74 プレゼント
俺が中に戻ると更に参加者が増えていた。
アキト以外の自衛隊組に精霊王たち。
イソさんやハルにオリジンも加わっている。
どうやらアキトはまだソファーでダウンしているようだ。
(まあ、オリジンが少し特殊だから呼べてもこれくらいか。)
すると我が家のベルが鳴り出てみるとそこにはユズキさんとケーキ屋メンバーが立っていた。
(誰だよ。このカオスなパーティーにこの人たちを呼んだのは。)
すると後ろから声を掛ける者が現れ、その瞬間に犯人が誰なのかを理解する。
「メリークリスマース!」
「「「「「メリークリスマース!」」」」」
「呼んでくれてありがとうね。オリジンちゃん。」
(やはりお前かオリジン。)
(良いじゃないのよ。これくらい。甘味は多いほどいいでしょ。)
(それはお前だけだ。この人たちは一般人だぞ。)
(良いでしょ一般人代表で。あんまりうるさいと富士山噴火させるわよ。)
(・・・・・)
(よろしい。)
俺とオリジンは激しい心のやり取りを行い、その結果は見事に俺の惨敗で終わることになった。
しかし、富士山の噴火は反則だろう。
そしてユズキさんは中に入ると売れ残りの大量のケーキを並べた。
それに真っ先に飛び付いたのはオリジンだがその後ろからも他の子供たちが続いて行く。
見てると子供と自称大人の区別がつかないがこれは心の声にすらしないでおこう。
その後ユズキさん達は他の参加者の人たちと挨拶を交わし和やかにパーティーに参加していった。
あまりにも自然なので少し話しかけてみる事にする。
「ユズキさん達はあの人知ってますか?」
「え、近所のお爺さんじゃないの?」
どうやら彼らは総理の事を知らないようだ。
まあ、ケーキ屋やパン屋は朝が早く夜も遅いらしいので仕方ないだろう。
俺自身もテレビを見ながらケーキを作る店は聞いた事が無い。
なのでテレビを見なければ知る事も出来ない。
そう考えるとケーキ屋とは過酷な職場なのかもしれないな。
そして俺はその場を離れると家のみんなの下へと向かった。
彼女達は今日まで頑張って料理を作ってくれたので後はクリスに任せて大丈夫なようだ。
クリスの仕事も空いたお皿を回収し、新しい料理の乗ったお皿を取り出すだけなので簡単な仕事だ。
綺麗にするのは後でも出来るので彼女も休み休み給仕をしている。
そして俺は丁度全員が揃ったところでプレゼントを渡す事にした。
俺はまず黄色いマフラーを取り出してホロの前に立った。
この中では家族の様なものなので一番近しい存在だ。
「ホロ、メリークリスマス。これからもよろしくな。」
「ありがとう。これ新しい首輪?」
そういえばホロにマフラーをあげたのは初めてだったな。
知らなくても当然か。
「これはこうして使うんだよ。」
俺はホロのマフラーを手に取るとその首に巻いてあげた。
するとマフラーに手を添え嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる。
「あったか~い。それにユウの匂いがする~。」
「まあ、手作りだからな。」
「大事にするね。」
「ああ。」
ホロはそう言ってマフラーに顔を埋めるとニオイを嗅いで満足そうな表情を浮かべる。
そして俺は次にライラに顔を向けた。
彼女は緊張しているのか体に力が入っている。
もしかしてプレゼントを貰った事が無いのだろうか?
