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95 ボルツ ④

最初に動いたのはサツキさんだった。

彼女が刀を構えてその場から突きを放つと届いてもいないのにも関わらず、その先に居た兵士の胸に巨大な穴が開いてその命を呆気なく散らした


それを見て距離を取るのは危険と考えた兵士たちはすかさず彼女に駆け寄り剣を振り下ろす。

その人数は5人と生き残りの半数を上回っているが、彼らは最後まで自分の意思で剣を振り下ろす事は出来なかった。

彼らは極細の水刃にその腕と首を切り裂かれ、サツキさんの前に到着した時には首は落ちて絶命していた。

恐らく俺もあの時に気付かなければああなっていただろう。

本当に初見殺しの恐ろしい魔法だ。


俺はそれを横目で見ながら残りの4人に切り掛かた。

しかし、レベルが低いのかそれとも鍛錬が不足しているのか全く反応が無い。

俺は余裕を持ってその首に刃を走らせると彼らは死んだ事も気付いていない様な顔で静かに死んでいった。


俺としては彼らに怒りはあるが恨みはない。

殺すにしても苦しまない様に素早く殺してやるのが優しさだろう。

しかし、俺もそれなりに強くなったが絶対無敵の最強戦士ではないので油断をすれば呆気なく死ぬこともあり得る。

俺が出来るのはただ油断なく全力で殺す事。

その結果として相手が苦しまない結果が付いて来るだけだ。


そして、結局はここにいた10人は断末魔の声すら上げる事も出来ずに首を失っ床に沈む事になった。

そして残ったのはギルドの裏切り者であるスタッフが一人。

まあ、ギルドをと言うよりも俺達をと言った方が正しいかもしれない。

こいつの言い様だと、彼の行動はこの国のギルド上層部が承認しているようだ。


そしてサツキさんは男に歩み寄ると逃がさない様に壁まで追い詰めた。

その直後サツキさんは男の腋の真下に刀を突きさし距離を詰めた。

しかしその余りに冷たい笑みに男は「ヒッ」と短い悲鳴を上げた。

そんな彼にサツキさんは殺気を目に宿して優しく声を掛ける。


「獲物を呼んでくれてありがとうね。一応私達の国は専守防衛だから攻撃されるまで手を出せないの。」

「た、助けて・・・。」

「何言ってるの。あなたはこうなる事を最初に考えなければならなかったのよ。それが出来なかった時点であなたは自分の意思で処刑台の階段を上ったの。」


そう言ってサツキさんは男の腹を容赦なく蹴りつけた。

すると男は前のめりとなりそれにより両腕は抵抗なく切断されてしまう。


「ぎゃあーーーーー!」


男は痛みに悶え苦しむがサツキさん既に興味を失い止めを刺す事なく視線を外へと向けた。

そして男を放置してそのまま駆け出して外へと飛び出して行く。

するとガギルスは腰を浮かせると俺に視線を向けて来た。

すなわちこの男の命の判断を俺に聞いているのだろう。


「サツキさんが止めを刺さなかったと言う事はそういう事だと思いますよ。俺も興味は無いのでお好きにどうぞ。」

「恩に着る。すぐにこいつを治療しろ。傷は深いが断面は恐ろしい程綺麗に斬れてる。上手くすれば後遺症もなく治るはずだ。」


もしここで俺がポーションを提供すれば腕が無くても完治は可能だ。

しかし、それだけの価値を俺はこの男に見出す事は出来ない。

きっとサツキさんも殺す価値無しと放置したに違いない。

それでも再び同じような事をすれば俺達の誰かがその命を確実に刈り取るだろう。

そして、この偶然に得た幸運をこの後どう使うかを知るのは彼だけだ。

しかし、願わくば俺達が居る僅かな間だけでも大人しくしてくれている事を願わずにはいられなかった。

彼にも友や家族がいるはずなのだから。


そして俺が外に出るとそこには既に死体の山が出来ようとしていた。

しかし俺が出遅れたのはほんの20秒ほどだ。

