制約が有る」
さくらの目は輝きを増しているように感じる。気のせいか?
「ここに住む、ここに家を建てるのが嫌だから意地悪を言っているのでは無いんだよ」
ちょっと弁解くさいが。
「何かをするにも、色々と解決しなければならない問題があって、また決まり事が有る事を知って欲しい、ってコト」
「凄い、お父さんモノ知り~」
誉められてんのか?もうすでに調べ済みか?
「お父さん、それ今度勉強してマスターするよ。そしたらココで暮らす道に繋がるし」
「それ、今の学業から外れないか?」
大丈夫か?ママから咎められないか?
「ううん、知識が増えるのはいい事だよ。勉強って楽しいし、いつか誰かの役に立つかも知れないしね」
はあ~立派、凄いなあ。私の二十歳の頃って、、、勉強が楽しいって、、、
「さくら、おまえ凄いな、立派だよ!誰の子?」
「お父さんの子だよ!」
信じられんなぁ
「でもなあ~ここ、猿や猪が出るかも。熊も出たりして」
ちょっとしたイタズラ心で、 ここで暮らす事にその気になってるさくらを少し脅してやった。
さくらは腕組みして考える仕草をした。
「熊かぁ。でも、熊でもライオンでも私の方が強いよ」
強いのか!
「でもねぇ」
でも?
「シャチやサメ、ワニだったらちょっと苦戦するかもね。水中だし」
ちょっとかよ。我が娘、地上最強かよ!
「へへへ、お父さん、川まで行こう」
再びさくらに手を引かれて、再び森を奥へと進んだ。