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97 もう一人いたようです

結界石を置いても問題が起きる可能性が低くなったので次に話すべき相手に視線を向ける。

そこにはギルドマスターであるガギルスとスタッフであるモニカが俺達に話しかける機を窺っていた。

少し前から来ていたのは知っていたが先ほどまでは更に優先する事があったので悪いとは思ったが声をかけなかったのだ。

しかし、今は状況は好転したので今度は彼らを主軸として会話を進めなくてはならない。


「一応聞いておくけどそちらの用件は?」

「結界石についてだったが何やら不穏な会話が聞こえた気がしてな。このまま話をしても良いのか迷っている所だ。」


どうやら事情を知らない者からすれば俺が話していた事は不穏な部類に入るようだ。

思い返してみても良くてもエルフの国から来たスパイか、酷ければ戦争を金儲けにする死の商人といった所か。

俺個人は平和主義者なのだが知り合って1日なら仕方ないだろう。


「まず最初に聞いておくが、俺達が何もしないまま結界石を売った場合、この国の兵士が再び破壊するか奪いに来る。その認識はあるか?」

「それはある。ギルド内では非公開となっているが、この町の様に兵士が結界石を破壊して滅んだ町や村は一つや二つではない。」


するとその言葉に周囲のスタッフや冒険者からどよめきが生まれた。

恐らくはギルド内でも一部の者しか知らない情報なのだろう。

曲がりなりにも国と独立している巨大組織なのでその手の事はしっかり把握しているようだ。


「それなら話が早いな。先程ある国から支援を取り付ける事に成功した。だからしばらくは国も東の端にあるこの町に手を回す余裕は無いだろう。最悪、来たとしても少数だ。それ位ならこの町で対処できるな。」

「まあ、それ位なら問題はない。それで、さっきの話からしてタダじゃないだろう。この町の規模から言って金貨千枚とか言われたら出せないぞ。結界石を設置してから税金も鰻登りだからな。」


やはり、結界石を理由に国民から金を毟り取っていたか。

ほぼタダで手に入れた結界石でそこまで出来るとはこの国の国王は腐りきっているな。


「何枚までなら出せるんだ?」


この町の規模から言って金貨100枚の結界石があれば十分町を覆ってお釣りがくる。

こうして聞いているのは相手の誠意を知るためでもある。

以前聞いた話では国はライラに懸賞金を掛けたらしいが事情を知る冒険者ギルドは懸賞金を掛けていないと言っていた。

そして、彼らは俺達が持っている結界石の出所を知っているのだからどの様な答えが帰って来るのかが楽しみだ。


「俺達は国に毎月金貨20枚分の税を納めて来た。その1年分で240枚が限界だな。一旦ギルドで立て替えるがこの支部も金貨はそれほど多くない。町中から集めれば1000枚以上はあるだろうがそれだと町民の生活が出来なくなる。それ以外だと食べ物や工芸品で代用するしかないな。」


そう言ってガギルスは腕を組んで悩み始めるがそんな彼にゲンさんが声を掛ける。

どうやら何か提案があるようだ。


「町を歩いていて聞いたがこの町には腕の良い鍛冶師がいるそうだな。そいつを紹介してくれれば儂の方で少し金を出してやってもいいぞ。」


ゲンさんはああ言っているが恐らくはキテツさんの為だろう。

元々彼が同行しているのはドワーフの国に行く前にこちらの鍛冶技術がどのような物なのかを知るために来ている。

もし、ここで知識を得られるならこの後の危険な旅に同行する必要は無いだろう。


「あいつか~。紹介は出来るが保証は出来ないぞ。何か交渉があるならそっちでしてくれ。」


かなり投げやりだがもしかすると気難しい人なのかもしれない。

その場合の交渉事はキテツさん達に任せよう。


「それで構わん。ところでユウよ。どの結界石を売るつもりだったのだ?」

「この町なら金貨100枚の結界石で十分でしょう。」

「なら半分は儂が出してやろう。前回の時の稼ぎがまだ残っておるからな。」


そう言ってゲンさんは金貨の入った袋を投げて来た。

しかし、俺達の会話に突然モニカが割って入って来る。


「あの、流石に結界石を金貨100枚は安すぎませんか?一人用の結界プレートでも金貨20枚はしますよ。」


結界プレート?

