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9 ライラ&アヤネ

【ライラ】

私の名前はライラ・リディア。

偉大で優しいドラゴンの父と人である母の間に生まれたドラゴニュート。

でも、私は母に似て体の殆どが人として生まれた。

父から受け継げたのはこの目と巨大な魔力だけで他は人とそれほど変わらない。

私には空を駆ける翼も、すべてを切り裂く爪も、噛み砕く牙も、強靭な肉体と鱗も何も無い。

目ですらただドラゴンに似ているというだけで何の能力も授かる事は出来なかった。

そんな私だけど父と母は私を愛し優しくしてくれた。

でも私に優しかったのはこの二人だけ。

既に生まれていた兄も、父の傍にいる他の妻たちも私を疎み蔑んだ。

だから子供の時にはそれが原因で沢山泣いた記憶がある。

そして次第に時間が経ち私は大人になった。

体の成長は16歳の時を境に止まり、髪が伸びる以外の変化はしなくなった。

そして更に40年程経つと母は老い、私の前からいなくなった。

私と父は沢山泣いて母を焼いて埋葬した。

この世界では死んだものを放置するとゾンビとなって甦る。

ゾンビになった者は生きている者を無差別に襲う魔物に変わってしまう。

その為、埋葬は火葬にするのがこの世界の常識だ。


でも、私が大変なのはここからだった。

私は兄や父の妻たちから虐めを受け始めた。

力が無く、人に近い私を父以外は嫌い虐めは日々エスカレートして行く。

父に言う事も出来ず、命の危機を感じた私は人の世界に旅立つ事に決めた。

その頃には私は100歳を超えていたが人の世に出るのは初めての事で不安でいっぱいだった。

父は財宝から金貨を私に持たせてくれた。

きっと私が虐められていた事には薄々は気付いていたのだろう。

この時の私はレベルは低かったが書庫で得た膨大な知識と父譲りの巨大な魔力。

それと父から教えてもらった古代魔法がある。

古代魔法は今の魔法と違い魔力の消費は激しいけど自由度があり、応用が利きやすい。

それらを使えば人の世でも生きて行けると思う。


そして最初の村に着いた私はその惨状を見て目を見開いた。

そこは魔物に襲われた後で多くの人の亡骸と涙を流す人で溢れかえっていた。


「これは・・・。何があったの?」


その頃の私は魔物の脅威なんて知らなくて近くの人に問いかけた。


「魔物だよ。クソー、国は何をやってるんだ。」


(魔物・・・。そんなの結界があれば寄って来ないでしょ。)


私はそう思って村を見渡した。

でもこの村に結界石はない。

その事に疑問を感じた私は再び問いかけた。


「結界石は?」

「何言ってるんだ。そんなアーティファクト、王都にしかねーよ。」


どうやらこの世界で結界石とはとても貴重な物みたいだ。

私は知識があるので簡単に作ることが出来る。

その為私は彼らに無償で結界石を渡した。

すると彼らは笑顔でとても感謝してくれる。

でもこの時の私は思いもしなかった。

私が去った後に国が結界石を手に入れる為、秘密裏にこの村を滅ぼしたなんて。

国の記録ではこの時の魔物の侵攻で村は滅びた事になっている。

私がこの村の事を知ったのは幾つかの村を周り、レベルを上げ更に強力な結界石を作れるようになった頃だった。

私は王都からの使いと名乗る兵士と共に王都にある王城に来ていた。

そこで私は国王から依頼を受けた。


「お主が結界石を作れるという者だな。すまないがこの国の為に結界石を作ってくれ。設置は我らで行うのでこの城に滞在してくれないだろうか。」


私は悲しむ人を救いたかった。

だから私は国王の言葉に頷き毎日たくさん結界石を作った。

兵士たちは作った端から結界石を運び出して行く。

私はこれで人々が救われると信じていた。

そして結果だけ言えば人々は救われた。

しかし国王は私の事を一切外に漏らさず結界石を設置したようで功績は全て国の物になっていた。

それでも私は満足だった。

これで人々は救われた。

でも作業が終わり再び国王に会った時。

私は信じられない事を言われた。


「ご苦労だったな。それでは死んでくれ。」


私は耳を疑った。

なぜ私が死なないといけないんだ?


