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83 大人になっても怒られるのは怖いモノです

俺は朝になると自警団の集会所に呼び出された。

当然理由は昨日のカーミラの件だ。

俺は集会所に着くとツキミさんの前に座り彼はテーブルの前で手を組んでいる。

まるで何処かのアニメの司令官のようだ。

今にも第一種戦闘配置と声が聞こえてきそうだが、その瞳は俺を射抜く様に睨んでいる。

そして俺が大人しく座っていると指令、じゃなかったツキミさんが話し始めた。


「昨日、この周辺に問い合わせを掛けて半径500km内で魔物による大きな事件が起きてないのは確認されている。お前は未成年を夜の墓場に放置して何処に行っていた?」


どうやら既に裏まで取られているようでこれは言い逃れは出来そうにないな。


(しかし、俺が思うに半径500㎞は周辺とは言わないのではだろうか。)

「言い訳は必要ない。何をしていたのか聞いている!」


ツキミさんは激しくテーブルを叩き怒りの咆哮を上げた。


(あれ~。俺はまだ声には出してないよね。)


「あの。まだ何も言ってませんが?」

「ああ、そうだったな。何やら言い訳が聞こえた気がしてな。それについては謝罪しよう。しかし、昨日の事は別だ。さあ、答えてもらうぞ。」


俺は一瞬心を読まれたのかと焦ったが大丈夫なようで内心胸を撫で下ろしている。

恐らくは本当に聞こえていれば、彼の怒りは今の比ではなかっただろう。


(俺は読心耐性にポイントを振る事を本気で検討したぞ。)


しかし、今のこの状況を回避するには素直に話すのが一番だろう。

下手な嘘を言っても更に裏を取られて怒らせるか、この場で見抜かれそうだ。

こういう時に正直者は辛い所だろう。


「昨日はカーミラを助けに向かわせてから傍の草陰で様子を窺っていましたよ。」

「は?」

「ですから。傍でちゃんと見守ってました。何処かに行ったというのは嘘です。」


すると俺の正直な言葉にツキミさんは肩眉を上げて反応し、再び司令官スタイルに戻る。

しかし、その眼光は先ほどの5割増しに鋭い。

この目で見られたらどんな獰猛な犬でも一発で降参してしまいそうだ。


「は~・・・何を考えているんだお前は。近くに居たなら何故手を貸さなかった?」


どうやらツキミさんには少しだけ事情を話しておいた方が良いだろう。

部分的に内容を暈したり真実に嘘を織り交ぜる必要はあるが。


「それはカーミラの為ですよ。彼女には事情があって早めに仲間と呼べる存在を作る必要がありました。」

「詳しく聞こう。」


どうやら一旦は俺の話を冷静に聞いてくれそうだ。

それにこれは彼を信用して話すのであって、怒られるのが怖いからではない事を今の内に言っておく。


俺はカーミラの事は家を襲撃した者が連れていた奴隷であると説明した。

襲撃者を撃退して救い出したが長い奴隷生活のため心を病み、人との関りが苦手であると説明する。


「それで、今回の事と何の関係ある?」

「ショック療法ですかね。上手くいったので良かったです。あの三人には感謝しないといけませんね。家のメンバーだとあそこまで打ち解けるのにかなりの時間が掛かりそうでしたから。」


するとツキミさんは溜息を吐くと腕を組んで椅子にもたれ掛った。

しかし、その顔はいまだに納得しているとは言い難い。


『虚言を習得しました。』

(・・・いや待て。おかしいだろう。どうしてそうなる!)


『虚言のレベルが2に上昇しました。』


(おい・・・。まあいい今はこの不名誉なスキルも甘んじて受けよう。)


『虚言のレベルが3に上昇しました。』


(今の何処に嘘があるんだ?)

