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77 メガロドンを釣り上げよう。

釣具屋の店長に話をしてこの店で最も頑丈な釣竿とリールを購入し、そこにワイヤーを巻いてもらう。


「ユウ、言っちゃあなんだがこんなのじゃお前の言ってる魔物は釣れないぞ。それはお前も分ってるだろう。」

「大丈夫だ。これから強化するからな。」


(スピカ頼むぞ。)

『了解です。』

『魔石により竿、リール、糸、針を強化します。』

『成功しました。全ての性能が10倍まで上がります。』

『付与により糸に靭性強化を行います。』

『付与により針に剛性強化を行います。』

『共に成功しました強度が初期値の60倍に強化されました。』

『この道具ではここまでが限界なようです。』


さすが安物のチョイ釣りセットと違い限界まで強化するとかなりの性能まで跳ね上がった。

しかも初期値が違うのでその性能の上り幅も大きい。

それでもあの巨体を釣るとなると心配ではある。

しかし、これ以上の物は望めないので俺はそれを持って外に出た。

そしてそこには先ほど助けたマーメイドが腰を下ろし俺を見上げている。


「本気でやるの?」

「当たり前だろ。あんな怪物がこの遠浅の海に自分から来てくれたんだ。狩らない手は無いだろう。」


俺はマーメイドを抱えると店長に礼を言って空へと飛び上がった。


「アイツ、一体何になったんだ?」


その後ろ姿を見て店長は疑問を零すが答える者は誰もいなかった。


海へ到着後、俺はマーメイドを陸に降ろし道具を準備する。

とは言ってもやる事は少なく後は釣り針をメガロドンに引っ掛けるだけだ。


「それじゃあ行って来る。お前はそこで見ててくれ。」


するとマーメイドは口をモゴモゴさせながら意を決して声を掛けてきた。

あの様な怪物に挑むのでその前に言うべき事は言っておかないと、もうその機会は無いかもしれないと考えたのだろう。


「ヴェリル・・・。私はヴェリルよ!覚えておきなさい!それと・・・さっきは助けてくれて・・・ありがとう。」


どうやらヴェリルと名乗ったマーメイドはお礼を言いたかったようだ。

ただその言葉は小声になってしまったがしっかりと名前は聞く事が出来た。

それに、小声だろうと今の俺にとっては十分な声量がある。


「気にするな。それじゃちょっと釣りを楽しんでくるからな。」


そして俺は海へと向かって陸を蹴ると沖へと向かって行った。

それをヴェリルは心配そうに見詰めているがヤバそうなら逃げて他の手段を考える予定だ。

あんな危険な魔物が海に居ては今後の輸送や漁に影響が出かねないだろう。


そして海上に到着すると竿を手に持ち海面に足を付ける。

更に反対の手に巨大な針を持つと水面を竿で叩いて振動を与えた。

既にマップにはメガロドンの反応があるので何処にいるのかは分かっている。

そして俺の立てる音に気が付いてこちらに真直ぐに接近して来た。


「音に反応するのはサメと一緒か。後は上手く奴の口にこの針を掛けるだけだな。」


ちなみに針に餌など付いていない。

すなわち餌とは自分本人であり、メガロドンが飛び上って来た所で針をその口にかけようというのだ。


「さあ来い。餌はここだぞ。」


そしてメガロドンは先程と同じように下へ潜り込み一気に浮上を始めた。

これは予想通りの行動なので後はタイミングを合わせるだけだ。


「来た!」


そしてその口が海面に達する直前に飛び上り上空へと退避する。

しかし、今回はその場で止まらず、メガロドンの上昇が最高点に達して勢いが止まって所で一気に下降し接近した。


「ここだーーー!」


俺はその叫び声と共に一気にメガロドンの横を通り過ぎるとその口に針を掛けた。

そして水面に到着するとそこに足を着いて竿を立てる。


『水上歩行のレベルが4に上昇しました。』

『水上歩行のレベルが5に上昇しました。』


「よっしゃーー絶対釣って見せるぜ!」


俺は揺れる波に足を取られながらその場で踏ん張り陸へとメガロドンを引いて行く。

しかし、流石20メートルはある巨体だけあってその力は途轍もなく大きい。


「これなら擦違い様に尾鰭に一撃入れとくんだった。」


