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詩篇 朝の発光、夜の入り口

詩篇9 角の絶対、全ての絶対

作者: 宮沢いずみ

 この世に溢れる角というものについて算数の時間のほとんどを使って考えていた。


 物体のほとんどは、というか目に見える物体の全ては、角で出来ているか、角を持たない円で出来ているかのいずれかで、それ以外のものを見たことが無い。少なくともわたしは。もちろん円と角の組み合わせは自在。 


 角や円について、今までぼんやりだったそれらの輪郭をはっきりとなぞるのは小学校の算数の授業においてで、四角形は360度、三角形は180度。そして円に角度は無く、円周率は3.14、という変更不可能な数字でもって、それらの定義などを知る。


 考えてみれば、テレビもパソコンも本も原稿用紙も写真も携帯電話も窓もドアも机もピアノの鍵盤も電子レンジも四角で、溢れんばかりの四角で、四角という字も四角で、こんなにもの四角。三角は四角ほどの多様さと多量さを持っていないけれど、例えば冬の大三角形、夏の大三角形、黄金の三角地帯、パスカルの三角形、ピタゴラスの定理など、幾何学的で神秘的要素を含んでおり、そしてどことなく恐怖感を煽り、特異な存在でありました。


 しかしどんなに神秘的でも宇宙的でも、三角形の内角の和は180度であり、それは絶対であり、圧倒的な絶対であり、四角もまたこれほど多種多様でありながらも全てが必ず360度であり、

何なんですか、この何も寄せ付けない数字は。

どこにも危なっかしさを含まないこの安定は。揺るぎないこの絶対は。


 ノートに、それはそれは様々な、大きさも形もばらばらの三角形を書きまくって、分度器という素晴らしい計器を駆使し、角度を測って測って測って測って測って。


 どこかに見落としは無いか。綿密に、正確に、測って測って測って測って測って。


 どうにかしてこの絶対を崩したくて、危機を与えたくて、世界中の定理を壊したくて、当たり前が当たり前でなくなる瞬間を手に入れたくて、こんなにもの絶対がこの世にあるものか、と躍起になって、ひたすらに、あ、ひたすらを漢字で書くと只管だけれど、なんだかしっくりこないので平仮名で、ひたすらに、というかひたすらという平仮名四文字はどこからどう見ても間抜け、どこにも懸命さは伺えないというのに、言葉にしてみるとがむしゃら感が伝わってくる不思議、を持ちながら、ひたすらに、測って測って測って測って測った。


 しかしながら、このひたすらも虚しく、どこにも落ち度の無い数字に、敗北。

この完璧さ。この絶対神的数字。


 分度器は必ず三角形を180度と見なすよう仕組まれているのではないかと思い、分度器ありきの三角形ではなく、三角形ありきの分度器だな、こいつめ。と考えたところで、どちらも同じことだと気付き、やはり三角形は何で測ろうと三角形であるのだ。 


 ところで四角形はどうか、という期待も虚しく、絶対的な数字に支配された四角形がどこもかしこも、完璧な360度。

 たとえものさしの数字を変えてみたとて、分度器の角度の幅を変えてみたとて、わたし達が測るという行為のためにある全てのものを変えてみたとて、また新しく発見してみたとて、三角形は三角形であり、四角形は四角形であり、わたし達の持つ計量器などお構いなしで、もうそれは完全である。 


 絶対なんてこの世には存在しない、と誰かが言っていたけれど、こんなにもの絶対が溢れている。


 絶対は安定であり、そして諦め。この世には、絶対と絶対でないもの、どちらの方が多いのだろうか。


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