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71 プレゼントを準備しよう ②

俺がハニービーがいる場所に下りるとそこには以前見たのと同じ巣が3個に増えていた。

そしてその横では果物と書かれた箱をアイテムボックスから取り出すカキネさんを見つける事が出来た。

彼はスキルを得た事でそれをしっかり活用出来ているようだ。

俺はそれを見て仕事はしているが話す時間はありそうだと思い声を掛ける事にした。


「久しぶりです、カキネさん。」

「ん?ああ、ユウ君かい。以前渡した試作の蜂蜜はどうだったかな?」

「それがあまりに美味しかったらしく奪われてしまって。ははは。」

「君が奪われる!?それは驚いたよ。やっぱり世界は広いね。それでもしかして代わりの催促に来たと言う事かな?」


俺は図星を突かれてバツの悪い顔で頭を掻いた。

彼の蜂蜜は今や日本のセレブの間でも大人気な商品だ。

相場の10倍だろうと手に入れたがる程などで、もしここの蜂蜜が魔物でなければ蜂ごと盗まれている事だろう。


「すみません。実はその通りです。無理なら諦めますが。」

「そうだね。少し待っていてくれるかい。ちょっと聞いてみるよ。」


そう言って彼は巣の一つに近づいて声を掛けた。

しかし、以前は人の言葉では無かったのに日本語で呼びかけているようだ。


美姫ミキお客さんだよ。以前お世話になったユウ君だ。」

「少し待ってて。」


(ん?今の声は・・・。俺は魔物の言葉が分かる程言語スキルを上げてたかな?)


「お待たせ。久しぶりですねユウ。」


そして現れたのは身長160センチほどの少女だ。

ぱっちりと空いた目に細めの顔立ちで可愛らしいが一番の特徴はその肌の艶とその髪だろうか。

肌は俺の目でも分からない位に肌理が細かく太陽に当たり輝いている。

髪は右が黄色で残り半分が黒という奇抜なセンスの持ち主だ。

その為、俺はつい突っ込みを入れてしまった。


「ブ〇ックジャッ〇か。」

「クイーン・ハニービーのミキです。変身スキルで人の姿になれる様になったのですよ。」


しかし、速攻でカキネさんからも突っ込みを入れられてしまった。

どうやらあの奇抜なヘアースタイルは蜂だからと言う事か。


「それで冗談はこのくらいにしてユウ君が君の蜂蜜が欲しいらしいんだけど大丈夫かな?」

「大丈夫よ。でも今は材料が無いから買いに行かないと。」

「そうだね。それじゃあ出かけようか。双葉フタバ、少し出掛けて来るからここは任せたよ。」


すると森から身長100センチほどの女の子が現れた。

その子は幼いのに鋭い目をしており髪は茶色。

そして目は片目が赤で片目が青のヘテロクロミアだ。


「ここは中二病の巣窟か?」

「この子はオルトロスのフタバですよ。そろそろ突っ込むのも疲れたのでやめませんか。」

「ああ、すみません。あまりの事につい。」


するとカキネさんは溜息をこぼすとフタバに振り向いた。


「任せても大丈夫だよね。」

「任せなさい。私の縄張りに侵入する者は許さないんから。」


するとカキネさんは苦笑し心配そうな表情を浮かべた。


「人は殺しちゃダメだからね。」

「分かってるわよ。以前のは相手が抵抗したからやり過ぎただけよ。」


すると今度はカキネさんの言葉にフタバはソッポを向いて口を尖らせた。

どうやらフタバは俺の思惑通りにしっかり番犬をしてくれているようだが既に何かやらかしたようだ。

しかし、やり過ぎたと言っているが何処までやらかしたのだろうか。

問題にはなっていない様なので大丈夫と信じたい。

もしここが潰れる様な事になればオリジンが何をしでかすか想像もできないからだ。

そして俺の心配を他所にカキネさんはフタバに歩み寄るとその頭を優しく撫でた。


「フタバは賢いから大丈夫だと思うけど任せたからね。」

「ええ、私は賢いから大丈夫よ。だから夕飯は奮発するのよ。今日はお肉が良いわ。」

「ははは、分かったよ。キメラの肉でいいかい?」

「え、キメラ出してくれるの!・・・ゴホン。分かってるようね。それで許してあげるわ。」


(何だろうか、このツンデレ少女は。まあ、テイムした時から強気な性格ではあったがこんなになっているとは思わなかった。)