ああ、あの大して役に立ちそうにないあれか。

あれで金貨20枚(100万円)の方がボリ過ぎだろう。

アヤネが最初作っていた家庭用結界石でも5万円だったのに。

それとも、俺の感覚が間違っているのか?

いや、あれは一般に普及させるためにあの値段設定にしたので間違いはないはずだ。


「それはそれを作った奴の値段設定がおかしい。俺達の国だと家一軒分で金貨1枚だ。」

「金貨・・・一枚・・・。」


どうやらモニカは俺達の相場を知ってショックを受けてしまった様だ。

ちなみに、こちらだと高級レストランで食事すると金貨が数枚飛ぶらしい。

武器で言えばそこそこの鉄のナイフ1本がそれ位の値段になる。

もし、この国の国王がライラを処分するという馬鹿な事を考えなければ今頃はもっと普及し、安くなっていただろう。

その場合はライラが世界を融合させようとは考えなかっただろうから恐らく俺は家でホロと二人、寂しく暮らしていただろうけどな。


俺は過ぎた過去から今に目を向け、ガギルスに視線を戻した。


「と、言う事で結界石はゲンさんのおかげで金貨50枚になった。今だけの半額セールだがどうする?」

「買うに決まってるだろ。一応確認だが不良品じゃあないよな。」


確かに安い物には裏がある。

それは金銭という文化がある世界ならどこでも共通の認識だろう。


「大丈夫だ。今のところ不良品が出たケースはない。それはこの国で生活するそちらの方がよく知ってるだろ。」


するとガギルスは頷いて納得した顔になる。

俺は結界石を渡し、大まかな事を説明すると彼は結界石をギルドの大金庫に入れて起動させた。

あそこならそう簡単に盗まれる事も破壊される事も無いだろう。

ギルド職員に裏切り者が潜んでいれば別だが。


「それじゃあ、俺らは少し出て来るから町への説明は任せたぞ。」

「何処に行くんだ?」

「少しゴミを片付けに行って来る。」


それだけでガギルスには何の事か分かったようだ。

彼は溜息をついた後に「程々にな」と言ってギルドのスタッフを集め始めた。

恐らく俺達が掃除をしている間に町の人々を集めて説明をするのだろう。


俺はマップを起動させると目的の者達を検索した。

検索対象は『ディスニア王国兵』だ。

ちなみに、門番や町を巡回している兵士風の者達は全員がボルツ憲兵となっている。

そして王国兵は町の西側に集合し何かを話し合っているようだ。

するとその内の一人が窓から外を見て慌てて他の者達に声を掛けている。

どうやら結界が復活した事に気付いたようだ。


『スキルポイントを使用し読唇術を習得しました。』

『読唇術のレベルが2に上昇しました。』

『読唇術のレベルが3に上昇しました。』

『読唇術のレベルが4に上昇しました。』

『読唇術のレベルが5に上昇しました。』

『読唇術のレベルが6に上昇しました。』

『読唇術のレベルが7に上昇しました。』

『読唇術のレベルが8に上昇しました。』

『読唇術のレベルが9に上昇しました。』

『読唇術のレベルが10に上昇しました。』


千里眼で現場は見えていたが今まで何を話しているのかが分からなかった。

しかし、スピカが良いスキルを取得してくれたおかげで少しだけ状況が把握できるようななって来る。

口が見えないと会話が分からないのが欠点だが今はしょうがないだろう。


『何故結界が再び存在している。』

『すぐに調べろ。そして結界石を再度破壊するのだ。』

『冒険者ギルドの者が今から説明をすると駆け回っています。』

『俺達も参加するぞ。』


どうやら、こいつらが王国兵で俺達が片付けないといけないゴミであるのは確定の様だ。

俺はそこにいる5人にマーカーを付けて様子を探る事にした。

まずは人相を他のメンバーにも確認してもらう為に奴らが潜伏している建物の前に出て来るのを待ち構える。


