99 サーペント
俺は縮地でサーペントの眼前にまで飛ぶと剣を振るいその首元に刃を走らせる。
しかし、サーペントは瞬時に首を引き距離を取ると毒の滴る牙を向けて来た。
「おっと、流石に毒は問題ないけどあの牙は厳しそうだ。」
サーペントの牙は一本一本がまるでナイフの様に鋭く俺の腕くらいの太さがある。
それに蛇は体中が筋肉で出来ているのであの巨体に巻き付かれると全身の骨が一瞬で砕かれそうだ。
すると、どこからともなく赤い光が飛来し、サーペントの首を貫いた。
どうやらアキトが援護射撃をしてくれたようだ。
しかし、貫かれた傷は肉が盛り上がると鱗と共に再生される。
(大きいうえに再生持ちか。どうにかして一撃で首を落とすしかなさそうだな。)
すると今度はゲンさん、サツキさん、アスカが立体駆動と天歩の合わせ技で背後から大量の斬撃を放った。
しかし、その殆どは鱗に阻まれてしまい大きなダメージにはなっていない。
唯一、サツキさんの攻撃は鱗を貫通し、肉を切り裂いているがその傷は先程アキトが負わせた傷と同様に瞬時に回復してしまう。
やはりリザードマンもそうだったが爬虫類系は生命力が強いようだ。
そして今度はホロがサーペントの尻尾の先端にククリ刀を振り下ろした。
その攻撃は見事に命中し、尾の先端という僅かな量だがホロは切り取った部位を手に持ち距離を取った。
どうするのかと見ていると、それを口に入れモグモグし始める。
どうやら得物の味を一早く確認したかったようだ。
するとホロの腰から尻尾が生え激しく横に振られ始めた。
「美味し~~~。ユウ、この魔物美味しいよ。メガロドンの次くらい美味しい。」
ホロはそう言ってククリを構えるが今の一撃でサーペントのターゲットがホロに向いたようだ。
しかも切られた尻尾も再生され元に戻っている。
まさか首を切っても再生すると言う事は無いだろうが決着は急いだ方が良いだろう
俺からサーペントの注意が外れたので一気に勝負に出る事にした。
剣に魔力を注ぎ再び強化するとその首に剣を振り下ろす。
やはりこの剣なら当たれば大ダメージになるようで見事に鱗を切り裂き首の骨を断ち切る事に成功した
「ギシャーーー。」
しかし、注意が逸れた直後の攻撃だが俺の攻撃はサーペントの首を完全に切り取るまではいかなかった。
どうやら魔力で体を強化していたらしく、剣は無事だが首を3分の2まで斬るのが限界のようだ。
骨までは断ち切ることが出来たがサーペントはいまだに倒れる事無く首を再生し元に戻ろうとしている。
しかし、首の骨周りまで切断したため体に向かう神経系も切断できたようだ。
動きは止まり首を再生させるのを最優先にしている。
するとこのチャンスを逃すまいとゲンさん、サツキさん、アスカの3人が飛び込んだ。
「蛇肉は精が付くからな。」
「修業時代を思い出しますね。」
「カエデの良いお土産になります。」
どうやら3人からは既に肉と見なされているようだ。
しかし、蛇を食料とする状況とは如何に?