俺達はフタバを護衛に残し、近くの青果店へと向かう。

するとそこには一人の男が待ち構えていた。


「ようミキちゃん、また来たな。今日こそは俺が勝たせてもらう。」


そう言って彼は果物が入った数種類の箱を取り出した。

その中には見た目が同じ果物が幾つも入っていて何がどう違うのか俺には全く分からない。


「さあ、この中から一番良い物はどれか当ててみろ。分かれば今日も半額でくれてやる。」

「ふふ、そんな事言っても良いのかしら。あなたにまた黒星が付くだけよ。」


男は冬だというのにとても暑苦しくて熱血漢だが、ミキは反対に冷静で冬の女王の様だ。

しかもまたと言う事はいつも負けているのだろう。

これでこの店はつぶれないのだろうか。

すると横にいたカキネさんが突然起こった勝負事の説明をしてくれた。


「彼女が来た時は勝負で半額になりますが普段買う時は普通の値段で購入しています。それに最近は巣の数が増えたので大量に購入していて損はさせていません。今では遊びの様な物ですから気にしないでください。」


どうやら心配はなさそうだ。

それに二人とも楽しそうなので関係も良好なのだろう。

そしてミキは各箱を回り箱一つに突き一つの果実を取り出した。

ミキはそれを渡すと糖度計で確認していく。

すると彼は膝を折ってその場に倒れ込むと勝敗を告げた。


「またも俺の負けか。どうなってるんだ。なんで糖度の違いが目で見て分かるんだ。」

「ふふ、それは企業ヒ・ミ・ツ。また来るからその時が楽しみね。」

「くそー、俺はくじけないぞ。勝負に勝って約束通りお前と結婚するからなー。」


「おい、何が遊びだ!マジでガチの勝負じゃないか!良いのかカキネさん?」

「ははは、ミキは負けませんよ。彼にもいつか春が来ると良いですね。」


そう言って笑っているが彼は知っているのだろうか?

今の世界で思いとは大きな力になる。

もしかしたら本当に勝つ日が来るかもしれない。


「それよりも彼はミキの正体を知っているんですか?」

「当然知っていますよ。彼はミキが変身できなかった時からの付き合いですからね。時々ミキの為に魔物を狩ってくれていますよ。」


そうか、レベル上げにも余念なしか。

彼の夢が実る日も近いかもしれないな。

まあ、ミキが結婚しても他の蜂たちがいれば問題は無いだろう。

男としては彼にエールを送っておこう。


(頑張れよ。)

「それじゃあ、今日も貰って行くわね。早くもっと良い男になりなさい。」

(どうやらミキも満更ではなさそうだ。彼の恋が実る日も近い。)

「それじゃあ、帰りましょうか。蜂蜜はすぐに渡せますから。」


そして俺達は再び巣の前に帰って来た。

するとそこにはオルトロスの姿に戻ったフタバが寝転がっている。


「ただいまフタバ。ご苦労様だったね。」

「ガウ!」


フタバは起き上がると一声鳴いてこちらに二つの顔を向ける。

そしてその目を見れば片方の首の目が赤で、片方は青だった。

それで人の姿になるとこの目の色が片方ずつ現れる訳か。

以前見た時は夜だったので気付かなかったが別に好きで中二病の様な目にしていた訳ではなさそうだ。


そしてミキは果物を持って巣の中へと入っていった。

恐らくは巣の中で蜜を作っているのだろう。

そして少しすると彼女は再び現れ手には以前に貰ったのと同じ樽の容器を持っている。


「お待たせしました。これが今回作った蜂蜜です。以前よりも美味しいと思うけどやっぱり果物の旬の時期じゃないから限界があるわね。美味しく出来たらまた知らせるからその時はまた取りに来てください。」

