78 お土産
俺はヴェリルがいつでも家に来られるようにレベル上げをしてやってから仲間の元へと連れて行った。
これは別に情が湧いたからと言うよりもそうした方が良いと感じたからだ。
世界が融合する時にもあったが俺は理由が無くてもこういう事は信じる事にしている。
もしそれで何も無ければ笑い話にすれば良いし、何かあるなら直感が正しかったと思えば良い。
ただ俺の主観で言えば首筋にざわつきを感じて何かがある可能性は50パーセントと言ったところだ。
しかしこれが宝くじ等でこの直感が働けば良いのに悪い事ばかりを的中させるから出来れば何も起きて欲しくないと言うのが俺の本音だ。
そしてヴェリルの顔を見た他のマーメイドたちは大喜びで彼女を迎えてくれる。
そこに蟠りなどは見受けられないのでこれからも仲良く暮らして行けるだろう。
しかし彼女はすぐには海に帰らずこちらに歩み寄って来た。
「今日はありがとう。今後どうするかはみんなで話し合って決めるけど、必ず一度は会いに行くからね。」
「ああ、その時はイソさんか仲間のハルが俺の居場所を知ってる。普通に歩けるようになったら遊びに来い。」
「分かったわ。すぐに歩くのに慣れて遊びに行くからね。約束よ!」
「ああ、ちゃんと待ってるよ。」
すると彼女はビシリと指を突き付けると海に帰って行った。
そして海に飛び込んで顔を出すとこちらに手を振って来る。
「約束だからね~。」
俺もそれに軽く手を振って答えると彼女は沖へと消えていった。
すると俺の横にイソさんとハルがやって来る。
どうやらイソさんも既に帰って来ていたようだ。
「良かったのかユウ。簡単に約束などして。」
「え、遊びに来るだけでしょ。それ位ならいつでも歓迎しますよ。」
「「は~~~。」」
すると二人から深い深い溜息が返事の代わりに返って来た。
俺は首を傾げるが二人から言葉は返って来ない
仕方なく俺は軽く挨拶だけしてその場から飛び去った。
「ユウの奴、もしかしてマーメイドの事を知らないのか?」
「きっとそうでしょうね。でもあれだけあからさまなのに気付かないなんて筋金入りね。」
「まあ、一般には知られていないから仕方ないな。」
「それもそうね。恋が実らなかったら理性のない魔物に変わってしまってその成れの果てがセイレーンだなんて知ってる人は殆どいないわよね。」
「儂らは別れたが両思いだったからな。」
「ええ。それが私をあの時までマーメイドとして繋ぎ止めてくれたわ。」
二人はユウが去った空を見上げてヴェリルの恋が実る事を祈るのだった。
そして俺は家に帰ると釣果を持って居間に入って行った。
「ただいま~。大漁だぞ~!」
するとそこには全員が集合しており、こちらへと詰め寄ってきた。
まさか、そんなに新鮮な魚が待ち遠しかったのだろうか?
しかし一番に声を掛けて来たのは食いしん坊のホロやメノウではなくライラだ。
「ユウ、テレビで見てたわよ。メガロドンを釣ったんでしょ。早く見せて見せて!」
「ああ、見てたのか。せっかく最後に見せて驚かせようとしてたのにな。それにアレは今まで釣ったサイズとしては俺の新記録だぞ。」
ただ、以前の世界だとあんな巨大な鮫を釣るには何重にも束ねたワイヤーと巨大なクレーンが必要だろう。
船で釣るとすれば魔物と言う事も考慮して大型タンカーか空母でなければ沈められているかもしれない。
しかしライラはワクワクした子供の様に目を輝かせているが一つの大きな問題がある。。
「待てライラ。ここで出せるほど小さくないんだ。マリベル、部屋を作ってくれ10メートルと20メートルで長方形の部屋を頼む。解体に使ったら破棄するから丁寧に作る必要はないからな。」
「任せてください。。」
そう言ってマリベルは傍の壁に手を付けると注文通りの部屋を作り出した。
「出来ました。床はフローリングではなくコンクリートにしてあります。」
「ありがとう、助かるよ。頭は吹き飛んでるけどかなりの大きさだからな。」
そして皆で中に入ると部屋の中央に行ってメガロドンの体の部分を取り出す。
やはり、吹き飛んだと言っても頭の一部だけなのでこの広さの部屋でもギリギリ置く事が出来た。
ヒレの部分も回収しておいたのでこれは壁際にでも置いておけば良いだろう。
するとライラは玩具に駆け寄る子供の様にメガロドンに近づくと検分を始めた。
「破損は酷いけど首の切り傷のおかげで衝撃は外に逃げたみたいね。内臓は大丈夫そう。目は・・・吹き飛んでるわね。ねえユウ。残骸拾ってたでしょ目は無かった?」
俺はアイテムボックスを確認するとそこに眼球を発見した。
あの時は飛び散った肉片にしか見えなかったが回収できていたようだ。
「あるけどどうすれば良いんだ?」
するとライラはガラスの容器を取り出して蓋を開けた。
