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63 防衛都市ガルクニルでの宴会③

想定外の事はあったが俺は無事にオリジンから話を聞ける事になった。

しかし彼女の前にはたくさんのイチゴミルクのジョッキが置かれている。

それにしてもさすがは精霊。

メノウと同じく限界がなさそうだ。

俺がストックしていた大量のイチゴミルクの素が全て持って行かれてしまった。

そして彼女はジョッキを傾けながら話し始める。


(見た目は良いので酒と知らなければとても可愛らしい姿だ。)


「この世界には意思があるの。でも、特別何かするってわけじゃないのよ。いつもは寝ているか面白いモノを見つけて観察するくらい。」


まあ、俺達の世界にはガイア説があるくらいだから世界に意思があってもおかしくは無いだろう。

ファンタジーだしな。


「でもそれと俺のスキルがどう関係するんだ。」

「恐らくあなたは観察対象に選ばれたのね。見てて面白いから。」


と言う事はこいつも密かに俺を観察してたのか。

しかし、特別何もしないんじゃないのか世界の意思よ。

俺の命綱と言えるポーカーフェイスの取得を阻むとはどういう了見だろうか。


「そんなの、そっちの方が面白いからに決まってるでしょ。」


いや~、ぶっちゃけてくれるね~。

まさか愉快犯だとは思わなかった。

しかしそうなるとレベルを上げてスキルを習得するのも無理そうだな。

きっと1000ポイント貯めた時には次は10000ポイントまで上げられそうだ。

まあ、スキルは世界の法則みたいなものと考えれば納得して諦めるしかないか。


「それなら仕方ないか。」

「あら、思いの外あっさりしてるのね。」

「まあな、出来ない物はしょうがない。自分で努力するしかないだろうな。」


すると突然オリジンから哀れみの視線を向けられてしまった。


(あれ、俺ってそんなに顔に出てるのか?そんな哀に思われる程に!?)


「まあ、努力は大事よね。努力は。」

「何で2回言った。」

「べ~つに~。ただ・・・期待はしてるわ。」


そしてオリジンは最後に意味ありげな言葉を残して立ち上がった。

どうやらこれだけ飲んでやっと満足したようだ。


「それじゃ、また会いましょ。」


しかし、この時俺は僅かに攻勢に出る。

このまま逃がしてなるものか。


「次に来る時までにはなるべく蜂蜜の準備はしておくが有料だからな。しっかり金か情報で払えよ。」


俺がそう言うと彼女の動きがピタリと止まる。

恐らく彼女は俺達の国のお金なんて持っていないだろう。

それに俺達ならともかく初対面の彼女がカキネさんからこの蜂蜜を入手するのは難しい。

あそこの蜂蜜は今や手に入れるのが困難な幻の蜂蜜と化しているのだ。

しかもハニービーたちを酷使させない様に数量を限定させている。

数が増えるまでしばらくは厳しいだろう。

彼女も俺を観察しているならこの事は当然知っているはずだ。

奇しくもオリジンも俺を観察していた事の裏付けが取れた。

すると彼女はゆっくりと俺に向いて顔を引き攣らせる。


「私は精霊の母たるオリジンよ。私の正体を知ってる者は喜んで貢ぎ物をする存在よ。」

「だから譲歩してるじゃないか。情報でも良いって。安いだろ。世界中に存在する精霊から俺達に有用な情報を聞いて知らせてくれるくらい。それに、俺の事もアリシアの事もまだ何か隠してるよな?それでも良いんだぞ。」

「そ、それはもう少ししたら自然と教えてあげるわ。だから後払いで良いでしょ。悪い様にはしないから。」


(しかし、そんなにあの蜂蜜が欲しいのだろうか。俺達の国には甘くてもっと美味しいものが沢山ある・・の・だ・が・・・あ!)


「そうなのね!!!なら次に会うのを楽しみにしてるわね。蜂蜜も忘れないのよ。絶対よ。」


そしてオリジンは逃げる様に消えていった。

俺は最後に要らない事を考えてしまった事に頭を抱え次までに何を準備しておくかを考える。


まずは近所のパン屋で菓子パンを全種類買っておくか。

後は綿菓子や餡子、蜜饅頭にクリーム系とかもいいかもしれない。

早めにケーキもホールでまとめ買いしておくか。

まあ最悪、蜂蜜を準備しておけば問題は無いだろう。

後払いと言う事なので出来るだけ高く売りつけてやらないとな。

ローンの使用は計画的にだ。

そして俺の中でスピカの声が聞こえた。


『読心耐性を取得しますかYes/No』

(Yesで。)

