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60 スタンピード ③

願いか。

俺が願わなくなったのはいつからだろうか。

何人殺してもこの世界には俺の力の及ばない悪がいると感じた時だろうか。

それとも救いたかった者を救えなかった時だろうか。

俺はいつからこんな合理主義者になったんだ。

最初の頃はこの国を守るためにただ必死だった。

周りに馬鹿にされながらも鍛錬を続け、気が付けば今の場所にいる。


でもそんな事はどうでもいい事か。

俺は今、何に必死になっている。

目の前のこいつを守りたいからか?

それとも役に立つと利用する為か?


「俺は・・・俺はこいつを守りたい。死なせたくない相手がここに居る。その為の力が欲しい。」


俺は心の中での自問自答を止め、心の声を素直に叫んだ。

すると俺の中で、突然の閃きが心を照らした。

それはまるで思い出せなかった事が思い出せたような。

そして閃きのままに必要なスキルを取得していく。


命中率強化、投擲強化、魔力回復、魔力吸収


すると歯車が回り始めた様に要となるスキルがまるで答えが分かっている様に目についた。

そしてそれを習得すると剣を片手に銃を取り出した。

最初はそれを発砲して相手を牽制し剣で切り裂いていく。

すると取得したスキルの命中率強化と投擲強化は魔物を数体倒すだけでレベルが10へと一気に駆け上がった。

その瞬間、俺の中に更なる変化が生まれる。

投擲が進化しスキル『魔弾』へと変化を遂げた。

さらに命中率強化が『必中』へと変わり投擲強化が貫通へと進化を遂げた。

それと同時に成長力促進に改の文字が追加される。

俺はそれを見て成長力促進のレベルを一気に引き上げた。


魔弾とは魔力の弾丸を打ち出すスキルで武器としては打撃に近い。

しかし、貫通のスキルと合わさる事でそれは凶悪なスキルへと変化した。

しかも魔弾のサイズは魔力の込め方で思いのままである。

さらに必中が上乗せされている為、狙った所へと自動修正されて飛んで行く。

そして、アキトは剣を仕舞うと手にサブマシンガンを持ち周囲へと乱射した。

それは狙い違わず魔物の頭に命中しその頭部を大きく破損させる。

まるでハンマーで頭を強打され、砕かれたように破壊された魔物はたった一撃で塵へと帰って行った。。


しかし、魔力を操作し打ち出す為、魔力の減りが早い。

するとアキトの魔力回復が瞬く間に進化し高速魔力回復に変化した。

そして魔力操作のスキルも覚えそれがレベル10へと上昇する。


更に魔物から魔力を吸っていたアキトは魔力吸収から魔力略奪へと進化した。

魔力略奪は攻撃した相手からダメージによって魔力を奪うスキルである。

そのため今のアキトに魔力切れという状態は存在しなくなった。


そして気が付けば彼の周囲から魔物が消え去り立っているのはアキトとカエデだけになっていた。

するとカエデは笑顔を浮かべてその場に倒れ、意識を失ってしまう。

言いたいことは山ほどあったが生きていれば後でいくらでも伝えることが出来る。


そう思いアキトがカエデを抱えると空から声が降って来た。


「やっとスキルが進化したのですね。」

「ああ、しかし、俺には高いハードルだったよ。」


そう言ってアキトはカエデをメノウに任せて背中を向けた。

今もその先ではユウと総理が戦っているのだ。

自分だけが楽をするわけにはいかない。


「そいつの事は任せたぞ。」


そしてアキトは返事も聞かず、自分の戦場へと戻って行った。

それを見送ったメノウは腕の中で気を失っているカエデに目を向ける。


「本当に無茶をします。あのままではあなたは死んで再びデーモンになっていましたよ。私と違い契約で縛られていないのだからもっと命を大事にしてくださいね。」


そしてメノウは翼を広げ空へと飛び立っていった。

見ればその背には、再び5対の翼を取り戻している。

彼女はユウ側の国では唯一確認されている天使なので常に希望という力が人々から送られている。

そのため彼女がデーモンに戻る事があるとすれば世界から希望が失われた時しかない。。

しかしそう簡単に死んだりはしないのだが、あの時2対も翼を失ったのはそれだけ精霊王であるアクアの呪いが強力だったと言う事である。

もし、今の様な状態でなければもっと際どい賭けになっていただろう。


「それにしてもこの子には私と同じように知名度を上げてもらう必要がありそうです。その為にも何処かでチャンスを与えなければ本当に遠くない未来に死んでしまいますね。」


そしてメノウはカエデの背中を確認するとそこには既に翼は片翼しか残されていない。

別に翼で飛んでいる訳ではないが、それは彼女の命ともいえる残りの力の残量を現していた。


(仕方ないですね。今回の手柄はこの子に譲りますか。そうすれば片翼くらいは戻って来るでしょう。)


