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ハーフエルフの父  作者: タマツ 左衛門
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タンデムでお出掛け

「桃、栗三年、柿8年」


「ねえ、それ何の歌?」

さくらが興味深く私の顔を覗き込むように聞いて来た。


今から10年前、三人で県境の森にハイキングした時、小高い丘の上で柿を食べながら歌った唄。


「果物がね、種から育って食べられる実が生る時間の数え唄なんだよ」

「へぇ〜ぇ」

私は続けた。

「桃、栗三年、柿8年。梨のバカヤロ16年。」

「あはは、バカヤロだって!あははは、梨のバカヤロだって!あははは何で?何で?」

何か知らんが受けてる。


「桃や栗は三年で食べられる実が生るのに、それに比べて柿は8年も掛かる。でも梨はもっともっと時間が掛かるんでバカヤローなんだってさ」

「あははは、面白ーい」


あれから10年、あっという間だなぁ。



「お父さん、明日何か予定ある?」

夕食後にさくらが聞いて来た。明日は休みだ、特に予定は無いと思う。


「いや、特別予定は無かったと思うよ」

何かしたり顔だ。

「明日出掛けようよ、バイクで」


「車ではダメなの?勝手にバイク乗るとリーザに怒られる」

リーザは王宮の会合で少し長くなりそう(人間の時間感覚基準だが)今日と明日の夜まで留守になると言っていた。


リーザに断り無く勝手にバイクに乗る事になる、それも娘と二人乗りだなんて。

ちょっと難色を示す。


「バイクにお守り付けて貰ってるんでしょ?大丈夫だよ」

お守りとは保護の術を掛けている事だ。


「で、どこに行きたいの?」

さくらはへへへと笑っている。

「昔三人でハイキング行ったとこ」


翌日、8月の終わりにしては過ごしやすい空気の中バイクに跨った。

エンジンを掛ける。

あーーー心が踊り出すのが分かる。


私はオートバイ乗りだった。

当時まだ若かりし頃、2スト250ccのバイクで休みとなると仲間と共に朝の4時や5時に出発し、早朝の峠に通っていた。


早朝の峠道は交通量が少なく(攻めに行ってた場所では自分達以外の通行車両は皆無だった)比較的安全に走れた。

ただ町中から離れていたので、転倒やガス欠、その他何かトラブルが発生した時には大変だったが。


 学生時分には、バイクのツーリング部に所属し、そこの連中が中心となって峠まで行っていたが、クラブや行き付けのバイク屋主催の集団ツーリングは、苦手だった。

 はっきり言って、嫌いだった。


 オートバイで出掛けて一泊する、ちょっとした小旅行だった。

 そりゃあ、道中の観光先や、宴会料理とか宿泊先の大浴場とかの楽しみもあったけど、何で誰かに合わせてバイクを走らせなくちゃならないの?

 この感情はいまも変わらない。


 気心の触れた誰かとか少人数だったら、例へはぐれても、その先の何処かで大体何とか合流出来た。逸れたままであっても、それはそれで楽しんだ。

 だけど、10人を越える様な集団だと、そうも行かない。

 私って、『協調性』や『集団意識』が弱かったんだろうなぁ。改めて思い出す様に感じた。


 仲間が走り続けていたが、私は就職して土地を離れ、リーザと結婚してからは危険回避の為にバイクを降りた。私自身が決めた事であったが、私の中では苦渋の選択であった。


 だけど1年前、リーザにバイクに乗りたいと打ち明けた。(モヤモヤしていた気持ちを見透かされていたんだが)

