表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/225

88 同行者はホロに託される

その日、家に帰ると俺は皆を集めて昨日の夜に考えた事を告げていた。


「確かに私が行くとトラブルが増えそうだから今回は仕方ないわね。」


俺の説明にライラは納得して頷いてくれた。

それに下手をすると国中から狙われ宿にすら泊れない状況になるかもしれない。


「そう言われてしまうと私も戦闘面では足を引っ張りそうです。それに仕事も最近多いので今回は行けそうにありませんね。」


アヤネは最近結界石の効果がビルを覆えるくらいまでになったので値段を10~30万円に上げて販売している。

それでも会社や大型ホテルからすれば安いので買い注文が殺到していた。

恐らく、家で一番忙しいのは彼女だろう。

レベルアップの影響で結界石の製造数も増えているのでかなりの時間を仕事に費やしている。

それでも国が仲介人となって仕事が次々に来るので嬉しい悲鳴が上がっていた。


「私も王位継承権は放棄しましたが、一応はエルフの姫なので今回の事には参加できそうにありません。下手に侵略と取られると戦争になってしまいます。」


やはりアリシアも無理なようだ。

まあ、アリシアの父親であるトゥルニクスなら娘の為に戦争も辞さないだろう。

しかし、先日の一件で今は亡き第一王子のセドリアスが秘薬を無断で大量に消費していた事が判明した。

そのため、戦争になると助からない命が大量に出そうなので優しいアリシアとしては相手に口実を与えたくないのだろう。


「あの国って今もバンパイアの生け捕りに多額の懸賞金を掛けてるから私も行けないわね。下手に私の事を知られると色々と面倒な事になりそうだから。」


彼女はバンパイアとして一部の権力者から常に狙われている。

その代表的なのがこのディスニア王国との事だ。

いつの時代にも寿命を克服したいというのは彼らの夢の様な物なのだろう。

それに、もしバレると何かの拍子に奴隷商館やこの国に来た元奴隷の女性や子供たちに危険が及ぶかもしれない。

本当に色々な意味で仲良くしたくない国だ。


そしてメノウはどうするかと聞くと意外にも彼女は自分の意思で辞退してきた。

俺としては護衛として最も応用力のある彼女には残ってもらいたかったので願っても無い事だ。


「実は、カエデと一緒に幾つか予定が入っているんです。握手会とかマーメイド達と一緒に過去の戦場を回ったりなどですね。対象の県からかなりの報酬も出るのでユウさんがいない間に回っておきます。」


確かに、いまだにアンデット発生と言う火種は各地に燻っている。

スケルトンはともかくゴーストなどの物理が効かない魔物を駆除しておけばどうにか出来るだろう。

それにマリベルが居れば移動はすぐなので各県の都市部にでも移動ポイントを作っておこう。

前回は寄り道しすぎたので今回は通り過ぎるだけに留めておく事にする。


そして俺は最後にホロに視線を向けた。

今のところ俺に同行しそうな全員がそれぞれの理由から辞退している。

そして俺は椅子から立ち上がるとホロの傍へと向かった。

今のホロは犬の姿で部屋の隅にあるマットの上に寝そべり、背中を向けて寝転がっている。

しかし、俺は彼女とは生後2ヶ月からの付き合いだ。

その姿を見れば内心など手に取るようにわかる。

と言うよりもあからさまに不機嫌ですというサインを出していた。

ホロはヘソを曲げると尻尾で地面を一定間隔で叩き、顔を覗き込めば唸って睨み返して来る。

しかも最近は器用に耳を塞ぎ、聞く耳持ちませんとジェスチャーまで送ってくるようになった。


そして、俺も今日1日かけて悩みに悩んだ。

皆を残してホロを連れて行くかどうか?