そして二人の天使は宿泊する宿へと消えていった。




俺達はレベルも上がり既に魔物の勢いを押し返す程に強くなっていた。

特にアキトの遠距離攻撃が凄まじく射線上に立ったとしても弾が避けて敵に命中している。

もし当たったとしても対象でないので弾丸が魔力に返るだけでダメージもない。

まさに安全設計で前衛としては安心して戦える能力を手に入れている。


そして、とうとうこのダンジョンで最も厄介な魔物たちが現れた。

それはハイ・オーガの変異種であるソルジャー、グラップラー、メイジの三種だ。

ヒムロの言葉が確かなら相手の得意なジャンルの攻撃を繰り出すとそれを急激に吸収して強くなるらしい。

その為、戦う時は相手の得意なジャンルを避けて戦えば良いと言っていたが・・・。


「ハハハハハ!弱い弱い!」


だが、俺は横で戦う総理を見て頭を抱えたくなる。

彼は剣を手にソルジャーに切り掛かっていたからだ。

しかし、相手が総理の動きを覚える前に死んでおり、まったく相手になっていない。

どうやら達人級の動きを一瞬で模倣し吸収するのは無理なようだ。


そしてアキトだがこちらも頭を抱えたくなる。

相手の得意な物に銃が無いので模倣しようがない。

しかも進化したスキルが凶悪なので種類に関係なく敵を瞬殺している。


(なんだかあの二人を見ていると俺が普通に思えて来る。)


俺も負けていられないのでまずはソルジャーに攻撃を仕掛けた。

剣に風の魔法を纏わせ間合いの外から攻撃を飛ばす。

するとソルジャーは左手に持つ盾で魔法を防いで素早い動きで間合いを詰めると剣を振り下ろして来た。

先程までのハイ・オーガとは比べ物にならない速度だ。

そして見た目ではソルジャーが振り下ろす剣は普通だが、ハイ・オーガ自体が大きいので近くで見ると大剣と同じに見える。

これ程の大きさの武器と打ち合うのは初めてだが俺の体は難なくその剣を受け止めることが出来た。


(まあ、技術はともかくスキルレベルだけは高いから当然だな。)


そして俺は剣を更に跳ね返すとガラ空きになった懐に縮地で接近し、その胴体を横に切り裂いた。

しかし、オーガは今まで戦った中で生命力が一番強い魔物だ。

そのためこの程度ではすぐには絶命しない。

先程の乱戦でも上半身だけで襲い掛かって来るオーガもいたほどだ。

俺は更に追撃で縦に切り裂きそのオーガを絶命させた。


こうして見るとアキトはその独自性でオーガを倒し、総理は並外れた剣技をもって倒している。

俺はいつの間にかスピードタイプになっているようだ。

そして、俺にはもう一つの武器がある。


俺は確信を持って気配遮断を使い相手の後方へと移動していった。

そこには先ほどから魔法を撃っているメイジの集団がおり戦場をかき乱している。

俺と総理は魔装を纏っているのでダメージこそ無いが視界が遮られるために目くらましとしての機能は果たしていた。

しかもオーガはその持ち前の再生能力と生命力で怯まずに突撃してくるので奇しくも連携が取れている形だ。


(ヘザーにはなぜか気付かれたけど、こいつらにはやっぱり気付かれないな。この機にこいつらをまとめて倒してしまおう。)


俺は剣を構えると素早くオーガメイジの首を切って回った。

しかも後ろから俺に気付いたモノの首を素早く斬り飛ばしているので混乱が広がらない。

前列のメイジは今も派手に魔法を放っているのでなおさらだ。

そして次第に魔法の弾幕が少なくなってきてやっとオーガたちは異常に気が付いた。

しかし、その時には既に遅く、30体以上いたオーガメイジも10に満たない数まで減っていた。

俺はそこでスキルをわざと切り混乱を誘った。


「ガウガウガアーーー!」


そして先頭で魔法を放っていたオーガメイジが何かを言って指示を出している。

俺には理解できないがもしかして言語スキルをさらに上げれば理解できるのだろうか?