「ありがとう。その時はまたお世話になるよ。」

「しかし、あなたから蜂蜜を奪うなんて誰なの?」


俺はミキからの何気ない質問に少し悩むがその存在を教えておく事にした。

もしかしたら我慢できず自分で取りに現れるかもしれないからだ。


「相手は精霊王のさらに上、精霊の母オリジンって女の子だ。もし来たら蜂蜜を譲ってあげて。めっちゃ強いから逆らっても勝てないと思う。」

「そんな方が居るのですね。お教えいただきありがとうございます。心に止めておく事にしますね。」


そして俺はカキネさんとミキと少しだけ話をして家に向かって飛び上った。

それを下で見ていた二人は。


「カキネ、人も飛べたのですね。」

「私も初めて知りました。人の可能性とは凄いモノですね。」


そう言って上を見上げ驚きの表情を浮かべている。

そんな事とは知らずユウは家に到着すると居間に向かった。

どうやら集まりは解散したようで皆それぞれ好きな場所に散っているようだ。


「ただいま~。」

「あ、お帰りなさい。」


俺が入るとソファーでテレビを見ていたアヤネが声を掛けてくれる。

そしてどうやら今見ているテレビの内容はポーションについてのようだ。

現在は使用希望者を募っているようだが集まりはあまり良くないと告げている。

どうも医者同士が手を組み、患者に脅しをかけているようだ。

患者としても今後の事を持ちだされて脅されたら手を引かざるを得ないだろう。

それにしても、医者は何もない時は派閥で争い、何かがあれば結託して我が身を守ろうとする。

患者の命よりも利権が大事なのだろうか。

まあ、今の様な行動を取っている時点でそうなのだろう。

それに彼らもレベルを上げれば人を救う事の出来るスキルを取ることが出来るだろうに。

するとテレビを見ていたアヤネが「そう言えば」と声を漏らした。


「町の眼科さんが先月から魔法を導入したってチラシが入ってましたね。手術もしないで治るので安くて速いと有名らしいです。白内障や緑内障まで簡単に直して失明した人も時間を掛ければ視力が回復して来てるそうですよ。凄いですよね。」


確かに院内での利権が関係ない地方病院は既に魔法を導入し始めている。

しかし、国が欲しいのは確実に検査が可能な大病院や大学病院での試験結果なのだろう。

だが、そういう所に限って派閥や利権が蔓延している。

ポーションを試験するにはもっとからめ手からのアクションが必要なのかもしれない。


「そうだな。でもそうなると俺達はもう病院に掛かる必要が無さそうだ。」

「そう言えばそうですね。ライラさんも居ますアリシアさんのポーションもありますから。ここにいると少し前の事が嘘みたいです。」


俺達はそう言って他愛無い会話で笑い合い、偶然の確率で手に入れた平和を心の底から喜んだ。

そしてその日の夜になり食事を取っていると家にアキトが訪ねて来た。


「珍しいな。どうしたんだ?」

「実は相談したい事があってな。」


そう言ってアキトは頭を抱えて言葉を零した。

どうやらかなりの厄介ごとの様だ。

これはクリスマスどころじゃないかもしれないな。

そんな事を心配しているとアキトは厄介ごとの内容を話し始めた。


「実は日本に帰ってからすぐにアスカが俺達の所に住み着いてな。」

「は?」


俺は余程の事だろうと警戒レベルを最大の5に設定して聞いていたが、そのレベルが急降下していく音を確かに聞いた。

どうやらアキトの持って来た悩みは俺の考えている事とは大きく違っているようだ。

それならここは助手のヘザーさんを呼ぶ必要がありあるだろう。


「ヘザー、すまないが一緒に話を聞いてくれないか?俺では対処できない事かもしれない。」

「しょうがないわねえ。まあ、護衛してくれてるから少しは相談に乗ってあげるわ。さっさと話して楽になりなさい。」


そしてアキトはヘザーの言葉に頷くと素直に話し始めた。

アスカが押しかけて来た事や、それを総理が承認した事。

そして総理からアキトに剣を教えるのはアスカであると言う事など、どう見てもあの狸にハメられている内容だった。

恐らく、総理はこの時の為に外堀を事前に埋めていたのだろう。

話の端々で既に手遅れの様な気がしてくる。


「それで、アスカの様子はどうなんだ?総理に言われて嫌々とか。」

「それがとても真面目で良く働いてくれている。俺は現在カエデと二人で部屋を取っているがカエデも懐いているようだ。一緒に料理をしたり掃除をしてりして笑っている。」


(なんだかシングルファザーの家に押し掛け女房が来た話みたいだな。)