「あそこの家に王国兵が潜伏している。もうじき出て来るからアキトもマークしておいてくれ。」

「ああ、こちらでも確認した。他には居ないのか?」

「今のところはな。もしかするとギルドに裏切り者がいて結界石の破壊を手引きするかもしれない。少し泳がしておくか?」

「その方が良さそうだな。結界石がある中心点などその気になればすぐにバレるからな。」


そして俺達は気配を消したままギルドへと戻る事にした。

最悪の可能性として説明途中に強硬手段に出るかもしれないからだ。

その場合は犠牲者を出す気は無いので王国兵を即座に鎮圧する。

そして監視もかねて追跡しているとギルドが見える路地で話を聞くようだ。

ここなら一般人から離れているので何かしようとしたら誰にも気づかれずに処理できる。


そしてギルドの前に人々が集まった所でガギルスが話し始めた。

内容は結界石を金貨50枚で購入した事やそれが誰からもたらされたかということだ。

その中には国がライラに掛けた罪を否定する内容も含まれている。

そのため最初は人々も表情を曇らせたが王国兵が白昼堂々と結界石を破壊して逃げてくれたおかげで信じる気になったようだ。


その後、解散となり人々の顔には安堵の表情が浮かんでいる。

そして王国兵たちはそれを忌々しそうに睨みつけ自分たちの拠点へと引き上げて行った。

この様子なら襲撃をするとすれば今夜辺りなので俺達は一度ギルドに戻る事にする。

そして建物に入るとそこには見慣れない男が一人、ガギルスと話をしていた。

するとガギルスは俺達に気付くと手を振って声を掛けて来る。

どうやら紹介したい相手が居るようだ。


「早速で悪いがこいつがこの町で一番腕の立つ鍛冶師のクラウドだ珍しく工房から出て来てたから声を掛けたんだがタイミングが良かったな。クラウド、こいつらがさっき話した奴等だ。」


俺達はガギルスが紹介してくれるという鍛冶師の男に視線を向けた。

その姿は太い足に太い腕。

身長は低くその割には長い髭を生やしている。

髪と髭はくすんだ灰色をしており、鋭い目をこちらに向けていた。

するとクラウドは俺達を見回して大きな溜息を零した。


「お前たちが誰だか知らんが俺はこの国ではもう鍛冶はせんと決めている。悪いが諦めてくれ。」


その雰囲気から取り付く島もなさそうだが何か理由もありそうだ。

俺はスキルの力を少し借りてそれを優しく聞き出す事にした。


「何か理由がありそうですけど教えてもらっても良いですか?」

「ん?ああ、構わんぞ。」


そう言って彼は横にある食堂へと向かって行くと酒を取り出し椅子に座って飲み始めた。

どうやら素面では語れない理由があるようだ。


「そうだな。あれは数年ほど前の事だ。俺は旅の途中にその時の最高傑作である剣を賭けて飲み比べをした。」


(何処かで聞いた事のある話だな。流行ってるのか?)


「しかし、そいつは女のくせに顔色一つ変えずに俺に飲み勝ち、見事に俺から剣を奪って行った。するとそいつは餞別にと何処から持って来たのか結界石を置いて行ってな。まあ、そのおかげで俺の故郷は魔物の脅威から解放されたんだがな。」


そう言って勢いよく酒を煽り大きく息を吐いた。

ニオイからしてかなり強い酒だがクラウドは顔色一つ変えない。

この男を飲み負かすとはいったいどんな化け物なのだろうか。


「しかし、この国の連中はそいつを罪人だと言いやがる。俺はそれが我慢できねえ。俺らドワーフにはこんなことわざがある。酒が好きな奴に悪い奴はいない。アイツは濡れ衣を着せられてるだけに決まってる!」


(何だか犬が好きな者に悪い奴はいない~みたいなものか。しかし、見た目から予想はしてたけどやっぱりドワーフだったか。そうなると偶然の一致だが確認をしておくか。)