どうやらこの中に入れれば良いみたいだ。
「ここに頂戴。メガロドンの目は良い材料になるのよね。」
俺は何の材料にするつもりだと思いながら眼球を取り出すとそれをガラスケースに落とす。
するとライラは何度か水で洗い砂を落とすと最後に水を入れて蓋を閉めた。
そして次にライラは大きな解体包丁を取り出すと俺に差し出して来る。
「これは少し特殊な包丁なの。魔力の通りが良い筈だからこれでお腹を割いてくれる。ゆっくりでいいから内臓を傷つけない様にね。胃液は超強酸だから特に気をつけて。」
(腐食耐性があるから大丈夫か。それにしても特殊な包丁って何だ?まあ使ってみればわかるか。)
俺は念のために腐食などの状態異常に強い聖装を纏う。
そして同時に包丁も覆った時にライラが言っていた意味を感じ取った
「魔力が吸われてる気がするな。」
今までは聖装や魔装で武器をコーティングしても幕が張っているだけという状態だった。
しかし、この包丁は魔力を流し続けなければ今の状態が維持できない。
気を抜くと纏っている聖装ごと吸い取られてしまいそうだ。
『魔力回復を習得しました。』
『魔力回復のレベルが2に上昇しました。』
『魔力回復のレベルが3に上昇しました。』
『魔力回復のレベルが4に上昇しました。』
『魔力回復のレベルが5に上昇しました。』
『魔力操作を習得しました。』
『魔力操作のレベルが2に上昇しました。』
『魔力操作のレベルが3に上昇しました。』
『魔力操作のレベルが4に上昇しました。』
『魔力操作のレベルが5に上昇しました。』
魔力の消費が激しいのと操作で苦労しているとスキルを習得することが出来た。
そして魔力操作のおかげで吸われ続けていた魔力を止める事に成功した。
ハッキリ言ってあのまま吸われていると解体を終える前に魔力が吸いつくされそうだったので助かる。
するとライラがいつもの様に包丁の説明を始めてくれた。
「そのがドワーフの作った魔剣の一種だからよ。その包丁は使用者の魔力を吸って攻撃力を上げてくれるの。昔に知り合ったドワーフから結界石と交換で譲ってもらったのよ。魔力を注いだ分だけ攻撃力が上がるから力のない私でも解体が出来て便利なの。でもこれ程の魔物は私だと大変だからユウにお願いするわね。」
「頑張ってみるよ。解体は初めてだから指示をくれ。」
「それじゃあまずは首の骨を切断して頭を切り離しましょ。」
そして俺はライラの指示に従いメガロドンの首に包丁を当てた。
すると戦った時に使っていた剣と違いスルッと肉を切り裂く事が出来る。
『解体を習得しました。』
(お、役に立ちそうなスキルだな。)
『スキルポイントを振りますか?』
(いや、ある程度簡単な所を処理して自動で成長させる。)
『分かりました。』
俺はその後、首の骨を関節部分に包丁を当てて切り離すと頭を分離させた。
「それじゃあ先に外皮を剥しましょう。肉がついても後で削ぎ落せばいいからなるべく穴を開けないでね。もし空いたら教えて。錬金のスキルを使えば修復できるから。」
俺は腹に包丁を当て尻尾まで皮だけに切れ目を入れるとそこを起点にして皮を剥いでいった。
メガロドンは魚類というよりもクジラの様な肉質で覆われており魚の様に身がばらける心配はなさそうだ。
なので皮を剥ぐのは意外と簡単に出来た。
しかもこれだけの魔物を解体するとスキルの上昇も良いようだ。
スキルの解体が瞬く間にレベル10まで上昇し、斬撃強化、刺突強化、魔力回復、魔力操作も皮を剥ぎ終わるまでにはレベル10まで上昇した。
ただ、スキルの上昇で包丁の切れ味が変わるので何度か失敗して穴を空けたのはご愛敬だ。
ライラがすぐに直してくれたので問題ないが高位の魔物素材程魔力の使用量が多いらしくかなりの魔力を使っていた。
ちなみに皮を剥いでいる途中からメガロドンの胃から強酸の胃液が少し逆流して来た。
床に落ちると油でコロッケを揚げる様な音でその部分を溶かし煙を上げているがそれはメノウが上手く処理してくれている。
酸の煙は空気中に在っても体内に入り人体を焼くので俺はともかくみんなの為にはとても助かる。
そのため急いで解体を終わらせるために再びメガロドンの腹に包丁を当てた。
切れ味抜群なので肉を簡単に切裂けるが逆に内臓を傷つけてしまわない様に慎重に切り開いていく。
これが終われば後は包丁ではなく手で内臓を取り出せばいいのでこれが最大のヤマと言える。
そして無事に腹を裂くと一つずつ臓器を手にして丁寧に取り出していく。
特に心臓は貴重な部位らしくライラは慎重にガラスケースに入れて密閉していた。
「内臓は何の材料になるんだ?」
俺にとって魚の内臓は殆ど食べる事が無いので想像がつかない。
もしかすると感じがクジラに似ているので超珍味で美味しいのだろうか?