『不名誉な、と言った所でしょうか。』

(スピカ。)

『はい。』

(・・・・・)


俺は一旦スピカとの会話を切ってツキミさんとの話しに集中する事にした。

俺達が話している間にもツキミさんとの話は進み今はカーミラを信用できるのかという事を話している。

さすが元自衛官だけあって奴隷を助けたと言うだけでは思考が止まらないようだ。

実際、この間のアヤネが巻き込まれた事件を発端に隷属スキルの情報はある程度一般に公開されている。

その為、彼もその本質は理解している様で、言うなれば主に対しては絶対服従だ。

スキルを使用した者のレベルにもよるがカーミラくらいの強さならスキルのレベルが2もあれば絶対服従させられる。

それ程に隷属スキルは恐ろしい能力だ。

俺も感覚的にだがスキルを使用し、奴隷に出来る相手が分かるようになった。

今はスピカに頼んで厳重に管理してもらっているので使う事は出来ないが、俺としても今回の様な事が無ければ使いたくない。


しかし、このスキルも悪い事ばかりではない。

このスキルを使えば奴隷を解放する事も出来る。

俺にはスノウの様な能力も総理達の様な技も無いのでもしもの時には使わせてもらう。

そして、カーミラが信用できるかと言えば今はまだ微妙な所だ。

彼女の主は俺なのでその点は問題ないがその事は明かす事が出来ない。

その為、彼女が何かした時は所有者兼、保護者である俺が責任を取るしかないだろう。


「断言が出来ないので微妙な所ですが、もし何かあれば俺が責任を持って対処しますよ。それで良いですか?」

「対処とはどこまでを想定している?」


すると途端にツキミさんの視線が鋭くなる。

俺はそれに変わらぬ表情で答えた。


「再教育から・・・処分まで。ですね。」


するとツキミさんは先ほどよりも大きな溜息をこぼして俺に視線を向けて来く。

どうやら俺の言いたい事がちゃんと伝わったようだ。


「それならしばらく彼女の面倒は我々で見る事にする。お前の目論見通り仲の良い隊員も出来たしな。彼女が今後も生きられるようにこちらでも協力しよう。」

「そうしてくれると助かります。こちらも殺すつもりで助けた訳ではありませんから。」


俺達は頷きあうと席を立った。

そして俺は集会所を出ると家に向かって歩き始める。

時刻はまだ10時にもなっていない。

これならカーミラのベッドも買いに行けそうだ。


そして家に帰ると数人のメンバーに声を掛けた。


「メノウ、ライラ、それとカーミラ。今から出かけるんだが付いて来てくれるか?」

「いいわよ。」

「ユウさんのお誘いなら喜んで~。」


メノウとライラは上着を取り出すと袖を通して出かける準備を始めた。

そして先日プレゼントしたマフラーを首に巻くとその姿を俺に見せる様にクルリと回る。

贈った本人としては気恥ずかしさはあるがちゃんと使ってくれると嬉しさでつい笑みがこぼれてしまう。

すると二人は俺の内心に気付いた様で笑い合って準備を整えた。

しかし、その間にもカーミラだけは驚いた顔のまま動こうとしない。

すると彼女は「私もですか?」と問いかけて来た。


「ああ、お前が部屋で使うベッドを買いに行かないとな。だからお前が居ないと始まらないから強制参加な。」

「わ、分かりました。」


そしてカーミラは立ち上がり俺の傍まで来た。

そういえば、彼女にはまだ服を買っていないので上着が無い。

昨夜は夜だったのでローブを着せたがあれは純白のローブなので昼間だと少し目立つ。

仕方なく俺は自分で使うつもりだった出来の悪いマフラーを取り出し彼女の首に巻いた。

これで少しは寒くないだろう。

するとカーミラは巻かれたマフラーに視線を落とすと感触を確かめる様に手を添えた。


「これは?」

「あまり出来が良くないから俺が使う予定だった物だ。今はそれしかないからしばらく貸しておいてやる。」

「は、はい!大事にします!」


カーミラは何処か嬉しそうに返事をすると落ちない様に首に結んで固定した。

俺はそれを見て次にクリスを探した。


「クリスは居るか?」

「はい。」


俺が声を掛けると彼女はキッチンから手を拭きながら現れた。