彼らはいったいどんな修行をしていたのだろうか。
「アスカ、技を重ねますよ。」
「はい御婆様。」
そう言ってアスカは先頭に出ると剣を構えた。
「行きます。奥義ツクヨミ」
(ん?確かあの技には攻撃力が無いはずだが。)
そう思い俺はスキルを使用して見ているとアスカの刀は見事にサーペントを切り裂いた。
しかし、切ったのは首ではなくあの強固な魔力装甲だ。
しかもアスカが切った直後に再生で蠢いていた肉の動きが停止している。
どうやらあの技で切る事が出来るのは呪いだけではないようだ。
そして次にゲンさんとサツキさんの攻撃がサーペントの首に迫っていた。
「「三技一体大蛇狩り!」」
そして二人息の合ったセリフと共に黒と白に輝く剣を振りぬいた。
恐らくアマテラスとスサノオだろう。
その攻撃は強化が解けたサーペントの首に吸い込まれ、見事に斬り飛ばした。
しかし、魔物の目にはいまだに光が灯り、その目は先程からホロに向けられている。
サーペントは最後の足掻きなのか口を開くとそこから毒々しい煙を吐き出しホロに浴びせかけた。
そして、そこで力尽きたのかサーペントの目から光が消え地面へと落下する。
「ホロ!!!」
「何?」
俺は焦りを感じてホロに声を掛けるが煙の向こうからいつも通りの声が返された。
どうやら無事の様なのでホロも毒に対して高い耐性があるのだろう。
そう思い俺は煙に入りホロの許に向かった。
そしてホロを見つけると手を繋いで煙から脱出する。
煙を鑑定するとサーペントの毒と同じ効果があると出ていたので俺は周囲ごと魔法で毒を中和しておいた。
俺達は高い耐性があるので問題ないが先ほどの老人がこれに触れると明日には確実に死んでいるだろう。
そして毒の中和を終えて俺はゲンさん達と合流した。
するとサツキさんはサーペントから流れ出た血を吸血丸と血喰丸で触れている。
その途端に血が二本の小太刀に向かい吸われるように消えていった。
どうやら本当にあの刀は血を吸っているようだ。
しかもメガロドンもだが、このサーペントの血にもかなりの魔力が籠っていそうなのでさぞや喜んでいるだろう。
「サツキさん、そろそろ肉を片付けても良いですか?」
「ええ、お肉は保管しておいて。後でライラちゃん達に渡して解体してもらいましょう。」
俺はサーペントの頭と体を収納すると今度は老人たちの所に戻った。
理由はどことなく想像がつくが本人たちの口から聞いておいた方が良いだろう。
「それで、あなた方は何故ここにいるのですか?」
「あ、アンタらはいったい何者じゃ。」
「只の旅人ですよ。それよりも理由を教えてください。」
すると彼らも俺達が答える気が無いのを感じ取ったらしく深く追求せずに自分達の事情を話し始めた。
「この国は結界石を村や町に設置して儂らを守ってくれておる。じゃが、次第に税金が上がり今では食うのもやっとじゃ。結界石を返納し税を下げてもらおうとした村もあるがそれと同時に兵士たちもいなくなり魔物に飲まれたと聞いた。」
何とも酷い話だがそれは守っているとは言わないだろう。
本当に守る気があるなら無税で結界石を設置するはずだ。
この状況はまるで家畜小屋か牧場の様に見えるがこれは言わない方が良いだろう。
(このままだとこの国が亡びるのも時間の問題だな。)
しかし、税が足りない場合はどうするのだろうか?
その事を聞くと驚きの答えが返された。
「税が出せない町や村は子供を代わりに差し出す事になる。そして子供たちは国が管理し、兵士として育成するそうじゃ。未来に国を守る礎としての名目じゃが儂らは子供らに自由に生きて欲しい。たとえ将来の道が限られていると言ってもじゃ。だから足りない分の税を払って失われた食料分を儂等みたいな老いた者が山に入りこうして死ぬのを待っておるんじゃよ。」
やはり予想通りか。
国の機関なら周辺から集めた食料で子供を育てられる。
子供たちは教育を受けてスクスクと成長するだろうがそんな国に教育された子供たちがまともな思考を持って育つはずがない。
どうやら、この国は俺が思っていた以上に腐敗が進んでいるようだ。
救いがあるとすれば、まだ良識のある大人が生き残っている事か。
「それなら今回は一旦村に帰りましょう。食料はこちらで提供しますから。」
一時しのぎだがこういう自己犠牲の出来る人間は貴重だ。
今は生き残ってもらい事態が改善するのを待ってもらおう。
丁度こちらには戦う黄門様もいるからな。
今も話を聞いて静かに怒りのオーラを放っているので大丈夫だろう。
「しかし、儂らに返せる物など何も無いぞ。」
「そちらは後で無理のない範囲で考えましょう。それよりも村に案内してください。」
「わ、分かった。」
彼らは渋々ながら了承すると俺達を村に案内し始めた。
しかし、そちらに向かっていると俺達の進行方向から王国兵がやって来るのが見える。
しかも彼らは10人ほどの子供たちを従えていた。
だが、どう見てもその子たちは兵士には見えない。
首には首輪の様な物をハメられ、鎧も身に着けず、農民の子供の様な服を着ている。
それを見て先ほど助けた老人の一人が飛び出した。
「カイル!」
「お爺ちゃん!」
どうやら少年の一人はこの老人の孫の様だ。
すると馬に乗った王国兵が前に出て老人の前に立ちはだかった。
「下がれ!この役立たずのゴミが。こいつらは今日からこの国の礎として選ばれた物達だ。貴様の様な者が関わっても良い物ではない。」
言うに事欠いて兵士たちは子供を物扱いしている。
しかも老人をゴミと言っているが、お前らもいずれは老いて同じようになるというのに何を考えているのだろうか。
もしかして、一定以上の年齢になったら自害でもする気なのか?