『読心耐性を習得しました。』


どうやらピンポイントで欲しいものがあったようだ。

出来ればもっと早く欲しかったが今回は気にしてもしょうがない。

それに耐性は所詮は耐性なので完璧ではない。

オリジンやメノウにどれほど通じるか分からないので無効に進化する事を期待しよう。


そして夜も遅くなって来たので俺達は合流して宿へと向かった。

スタンピードは発生したが町への被害は殆どない。

あるとすればメインストリートの一部が銃弾で破壊されてしまった事だろうか。

しかし、今の世界には魔法があるので簡単に修復できるとの事だった。

家の人たちも今日の良い記念になったと喜んでいたので問題ないだろう。

人的被害が全くなくて良かった。

ちなみに逃げたギルマスはナギルタで魔石を換金している所を逮捕された。

そのギルマスはギルドの方で連行し罰を与えるとの事だ。

話によれば犯罪奴隷よりも軽い罪にはならないらしい。

ちなみに犯罪奴隷は罪を犯した者が奴隷になった時の名称で、お金ではなく刑期で解放される。

酷い者は数千年と言った刑期があり、一生を奴隷として過ごす者も居るそうだ。

ただ、やはり犯罪奴隷にも恩赦があり、功績を挙げれば刑期が短縮されるらしい。


そしてこの町から逃げ出した有力者たちも既にほとんどが王都で逮捕されている。

どうやらトゥルニクスの性格はともかく優秀である事は確かなようだ。

彼らは罰金で罪を償うが財産の50パーセント以上を国に払う事になるそうだ。

今回の討伐報酬はそこから払われるそうでボーナス報酬も出るらしい。

それに国がお金を保証してくれるのでヘザー達も安心だろう。


そして逃げ出した冒険者たちだが、ある者は期限付きでランクを落とされたり除名されたりしたそうだ。

しかも次にスタンピードが起きた時には強制参加らしい。

もしそれを断ったり逃げたりすると犯罪奴隷にされるそうだ。

さらに罰金の支払いなどもあり、多くの者がギルド所有の借金奴隷となったらしい。


まあ、人を見捨て、保身に走ったので仕方ないがかなり厳しい罰ではある。

しかし、冒険者の規約を破りギルドの信頼を貶めたのでギルドとしても甘い顔は出来なかったのだろう。

そして、この町もダウナーが居なくなりヘザーの所の奴隷が活躍したので少しは人々の意識も変わりそうだ。


そして俺達が日本へと向かう朝が訪れる。

町を挙げての宴会と言う事で宿の外には多くの人が横たわっていた。

しかし、ライラの結界が無ければ昨日までは危なくて不可能だったことだ。

こういう光景が見られると言う事はそれだけこの町も安全になったという事だろう。

しかし、俺達が外に出るとそこには予想外の光景が広がっていた。

そこには美しい姿のヘザーと40人の元奴隷の子供と女性が並んでいた。


「ヘザーどうしたんだこんなに連れて。それにその姿は?」

「実はこの子達も私について来たいと言ってね。正体を晒して置いて行こうとしたのだけどダメだったわ。それにそちらの総理とは話が付いてるから大丈夫よ。商館も任せて来たから出発しましょ。ギルドからも金貨で沢山お金をふんだくったしね。」


どうやら彼らはヘザーの正体を知ったうえで付いて来る事を決めた様だ。

しかも総理には既に相談済みなら俺が言うことは無い。

そして急な話だが大量の同行者が出来てしまっている。

トゥルニクスが連れて来た者だけでも20人。

そこに盗賊から助けた3人が加わり更にスフィアたち親子も連れて行かなければならない。

ちなみにスフィアの父親は暗部と同じ扱いになる。

国外追放になるのでスフィアたちも連れていく事になった。

許可は取っていないが嫌なら母子は送り返す事が可能だ。

ちなみに確認すると妻帯者はスフィア一家のみの様なのでこれ以上増える心配はない。


しかしその結果、自衛隊組であるヒムロたちに加え、イソさんに総理まで運転手をする事になった。

車は予備を含めて余裕があったとはいえ予想を上回る大所帯だ。

しかも途中の町では引き抜いたギルド職員も連れて帰らないといけない。

だが、アキトたちはそれを想定していたのか大型バスまで用意していた。

これはまだライラが手を加えていないので次の町に到着した時に改造し、次の日から使う事になる。

これには奴隷組が乗る事になっているが、ヘザーは何故か俺と同じ車に乗り込む事になっており後部座席でみんなとの話に花を咲かせている。

しかも元奴隷の女性たちがエールを送っていたがどういう事だろうか?