どうやら朝食の片付けをしていたようだ。


「今日の昼は外で食べるから家の方は頼んだぞ。」

「畏まりました。こちらはお任せください。」


クリスは一礼して俺の頼みを了承すると下がって行った。

その後、ホロとヘザーが名乗りを上げたので二人も加え出かける事にした。

そして、その他のメンバーは家で仕事をしたり時間を潰すそうだ。

俺達は車に乗り込むと買い物に向けて出発して行った

カーミラは車を見て驚いていたが、走り出すと緊張してガチガチになってしまった。

これからは乗り物での移動もあるだろうから早めに慣れて欲しいと思う。

ヘザーに関しては以前から馬車に乗る機会があった様で問題なさそうだが、少し浮かれているのは確かだろう。


そして以前にも訪れた寝具の店に入るとヘザーはカーミラの手を取り、店内を物色し始めた。

この店には既に何回も来ており、かなりの金額の買い物をしている。

それに以前にヘザーはここの男性店員に潤いを与えているのであちらもしっかりと覚えていたようだ。

彼らはそれぞれの担当コーナーから、ヘザーに熱い視線を送り自分の所に来る様に祈りを捧げている。

しかし、無情にも彼女が声を掛けたのは近くにいた女性店員だった。


「この子に合うベッドに案内してくれない。家に来た親戚の子なんだけどいきなりだったから準備が間に合わなくて。」


すると店員の女性は笑顔でそれを引き受けるとカーミラを案内していった。

そしてヘザーは俺の傍に来ると手を取りカーミラの後を追い掛けて行く。

確かにお金を出すのは俺だがそんなに密着して引っ張らなくても良いだろうに。

俺達を見て他の店員が目から血の涙を流しそうな程睨んでいるぞ。

するとヘザーは振り返ると彼らに聞こえる様に止めの言葉を零した。


「私達の愛の巣で面倒を見るのよ。ア・ナ・タもしっかり見ておかないと。」


すると周りで見ていた男たちの顔が明らかに変わっていく。

先程まではオアシスに居たように笑っていたのに今では荒野を行き交う乾いた旅人の様だ。

しかし、ヘザーはここでは止まらないようだ。

視線を後ろに向けると他のメンバーにも声を掛けた。


「あなた達もこの人の家に一緒に暮らしてるんだからしっかり見ないとダメよ。」


するとその声に彼らは荒野ではなく砂漠を行き交う乾ききった旅人へと豹変していく。

既に何人かは旅を諦め、その場に膝を付いたようだ。

彼らは一様に心で涙を浮かべ俺にだけ嫉妬の視線を向けてくる。

しかし、そんなものはお構いなしと彼らの横を美女美少女に囲まれ通り過ぎて行った。


「決まったかカーミラ。」

「あの、本当に買ってもらっても良いのですか?」


そう言って彼女は並んでいるベッドに目を向けた。

正確にはそこに書かれている値札にである。

カーミラはまだ日本に来たばかりでこれが安いのか高いのかは分からない。

しかし、それでも値札は読めるのでそこに書かれている数字に0が多い事を知り怖気付いてしまった様だ。

彼女にとって昨夜使った布団ですら今までに感じた事のない程に心地よい物だったはずだ。

その更に上のベッドなど不要と感じても仕方はないかもしれない。

しかもそれが高額な物ならなおさらだろう。

カーミラの中にはいまだに奴隷という立場が根強くこびり付いているようだ。


するとヘザーはカーミラに魔法を掛け汚れを落とすと抱き上げてベッドに放り投げた。

それは売り物なら問題があるがこれは展示品のお試しスペースだ。

通常なら叱られる事もあるが周囲の店員の大半が朽ち果てており、一緒にいる女性店員は何も言わない。

俺達は来れば毎回と言っていい程、高額な買い物をしていたので上客と見なされているようだ。

そして投げ落とされたカーミラはベッドの上でバウンドし、その場で倒れ込んでしまった。


「なに、この柔らかさ!なんだか・あっという間に・・眠れそう・・・zzzz。」


そしてカーミラはそのまま夢の世界へと旅立ってしまった。

きっと彼女にとってベッドは天使の揺り篭に匹敵するのだろう。

横に本物の天使がいるので深くは言えないが、カーミラの顔はとても幸せそうだ。