それでも既に50以上の死体が周辺に転がっている。

そしてこの周囲は兵士によって封鎖されている様で他に誰の姿も見えない。

こうしている間にも1秒で3人以上の死体が量産されていた。

そして、その中心ではその元凶のサツキさんが楽しそうに刀を振るっている。

どうも彼女は武器で相手を切り裂くと次第にテンションが上がって行くタイプの様だ。

相手している方からすると迷惑な話だが味方だと少しだけ心強い。

ちなみに少しだけというのはいつそのベクトルがこちらに向かうか分からないからだ。

直に闘った事のある者ならそれを肌で感じて実感済みのはずである。


そして既に残りが10人になろうとした所で新手が現れた。

その者達は今までの兵士と違いフルプレートメイルを着ている。

しかもその鎧は全身が隙間なく真っ黒で兜には角迄生えていた。

まるで何処かの隊長機の様で強そうな見た目だが、実力はその姿に相応しいだけのモノを持っているのだろうか?


そして、それを見て取ったサツキさんは相手にしていた10人に背を向けて新たに現れた兵士へ向けて走り出した。

すると10人はまるで糸の切れた人形の様にその場に倒れ伏す。

どうやら去り際に針の様に細められた魔法の矢を受け、目から脳を破壊されたようだ。

俺のマップを見ても既にそこには生きている人間の反応はない。

凄い早業だが彼女はソロでダンジョンを探索しているそうなのでこれ位出来なければ生き残れないのだろう。

恐らく俺が同じ事をしようとすればもっと大雑把な攻撃になる。


そしてサツキさんは新たな敵に向けて刀を振るった。

しかし、敵にそれを防ぐ気配は見られず、逆に体を突き出して来る。

その為、彼女は攻撃の角度を変え、切り裂くのではなく浅く掠めるにとどめた。

すると刀が掠った所には軽く傷がつくだけだ。

そして、俺の目には確かに刀が鎧に弾かれる瞬間が捉えられていた。

しかし、それだけではない。

その他にも俺の目には魔力が鎧に込められた瞬間が見えた。

すなわち、あれはライラが持っていたのと同じ、ドワーフ製の防具である可能性が高い。

恐らく魔力を込めると格段に防御力が向上するのだろう。

しかし、その大きさから魔力の消費量が多そうだ。

だから攻撃の瞬間だけ魔力を流しているのだろう。

そして今いる兵士は最低限それが出来るだけの実力があると言う事だ。

しかし、完全に見切って魔力は流している訳ではなさそうだ。


その証拠にサツキさんは攻撃の方法を変えて手数で押し始めた。

そのため魔力を込める時間が増大し一人、また一人と魔力を使い切って倒れて行く。

魔力が完全に切れると恐ろしい程の倦怠感と眠気に襲われるとライラが話していた。

きっとサツキさんはあの鎧が欲しくなったのかもしれない。

しかし、最後の一人になった時にサツキさんの顔付が変わった。


「吸血丸、血喰丸。起きなさい。既に存分に食事は終えているでしょう。」


するとサツキさんの手に持つ刀が血の様に赤く輝きを放ち始めた。

それと同時にサツキさんから大量の魔力を吸い上げていく。

そして彼女はその状態の刀を手に本気の斬撃を兵士へと放った。

すると刀身は鎧に吸い込まれるとその胴を一刀両断にして上下に切り裂いてしまった。


そしてサツキさんは息を切らしながらも二本の妖刀を鞘に仕舞うと大きく息を吐いた。


「まだまだこの子たちを使いこなすためには力が足りませんね。もっと修行をしなければ。」


そう言ってサツキさんは彼らの鎧を脱がせ始める。

やはり鎧を奪うのが目的だった様だが完全に女盗賊みたいな絵面だな。

しかも脱がす前に丁寧に鎧通しで相手の心臓に止めを刺している。

流石に容赦も油断も無いとは彼女の事を言うのだろう。


「ふふ、良い物拾っちゃった。」

(それを拾ったと言い張るサツキさんに脱帽です。)


