表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/225

70 プレゼントを準備しよう ①

次の日になってマリベルは皆から引っ張りダコになっている。

家の部屋はそれほど広いとは言えず、居候という立場から自主的に私物の購入を制限せざるを得ない状況になっていたからだ。

しかし、それをマリベルの能力が解消してくれる事となったのでこうなるのも仕方がない。

ちなみにそれに参加していないのはメノウと俺くらいだ。

メノウは私物を殆ど部屋に置いていないし、俺は昔から住んでいる部屋なので困ってはいない。

出来ればなるべく早く北海道にもポイントを作りたかったがまた今度でいいだろう。

今は彼女たちの溜まったしまった思いを発散させるのに尽力してもらおう。


するとメノウは片付けを済ませて俺の前に座った。


「そういえばですね。」

「ん?」

「昨日、町を見て回っている時にクリスマスというイベントの準備をしていましたが何かご存知ですか?」

「・・・・」

(完璧に忘れていた。もしかしたらライラ辺りはパソコンを持ってるからネットで既に知っているかもしれない。それに今日の朝食の時に何か言おうか悩んでる気がする。)


俺は背中に冷や汗を掻きながらメノウに問い返した。


「メノウは何か知ってるのかな?」


するとメノウはいつもと雰囲気を変え強く真直ぐな視線を向けて来る。

どうやら既に細かい所まで熟知されている様だ。


「知っていますよ。恋人たちが共に過ごす日の事ですよね。皆さんはユウさんの為に料理をするそうですよ。ユウさんは何かプレゼントを準備していますか?」

(その通りです。よくご存じで。)

「今は褒めていただかなくても結構です。」


するとメノウは俺の心の声にピシャリとノータイムで返して来た。

その顔はいつもと違ってメイドというよりは教師か小姑の様に見える。


「はい・・・。」

「まさか、簡単に買った物で返そうなんて思っていませんよね。今回のクリスマスはユウさんと共に過ごす初めての聖夜になります。来年ならばともかく、今年はしっかり思い出に残る物を準備してください。」

「は、はい。」


それに完全に忘れていたのは俺の責任なので素直に返事を返すしかない。

俺はメノウに背中を押され・・・いや、ケツを蹴り上げられる形で材料を買いに行くために立ち上がった。

今ならこれからすぐに行動すれば間に合わせる事が出来るだろう。


「それじゃあ、買い物に行って来る。皆には内緒だからな。」

「内緒も何も皆さん既に期待して待ています。忘れていたのはユウさんだけです。」


今日のメノウは少し棘があるが忘れていたのも真実なので言い返す事は出来ない。

それに教えてくれなければ当日になって皆をガッカリさせてしまう所だった。


「それじゃ行って来る。」

「行ってらっしゃいませ。」


俺は家を出るとここから20キロ程離れた裁縫店に向かった。

ここなら俺が求める材料が沢山置かれているからだ。


「ライラは白にして・・・、ホロは黄色かな・・・、アリシアは緑にして・・・、アヤネはオレンジにするか。メノウはクリーム色、・・・ヘザーは赤にしておくか。後は黒でいいかな。」


俺はライラ達の糸を予備も含めて9玉買い、その他の糸は人数カケ9玉で購入する。

その他にも目ぼしい色を購入し、黒以外は必要量の倍は購入しておく。

これはもし失敗した時の事とイレギュラーが起きた時を想定しての事だ。

100パーセント羊毛の極太の糸なので一玉で10メートルあるが一人分作るのに80メートルは使わないといけない。


「後はレジで精算してっと。」


俺がレジに毛糸を持って行くと店員のおばちゃんが喜びながら驚くという器用な事をしてくれた。

まあ、さすがに普通これだけ買う人間は珍しいだろう。

するとおばちゃんは笑顔を浮かべながら俺に話しかけて来る。

前に来ていた時もこうやってレジで会計しながら良く話したものだ。


「アンタ、久しぶりに来るけどこんなに買って何するんだい?」


どうやらここに来たのは5年ほど前だがその時は頻繁に通っていたので覚えていてくれたようだ。


「家族?がたくさん増えて贈る人が多くて。クリスマスも近いからこれから死ぬ気で頑張らないといけないんだ。」

「ははは、そうかい。なら頑張りな。良ければまた来ておくれ。昔の様に編み物教室もしてるからね」

「まあ、材料はまた買いに来るかもしれませんね。最近の景気はどうですか?」


ここは昔はと前置きが付いても馴染みの店なので魔物が原因で潰れるのは気分が良くない。

それにここは他に比べ材料が安く、毛糸以外にも革や布など色々な材料が売られている。

なので複数の意味から今後も存続しておいてほしい。

もしかするともう少しして魔物素材が出回り始めると取扱店になるかもしれないからだ。


「まあまあだね。魔物が出る様になって手作りの物をって奴が増えたのか新しい顔もよく見るよ。きっと、後悔しない様に相手に思いを伝えたい娘が増えたんだろうね。そのおかげで売り上げ自体は増えてるよ。」