「お前のおかげで我が国は他国に大きな差をつけることが出来た。しかし、それはこの国にしか結界石が無いからだ。お前を解放すればお前は他の国でも同じことをするのだろう。それは困るのだよ。」


国王はそんなつまらない理由で私を殺すと公言した。

だから私は即座に逃げた。

大臣たちを跳ね飛ばして窓を突き破り、秘密にしていた古代魔法で風を操り魔力が続く限り空を飛んだ。

そのまま何時間も飛び続け、私は国境を越えて隣の国に逃げた。

でもそこでも私は休む事は出来なかった。

密偵により情報が漏れていたのか各国が私に多額の懸賞金をかけたからだ。

私は全ての人間から逃げ、最後は魔物が大量にいる辺境のダンジョンの奥に身を隠した。

その頃には私にはこの世界で信じられる者は誰もいなくなっていた。


そして私は追い詰められた思考の中である事を思い出した。

それは勇者召喚。

その事実が異世界があるという事実を私に教えてくれる。


「異世界に行きたい・・・。」


そう考え、私は憑りつかれたように必死で研究をした。

勇者召喚の魔法陣は頭に入っている。

レベルが足りないのならダンジョンの魔物を倒して上げればいい。

そして数年が経った頃。

私は研究の過程で発見をした。

世界を融合させる魔法を。

結果、私は世界を融合させる事に成功しスキルにある検索を使用した。

検索項目は


(わ、私を・・・幸せにしてくれる人。)


そして一人がヒットし私はその人に起点となる手紙を送った。

これを開いてくれればそれを目印に転移ができる。


でも送ったのは良いけど待つ時間がとても長く感じる。

緊張と恐怖が心に湧き起こりたった数分が数時間に感じた。

そして手紙が開かれた瞬間、私はその人の所に飛んだ。


そして初めて見たその人は私よりの少し背が高く少し冷たい目をしていた。

でもここで弱い所は見せられない。

父の口調を借りて強気にいかないと。


「ははは、掛ったな。」

(こんな感じだった気がする。)


「それはさっき読んだ。いいからその先を話せ。」

(あれ、普通に返されちゃった。あ、名乗らないと。)


「私は天才大魔導士、ライラ・リディア。私が世界を融合させた者だ。」

「それも予想の範疇だ。いいから目的を言え。お前が騒ぐからホロが震えている。いい加減にしないと殴るぞ。」


(あ、ほんとだ足元でワンちゃんが震えてる。もしかしてそれで怒ってるの?でも殴るなんてなんだか怖い・・・。でも、会話は出来てる。話を勧めないと。)


「う、うむ。実は研究ばかりしていてもうお金がないの・・・。だから養ってくれない?」


(あ、あれ。なんだかすごく怒ってる?怖い、凄く怖い。早く逃げたい。あれ、でもワンちゃんが私の傍に・・・どうすれば良いの?)


「へ?」

(お腹出してどうしたの?)


「撫でてやればいいだろ。」


(いいの?ならちょっとだけ・・・。ああ~柔らかい。)


その後、彼は結局養ってはくれなかった。

でも美味しいご飯もくれるし家にも置いてくれた。

それにユウといるとなんだか楽しくて暖かい。

まるでお母さんが生きてた時みたいだなー。

これが幸せなのかな?