「そういえばアキトとアスカは前に面識があるのか?」


するとアキトは少し昔を思い出しているのか懐かしそうに目を細めて口元に笑みを浮かべた。

まるで良き日の記憶を思い出しているようだ。


「失踪する1年くらい前に何度か会った事がある。彼女はその頃から剣の腕が良くてな。会うたびに剣を交えたものだ。最後は体力差で俺が勝っていたがもし、あの時に異世界へ行かなければ遠くない内に俺は負けていたかもしれないな。」

「・・・ヘザーさんどう思われますか?」


俺は判断を仰ぐためにヘザーに確認を取る。

女心が分からない俺の事なので勘違いの可能性を避けるためだ。

しかし、帰ってきた答えは俺の予想通りのものだった。


「これはもう手遅れね。延命治療も出来そうにないわ。」


するとアキトはヘザーの言葉に首を傾げてしまう。

どうやらアキトはアスカが何故自分の所に来ているのか分かっていないようだ。

そして、当然自分の気持ちにも気付いていない。


「ん?何を言っているんだ?」

「アキト、あなたに聞くけどクリスマスって知ってる?」

「知っているがなんだ?サンタが子供にプレゼントを配る日だろ。」

(それだけじゃないだろ!それ位なら俺でも知ってるぞ。)

「いえ、それ以外には?」


既にヘザーにも呆れに似た気配が漂って来ている。

流石の彼女もそろそろ限界の様だ。


「何かあるのか?」

「「ギルティー!」」

「何が有罪なんだ!?説明をしろ説明をー!」


どうやらアキトはクリスマスの意味を半分しか知らなかった様だ。

あり得ない事も無いが現代の日本においては確実に稀なケースと言える。

その後ヘザーは幾つかの質問を行い確実に地盤を固めて行った。


「それじゃあ、アスカの様子が最近おかしいのね?」

「ああ。妙にソワソワしていてな。よくカレンダーを確認している。カエデにプレゼントでも用意しているのかと思って聞くとそれはそれですとはぐらかされてしまってな。」

「・・・最近、何か作ってなかった?」

「そういえばマフラーを必死に編んでいたな。おそらく総理にでも送るのだろう。来年はセーターにすると意気込んでいたが。」


そこまで聞いて俺は立ち上がった。

そしてアキトの前に立つとその肩に力強く手を乗せる。


「アキト良いか!クリスマスとは男が好きな女に愛を告げる日だ。」

「それがなんだ俺にそんな相手は居ないぞ。」


アキトはキッパリと答え、腕を組んでこちらを真直ぐに見て来る。

どうやらコイツは俺以上に鈍感男の様だ。

異世界召喚物ならよくある話だが、この現代の日本でそれが許されると思うなよ!


『その発言はブーメランでは?』

(それは言ってくれるな・・・。)


俺はスピカの言葉にクリティカルヒットを貰いながらなんとか表情を変えずにアキトに真実を伝える。


「でもその逆もあるんだ。」

「何?」

「女が好きな男に愛の告白をする日でもあるんだよ。」


するとアキトはやっと意味が分かったようだ。

いつもは無駄に鋭いのにどうしてこっち関係はこんなに鈍いのか。

実際に俺も周りからは「お前が言うな」という目で見られているがそれも仕方がない。

ハッキリ言って俺の方も恋人となったライラとアリシアの苦労が見て取れる一面でもある。


「だからな。お前も当日の為にプレゼントを用意しておけ。」

「わ、分かった何か良い物を買っておく。」


そう言って立ち上がろうとしたアキトは体が動かない事に気付いたようだ。

そして俺の手に握力が籠りそれが椅子に張り付けにしている事にも。


「お前は大事な人からその辺で売ってる物を送られて満足なのか?アスカは確実に心の籠ったプレゼントを贈って来るぞ。」

「だが、俺にその手のスキルは習得していない。今からだと間に合わないぞ。」

「なら取れ。すぐ取れ。そしてアスカがマフラーならお前も今からマフラーを編め。俺が教えてやるから大丈夫だ。材料も道具も揃ってる。」


するとアキトは驚愕した顔を向けて来るが俺はその程度では逃しはしない。

人間は本気になればあの程度なら1日で十分だ。

運の良い事にこいつが来たのが明日なら厳しいが後1日ある。

これこそイエス・キリストのお導きだ。

クリスマスに女の涙ほど似合わない物は無い。

そして、アキトは観念するとマフラーを編む事となった。

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