俺は白いマフラーを取り出すとライラに手渡した。
「メリークリスマス、ライラには出会ってからよく助けられてるな。今の俺があるのもお前のおかげだ。あまり恋人らしい事はしてやれてないけど今度旅行にでも行こうな。」
「ありがとうユウ。そんなに気にしなくても良いのよ。あなたはいつも私を守ってくれているし傍に居てくれるわ。私はそれだけでも嬉しくて幸せよ。」
そう言って彼女はマフラーのリボンを外すとそれを俺に差し出して来る。
どうやら俺に巻いて欲しい様でマフラーを受け取るとそれをそっと首に巻き落ちない様に肩に掛ける。
「ありがとうユウ。初めての恋人からの初めてのプレゼントだから嬉しいわ。」
ライラはマフラーに手を添えると笑顔で頬を赤く染める。
次に俺はアリシアの前に立ち緑のマフラーを取り出した。
「アリシアは庭と畑のお世話をご苦労様。これからも一緒に居られる様に俺も頑張るからな。」
「ふふ、それはこちらのセリフです。私もアナタの傍に居られる様に頑張りますね。」
そして俺はアリシアにもマフラーを巻いてあげる。
彼女は嬉しそうにそれを受け入れ笑顔を浮かべた。
次に俺はアヤネの前に立ちオレンジのマフラーを取り出した。
そして、彼女には最初からマフラーを巻いてやりながら話しかける。
「アヤネはこれからどうしたいんだ?」
するとアヤネは視線を彷徨わせながら周りを見回した。
その視線を受けたライラ達は頷きを返し無言で応援をしている。
「私は・・・。私はユウさんが好きです。だから私もずっとここに居たいです。」
アヤネは不安を消し去り強い意志の籠った顔で見詰めてくる。
それに対して俺は小さく溜息を吐きだし苦笑を浮かべた。
「結婚式は出来ても婚姻届けは出せないかもしれないぞ。」
「それでも構いません。法律よりもあなたの傍に居る方が大切です。」
実際この家の中で彼女だけが普通の人間で、いつでも出て行く事が出来た。
今まではなし崩し的にここに住んでいたが、それ故に彼女が後ろめたさによる悩みを抱えている事にも気付いている。
しかし、彼女の意思がここで固まり、それを俺が許せばこの家に住む正当な理由になる。
そしてアヤネの悩みは今日この時を持って解消される事となった。
「それならこれからもよろしく頼む。2ヶ月くらい一緒に暮らしててもう家族みたいな感覚だから、実のところ居なくなられると俺が寂しかったんだ。だからそう言ってくれると俺も嬉しいよ。」
するとアヤネは俺い飛び付いて強く抱き締めて来る。
その顔は嬉しそうに綻び目には嬉し涙が浮かんでいるた。
(これでアヤネもここにいる理由が出来たから少しは住みやすくなったかな。)
しばらくしてアヤネは離れていきライラとアリシアはそれを迎え入れた。
どうやら皆ともこれから仲良くやっていけそうだ。
そして次に行くのはメノウの所だ。
彼女には色々世話になっているので何か気の利いた労いの言葉を掛けた方が良いだろうか。
そう思い視線を向けると彼女は翼を広げ何かを期待する様に耳と一緒にチョコチョコ動かしている。
その顔には満面の笑みが浮かび目はアヤネに向いていた。
(あざといなコイツ。こうあからさまだとスルーしたくなるから不思議だ。)
するとメノウの羽と耳がピタリと止まり今度は上目使いで見上げて来る。
(こういう計算高い所さえなければもう少し可愛げがあるんだが・・・。)
俺は仕方なくミルク色のマフラーを手に取ると彼女の首にそっと巻いて蝶々結びにしていく。
「揶揄うのはこれ位にしてお前はどうせ俺から離れられないだろ。だから今はこれ位な。」
「そんな事言って、私が飛んで行くかもしれませんよ。」
そう言ったメノウは先ほどまでと違い真面目な顔になっている。
俺はそれを見て軽く笑うと蝶々結びを止めて片方を伸ばした玉結びに結び直す。
「それなら見失わない内に追い掛けて連れ戻すさ。それにこれなら簡単に逃げられないだろう。」
「フフ!そんなに私を独占したいのなら、今はそういう事にしておきます。」
そしてメノウは表情を崩しいつもの笑顔へと戻る。
俺はそれを確認し彼女の頭を少し撫でるとヘザーの所へと向かい赤いマフラーを取り出した。
「ヘザーはバンパイアだから赤一択な。」
「なんだか私の時だけ軽くない?」
「そりゃ、会って間もないからな。そこは一緒に過ごした時間の差って事だ。」
するとヘザーはブスッと不機嫌な顔になるとソッポを向いてしまった。
「こんなに良い女が擦り寄って来てるのにホント鈍感ね。」
「良い女なのには違いないがそれを言うと皆そうだろ。どうせこの家に住みつくなら時間は沢山ある。それに恋人のイベントは他にもあるからな。焦らずのんびりやってくれ。」
俺はそう言いながらヘザーにマフラーを巻いていく。
するとヘザーは溜息をこぼしてこちらに向くと少しだけ顔を綻ばせた。
「仕方ないわね。今回は我慢するけど次回は覚悟しておきなさい。」
(何を覚悟すれば良いのか分からんが期待せずに待っておくとしよう。)
「お手柔らかにな。俺が周囲から嫉妬の視線で刺殺されない程度に頼む。」
