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7 コボルト

ゴブリンの巣を潰した日から数日経過したが、女はいまだに目を覚ます様子はない。

汚れはライラが魔法で綺麗にしてくれるため問題はなく、食事はと聞けば何やら液体のよう物を取り出しそれを口に数滴垂らして飲ませるだけで問題ないと言われた。

面倒が少ないので置いているが早く目を覚ましてほしいものだ。


それに会社からは今も無期限の休みが言い渡されている。

既に辞めるつもりなのでどうでも良いと思っているがもしかして夜逃げの準備でもしているのではと勘ぐってしまう。


そう言えば昨日リョウタが完成した魔法陣を持ってきてくれた。

ライラが確認してもらうと「問題なし」ということなので、早速アヤネに結界石を作ってもらい試験的にリョウタへと渡してテストをしてもらっている。

これで問題が無ければ売り出そうと考えているが、まずはご近所さんや遠くの友達からだ。

俺の友達は金よりも実を取るタイプなので連絡後に送って問題なければ必ず金を送ってくれるだろう。

そんなある意味では馬鹿正直な奴らなので、俺も信頼して付き合うことが出来る。

そう言えば金属回収会社の所にも声を掛けておこう。

あそこは広い地域から金属を回収しているのであそこでも宣伝してもらえば顧客が増えそうだ。


それに結界石を作る作業は単純なので魔法陣さえあれば一日で大量に作ることができる。

そしてできたお金は俺の物ではなく、アヤネの貯金となって自立するための資金になる。

ここでの食費や生活費にも充てられるので無理のない範囲で頑張ってもらおう。

上手く軌道に乗れば居候を終了してここから出ていく日も遠いことではないのかもしれない。


そして、広範囲の結界石はライラが売りそれも彼女の生活資金となる。

今は戸籍等が無いので銀行通帳も作れないが、俺が新しく作った通帳とカードを持たせているので困ってはいない。


それと最近では各地域で自警団が組織され魔物を狩っているらしい。

俺の所にも回覧板でそのことが連絡されてきたのでこの近所にも自警団が組織されている。

最初は苦戦していたようだが今ではレベルも上がったのか問題は無さそうだ。

ただネットやテレビを見ていると意見は色々あるが反対者もそれなりにいる。

しかしそういった者たちは被害を受けたことのない者が大半のようで人をペットのように扱っている。

それでも時間が経つにつれ被害も拡大し次第に反対者の声は収まりを見せている。

動画も大量に投稿され中にはふざけた物もあるが、本気で何かを伝えようとしている物も沢山ある。

そして、スキルなどの効果を記したサイトも多数オープンし情報の共有は無事に行われているようだ。


そんなある日、俺とホロは夜の見回りをしていると新たな敵に遭遇した。

そして俺たちの前には鎧を着て剣を持った二足の獣が牙を剥いてこちらを睨んでいる。

その顔は口が大きく裂け犬歯が並び、顔だけならシェパードが一番近いかもしれない。

ただ首から下を入れると赤ずきんに出てくるオオカミのように凶悪な姿をしている。

分かり易くコボルトとでも名付けておけば良いだろう。


ホロは「仲間?」と考えているようだがそんなことは絶対に無い!

こいつはホロを見てゴミを見る目を向けているのでそんな奴が仲間なはずは微塵も無いのだ!

いや、そんな目を向けた時点で動物愛護団体が何と言おうと敵以外の何者でもない。

俺は即座に威圧を込めた目をそいつに向け怒りと怒りと怒りを込めた瞳で睨み付けた。

最近はある程度意識してスキルの調整ができるようになっているが、今の俺ならスキルが無くても相手を威圧できそうだ。

ただ練習も兼ねて怒りを抑え込み少しずつ効果を上げてどこまで耐えられるかをテストすることにした。


『レベル1』

俺の威圧に気付きコボルトは視線を俺に集中させ身構えた。

それにこちらを真直ぐに睨んでくるのでこの程度では威嚇している程度にしか感じていないようだ。


『レベル2』

何やら呼吸が乱れ始めて落ち着きを失ってきた。

視線は逸らしていないがさっきまで力強く立っていた尻尾が少し下がっている。


『レベル3』

尻尾を股に挟み体が震え出している。

しかし俺はここで、つい先ほどホロに向けていた視線を思い出してしまい抑えていた怒りを爆発させてしまった。


『威圧がレベル5に上昇しました。』


『レベル5』

するとコボルトは俺に降参のポーズを取り腹を見せて地面に仰向けになった。

どうやら魔物によっては戦わずに倒すことが可能な奴も居るみたいだ


(つい怒りから4を飛ばしてしまったがこれからどうしよう・・・。)