確かに俺もベルドから剣を奪・・・いや。貰ったので人の事は言えないが・・・。

あまりにも良い笑顔で鎧を剥いでいるので声も掛け辛い。

するとギルドの裏から窓ガラスが割れる音が聞こえて来た。

それと同時に銃声も聞こえて来るのでおそらくは別動隊が突撃したのだろう。

そして銃声はすぐに鳴りやみ、周囲からはサツキさんの鼻歌のみが聞こえて来るだけとなった。

仕方なく俺も鎧を剥すのを手伝い終わると同時に立ち上がる。


「それじゃ、戻りましょうか。みんな待っていますよ。」

「そうね。すこし遊び過ぎて時間を掛け過ぎてしまったわ。早く入りましょ。」


しかし、時間が掛かったのは鎧を剥す事にだ。

敵を殺しきるのには5分も掛けていない。


そして中に入るとそこには目を覚ました冒険者達が待ち構えていた。

彼らはサツキさんの前にまで駆け寄ると腰を90度に折り曲げて頭を下げて来る。


「「「今日から姉さんと呼ばせてください。」」」

「あらあら。困ったわね。私達はすぐにこの町を出て行くのよ。」


サツキさんはニコニコと笑いながら口元を隠し周りを見回している。

恐らく姉さんと呼ばれて気分を良くしたのだろう。

もし、以前の年齢通りの姿ならもっと別の呼び方をされていたかもしれない。

例えば女将さんとか・・・、おば『ゴゴゴゴゴゴーーー』

いや、要らない事を考えるのは止そう。

だからサツキさん・・・。

殺気を俺に向けるのは止めてください。

威圧耐性があってもかなり怖いですから。


その間に再び目の前の冒険者たちが怯えてしまった。

今回の威圧の方向が俺だったので失神した者はいないが、それ故に最後までその威圧を感じてしまい更なる恐怖を彼らに植え付けたようだ。


「す、すみやせん。勝手な事を言いました。俺達は姉さんの旅の無事をこの町から祈っていやす。」

「いいのよ。機会があったらまた会いましょ。」


どうやら上手い具合に勘違いしてくれたようだ。

彼らは自分達の事にサツキさんが怒って威圧が放たれたと思ったのだろう。

好都合なのでその流れに乗る事にしよう。

俺達はそのまま再び歩き出して応接室へと戻る事にした。

まだ確認しなければならない事が残っているからだ。


部屋に入るとそこには割れた窓ガラスと震えるケイト、そして周囲を警戒するアキトとアスカが待っていた。

俺はケイトに歩み寄ると確認をするために声を掛ける。

しかし、今回は尋問スキルを使用させてもらう。


「そういえばケイトの元は何なんだ?動物か、それとも魔物か?」

「私は元々スカイパンサーっていう魔物だよ。」


(そうか、魔物なのか。)


「それならどうやってこの町に入ったんだ?」

「!!!そ、それは・・・。」

「知ってるよな。この町には結界がある。無ければ問題ないがここには通常の魔物は入れない。例外があるとすれば結界を通るための魔道具を持っている事だがお前はそれを持っていない事は既に確認済みだ。そして、結界を通過するにはもう一つ手段がある。」