リーザはオートバイの快適性を理解した上で、その危険性についても当然理解していた。


 結局リーザが折れる形でOKを貰えたが、合わせて条件も提示された。

・昔乗っていたレーサータイプは禁止。

・リーザに断り無く勝手に乗るの禁止。

・事故や交通違反したら没収。

 さほど厳しくは無かった。


 しかし購入する為の予算は厳しかった。なんとか購入したのは中古の4スト250cc

 年齢的にも体力的にも若かりし時のように峠を攻めるなんて出来そうに無い。普通に乗ってもオートバイの楽しさに変わりはない。


 納車された日にリーザを後ろに乗せた。興奮してはしゃいだ彼女には驚かされた。



「さくらぁ〜リーザにバイクで出掛ける事、(念話で)伝えといてくれた?」

「うん、たぶんOK」

なんだよ、たぶんって。

私は念話なんて出来ないが、一応思いを伝えてみる。


『あー今日はさくらをバイクに乗せて出掛けます。直接言えなくてごめんなさい。安全運転を第一に心がけます。お守りの術ありがとう』

リーザが拾ってくれるか、すっげー不安だが。


「天候良し。荷物は?」

「OK」

「3時間ぐらい掛かるかも知れんぞ」

「OK」

「お尻痛くなるかもよ(私が)」

「OK」

「もう、何でもOKだな 」

「OK」

そんなこんなで出発した。


町中を離れ進む事約1時間、目的地の手前で中々にそそられる連続したカーブがあった。

私はバイクを止めてさくらを降ろした。


「ちょっとゴメン、昔の血が騒ぐ」


周囲が安全な事を再確認し、私は一人道を戻った。目的の連続カーブを一度通り越してUターンし、バイクを止めた。

娘とタンデムで来ている事、リーザに直接断っていない事、何より決して無理をしない事。合わせて急激なスピードは求めていない事。呪文のように自分に言い聞かせた。


そして先程の連続するカーブに向かってゆっくりとバイクを走らせた。

対向車、スピード、路面状況まあ良し。速く無くていい。でももっと行ける。


とアクセルを開けた時、右の手の甲に刺激が走った。


私はアクセルを開けず、速度をそのままに、お尻をシートの後ろにずらし後輪に荷重を掛ける。

カーブの内側となるステップの外に体重を乗せ踏み込む。


ハングオンでは無くどちらかと言うと膝をたたみながら遠心力に反発してバイクにぶら下がる格好を取った。


左ターン、次右。素早く左。

難なくカーブを抜けた。そうしてさくらを待たしていた場所に戻った。


まだまだ私も行けるなと思う反面、あの手の甲の刺激、たぶんリーザのお守りだろう。あそこでスピードを上げていたら、、、事故に繋がったのかも知れない。


「おかえり〜」

さくらはおとなしく待っていてくれた。が、

「へへへ、交代ね」

と言うなり走り去ってしまった。


そして響くエンジン音と排気音。私の音とは比べものにならない。相当のスピードでバイクを走らせているのが分かる。


高回転しているエンジン音、排気の吹き上がり音

下がり、再び高排気音

バラ付き無くエンジンの吹き上がり音の連続、上げ下げ。


ハラハラする間も無く、あっと言う間に戻って来た。

「へへへ、ポンコツに見えて案外回るね。パンチ不足はしょうがないけどね」

なに才能?


「免許を取ったのは知ってたけど、どっかで乗ってた?ママにリーザに怒られて無い?」

さくらはケロっとした顔で

「ううん、ほとんど乗ってなかったよ。ママうるさいしさ」


では何で?やっぱ才能?

「今日はずっとお父さんの後ろに乗ってて、運転方法が分かった。それと風や空気が教えてくれるの」

後ろに1時間ぐらい掴まって乗ってただけだろ。やっぱ才能か。


「風や空気が何を教えてくれるの?」

「このラインは砂があって危ないですよとか対向車来てませんよぉ〜、とか」

う〜ん、分からん。呆気に取られただけだ。


「バイクの特性、危険な点、町中で走った時に潜む危険については必ず理解してくれよ」

「ほーい」


帰りはさくらに運転させようと思っていたが、あの走りを見せられたらその考えは引っ込めた。


私が振り落とされてしまう事になるかも知れない。

ああ、腕と足、お尻、帰りまで保ちますように。


再びさくらを後ろに乗せて、目的地を目指した。


もう10分もバイクを走らせれば、目的地に着くだろう。


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