「それで、その負けた相手の名前は知っているのですか?」

「当然だ。そいつはライラと言ってな。龍の瞳を持ったイイ女だった。次に会った時には再び酒を酌み交わしたいものだ。」


(うん確定ですね。家のライラです。)


「そのライラなら今は家に住んでますよ。」

「ははは、そうか。あれから何年もたつからな。結婚しててもおかしくないか・・・。何だと!!!それは本当か!?」


そりゃ驚くよね。

話してた相手が知り合いなだけではなく一緒に住んでいれば。


「ええ、この国じゃないですけどね。」

「そうか。それで、アイツは元気なのか?」


その目は何処か過去を懐かしむ様に見える。

そこには先ほどまでの鋭い視線は無く、どこか優しささえも感じ取ることが出来た。

それはまるで孫を思う優しい祖父の様だ。


「元気ですよ。昨日はスカイパンサーのケイトと再会して喜んでましたし。」

「ん???ちょっと待て。ライラはこの国に居ないと言っていたよな。」


しかし、そんな彼も俺の予想外な返答に目を白黒させ始めた。

恐らく転移などの特殊な移動手段は一般には無いので思い浮かばなかったのだろう。


「いませんよ。ただ特殊な移動手段があるとだけ言っておきます。もし、国に来たいならこちらのゲンさんと話して決めてください。入国とか色々面倒なんです。」


そして、俺から言える事は終わったので総理であるゲンさんに話を振った。

恐らくは何か条件を付けて日本に滞在してもらうようになるだろう。

ゲンさんはクラウドの向かいに座るとあえて戦士の面構えを向けた。


「初めまして。私はゲンジュウロウといいます。もし、我が国に来てくれるならそれなりの生活は保障しましょう。」

「それなりとはどの程度だ。国によっては貧しい所もある。そんな国でそれなりならたかが知れているからな。」


彼が言う事も最もだ。

するとゲンさんは幾つかの瓶を取り出して蓋を開け彼の前に滑らせた。

するとそれらは見事にクラウドの前で止まり、中からアルコールを含んだ芳醇な香りを漂わせる。


「こ、これは。俺も初めて嗅ぐ酒の香り。しかもこれは・・・。ウッヒョーーー、何て強烈な酒精だ。」


そしてゲンさんは次にビーフジャーキーを取り出してそれを手渡した。

あれは俺も好きでメーカーは違うが時々食べている。

確かアレはブラックペッパーが効いていて香りと辛みが強い奴だな。


「これは・・・何かの肉か。しかし、この香りは・・・胡椒か!」


そしてクラウドはそれを一口かじり目の前の酒瓶をラッパ飲みにする。

その勢いはまるで水を飲んでいるようだ。


「ぷは~~~!最高の酒に最高の肴。気に入ったぞ。俺はあんたの国に行く。それにお前さん方もかなりの戦士と見た。アンタらの武器ならこちらから頼んで作りたいほどだ。それにそこのアンタは戦士ではなく俺の同業者だろう。」


そう言ってクラウドはキテツさんに話しを向ける。

どうやら眼力もかなりのモノの様でキテツさんの事を一発で見抜いた。。


「アンタはどうするんだ。俺は弟子は取ったことは無いが技術を教える事は出来る。あんたの工房を使わせてくれるなら変わりに俺の技術をアンタにくれてやろう。」


するとキテツさんは悩む素振りも無く頷いた。

それに対してクラウドは立ち上がるとキテツさんと硬く握手を交わす。

恐らくは工房には足りない物も多いだろうから設備を整える所からだろう。


そして結局は再び家に帰らなければならなくなったが今回はキテツさんを送り返すので俺はこちらに残る事にした。

あちらには既に連絡はしてあるので大丈夫だ。

それに日本はまだ日が高いので移動も問題はない。

まあ、ライラと久しぶりに再会するので一日目くらいは宴会をするかもしれないがそれは良いだろう。


俺は二人をゲートの開くポイントまで案内してゲートが閉じたのを確認してから町へと戻った。

そして町の掃除が終われば明日には次の町に移動できそうだ。

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