俺は悩んだ末にコボルトをテイムして連れ帰ることにした。

コボルトは素直にスキルを受け入れ、俺に服従すると態度を一変させて従順な姿勢を見せる。

それにテイムには相手と意思を通わせる以外にも従属させる効果があるようだ。

テイムした後にその項目を選択できるようになるようだが、コボルトは魔物なので当然従属させる。

ちなみにホロは家族なので常にフリーダムに設定し自由にさせているのは言うまでもない。


そして俺は帰ると玄関にライラとアヤネを呼んでコボルトの紹介を行なった。


「さっきそこでコボルトを拾いました。」


そして捨て犬か猫を拾ってきた感じに言うと二人から呆れられた顔を向けられてしまった。

二人とはこの数日でかなり打ち解けたのでどんな反応をするか楽しみにしていたのだが、まさか呆れられるとは思わなかった。

しかも・・・。


「家には私たちが居るのだから捨ててきなさい。」


ライラは自分のことを棚に上げて捨ててこいとお母さんのようなことを言ってきた。

俺から見ればどちらも似たような者なのに酷い言い様だな。


「でも可哀想ですよ。ほら目がウルウルしています。他の飼い主を探した方が・・・。」


するとそんな優しい声を掛けるのはアヤネの方だ。

しかし、魔物を飼ってくれそうな家ってどんな所だろうな?

魔物が身近に居たライラだって嫌だと言うのに今の日本で誰が受け入れてくれるんだ?

そう思っていると俺はあることを思いついた。

ただしあそこには魔物が入ってこないように結界が張られているのでそれをどうにかしないことには相談もできない。


「ライラ、結界石を無効にして魔物を結界内に入れる手段はあるのか?」

「あるわよ。」


するとライラは鎖を通したタグのようなプレートを取り出してこちらに見せてくれる。

いつもながらに準備が良くてどこかの青いネコ型ロボットみたいだがライラの世界では既に解決された問題なのだろう。

考えてみれば魔物をテイムできるのだから町に入れなければ可哀想だ。

町の外で他の魔物に襲われるかもしれないし、通りすがりの人が間違えて狩ってしまうかもしれない。

なんらかの対処手段があったとしても当然のことだ。

そして、ライラはタグを手にして次に説明を始めた。


「私たちの世界でも魔物をテイムする人はいたからちゃんと対応策が準備してあるわ。だからこのタグを身に付けていれば結界に弾かれずに中へ入れるわよ。」

「家には入れたけどそれはどうなってるんだ?」

「この家の結界石にはユウを登録してあるからその魔物も入れたのよ。でも今のままだと他の所は弾かれてしまうわね。」

「そんな機能まであったのか。」


俺はライラに言われてコボルトが普通にこの家の結界内に入っていることに気が付いた。

気分は完全にペット扱いだったので完璧に魔物という意識が抜け落ちていたのだ。

そしてライラはコボルトを魔法で綺麗にするとタグをコボルトの首に掛けてくれた。

一緒に住みたくはないが嫌いであるとか邪険にするわけではないみたいだ。


「よし、これからあの牧場に連絡して引き取ってもらおう。きっと役に立つはずだ。」

「いい考えね。魔物は食べなくても生きられるから食費はかからないし、良い働き手になるわよ。」


ライラは何やら初めて聞くことを口にして賛成してくれた。

しかし俺は気になってライラが言っていたことを聞き返した。


「もしかして魔物って食べなくても良いのか?」

「ええ、そうよ。魔物は食べなくても大気中のマナを取り込んで生きられるの。食べ物は魔物にとっては嗜好品ってところね。でも低俗な魔物ほど欲望に正直だから被害は絶えないの。だからドラゴンなんて何年も食べずに生活してるくらいなのよ。」


(そうか・・・ドラゴンもいるのか。まだしばらく会いたくないな。)