【アヤネ】

私は加藤 アヤネ。

大学を卒業してそろそろ半年が経つ頃、私は不幸のどん底にいた。


その日も残業で遅くに住んでいるアパートへと足を進める。

でもそこには既にアパートはなく、あるのは焦げ臭いニオイと燃えカスだけ。

私の部屋は跡形もなく燃えていた。

どうやら火の不始末が原因で火事になったらしい。

私は今持っている物以外の全てを失ってその場に立ち尽くしていた。


その日は仕方なく近くのホテルに泊まり一夜を明かした。

でも安い給料の私には蓄えなんてない。

このままだと遠くない内に路上で寝泊まりする事になってしまう。


私は次の日、手続きをするために仕方なく有休を上司にお願いした。

すると上司からとんでもない答えが返って来た。


「有休。そんなに欲しいの。でも君クビらしいからもう帰っていいよ。」

「え・・・?」

「聞こえなかったの?早く出て行きなさいって言ったの。もう君はここのスタッフじゃないんだから帰らないと警察に通報するよ。」


私は冷たい目を向けて来る上司が嫌になり部屋を飛び出した。

せっかく苦労して就職し、パワハラやセクハラにこの半年耐えて来たのに・・・。

それが全て無意味になってしまった。

私を見て会社の同僚も目を合わせてくれず、いつもナンパしてきた男の社員も私を無視している。

ただ後で携帯にショートメールが届いた。


『やらせてくれるなら面倒見てやるよ。』


とふざけたメールだった。

私はこの男を着信拒否リストに登録して町を彷徨うように歩いた。

夕方になり丁度目についた店に入って腹いせに沢山お酒を飲んだ。

途中からどれくらい飲んだのか記憶が無い。

ただ、店を追い出されるように出た事は覚えている。

私は無意識にもう無くなったアパートに足を向けていた。

実家は遠く、帰っても私の居場所はすでに無い。

両親は私の姉夫婦と一緒に生活し私が家を出ると同時に部屋は甥の子供部屋になった。

なので帰っても迷惑を掛けるだけだ。


そして朦朧とした意識で次に見たのはなんだか子供の様なモノが3人。


(誰?それに何を持っているの?)


そして次に訪れたのは足への痛み。


「イッター。何すんのよアンタ達・・・。え・・・?」


私は立っていることが出来ずに地面に倒れた。

でも感じた痛みはこれで終わりじゃなかった。

棒のような硬い物で何度も殴られ私は助けを求めた。


「嫌、やめて。痛い、誰か・・・誰か助けてーーー。」


でも人は誰も来ない。

痛みで体の自由を失うとそいつらは私の体に手を伸ばしてきた。


(ふ・服が。もしかして犯そうとしてるの?それにこの生ものが腐ったみたいな匂い。あ、あれって・・・男のひとの・・・)


私は自分の置かれた状況を初めて理解した。

でも酔いと痛みで自由の利かない体と薄れる意識。

そんな中、また一人誰かが来たのに気付けた。

もう輪郭しか見えないけど私は必死で手を伸ばし、声を絞り出した。


「お・・ねが・・い。た・たすけ・・・て。」


この時の私にはこいつらの仲間かもって考えも浮かばなかった。

ただ助けてほしくて必死に手を伸ばしてた。

でも私の意識はここで一旦無くなる。

しかもお酒のせいで起きた時には断片的な記憶しか残ってなかった。

残っていたのは私を殴るモノたちとその痛み。

あとは犯されそうになっている恐怖だけ。

それに起きると体中から溢れ出る熱と痛みに思考が纏まらない。

そしてほとんど裸の状態でベットで寝ていたので私は大きな勘違いをしてしまった。

私は酷い目をユウさんに向けて、酷い事も言ってしまった。

でも彼は結局、私を助けてくれた。

状況を説明し傷も治してくれたし、新しい仕事も考えてくれた。

あの時、傷を癒してくれた暖かい手の感触は一生忘れられない。

初恋もした事のない私だけどこの胸の温かい気持ちが恋ならいいなと思う。

彼になら私は・・・。

でも彼の横にはもう素敵な女性がいる。

私はどうすれば良いのかな?

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― 新着の感想 ―
[一言] 「聞こえなかったの?早く出て行きなさいって言ったの。もう君はここのスタッフじゃあいんだから帰らないと警察に通報するよ。」 基本的な労働法を全く知らなかったんだね。社員を簡単にその日に解雇な…
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