俺はその手段を過去に知らぬ内に使ってコボルトを家に居れた事がある。

そして、その方法とはすなわち結界を張った場所の主がテイムした魔物に限りここに入る事が出来るのだ。

そして結界石は国が所有し管理している。

そのため、こいつの主が一般人だったり冒険者である可能性は限りなく0に近い。

しかもこいつは国の施設で働いていた。

そこから導き出される答えは一つだけだ。


「お前は国側の人間にテイムされているな。」


俺がその言葉を放った瞬間、ケイトは素早く動き離脱を測ろうとした。

しかし、俺がそれを許すはずはない。

即座に彼女の細い首を掴むと逃げられない様に押さえつけた。


「まだ質問は終わっていない。」


俺は顔を近づけケイトの目を見て気絶しない程度の威圧を放つ。

そしてケイトの首を掴む手に力を込めながら質問を続けて行く。


『拷問を習得しました。』

『拷問のレベルが2に上昇しました。』

『拷問のレベルが3に上昇しました。』

『拷問のレベルが4に上昇しました。』

『拷問のレベルが5に上昇しました。』

『尋問のレベルが6に上昇しました。』

『尋問のレベルが7に上昇しました。』

『尋問のレベルが8に上昇しました。』


「お前はライラの事がまだ大切な存在か?」


するとケイトは目を見開き涙を浮かべながら小さく頷いた。


「お前の主を言え。」


しかし、この質問には答えようとはしない。

俺がこの事を聞いた直後から口を力の限り閉じ、血を流しながら目に大粒の涙を浮かべて首を横に振っている。

テイムされた魔物は主に逆らえないと以前エルフの国に行った時に辺境の町のギルド職員をしていたクラクから聞いた。

恐らく相手のテイムのレベルが高く、ケイト自身のレベルも低いので命令に逆らう事が出来ない状況なのだろう。

これでは隷属と変わらないが狂暴な魔物をテイムする事も考えれば納得もできる。

俺達の仲間には戦闘大好きシラヒメも居るからな。


しかし次の瞬間、事態は急変する。


『尋問のレベルが9に上昇しました。』

『尋問のレベルが10に上昇しました。』

『尋問が審問に進化しました。』


「かはーー!」


その瞬間、ケイトは口を開き虚ろな瞳で声を漏らした。


「私の・・・主は・・・ディスニア王国・・・国王・・バルブレオ・は・・が・・ぎゃーーーー。」


彼女は喋り終わると悲鳴を上げ口を大きく開いた。

そして舌を限界まで突き出すとそのまま口を閉じる。

そのままでは舌をかみ切ると判断した俺は指を二本立てて口に差し込み口が閉じない様に対応する。

すると俺の指を彼女の奥歯が噛み切ろうと圧力をかけて来るが俺にはそれらに耐性があるので僅かに痛みがある程度だ。

しかし、本人の限界を超えた力が働いているのかケイトの口からは筋肉が軋む音が聞こえて来る。


(これは俺のミスだな。)


こういう質問は後にしておけばよかったと俺の心に僅かな後悔がよぎる。


(スピカ、以前の時の様に略奪は可能か?)

『テイムのレベルが不足している可能性があります。』

(なら遠慮なくレベルを上げてくれ。)

『分かりました。』

『スキルポイントを使いテイムのレベルを10に上昇させます。』

『テイムがコントラクトに進化しました。』

『スキルポイントを使いコントラクトのレベルを10に上昇させます。』

『コントラクトと強奪を同時発動。・・・ケイトの強奪に成功しました。命令を初期化します。』


「どうにかなったな。」


ケイトを見ると彼女は意識を失っているようだ。

脈は少し早いが呼吸は正常にしているのでしばらく放置すれば目を覚ますだろう。

すると俺の後ろにホロが駆け寄り背中に飛び付いて来た。


「どうしたんだホロ?」


俺は疑問に感じ振り向いてホロに視線を向ける。

するとホロは顔を赤くして俺を見上げる様に見つめ返すと真剣な顔で口を開いた。


「私はユウが大好き。だからずうーーーっと一緒に居るね。」

「ああ、俺も大好きだぞ。だから死ぬまで一緒にいような。」

『コントラクト発動。契約者同士の意思を確認しました。これ以降、更に上位のスキルを使われない限り二人の絆が奪われる事はありません。』


どうやら俺が以前から心配していた懸念が解消されたようだ。

もしかしたら奪う事に特化した人間ならホロを俺から奪う者が現れるのではないかと考えていたがこれで心配はなさそうだ。

ホロも俺の契約者としてスキルが変化した事に気付いてこんな事を言って来たのだろう。

俺はスキルの内容までは知らなかったが本心で答えたのでこの状態に不満はない。

しかし、これは一度帰った方が良いかもしれないな。

実のところを言うと最初からケイトが裏切ったとは考えていなかった。

オリジンはあの時、この出会いで誰かが喜ぶと言っていた。

ここで切り捨てるなら悲しむ事になってしまう。

ライラがケイトをどう認識しているか分からないが一度連れ帰ってみるか。


その事を周りに話すと納得してくれたので俺はホロと一緒に移動を始めた。

他の皆はこの町で待機し、少し調査をするそうだ。


「それじゃ、行ってきます。」


そして俺達はケイトを連れて町を出た。

今なら本気で走れば目的のポイントまでアッと言う間だ。

既に連絡はしてあるので時間になればあちらからゲートを開いてくれる。

しかし、短時間でゲートを開いたため次に俺達が戻ってくるのは明日の朝以降になるだろう。

しかし、今回の旅は低レベルのケイトを連れてだと危険すぎる。

その為、彼女にはしばらく家で大人しくしてもらう。

そして時間通りにゲートが開き俺達は数時間ぶりに家に帰っていった。

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[一言] 俺はそれを横目で見ながら残りの4人に切り掛かた。 →俺は其れを横目で見ながら、残り4人に切り掛かった。
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