しかし、それなら餌の心配も無くなって断然頼み易くなった。

俺は早速電話をして確認を取ると一度見せてほしいとのことで明日には牧場に行くことになった。


そして、朝になると皆で車に乗り込み先日ゴブリン退治を行った牧場に来ている。

到着するとゴウダさんとロクが並んで出迎えをしてくれて軽い挨拶を交わした。

しかしロクには以前に増して貫禄が出ている気がするが、コボルトが視線を合わせようとしないことから間違いではないだろう。

明らかに俺たちと別れてからロクは強く成長している。

そして、飼い主と言うか引き取り手となるゴウダさんは縮こまっているコボルトに近寄ると確認をしてきた。


「そいつがコボルトか?犬と言うより狼みたいな顔だな。それで本当に餌はいらないのか?」


するとその問いに答えたのは俺の横にいるライラだ。

俺はコイツと会ったのは昨日の夜だし詳しいことは知らないに等しい。

それに野生の犬や狼は空腹に強く1日や2日ぐらいなら絶食ができる。

だから空腹を我慢しているのか判断が着かないのだ。

なのでここは博識なライラに任せ(丸投げして)、ゴウダさんの疑問に答えてもらうことにした。


「要らないわね。ただ時々はこの牧場の牛の骨でもあげれば十分でしょ。食べた物は魔力に変換するからトイレも必要ないわ。」

「そいつは便利だな。よし!俺の所で引き取ろうじゃないか。」


すると話は意外と簡単に進み俺はゴウダさんにコボルトを任せることができた。

それにテイムは主人と譲渡する相手の間に合意があれば主人を変更することが可能だ。

これでこのコボルトはゴウダさんの従魔となり俺との繋がりも消えてしまった。

だがここの安全を今まで守ってきた先住犬のロクは今も厳しくコボルトを睨んでいる。

そしてその威圧に負けコボルトはとうとう降参のポーズを取るとその場に腹を見せて寝転がった。

やはり魔物だとしても本能には逆らえないようで、ここでの上下関係だ確定したようだ。

少し可哀想だがコボルトはこの牧場で最下層の地位に付くことになるだろう。

まあ、ここでしっかりと働いていればいずれは馴染んで幸せに暮らせそうだ


「おおそうだ。お前が来たことを祝して精肉店で牛の骨を貰ってきたんだ。これを食って仕事に励めよ。」


するとコボルトの顔が一気に明るくなった・・・(ような気がする)。

そして骨を齧ると何故か先ほどまでの態度とは一変してゴウダさんに傅くように膝を地面に突けて頭を垂れた。

どうやらあの骨はそれだけの味を秘めていたようだ。

その証拠にホロもロクも口から涎を垂らしてゴウダさんの前に集まっている。

だが、ゴウダさんがコボルトに与えた骨なので2匹とも手を出そうとはしない。

仕方なくゴウダさんは大きめの骨をロクに与え、ホロには小さめの骨を与えている。


そして、俺たちは問題がないことを確認してコボルトを残して家へと戻っていった。

あそこならアイツも満足した生活が送れるだろう。

犬は美味い飯に走れる野原、それと立派なリーダーがいれば平和に暮らすことができる。

コボルトは犬ではないがあの姿を見ればそれほど違いはなさそうだ。


そして俺たちが家に着くとポストに手紙が入っていた。

どうやらご近所さんからの様で郵便局の判子も切手も無く、直接ポストに入れられたと分かる。


そして開けて中を確認するとそこには新たな魔物の出現と書いてあった。

どうやらコボルトのことが書いてあるようで俺がテイムした奴以外にもいたようだ。

内容としてはゴブリンよりも強い魔物で戦った自警団で数名怪我人が出たらしい。

白魔法を習得している者が既に回復させたようだが気を付けるようにと注意が書いてある。

おそらく危険を感じた自警団が急いで周囲の家に連絡をしてくれたのだろう。

俺たちは早朝から留守だったのでこうして手紙を置いて情報だけでも伝えようとしてくれたようだ。


(しかし、そうなるとこの世界は更に危険になるな。)


最初はゴブリンしかいなかったので余裕だったがそこでコボルトの出現だ。

いまだに魔物と関りを持たないで生活をしている人は多いのに大丈夫だろうか?