それならしばらくは大丈夫そうだ。

大きな災害があると結婚する人が増えるというがそれと同じ現象だろう。


「そうですか。まあ、何かあったら連絡をください。これ俺の連絡先です。こんなご時世ですから助け合って行きましょう。」

「そう言ってくれると助かるよ。それじゃありがたく貰っとくね。」


(後で結界石でも設置してもらうか。そうすれば魔物にここが襲われる心配はないだろうからな。)


そして俺は会計を済ませて材料を仕舞い店を出た。

鍵棒は既に持っているのでこれで材料は無事に揃った事になる。

後は俺が本気を出せば良いだけだ。

俺が編み物をしていた時、単純な物なら10時間程、少し手の込んだ物なら15時間程で160センチのマフラーを一本完成させる事が出来ていた。

今ならもっと早く作ることが出来るはずだ。

毛糸だけで20万円以上かかったが仕方ないだろう。


「おっと、細い毛糸も2玉買っておかないとな。さすがにこれは作った事が無いから少し苦労しそうだ。」

俺は忘れ物を思い出して再度店に入ると会計を行った。

おばちゃんには笑われたが、ああやって笑えるならまだここは大丈夫だろう。

そして俺は大量の毛糸を買って家に帰るとメノウに部屋に籠ると伝えた。


「は~、作るのは5年ぶりくらいか。」


俺は鍵棒を二本そろえるとまずはそれに糸を結び作り目を作っていく。


「確か3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3の45列だな。」


俺は45の作り目を作ると表編みを3列、裏編みを3列、それを交互に2回続ける。

今度は表編みを6列、その後また裏編みを3列、表編みを3列、裏編みを3列。

そしてまた表編みを6列作り今度は裏編み3列、表編み3列を2回続ける。

これを順番と編み方を間違えない様に6列続けて表編みをしている所を3列ずつに分けて交差させる。

これをすると伸縮性のあるゴム編みと見た目が整ったマフラーが出来上がる。

俺はこれを五感強化で視覚を強化し、二刀流、瞬動、身体強化、並列思考、高速思考を使って編み上げて行く、

一瞬の油断が命取りの危ない方法だが普通に作っていては間に合わない。


『裁縫を習得しました。』

『裁縫のレベルが2に上昇しました。』

『裁縫のレベルが3に上昇しました。』

『裁縫のレベルが4に上昇しました。』

『裁縫のレベルが5に上昇しました。』


命は掛かっていないがこの極限状態のおかげでスキルを習得出来た様だ。

しかし、今の状態ならこれが限界だろう。

それならスキルポイントを使うまで。


ポイントの無駄使いと笑わば笑え。

彼女達の悲しむ顔に比べればその程度大した事ではない。


(スピカ、裁縫のスキルレベルを10に上げてくれ。)

『了解しました。』


それにより俺の手は更に速さを増していく。

もともとこれに関して言えば俺の脳は既にこの作業をする為の思考回路が出来上がっている。

そのため苦も無く俺はスキルの成長に対して十全とその性能を使いこなすことが出来ていた。

そして俺はこの時初めてスキルを使いこなすという感覚を知った。

動きに対して思考や体が完全にリンクしている。

次の動きが思考を越えて分かり最適な行動を取ることが出来た。


(これがスキルを使いこなすと言う事か。これは凄いな。)