ヘザーはそんなカミラのほっぺを突きながら笑顔を浮かべてしばらく堪能すると揺すって目を覚まさせた。


「ほえ?・・・・・ご、ごめんなさい!あまりにも寝心地が良くて寝てしまいました。」


そんな彼女に周りは笑いをこぼし、更に色々な物を試させていった。

カーミラはそれらに戸惑いながらも次第に笑顔を浮かべ、一つずつ欲しい物を選んで行く。

最初は遠慮していた彼女も、ライラやヘザーがプレゼントという形で枕やパジャマなどを

贈り、それと同時に一番欲しい物を聞きだしていった。

そして最終的にはシングルのベッドに高反発のマット。

フワフワなシーツと毛布に羽毛の羽根布団を購入した。


彼女はその価値を知るのはしばらく後の事だが今は子供らしく素直に喜んでいる。

そして俺達はカーミラの服もついでに購入し、昼ご飯を食べるために店に入った。


そこはバイキングの店だが平日の昼間と言う事で人は少ない。

俺達は並ぶ事なく店に入ると、この店の説明を受けて食事を始めた。

そして、説明ではこの店のランチタイムは90分食べ放題だという事だ。

俺はのんびりと料理を選び、サラダに味噌汁、ごはんに漬物と選んで席へと戻る。

当然、食べ放題なので残さなければいくら食べても問題はない

そのためホロとメノウのお皿には山の様な料理が盛られていた。


(別に残らないのは分かっているけど食べ過ぎで出禁にならない様に気を付けてもらいたいな。この二人の胃袋は底無しだからホント~に切に頼む。)


そしてそんな中でカーミラは料理を少しずつ、浅く広く選んで持って来た。

しかし、ドリンクの取り方が分からなかったようで飲み物は持ってきていない。

俺は一度立ち上がるとコップに氷を入れ、大量のシロップと水を少し入れてカーミラに渡した。

しかし、これは別に虐めている訳ではない。

カーミラが家に来た夜に俺はメガロドンで出汁を取った雑炊を食べさせた。

しかし、彼女は食べながら空腹であった事は訴えたが美味しいとは一言も零さなかった。

そして、あの雑炊は途轍もなく美味しいのは俺も食べたので知っている。

そんな物を食べたにも関わらず、奴隷であった彼女は味に対して一切触れることは無かった。

しかしカーミラは食後に美味しかったと告げただけだ。

これを言うと可哀そうだが、それはあり得ない事と断言して良い。

美味い物を食べ慣れていそうな総理達も必死に食べていたのだからカーミラが驚かないのは異常だ。


そして俺とメノウは計画を立てて今日のこれとなったのだ。

恐らく、彼女には味覚に関する異常がある。

よくテレビでは辛い物で試すが人の味覚に辛味は含まれていない。

あれは痛みという痛覚を味と錯覚しているのだ。

それと塩分で試すのもNGだ。

あれは過剰摂取すると体に悪影響が出る可能性がある。

最悪死ぬ可能性もあるので避ける事にした。

それで今回の甘いシロップ水と言う訳だ。

俺は何食わぬ顔でコップをカーミラに差し出した。


「水を持って来たから置いておくぞ。」

「あ、ありがとうございます。飲み物をどうすれば良いのか分からなかったのです。」


そう言って彼女は笑顔でコップを手に取り一口飲んだ。

しかし、彼女の表情が変わる様子はない。

俺とメノウはそれを見て予想が的中している事を確信し、そのまま食事を続けた。

細かい話は帰ってからすれば良いだろう。

今は楽しい食事時なのでこの一時を楽しむ事にした。


しかし、この味覚障害は治療が難しそうだ。

怪我や栄養の偏りが原因ならメガロドンの雑炊を食べる事で一時的にでも回復するはずだ。

しかし、その兆しが一切見えない所を見ると心的要因。

すなわちストレス等による可能性が高い。

家に来た時には既にこの状態だったので俺達といる事が強いストレスになっている訳ではないだろう。

そして可能なら避けたいがもしもの時はカーミラのストレスが何処から来ているのかをメノウに調べてもらう必要があるかもしれない。

彼女なら恐らく、カーミラの心を覗いて原因を特定できるはずだ。

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