すると俺の中にある天啓が下った。


(アリだな。俺には愛犬であるホロの居ない日常こそあり得ない。)


そして、よくよく考えると他の者には連れて行けない理由があるがホロには無い。


(ん?よくよく考えるとホロを連れて行かない理由って無いんじゃね。)


そしてしっかり1秒ほど悩んだが答えは変わらなかったので今からそれを伝える事にした。

しかし、俺がみんなと話しているのを聞いてホロは自分も留守番すると思っているようだ。


「ホロ~。」


返事が無い。

変わりに尻尾で床を叩いている。


「ホ~ロ~。」


尻尾の力が増し、耳も塞がってしまった。

仕方なく俺は手を伸ばし体を揺する。


「ガウガウガウ!」


かなり御機嫌斜めの様だ。

俺が体に触れた途端に牙を剥き怒った顔で睨みつけて来る。

まるで猛犬だがホロは牙は向けど噛みついてはいない。


「聞いてくれホロ。」

「ウゥーーー!」

「ホロは俺と一緒に来てくれると嬉しいんだが。」


するとホロは牙を剥くのを止め、コテリと首を傾げライラ達を見た。

そしてライラ達は頷きホロに声を掛ける。


「しっかりユウを見張るのよ。」

「また誰か増やすかもしれませんからね。」

「本当は皆で阻止したいですけどホロだけが頼りです。」

「変身を駆使して一時も離れちゃダメよ。」


ホロにライラ、アリシア、アヤネ、ヘザーの順に声を掛けられた。


(あれ、これってそういう話だっけ?)