更に出来も良くなり最初から後半になるにつれて目で見て分かる程の違いがある。


「はは、これは俺が使うしかないか。試しに黒で作って良かった。この色なら十分余裕があるからな。それにしても一人分編むのに1時間程か。これなら間に合いそうだ。」


残りの日数は今日を合わせて後3日。

これなら十分に間に合いそうだ。


俺は再び毛糸を手に取り次のマフラーを編み始めた。

悪いとは思うが次はクリスに送るマフラーで試させてもらう。

その後は精霊たちの分から作りライラ達のは一番最後だ。

彼女達には一番出来の良い物を渡したいからな。

そして俺は再び作業に集中していった。


『集中を習得しました。』

『集中のレベルが2に上昇しました。』

『集中のレベルが3に上昇しました。』

『集中のレベルが4に上昇しました。』

『集中のレベルが5に上昇しました。』

『集中のレベルが6に上昇しました。』

『集中のレベルが7に上昇しました。』

『集中のレベルが8に上昇しました。』

『集中のレベルが9に上昇しました。』

『集中のレベルが10に上昇しました。』


俺は集中している為かスピカの声が遠のいて行くのを感じ、いつの間にか自分と手元の事しか気にならなくなっていった。


『スキルポイントを使用し付与を習得しました。』

『スキルポイントを使用し付与のレベルを10に上昇させました。』

『魔石を使用しマフラーを強化しました。』

『スキル付与を使用しマフラーに形状変化を付与します。・・・成功しました。』

『更に魔石を使用しマフラーを強化しました。』

『スキル付与を使用しマフラーに身代わりの護符を付与します。・・・成功しました。』

『更に魔石を使用しマフラーを強化しました。』

『スキル付与を使用しマフラーに隠蔽を付与します。・・・成功しました。』

『付与を終了します』


「よし、出来た。全体的に安定してるし、これでやっと一本目。時間はやっぱり1時間くらいか。それでも明日までには終わりそうだな。」


俺は集中が極限に達していたためスピカが何をしているのか気付かず、この事に気付いたのは少し先の事だ。



ちなみに形状変化はマフラーを別の装備品に変えることが出来る付与だ。

それは使用者が指定し、手拭いやリストバンドにも変化させられる。


そして身代わりの護符は致命的な一撃を身代わりになって回避してくれる付与になる。

しかし、それを回避すると付与は効力を失い装備品は砕け散ってしまう。


そして隠蔽はスキルの隠蔽と同じ効力で彼女たちの姿を隠してくれる。


スピカはそれらをマフラーに付与し、ユウの大事な者を守ろうと考えた。

ユウに言わずに勝手な行動だが彼も魔石の数などいちいち覚えてはいないうえ、使われた魔石も総量からしたら1パーセントにもなってはいない。

恐らくそれをここで知ったとしても共同プレゼントとして笑顔で許しただろう。


そしてユウは夜になるまでに半数の8本を作り上げた。

すると扉が叩かれ外から声が掛けられる。



「ユウ、ご飯よ。」

「分かった。すぐに下りるよ。」


そして俺は一旦作業を中断し一階に下りた。

どうやらスピカがライラに気付いてスキルをオフにしてくれたようだ。

こうして考えるとかなり助けられている気がする。

しかし、スピカは俺の中にいるのでプレゼントを贈る事も出来ない。


(スピカは欲しい物は無いのか?)

『穏やかな風、清浄な水、暖かな光、広大な大地・・・いえ忘れてください。あなたの中もとても心地良い場所です。私は今のままでも十分に満足しています。』


確かにスピカが零した事は今のままでは一つとして叶える事の出来ない物だ。

その為、俺は力なく「そうか」としか返す事が出来なかった。

何故こうして俺の中に居るのかは知らないが、いつかスピカを解放できる日は来るのだろうか。


そして俺は食事を取ると再び部屋に戻った。

そしてマフラーの作成に集中する。

頑張れば今夜中には完成しそうだ。


そして、朝になる頃には全員分のマフラーが完成した。

一番大変だったのはやはりジェネミーのマフラーだろうか。

サイズは小さいのに糸は細くスキルの補助を受けても調整が大変だった。

この一本だけは普通のゴム編みのマフラーにしようかと心が折れそうになった程だ。

恐らく裁縫のスキルを取っていなければ作る事は出来なかっただろう。

俺はこれらをリボンで飾るとアイテムボックスに仕舞っていった。


「は~、これで終了だ。後は当日何人来るかだな。」


そして独り言を零すと疲労を感じてベットに倒れ込んだ。

ホッとした反動からか気が緩み一気に睡魔が押し寄せて来る。

俺は目を閉じると眠気に意識を委ねて眠りに落ちて行った。


次に目が覚めた時は太陽は丁度真上に来る頃だった。

どうやら朝ごはんは食べ過ごしてしまったらしい。

そして皆を探してみれば一階のキッチンに集合しているようだ。

きっとクリスマスの料理に関する事の可能性が高いので今は行かない方が良いだろう。

仕方ないので俺は一っ飛びして蜂蜜でも貰いに行こうと考えた。


「アポは取ってないけど近くまで行けば居場所も分るだろう。忙しそうなら諦めればいいか。」


そして俺は飛び出すと宮島まで向かって行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今は彼女たちの溜まったしまった思いを発散させるのに尽力してもらおう。 ↓ 今は、彼女達の溜まってしまった思いを発散させるのに尽力して貰おう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