『危険感知のレベルが2に上昇しました』

『危険感知のレベルが3に上昇しました』

『危険感知のレベルが4に上昇しました』

『気配察知のレベルが2に上昇しました』

『気配察知のレベルが3に上昇しました』

『気配察知のレベルが4に上昇しました』


そしてその夜、俺たちが寝ている時間に来客が現れた。

しかし、来客と言っても人ではない。

俺は危機感知とスキルアップの声で目を覚まし2階の窓から外を見下ろした。

ただし家にはアヤネが作ってくれた結界石が設置してある。

魔物は入ってこられないが外を確認すると、コボルトが10匹以上で家の周りを嗅ぎまわっていた。

しかもマップにはそれ以上の赤い光点が映し出されていて完全に囲まれている。

もしかすると俺がテイムした仲間のニオイでも追ってここまで来たのかもしれない。

だがこのままだと近所迷惑だし通行人が来ると巻き込んでしまうので仕方なく処分することにした。

魔物とは言え犬・・・、オオカミ顔の生き物を殺すのは抵抗を感じるが慣れるしかない。


俺は木刀を手に静かに外に出ると隠密のスキルも使って慎重に家を囲んでいる壁へと近づいていく。

それに家の中ではライラとアヤネが眠っているが、こんな光景を見せて不安にさせることは無いだろう。


俺はレベル3程度の威圧を放ち門の前にいるコボルトを下がらせると歩道に出てコボルトたちへと殴り掛かった。

最初のコボルトは頭を打ち、その次は喉を突いて一撃で仕留める。

するとコボルトたちは慌て始め「ギャン!ギャン!」と騒ぎ始めそれを聞いた周りのコボルトも集まってくる。

それに煽られるように家の中ではホロも吠え始めてしまい異常に気付いたライラとアヤネまで家から出てきてしまった。


「どうしたの!?」

「何かあったのですか!?」


そして家の周りの光景を見てライラは呆れた顔を、アヤネは怯えた顔を俺に向けた。

これだけ騒げば仕方ないがある意味では好都合だ。

このままでは俺だけがレベルが上がってしまうのでついでにホロとアヤネにも経験値を稼がせよう。


「丁度良かった。経験値を稼ぐチャンスだぞ。」


俺はさっきまでの方針を変更しアヤネに声を掛けるとコボルトたちを殺さないように倒しはじめた。

今の俺の強さなら容易いがゴブリンに比べコボルトは動きが速い。

偶然俺が威圧を持っていて相手を竦ませることができるので敵ではないが装備が揃えられていない自警団では厳しいと思える。

しかし俺とはとても相性のいい魔物でゴブリン並みに容易く倒せる。

そして、結局この家の周囲には30匹ほどのコボルトが居たので俺はレベルが3上がり10になった。

それにアヤネの方も大きくレベルを上げて7まで上がったと喜んでいる。

今回で俺のスキルポイントは残り35になったので再びスキルのレベルアップができるようになった。


しかし、その前に散乱した武器や防具の回収だ。

これだけの数があれば自警団も少しは装備が充実するだろう。

俺は自警団には参加していないがこういうところで協力しているので無理な勧誘を受けないでいる。

剣には刃こぼれ等があるがそこはライラに頼んで修復してもらうとしよう。

彼女は本当に生産系に強くて助かる。


そして俺はスキルポイントを割り振ったが、今回こうしたことがあると知ったので探知系を強化している。


これで探知のレベルが2から10まで上がったので探知の範囲が500メートルまで拡大した。

そして気配察知のレベルを4から10に、危険察知のレベルを4から10に上昇させる。


これで20ポイント使用したので残りは15ポイントだ。

そのため俺は先日から予定していたように空間魔法をレベル10まで一気に上げた。

そのおかげでアイテムボックスの性能が一気に跳ね上がり多めに食料を買い込んでも困る心配は消えた。

賞味期限を気にしなくてよくなるので必要のない分は俺が保管しておこう。


そして再び残りが5ポイントになったので割り振りは終了する。

これで今日のような奇襲の心配や魔物狩りの成果がかなりアップしそうだ。

俺達は全てを終えて家に入ると朝までゆっくり眠りに就いた。

ホロはついでにトイレを済ませていたので朝はゆっくりできそうだ。

しかし朝を迎えた俺は新たな驚きを味わうことになる。

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