(相手の数は20人程度か。数的には余裕だが子供が居るから厄介だな。それに出来れば殺さずに捕らえたい。)
俺はその事を全員にメールで送り知らせておく。
別に殺す価値も無いとか生かして帰してやりたいなんて思った訳ではない。
ここは子供たちには悪いがサツキさんとゲンさんにお願いするしかなさそうだ。
俺が二人にその事をお願いすると快く快諾してくれた。
そして二人は前に出ると一瞬だけ俺とアキトに視線を向け声を掛けて来る。
「アキト、ユウ、よく見ておれ。これが威圧の応用じゃ。」
「「動くな。」」
それと同時に二人から威圧が放たれ兵士たちの動きが完全に止まる。
それはまさに金縛りと言ってもいい状態で二人が歩み寄っても指先すら動かそうとしない。
「威圧と共に相手を言霊で縛る。こういう簡単な事しか命令は出来んし、弱い者にしか効かんがこういう場面では効果的だ。覚えておくように。」
そして二人はそのまま兵士たちを気絶させていった。
しかし、そんな中でも助けた子供たちはその場から動こうとはしない。
(そういえばあの首輪は何だ?)
疑問に思いその首輪を鑑定すると隷属の首輪と出た。
どうやら簡易的に相手を奴隷に出来るマジックアイテムの様だ。
そういえば俺達と会った時に兵士の一人が止まれと命令していたな。
それで動けないのか。
「ゲンさん、その首輪は隷属の首輪と言って相手を奴隷にする物の様です。」
「分かった。こちらは儂らに任せておけ。お前はそこのゴミ共に用があるんじゃろう。」
どうやらお見通しの様だが俺がコイツ等を生かしたのは簡単な理由でしかない。
彼らの命に用は無いがそのアイテムボックスには用がある。
もしこいつらが国の徴収部隊なら大量の食糧を持っているはずだ。
殺してしまうとアイテムボックスの中身も消えてしまうのでそれを先に回収させて貰う。
何処に消えるかは諸説あるらしいがこの世界は全て魔素で出来ているという考えがあり、魔素に戻って消えているのではないかと言われているらしい。
そして、俺は強奪でアイテムボックスの中を1人ずつ確認する。
するとその中にはこいつら馬鹿かと思う程の食料が保管されていた。
恐らくは全員が空間魔法のレベルを10にしているのだろう。
俺はスピカに手伝ってもらいながら全てのアイテムを抜き取ると更に装備も奪って身一つでその場に投げ捨てた。
その間にゲンさん達は子供たちを解放し、その口に飴を放り込んでいる。
すると子供たちは次第に笑顔を浮かべとても懐いているようだ。
なんだかゲンさんがハーメルンの笛吹き男に見えて来る。
まあ、無理やり連れて行く訳では無いので気にしない事にしよう。
「それじゃあ行きますか。」
「あの、彼らを放置していても大丈夫でしょうか。国から軍がやって来るのでは・・・。」
その心配も分るがその点だけは大丈夫だ。
それについては既にサツキさんが動いているからな。
彼女は俺達から少し離れると足元を数回タップしている。
恐らくはカゲマルとロウカを呼び出しているのだろう。
そして呼ばれた二匹はサツキさんの影から出て来ると大きく息を吸い込んだ。
「「ワオーーーーー!」」
そして遠吠えを行いしばらくすると周囲からウルフ系の魔物たちが集まって来る。
しかし、魔物は俺達に一切目もくれずサツキさんの傍まで駆け寄るとその場で体を伏せた。
「来ましたね。またあれの処分を命じます。」
そう言ってサツキさんは背を向けるとカゲマルとロウカは影に戻って行った。
何だかテイマーというよりも既に魔物使いだな。
しかもあの魔物たちは先日サツキさんが屈服させた者達だろう。
(少し離れて付いて来てるのか。)
道が悪くそれほど速度が出てないので可能なんだろう。
それに道自体も蛇行していて真直ぐな場所が少ない。
もしかすると反乱が起こされたり他国から攻められた時の時間稼ぎの為かもしれないがこれでは商人たちも大変だな。
そして前回と同じく俺達がその場を去った後に後ろから悲鳴が聞こえた気がするが子供たちは口の中の飴に夢中で気付いていないようだ。
しかし、後ろを歩く老人たちは気付いた様で所々で後ろを確認している。
その後、俺達は無事に村に到着すると中に入って行った。