竿とラインがリールから火花をあげながら引き出されて行きある所で停止した。

俺はその間に移動しながらラインを巻き取って行くがどうやらメガロドンは俺から逃げる気は無さそうだ。

止まったのは再び俺に突進するための距離を稼いだからで張っているラインの先から強い威圧を感じることが出来る。


そして突然ラインが緩み始めたのでどうやら奴はこちらに再び接近を始めたようだ。

俺はラインが緩まない様に今度は後ろに移動し一定以上の張りを糸に持たせて素早く巻いて行く。

しかし、このまま下がれば埋め立て地の壁に激突させる事になる。

そうすればその修繕に大金が掛かってしまうので俺としては避けたいところだ。

その為、俺は方向を変えて河口へと向かって行った。

この周囲は殆ど埋め立て地だが2本ほど大きな川がある。

そこに誘い込めれば勝負も出来るだろう。

問題はこのデカ物が俺の思い通りに動くかどうかだ。


俺はラインの長さを50メートルに保ち挑発を使用してメガロドンを誘導する。


『挑発のレベルが8に上昇しました。』

『挑発のレベルが9に上昇しました。』

『挑発のレベルが10に上昇しました。』


すると伝わってくる威圧が高まり速度が上がる。

更に体を激しく動かし海面付近まで上昇している様で背びれどころかその背中まで見え始めた。


しかし、川が見え始め水深が浅くなり始めると奴の動きが衰え始めた。

やはり長く生きた魔物は知能が高いようで、こちらの誘導に気が付き始めている。

それなら・・・。


(スピカ、このスキルはお前で使用可能か?)

『動かすだけなら可能です。』

(なら制御は任せた上手くデコイとして使え。)

『了解です。』


するとメガロドンの前に影が生まれそれが俺の姿へと変わる。

これはヘザーと出会った町で習得した分身のスキルだ。

実体はなく意思も無いが思い通りに動かすことが出来る。

奴は目の前に現れた俺の姿に再びその速度を上げた。


(まあ、ルアーなどの疑似餌と一緒だな。食べられても痛くも痒くもないので丁度いいスキルだ。)


ちなみに今の速度は時速50㎞/hは出ているだろう。

その為、見えて来た川はあっという間に近づき、もうじき河口に差し掛かる所まで来た。

しかし、ここで一つの誤算が発生した。


「しまった。まだ干潮までには時間があった。」


河口を見ればまだ潮は引ききっておらず、水深が1メートル以上ある。

しかし、ここまで来て予定の変更は出来ない。

この魔物は知能が発達しているようなのでここで逃せばこの近辺から逃げ出す可能性もある。

しかも今こうして存在していると言う事は受肉している魔物である証だ。

今後日本の近海に住みつかれたらどれだけの被害が出るか分かった物じゃない。


そして他に手段がないので俺はこいつを一気に河口まで招き入れた。

その途端、奴の腹は地面に乗り上げ、代わりに俺の分身体が口内へと消えていく。

しかし、俺は更に竿に力を入れると更に上流へと引き摺って行った。

先程まではその巨大な体とヒレの推進力がフルに発揮されていたので力負けしたが今はその巨体の3割程度しか水に浸かっていない。

それに河口付近は1メートル以上水深があるが上流に行けばそれだけ水位は浅くなる。

するとなぜか川の上流にカメラマンが待機しておりそこから俺とメガロドンを撮影していた。


よくよく考えてみればヴェリルを助けた時からかなり大立ち回りをしたので誰かがテレビ局に情報を流したのかもしれない。

沖合にこの様な巨大なサメが居ると分かればそりゃ大スクープだろう。

俺は竿を引くのに忙しいので相手は出来ないが事前に呼んでおいた助っ人が丁度到着したようだ。


「ユウ、待たせたな。話はハルから聞いたぞ。そいつかマーメイドの天敵というのは!この海かは生かしては帰さん!」


来てくれたのはマーメイドのハルを恋人に持つイソさんだ。

時間から言って走って来たのだろうが車より早いとはさすがだな。


「くらえや、このクソザメがーーー。」


彼はハルが絡むと人が変わるがどうやら今回もマーメイドの天敵と言う事で怒りとテンションがマックスのようだ。


俺はその間にも更にメガロドンを上流へと引き上げ水の深さが膝までになった所で竿を投げ捨てた。


(ここまで来れば釣ったと言っても問題は無いだろう。)