しかし、ライラから出た回答は俺の予想した物とは全く違うものだった。
「メガロドンは知能が低いから亜竜だけど、これ自体は竜族と変わらないの。だからこれがポーションの材料になるのよ。アリシアは国に帰った時にお父さんから秘薬を作る最新のレシピを聞いてて私と相談してたの。だからこれが手に入って丁度良かったわ。」
どうやら経口物ではあるが珍味ではなかったようだ。
少し食べてみたい気もしたが秘薬の材料なら無駄には出来ないだろう。
俺は残念に思いながらも解体を進めて行くと奥の方に光る塊を発見することが出来た。
どうやらこれがこの魔物の魔石のようだ。
その大きさは今までに無い程大きい物で30センチ近くある。
なんだかいつもと色が違うのでライラに渡しておけばいいだろう。
するとライラはそれを見て嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「これは水の属性が付いた魔石ね。とても貴重な物なのよ。これをドワーフの所に持って行って武器と合わせると属性の付いた魔剣を作ってもらえるわ。」
「魔剣ていうのはこれと似た物なのか?」
「似てるけどそれは無属性の魔剣よ。これは水の魔石だから水の属性が付いて火系の魔物に特攻が付くわね。代表的な魔物はヘルハウンドやウィルオウィスプ、それとサラマンダーもね。」
ライラは魔石を綺麗に水で洗いながら説明を行い、タオルで拭いてから自分のアイテムボックスに仕舞い込んだ。
この手のアイテムはライラに管理を任せておけば安心できる。
俺が管理していると気付かずに何かで使ってしまうかもしれないからな。
そしてやっと内臓も終わったので残るは肉と骨だけだ。
その為、もう遠慮は要らなくなったので包丁に更に魔力を注ぎ強化を行う。
すると包丁を包む聖装の厚みが増しその状態で振ると俺の腕よりも太い腹骨も容易く切断することが出来た。
(それにしても凄い切れ味だな。俺が使っていた日本刀とは全く違う。俺もそろそろ武器を真剣に考える時が来たのかもしれない。)
今までは魔力で強化していたので気にはならなかったが魔物が強くなれば自前の強化だけでは追い付かない。
もしこの包丁があの時いあれば一撃目で首を切り落とす事も可能だったはずだ。
そうすれば魚拓が・・・魚拓が取れたはずだ!