そして夜は結界石を設置した町で眠り、昼間の間は移動を続けた。

稀に魔物や盗賊が襲って来るがその全てがアキトの先制攻撃により蜂の巣になり一時停車して死体を処理されて終わっている。

ハッキリ言って盗賊が可哀そうになる程だ。

まあ、この一帯の治安が向上するので良いだろう。

実際に大所帯になったために車の速度は行き程早くない。

馬ならギリギリ追いつけなくもない速度だ。

安全を考えれば先制攻撃で始末しておくに限るだろう。


そして俺達は感動の再会と別れを経てとうとう海岸に到着した。

するとそこには既に海兵のボートが待機しており、俺達は再び空母に迎え入れてくれる。

どうやら大統領は既に国に帰っているらしく不在ではあったが今回は無駄なトラブルはなく日本に到着することが出来た。

しかし総理の雰囲気が行きはただの総理大臣だったのに今はまるで坂本龍馬の様だ。

もしかすると今からの日本を切り開いていく男になるのかもしれない。


俺達は海上で再び自衛隊の船に乗り換えると日本に向かって走り出した。

そして船の向かう先に陸が見えて来たのを確認するとやっと帰って来たという気持ちになった。

やはり故郷の地が一番である。

そして俺達は陸に上がると総理に挨拶に向かう。

彼はこれからここにいる数十人を引き連れ東京に帰るそうだ。

残るのは俺達の他はヘザーとメイドが一人。

暗部の者は後程アキトたちに合流する事になっている。

メイド達はあちらの国から人が訪れた時に備え総理に付いて行くとの事だ。


(あれ?アリシア付きのメイドだったよね。それでいいの?)


そして元奴隷たちだが彼らはこの国の常識を学んだ後にこの国の国民となり仕事に就く事になっている。

彼らはまだスキルポイントを使用していないらしく進む道に合わせてスキルのレベルを上げていく事になっている。

平和な所では料理人から魔道具作成技師まで多くの道があるだろう。

出来ればこれから需要の見込める職に就いて安定した生活を送ってほしい。


そしてスフィア達は総理が手配した病院で経過観察が行われる。

体は完全に回復している為、後は起きるのを待つだけだ。

ちなみにスフィアの腕の注射痕は呪いの影響で消えなかったようで今は綺麗に治っている。

しかし、起きてすぐに見知らぬ場所にいるため混乱が予想される。

見張りなどはしっかり付けてくれるそうだが、父親の方とはまだ話しすらしていない。

彼はアリシアをゴブリンの巣に誘導した実行犯なのでしっかり話をする必要があるだろう。

別に死ぬほど働かせたり家族を人質に取る訳ではないので大丈夫なはずだ。


そしてユーリ、フェリス、リンダの子供たちは一旦東京に向かう。

その後どうするかは本人たちに委ねられる。

彼らはヘザー達のグループに混ぜてもらっていたのでそれなりにレベルを上げていた。

上がったレベルとスキルポイントを使えば生きて行くのに苦労はしないだろう。

だだ、何処で何をして生きて行くかは本人たちの自由だ。


そして引き抜かれたギルド職員たちも当然、総理に付いて行く。

彼らは国が立ち上げる冒険者ギルド(仮)に就職する事が既に決定しているからだ。

仕事の内容は互いに話し合って決めて行くだろう。

全員が言語スキルを上げているので会話も問題はない。

それに彼らのおかげでライラとアリシアの負担が確実に減少される。

総理には足を向けて寝られないな。


そして俺は総理の前に行くと声を掛けた。

今の総理は狸の皮の代わりにスーツを身に纏っている。

あちらの総理しか知らないメンバーはその代わり様に驚いているがメイド達だけは納得した顔をしていた。

もしかすると上に立つ者とは普段は爪も牙も隠しておくものなのかもしれない。


「それでは総理、今回はお世話になりました。」

「気にしなくても良い。儂も収穫の多い旅だった。これであちらの常識と知識を一度に手に入れ、さらに追加で扱き使える・・・ゴホン。追加の人員すら手に入った。まあ、今後は頻繁に会うことは無いだろうが生きていればまた会えるだろう。死なぬよに精進するのだぞ。」

「分かりました。互いの戦場で頑張りましょう。」

「うむ。」


俺達は互いに握手を交わすと背を向けて互いの場所に歩いて行った。

ここは既に俺達の町なので歩いて帰ることが出来る。

しかもここを出発する頃よりもかなりのレベルアップを果たしたので帰るのは簡単だ。

走ってもいいが久しぶりに帰って来たのでのんびり歩いて帰る事にした。


「それじゃ、我が家に帰ろうか。」


「「「「「「「は~い。」」」」」」」


(あれ?一人多くね。1・2・3・4・5・6・・・まあ、いいか。)

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[一言] 死なぬよに精進するのだぞ。 →死なぬ様に精進するのだぞ。
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