それにこれ以上は竿とリールも耐えられそうにない。

俺は短い付き合いになった相棒に礼を告げ竿を刀に持ち替えた。


「イソさん加勢します。」

「おうよ、待っていたぞ。」


そして俺が加勢した時には既にメガロドンの背びれと横びれは切り取られ尾鰭を切り取る瞬間だった。


(あれ?もう俺の出番が殆どないんじゃないか。)


しかし、そんな俺にイソさんから言葉が飛んでくる。


「何をしておる。俺の攻撃が通るのはヒレや付け根の防御の薄い所だ。本体にはたいしてダメージが入らん。お前が首を切り落とすのだ。」


確かに見れば体にも傷はあるがどれも浅く、肉まで届いている傷はない。

どうやら最後に美味しい所が残っていたようだ。


俺は側面に走り込むとその場から飛び上り魔装の刃をその首に振り下ろした。


「ギャアーーーー!」


『斬撃強化のレベルが2に上昇しました。』

『斬撃強化のレベルが3に上昇しました。』

『斬撃強化のレベルが4に上昇しました。』


しかし、俺の刃は首を3分の1ほど切り落とした所で止まってしまう。

過去にレッサードラゴンと戦った事があるがそれに比べると信じられない程の防御力だ。

仕方ないので俺はその場を飛びのき更にもう一度飛び上がった。

そして反対から刀を振り下ろすが今度は最後まで刀は進まず嫌な音を響かせた。


『ピシッ!』


そして手は振り切れたが刀は手元で折れてしまい止めには至らず、メガロドンは最後の抵抗を見せて更に暴れ始めた。


「ユウ、いったん離れるぞ。ここまですれば逃げられる事はあるまい!」

「了解です。」

「なら最後は任せろ。」


すると俺達がメガロドンから離れるのと同時にカメラマンがいた橋から声が上がった。

俺とイソさんはその声の主に視線を向けると予想通りの人物が得物を構えてメガロドンに照準を合わせている。


「アキトか!」

「どうやら一番いい見せ場は持って行かれそうだな。」


アキトは手にいつものライフルではなく肩に担ぐように筒を持っている。

そして、そこから発射されたのは実弾頭ではなく赤い閃光だ。

しかし魔弾ではあるらしいがその速度はいつもに比べて明らかに遅い。

だが、その魔弾は見事にメガロドンの口に入ると口内で大爆発を起こした。


「ああ、俺の魚拓が・・・。」

「諦めろユウ。ああなっては御頭のない鯛も同然。次の時までに装備を整えるしかあるまい。」


確かに今回は俺の刀が折れなければ繋ぎ合わせて魚拓を取る事も可能だった。

これは俺の未熟と準備不足が招いた結果だ。

しかし、アキトよ。

なぜ最後に頭を吹き飛ばしたんだ。


俺は心の中で涙を流しながらアキトに訴えた。


そして予想通り、このメガロドンは死んでも消えず、そのまま死体を晒している。

こういう魔物は素材が取れるが解体をしないといけないので大変だ。

出来る人が居れば良いのだが、こいつの外皮は半端なく硬い。

普通の工具だと歯も立たないだろう。

俺はなるべく残骸も含めてメガロドンを回収し、竿も拾ってアキトのもとに向かった。


「来てくれたんだなアキト。」

「テレビをつけたらお前が映っていたから急いできたのだ。年始まで大人しくしておくんじゃなかったのか?」


どうやらあの橋の上のカメラマンの映像は生放送されていたようだ。

まあ、あんな大立ち回りをしていたうえ、今日は魔物の緊急速報があったので放送されたのだろう。


「仕方ないだろ。釣りをしてたら大物を見つけたんだから。お前こそあんなにしたら魚拓が取れないだろ。」


しかし、俺にとってはそんな事よりも魚拓だ。

アキトが最後に吹き飛ばしたせいでもう魚拓が取れない。


「ははは、それは悪い事をしたな。しかし、俺も一度、映画みたいにサメの頭を吹き飛ばすのが夢だったんだ。まあ、次の時まで魚拓は諦めてくれ。」


確かにアキトの言う事にも一理あるが世界に数えるほどしかいないこの魔物に出会う機会はもう無いかもしれない。

それに手伝ってもらったので文句も言えず今回は俺が我慢する事になった。


(次の時には絶対に魚拓にしてやる。)