そして最後に奥から出て来たメノウがホロへと声を掛ける。


「どうしても連れて来る時はしっかり上下関係を教えておいてくださいね。」


どうやら昨日のヴェリルの一件で俺の信用は地に落ちたようだ。

ホロは凛々しく立ち上がると尻尾を突き上げ「ワン!」と了承した様に一鳴きした。

しかし、次の瞬間には俺の足元に来て頭を擦り付けて来る。

どうやら機嫌が直って頭を撫でろと言う事らしい。

俺が手を伸ばすとホロはその手に頭を擦り付け嬉しそうに尻尾を左右へと振る。

その後、しばらくホロを満遍なく撫でまわし、ブラッシングをしたところで夕飯の支度が終わりその日を終了した。


そしてあれから数日が経ち、今は大晦日の夜。

俺達は夕飯を終えてのんびりテレビを見ながら寛いでいた。

キッチンではどこで覚えたのかメノウが年越しそばを打っている。

初めての試みなのでどこまで出来るかは分からないがスキルの助けもあるので変な事にはならないだろう。

その横では、こちらも何処で覚えたのかクリスがかけそばに使うのツユを作っている。

二人はいつになく真剣な顔をしているのでしばらくは声を掛けても反応しないだろう。


他のメンバーも特番に目が釘付けになっているようだ。

テレビでしている内容は今年のスクープ映像や事件について。

そして、今は京都での失踪事件がドキュメンタリー形式で放送されている。

すなわち俺達が解決した事件の事だ。

その前には国会議事堂の事も幾つか放送され、その多くに俺達が関わっていた。

この後にも魔力機構最前線や医学の闇にメスを入れろなど興味深い特番が続いている。

ハッキリ言って年末年始はこういう放送が多いのでしっかり録画しておかなければならない。

そうしておかないと気になる番組を見逃してしまう。


そしてこうしている間にもその理由の一つが俺の家に接近中だ。

それにこういう輩はいつもタイミングが悪いと相場が決まっている。

もうじき年が明けて蕎麦も完成しそうなので手短に終われせる事にしておこう。

既にアキトたちもスタンバイしているのですぐに片づけられそうだ。


俺は打合せ通りカーミラにだけ気付かれないようにその場を離れた。

彼女は最近テレビに夢中なので俺が気配を消して家から出た事には気付いていない。

そして外に出るとそのまま反応のある場所へと向かった。

移動距離は50メートル程だろうか。

俺はそこで道の真ん中に立つと目的の相手が現れるのを待ち構えた。

すると程なく前方から4人の男が駆けて来る。

そして俺を確認するとその場で止まり怒りに満ちた目を向けて来た。


「貴様、前回はよくもやってくれたな。俺から盗んだ剣を返しやがれ。」


最初に声を掛けて来たのは自称勇者のベルドだ。

自称と俺は言っているが『偽』でも良いかもしれない。

あの後メノウに聞くと勇者は国が認定するモノではないらしい。

細かな事は教えてくれなかったが本当の勇者は別に居るそうだ。

まあ、こんな男が勇者だとしたら世も末だろう。


そしてその横には以前と同じく従者であるガイとウイルがいる。

しかし、可笑しな事に二人とも片腕が無い。

たしかあの時は五体満足で帰ってもらったはずだが。


「お前らその腕はどうしたんだ?」

「前回の失敗で切り落とされたんだよ。」

「今回の任務に成功すれば返してくれる事になってるが、失敗すればもう片方の腕も切られる事になっている。もう俺達には後が無いんだ。」


別にそれは俺の責任ではないと思うがな。

そもそもあんな国に仕えたお前ら自身が悪い。

それならもう一人は誰だ?

どう見ても戦闘員じゃあないよな。


「それで、そっちのは誰だ?」


すると最後の初対面の男は前に出ると俺を指差した。


「貴様らが俺の奴隷を奪ったのは分かってんだよ。だからこうして回収に来てやったんだ。持ち主に無断で奴隷を連れ去る事は犯罪だと知らないのか。」


(ああ、こいつがカーミラの持ち主か。しかし、処分しようとしたくせに酷い言い草だな。まあ、これならいいかな。)


俺はアキトに一通のメールを送った。

内容は「今喋った男を撃ち殺しても問題なし」だ。


そして5秒も置かずにカーミラの所有者を名乗る男は頭をザクロの様に破壊されその場に倒れ込んだ。

その際に散った頭部はもれなくベルド達が全身に浴びている。


「え?」


するとベルドの口から声が洩れ倒れた男に向けられる。

そして自分が被ったのがその男の肉片と骨片だと知ると顔を青ざめさせ半狂乱に声を上げた。


「あああ~~~~~!」


そして残りの二人も腰を抜かすとベルド共々その場に尻を着いて壁際まで逃げて行った。

その姿に俺は冷たい目を向けると尋問スキルで問いかける。


「お前ら、以前も使ったアーティファクトは持っているな。」

「あ、ああ。持っている。だから命だけは助けてくれ。」


ベルドは今の光景を見て一瞬で心が折れたようだ。

素直にアーティファクトであるネックレスを取り出すと俺に差し出して来る。

俺はそれを受け取ると更に質問を続けた。


「これを起動させるのには儀式場の様な所が必要なのか?」

「ああ、専用の魔法陣と祭壇がある。それらが揃わないとそのアーティファクトは使用できない。」


「それは幾つもあるのか?」

「それは無いはずだ。こんな貴重な物が他にもあったらあの国ならもっと有効に使って侵略を行っている。」


こいつらの言っている事は一理あるな。

それなら今回の目的は達成したと見ていいだろう。


「なら、お前たちに選択肢をやる。」

「選択肢・・・。」


選択肢と聞きベルドたち三人は息を飲んだ。

それでなくても絶体絶命の状態なので選択肢すら死を意味するか、それとも死に等しい可能性もある。

彼らは提示された選択肢の中から最悪を回避した最良を選ばなければならなかった。


「1つ、このままアーティファクトに回収されて死ぬ。」


すると三人は俺の死と言う言葉に恐怖に満ちた表情を浮かべる。


「2つ、この場で俺に殺される。」


そして二つ目を聞き体を振るえさせると目に涙を浮かべ始めた。


「3つ、このまま捕虜になり命がけでこの国に尽くす。」

「「「3だ!」」」


すると三人は即座に返事を返してくる。

最初の2つが既に死ぬ選択肢なので仕方ないだろうが忠誠心とかはないのだろうか。


「言っておくが3にするとお前らはあの国から見たら裏切り者だぞ。」

「もともと義理も何もねえ国だ。勇者とその従者に任命されてもこの仕打ちだ。抜けるには丁度良い頃合いだ!」


(なら後は総理とサツキさんに任せれば良いか。彼らならこいつらでも上手く使うだろう。)