(後でマリベルに相談してみるか。ライラにもドワーフの事を教えてもらわないとな。)
俺自身も今回の釣りで考える所が多かったので色々と収穫はあった。
近いうちにアキトも武器の相談に来る事になっているのでその時にでも話をしてみるか。
そしてメガロドンを3枚におろして後はメノウに任せる事にした。
どうも見た感じではまるで高級和牛の様な肉質で部位ごとにサシの入り方が違う。
ここは知識の豊富な料理人に任せた方が正解だろう。
「後は任せた方が良さそうだけどそれでいいか?」
「はい、お任せください。クリスさん、今日の夕飯にしますから処理はお任せします。」
「分かりました。大仕事になりそうですね。」
流石は我が家の誇る料理人の二人組だ。
阿吽の呼吸で切り分けるとクリスはそれをキッチンに持って行った。
今日の夕飯は期待できそうだな。
切っている時にも肉からはクジラの様な臭みは感じなかったので味も期待できそうだ。
血も少なかったのでおそらくは派手に首周りが傷付いた事で血抜きも出来ていたのだろう。
ライラは血も材料になると言っていて少し残念そうだったがその分美味しく食べれるなら俺はそっちの方が良い。
(一応、止めを刺したアキトにも連絡を入れてみるか。)
『どうした、ユウ。今度はメガロドンからエイリアンでも出て来たか?』
一体どんな返しだと言いたいが最近トラブル体質なのでそう言われても仕方ない気がする。
しかし、今の俺は初めて食べる旨そうな肉のおかげで気分も最高潮だ。
それ位のヤジは快く聞き流そう。
「違う違う。メガロドンの肉をこれから実食する事になったんだ。お前たちも来ないかなと思ってな。」
『メガロドン。あの魔物かー。しかしアレは食える物なのか?』
すると突然、電話先であるアキトの後ろが騒がしくなり始めた。
耳をすませばそこからアスカの声が聞こえてくる。
『メ、メガロドンを食べられるのですか!?あれは超高級食材ですよ。美食家なら一度は食べてみたい食材ベスト10に入る程なんです。行きましょう!すぐ行きましょう!」
『しかし夕飯の準備はほとんど終わっているぞ。』
『そんな物よりもメガロドンです!これは明日でも食べれますがメガロドンは今日しか食べられません。さあ、料理はアイテムボックスに仕舞ってメガロドンを食べに行きましょう!』
後ろから聞こえるアスカのメガロドン押しが凄まじい。
美味しければ100キロ程譲ってやろう。
『聞こえていたと思うが今から行かせてもらう。他の奴も連れて行くが良いか?美味かった場合後で何か言われると面倒なんでな?』
「分かった。そのつもりで多めに作ってもらうよ。」
そして俺は電話を切って今度はメノウに声を掛けて先ほどのやり取りを説明した。
アキト組は体育会系で結構な量を一度に食べるからだ。
「それなら後これだけ・・・。いえ、これだけ料理しましょう。おそらくもっと増えます。」
するとメノウの予想が当たったのか俺の電話が鳴り響いた。
見ると珍しい事に総理からで、日本に居る時にこうして急に電話を掛けて来るのは初めての事だ。
「はい。」
『ユウか。あの魔物はいつ食べるのだ。暗部の連中から聞いたがかなり美味いらしいな。食う時は儂を呼べよ。』
「それならこれから食べる所です。後でマリベルにゲートを開かせますね。」
『行くのは儂とサツキだけだからそれほど気は使わんでも良いぞ。ただ、少し土産を準備してくれると助かる。』
「分かりました。それでは準備が出来たら連絡を下さい。」
(しかし、この二人が一番気を使うんだよな。)
俺は電話を切ると追加分の肉を持って部屋を出た。
さっき持って行っただけでも20㎏はあったはずだがこれと合わせると50㎏は超えそうだ。
そんなに必要なのかと思いながら部屋から出ると納得できる顔ぶれが既に待ち構えていた。
(呼んでないのにもう来たのか。それにしてもアリシアと契約した意味ってあるのかな?)
「水鏡で見ていたわよ。あれだけの大物なら食べるのが大変でしょ。だから手伝いに来てあげたわよ。」
そんな厚かましい事を言うのは先日から我が家に無断で出没するようになったオリジンだ。
しかも今日は4人の精霊王も来ており、椅子に座って待ち構えていた。
そして、その顔は例外なく俺の手に持つ肉に注がれている。
「あの・・・皆さんもですか?」
すると彼女達はランランと輝いた目を向けると無言で頷いた。
オリジンの様に厚かましくはないがやってる事は同じなので言葉に困る場面だ。
しかし、この肉の量からメノウは既に分かっていたのだろう。
俺は下ごしらえをするクリスに追加の肉を渡すと彼らと同じく席に着いた。
「そんなに食べたいですか?」
『『『『『コクリ』』』』』
「なら、誰でも良いのでドワーフを紹介してください。武器を新調したいのですがツテが無いんです。」
するとシュパっと音がしそうな程の勢いでフレアが手を挙げた。
しかし、その目には情熱と共に食欲という名の狂気が垣間見える。
(そんなにメガロドンを食いたいのか。)
「それなら私がドワーフの国で話を通してあげる。断られたら国ごと焼き払えば良い。」
(いや、そんな事されたら逆に恨みをかってしまって武器が作ってもらえなくなるだろ。)
「そこまではしなくて良いですから紹介だけしてください。それで十分です。」
これで俺達がいきなり訪ねても話くらいは聞いてくれそうだ。
ついでなのでメガロドンから手に入れた皮と骨で何か作れないか聞いてみよう。
ちなみに骨にはまだ肉が付いてるので、今は皆で協力して削ぎ落している。
あの肉はミンチにして後でハンバーグだな。
「そうなの?」
「ええ、それではお願いも聞いてもらえたので今日はゆっくり食べて行ってください。」
そして予想外の客も含めた夕飯が始まった。