「あ、そう言えば一つ忘れていた。」


俺はヴェリルの事を思い出しその場から飛び立った。

そして彼女の前に降り立つと嬉しそうに笑顔を返して来る。


「ユウ!無事だったのね。」

「ああ。それよりもヴェリルに紹介しないといけない人が来てるから急いで向かうぞ。」


俺は彼女を抱えると再び飛び立ちイソさんの前に下りると早速ヴェリルを紹介する。


「イソさん。こいつがメガロドンに追われていたヴェリルです。仲間と逸れたらしいんですけど何か知っていますか?」

「それなら家の近くにみんな集まっておる。もともとハルが仲間を呼び集めたらしくてな。住めそうなら瀬戸内に移住してくるそうだ。それにマーメイドは海では群れで生活するそうだからな。ここの海は1年を通して穏やかだから彼女らも気に入ってくれるだろう。」


それであんなにテンションが高かったのか。

マーメイドのコミュニティーがこの海に出来ればハルも寂しくないだろうからな。

それならヴェリルはイソさんに任せれば大丈夫だろう。


「ヴェリル、このイソさんに付いて行けば仲間と合流できるぞ。」


するとヴェリルは俺とイソさんを交互に見て寂しそうに小さく頷いた。


「ありがとう。おかげで助かったわ。海から泳いでいくから河口まで送ってくれる?」

「ああ、それなら現地まで送って行ってやるよ。」


俺はそう言って再び空に飛び上りイソさんが住んでいる家の方向へと向かう。

あれから言った事は無いが今は複数のマーメイドが居るらしいので見るけるのは難しくないだろう。

するとヴェリルは俺に肩に手を回してしっかり掴みながら耳元で話しかけて来た。


「もう会えないの?」


彼女の声は寂しそうで今にも消えてしまいそうな印象を受ける。

しかし、今回の出会いは偶然によるもので俺としてもマーメイドだから助けたに過ぎない。

その為、返す言葉も少し突き放すものになってしまう。


「そうだな。あの辺りには時々蜂蜜を貰いにいく位だな。海には行かないし今日は釣りで海に来ただけだから会う機会は無いかもしれないな。」

「なら私が会いに行っても良い?」


その言葉でヴェリルに視線を向けると彼女は真剣な顔を向けていた。

しかし、今の状況から彼女が変身のスキルを持っていない事は明白だ。

もし持っていたのならとっくに陸に逃げて難を逃れていただろう。

家から海が近いと言っても距離にして1㎞はある。

この鰭で家に来るには遠すぎるだろう。

それにこの国も魔物についての理解が不足しているのは確かだ。

家に来るまでに人間に殺されてしまう可能性もあるし見た目が美人なマーメイドなので捕らえられる可能性もある。

俺は仕方なく少し進路を変えるとそのまま厳島の山頂に降り立った。

そこにはライラの作ったダンジョンが口を開けており、そこは自衛隊によって今も封鎖されている。

しかし、許可があれば入ることが出来るので問題はないだろう。


「止まれ、ここは一般人の立ち入りは禁止だ。」

「許可ならある。確認をしてくれ。」


俺はダンジョンに入る為に総理から貰っておいた許可証を見せた。

それを見て彼らはカードを機械に通して情報の確認を行う。


「問題ありません。それでそちらの方は魔物ですがどういった関係ですか?」

「テイムしたばかりのマーメイドです。レベル上げにここを少し使わせてもらいます。」

「分かりました。出る時にまた声を掛けてください。」

「分かりました。これは差し入れです。良ければ食べてください。」


俺は笑顔を浮かべて栗カステラを取り出して渡した。

普通は受け取らないかもしれないがこんな所で仕事をしているので少しは潤いが欲しいだろう。


「ああ、どうもありがとうございます。後でみんながいただきます。」


すると彼らも笑顔で俺から栗カステラを受け取るとアイテムボックスに仕舞った。

俺はそれからダンジョンに入り階段を下りて行く。

すると抱えていたヴェリルがやっと話しかけて来た。


「私・・・テイムされてないけど良いの?」

「いいだろ。ところでお前のレベルはいくつなんだ?」


俺はそれによってどこまで下りるか決めなければならない。

高レベルでないのは最初に受けたパンチから分かっているのでそれほど深く潜る必要はないだろう。