そして俺はマップを確認するとアキトが近くまで来ていた。

俺は道の影に目を向けるとそこからアキトが静かに現れる。


「これが例のアーティファクトだ。」

「確かに受け取った。」


そしてアキトは転がる死体にアーティファクトを固定し、その上にコードの付いた機械の様な物を乗せた。


「C4セット完了。後は転移するのを待つだけだな。そいつらはどうする。」

「総理とサツキさんに任せようと思う。」


するとアキトは溜息をつくと三人に憐みの籠った目を向け声を掛けた。

恐らくは自身も通た道なので今後にどういった事が起きるのかを知っているんだろう。


「そうか。一言だけ言っておく。」

「な、なんだ。」

「死ぬなよ。」


そう言ってアキトは目を逸らし爆薬に視線を戻した。

しかし、ベルドはアキトの言葉が気になったのか目元を痙攣させながら話しかける。


「ちょっと待て。今のは冗談だよな。俺達、この国で生きられるんだよな。」


するとアキトは自分の服を捲りその体を見せる。

そこには以前、風呂に入った時に見た大きな切り傷が刻まれていた。


「総理はともかくサツキさんの訓練は死と隣り合わせだ。昔、弛んでいると言われ、真剣で訓練して危うく死ぬ所だった。あの人は訓練と実践の境界が曖昧だ。覚えておくんだな。」


それでアキトはサツキさんが声を掛けた時にあそこまで慌てたのか。

それにしても本当に危険な人だな。

俺もスキルが無ければ確実に殺されていた。

あの人の訓練は実戦を想定してるのではなくて後半になると確実に実践になるからな。


そして彼らを見ると何故か縋る様な目を俺に向けて来る。

しかし、そんな目をしても無理な物は無理なので諦めてもらうしかない。

すると丁度回収が始まったようだ。


(おっと。そう言えば手紙を忘れていた。いきなり爆発するのでは可哀そうだからな。)


俺はライラに頼んであちらの文字で手紙を書いてもらっていた。

ズバリ内容は。


『これは爆弾です。食べられません。早く逃げないと死にます。』だ。


これで被害が小さくなればいいのだが。

そして、魔法陣が光を放ち爆弾の付いた名も知らない男の死体は消えていった。



一方その頃、爆弾は転移を終えて何処かの施設にその姿を現した。

それと同時に強力な電波を発生させているがそこにいる者達にはそれを知る術はない。

しかし、ユウ達の世界では現在、その電波の場所を特定するためにあらゆる手段を使い測定が行われていた。

方角さえ特定できれば各国のデータを基に方角から場所を特定できる。

既にユウ達の世界の国々は新たな世界地図を衛星写真により作り上げているので場所の特定は可能だ。

そしてその施設の者達は戻って来た死体とその上にある物体。

更にはその上に乗る封筒に目が釘付けになっている。

しかし、勇気ある者がその封筒を手にして封を開け、その中の字を読み始めた。

実際にアリシアの時の様に手にするだけでも死ぬ可能性がある。

そんな中で碌な調査もせずに手紙を読み始めたこの者は勇気と無謀を兼ね備えた強者であった。

しかし、その行動が今だけは多くの人間の命を救う事になる。


「これは爆弾です。食べられません。早く逃げないと死にます。」


それを聞いた周りの者達は急いで逃げ始めた。

爆弾と言う言葉は理解できなくとも最後に書かれた「逃げないと死にます」の文字に恐怖を感じたためだ。


「全員退避ーーー。安全が確認されるまでこの施設から離れろーーーー。」


そして施設から人が逃げ終わった直後、場所の特定も終了しC4爆弾が火を噴いた。

その直後、施設は倒壊しこの国にあった転移のアーティファクトは完全に消失する。

その光景を目にした者達は命の危険を感じ取り我先にと町から逃げ出していった。

恐らくは責任を取らされ、殺される事を恐れたのだろう。

ここはそういう国であり、国王はそういう事に容赦のない人物だった。


しかし、そんな中にも逃げ遅れる者は必ず現れる。

そして、その者は町を出る事も出来ず、町の片隅に一人で膝を抱えて震え続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 恐らくは自身も通た道なので今後にどういった事が起きるのかを知っているんだろう ↓ 恐らくは、自身も通った道なので今後、如何云った事が起きるのかを知っているんだろう
[一言] こちらも何処で覚えたのかクリスがかけそばに使うのツユを作っている。 ↓ 此方も何処で覚えたのか、クリスが掛け蕎麦に使うツユを作っている。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