「フフ、それは無理じゃないかしら。まあ、考慮だけしてあげるわ。」
ヘザーは今までの人生で色々と押さえて生活していたので感情の起伏が大きい。
恐らくは今まで抑えていたのでそれが爆発しているのだろうが怒ったり笑ったりとても楽しそうだ。
だから俺が死ぬまではこの家が彼女の安住の地であるように頑張ろうと思っている。
そして俺は次にクリスの前に立つ。
彼女にもマフラーは作ったがこれは完全に義理だ。
仲間外れは悪いだろうと思い作ったのでこれは普通に手渡しで終わらせる。
「クリスも仕事頑張ってるからな。もうしばらくは寒いだろうから気楽に使ってくれ。」
「私にまでありがとうございます。大事に使わせていただきます。」
(これでここは良いだろう。あと二人は・・・。)
俺がジェネミーとマリベルを探していると横に僅かに気配の様なものを感じることが出来た。
そしてそちらに向くとオリジンが俺の傍に来ている事に気付く。
しかし彼女の気配を僅かでも感じられたのは初めての事だった。
『魔素感知のレベルが6に上昇しました。』
『魔素感知のレベルが7に上昇しました。』
『魔素感知のレベルが8に上昇しました。』
『魔素感知のレベルが9に上昇しました。』
『魔素感知のレベルが10に上昇しました。』
『看破のレベルが9に上昇しました。』
『看破のレベルが10に上昇しました。』
『看破が探知に進化しました』
その瞬間、俺のマップにもオリジンの光点が浮かび彼女を認識できるようになった。
どうやらサツキさんとの訓練も無駄ではなかった様だ。
するとオリジンは俺の傍に来て、その手を差し出して来る。
「義理でも貰っておいてあげるわ。」
「何とも、あげがいのない言葉だな。しかも事実だから言葉も無いが。」
俺は黒いマフラーを取り出すとオリジンに差し出した。
しかし、途端に彼女は手を引いて代わりに「ん」と首元を上げる。
どうやら巻けと言う事らしい。
(締め上げてやろうか。)
「そのマフラーじゃ無理だと思うわよ。」
このマフラーはゴム編みなのでよく伸びる。
彼女の言う様にこれで締め上げるのは無理があるだろう。
「仕方ないな。」
俺は結局オリジンへ普通にマフラーを巻く事にした。
「少し大きかったか?」
「大丈夫よ。後で調整しておくから。」
「それは便利だな。」
「そうね。それとありがとう。義理でも嬉しいわ。」
そう言って笑って離れていくオリジンを見て俺は自然と笑みがこぼれる。
ああやって最初から素直ならもっと渡し易いんだけどな。
その後精霊王たちにも渡し、残りの二人を探す。
すると二人はキッチンの方で静かにお菓子を食べているのを発見した。
「どうしたんだこんな所で。」
皆の所に行けばいいのにと思い声を掛けるとジェネミーが苦笑を浮かべた。
「普通の人もいるでしょ。だからここで少し静かにしてたの。料理は何処で食べても味は一緒でしょ。」
彼女はこう見えて気配り上手なので気を利かせた様だ。
だが、料理の味は一緒でも食べる場所によって感じ方は異なる。
それは俺が一番よく知っている事だ。
なので彼女には気にする事無く好きな所で食べてもらう事にした。
「あの人たちは気にしないでも良いから一緒に表に行こう。と、その前に・・・。」
俺はマフラーを取り出してジェネミーとマリベルの二人に巻いてあげる。
そして二人を抱えるとキッチンから出てみんなの下に向かった。
「今日はクリスマス・イブ。こちらの世界にはこの日に『心良い』精霊が訪れる話もある。二人ともイイ子だから問題ないだろ。」
「当然よ。私ほど働き者の精霊はそういないわよ。」
「私も何時も良い子にしてきました。」
「なら大丈夫だ。」
そして彼女達をユズキさん達の前に連れてって紹介する事にした。
彼らだけが精霊を知らないのでここさえクリアすれば問題はない。
「楽しんでいますか。」
「ええ、楽しんでいるわよ。」
そう言ってユズキさんを含め5人がこちらに顔を向ける。
するとその視線は揃ってジェネミーに吸い寄せられた。
そして固まること数秒後、彼らは歓声を上げた。
「見てこの子、本物の妖精よ。」
「うおーー俺は今!猛烈に感動しているーーー!」
「これは貴重な体験ですね。この感動を生かして何かを作りましょうか。」
「そうね・・・すぐに出来るとすればケーキへのデコレーションかしら。」
「飴細工も出来るかも。」
「ユウ君、キッチンを借りるわよ。」
そして5人は楽しそうに走り去っていった。
その後、彼らはホールケーキをヘラで慣らしそこにジェネミーの絵をチョコレートで描いて更にデコレーションをやり直してしまった。
その横には金色の飴細工が彩りとても可愛らしい。
「やっぱり実物を見るとイメージが湧いて来るわね~。」
まあ、彼らはユズキさんが若返っても少し驚くくらいだったのでこんな事だろうと思ってはいた。
逆にあまりの行動力にジェネミーの方が驚いているようだ。
これなら問題ないだろうと彼女を離すとケーキの上で滞空しそれを嬉しそうに見つめている。
これでみんなが楽しめるだろうと思い俺も他の場所へと移動して行った。