「私はまだ5よ。低くて悪かったわね。」

「いや、好都合だ。パーティを組んでレベルを上げるぞ。」

「え、ええユウが良いなら私は良いけど?」

「ああ、ついでだからな。このダンジョンの確認もしておきたかったんだ。しっかり掴まっていろよ。一気に駆け下りるからな。」

「え、ちょっと、待って。きゃーーー!」


俺は全力には程遠い速度で動いているがそれでも彼女にとっては早すぎたようだ。

叫んではいたが俺からのパーティ申請にはしっかりとOKを出してくれた。

これで魔物を倒せば経験値が彼女にも入る。


俺は今、両手にヴェリルを抱えているので剣が使えない。

その為、格闘と鉄拳のスキルを使い蹴りで相手を倒していった。

魔石は後で拾いに戻ればいいだろう。

全て回収できなくても気にするほどの魔石ではないので問題はない。

俺は片っ端から魔物を倒しながら下の階層に降りて行った。


そして10階層まで下りてヴェリルに今のレベルを確認する。


「今何レベルくらいだ?」

「はあ、はあ、い、今レベル9ね。」


どうしたのだろうか?

一度も戦闘には参加させていないのに妙に息が上がっている。

そういえばここまでかなり叫んでいたな。


「そんなに疲れてどうしたんだ?」


すると彼女は震えながら拳を握り見事な拳を振るってきた。

それが顎にヒットするが不意を突かれたのでそれなりに痛い。


「痛いじゃないか。俺が何をした。」

「アンタが速過ぎんのよ。何度も止まってって言ったのに無視してー。死ぬかと思ったわよ!」


どうも加減して動いたつもりだったがそれでもダメだったようだ。

それとも相手を蹴り殺すのに立体駆動を使ったのが悪かったのだろうか。

そのタイミングで悲鳴のボリュームが上がっていた気がする。


「それならそろそろ変身のスキルで姿を変えてくれないか。そうすればもう少し静かに進めるから。」


しかし、これで小さくなるのはあくまで横と縦の動きだ。

速度はあまり変える気はない。

これを言うとまた五月蠅そうなので言わないでおこう。


「仕方ないわね。あとレベル2つほど上げてくれたらそれで良いからね。良いわね!そうすれば上に戻るわよ!」


そう言って彼女は何度も念を押して猫の姿へと形を変えた。

出来れば蛇とかにして欲しいが贅沢は言えないだろう。


俺は猫になったヴェリルを懐に入れると再び走り出した。


「ニャッ、ニャニャーーーー!」


そして猫になっても叫び声を上げながら二階層ほど下りて引き返した。

帰りに目についた魔石を拾いながらだったので少し時間が掛かったがダンジョンを出た頃には空は赤くなり始めていた。


「お、終わったわ!」


そして彼女は疲れ果てているがその足はしっかりと人間の物に変わっていた。

ちなみにズボンは俺のジーパンを履かせている。

外には自衛隊の男性もいるので裸同然の姿で歩かせるわけにもいかないだろう。

そんな事をすれば俺の変な噂が彼らの間に蔓延するかもしれない。

俺達は外に出ると先ほどと同じ自衛官に声を掛けた。


「今戻りました。」

「ああ、お帰りなさい。本当に人と変わらない姿になるのですね。」

「俺も最初は驚いたけどあちらの世界ではかなり普通の事らしいですよ。あなた方もテイムに成功したら試してみてはどうですか。」

「ハハハ、許可が出たら考えておきます。それでは、今日はもう出られると言う事でいいですか?」

「そうですね。今日はそうします。ありがとうございました。」

「いえ、魔物を狩ってもらって助かりました。また良ければ来てください。」


俺達は軽く挨拶を交わすとそこから歩き去って行った。

ヴェリルはまだ歩きなれないようで俺の手に捕まって少しずつ進んでいる。


(まあ、慣れるまで少し時間が掛かるかな。)


そして俺は再び彼女を抱えると仲間の元へと飛んで行った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後でみんながいただきます。 →後で、皆で戴きます。
[一言] この海かは生かしては帰さん! →この海からは生かして帰さん!
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