『言語のレベルをあげますか?Yes/No』

(Noで。興味はあるが分かっても今は意味が無いから。)


おれは昨夜からなぜか反応するようになった何者かの問いに答えると残りのメイジへと剣を振り下ろした。

もともと魔法に特化したオーガなので身体能力が普通のオーガかそれ以下しかないようだ。

体はデカいが痩せており、筋肉もあまりついていない。

どうも再生能力もそれほど高くなさそうだ。


(もしかして種族的にオーガはメイジに向いていないのか?デメリットの方が大きい気がする。)


オーガは知能が低いが頑強な体を持っている為、ソルジャーやグラップラー向きの魔物なのかもしれないな。

もしメイジに適している魔物をあげるなら、狡猾なゴブリンや理性があるリザードマンなどだろう。

オーガはメイジとしては絶望的に適性が低いということか。


俺がメイジを始末したので魔法による援護射撃が止まり、視界が晴れた事で総理の討伐速度が上がる。

さらに後方からは俺が攻撃する事で混乱を誘い、包囲している形で有利な展開へと誘導していった。

そしてアキトが最後に残ったソルジャーの頭部を破壊し魔石に変えた所でダンジョンから魔物が現れなくなる。


俺達はしばらくメインストリートからダンジョンの入り口を見ていたがもう大丈夫の様だ。

そして防護壁の上から大きな赤い旗が高々と振られる。

これはスタンピードが終わった合図だ。

ダンジョンはスタンピードの時は入り口も大きく拡大するがそれが終わると再び縮小する。

その現象が確認されたのだろう。

それを見て町の至る所から喜びの声が湧き起こり、その声は次第にこちらへと近づいて来る。


(これはきっとお祭り騒ぎになりそうだな。)


そう思い俺はひっそりとライラ達に連絡を入れた。

このままでは人込みに巻き込まれて身動きが出来なくなる。

今はこんな状況だが、暗部を潰したのも昨夜の事だ。

残党が残っていると危険なので分散した状態で人込みに巻き込まれるのは回避しておきたい。

それにドサクサに紛れて痴漢が居るかもしれないからな。


「ライラ達は巻き込まれない様に宿に退避しておいてくれ。もう敵がいないとは限らないからな。」

「分ったわ。宿で落ち合いましょ。」


そして連絡を終えて俺も気配を消すと空を飛んで宿へと向かうことにした。

すると下からアキトの「逃げるなユウー」と言う声が聞こえた気がするが気のせいだろう。

俺は総理とアキトを放置して宿へと帰った。

ぶっちゃけて言えば昨日からの激務で少し眠いのだ。

もともと週の半分は寝て過ごしたいのに最近働きすぎな気がする。

日本に返ったら少しゆっくりしよう。


しかし、宿に帰るとそこには既に刺客が待ち構えていた。

その人物は40人の仲間を連れて宿のロビーで仁王立ちしており、連携の取れた動きにより俺は包囲された。


「何してるんだいアンタ。今夜は町をあげての宴会だよ。聞いた話だと大量の食糧を持ってるらしいじゃないかい。使い切れないならここで提供しな。」


そこにいたのはヘザーとその商館の奴隷達である。

いや、元奴隷と行った方が良いだろうか。

彼らは今回の功績と魔石と素材の買取で奴隷から解放される事は確定している。

その辺の交渉は既に済ませてあるので安心しても良いだろう。


しかし、問題は今のこの状況だ。

俺のアイテムボックスには確かに大量の食材が入っている。

しかし、出口は一つ。

受け取る人間は40人。

どう見ても俺は休めそうにないので諦めて食材を出す事にした。


「分かった。それなら俺も異世界なので本気を見せてやろう。」


そして俺は目にも止まらぬ速さで食材を出していく。

まるで未来からやって来た猫型ロボットの気分だ。


(お腹にポケットがあれば完璧だな。)


しかし、疲れからなのか先ほどから妙にテンションがおかしい気がする。

俺はその後も分身が発生しそうな程の速度で行動し、言われた食材を次々に出していった。


『分身を習得しました。』


(あ・・・。)


そしてよく見れば俺は本当に分身していたようだ。

それを証明する様にスキルも習得している


(これで気配遮断に高速移動、分身。あとは忍術でもあれば忍者だな。)

『忍術を習得しますかYes/No』

(あるのかよ忍術)

『ありますよ。』

(い、いえ、Noでお願いします。黒魔法とそれほど違いなさそうだし。)

『そうですか・・・。』


俺がNoと答えると何やら残念そうな感情が伝わって来た。

あなたは俺をどうしたいのだろうか?


『NI・N・JA』

(いや、格好よく言っても駄目だからね。)

『残念です。』


うわ~、本音出た~。


なんだか次第に普通に喋る様になってきたな。

これ他の人には聞こえないだろうから、もし声を出して話してると俺ってアホの子に見られるよね。

又は危ない中年か・・・。


考えるのはやめよう。

後で素直にライラとメノウに相談してみるしかない。

あの二人なら笑わないだろうし・・・きっと。

なんだか自信無くなって来た。


そして俺が食材を出し終えたのは日が沈み始めた頃だった。

その頃には町は結界で覆われ魔物の脅威もなく、この町が出来て初めての夜を徹した大宴会となった。

その片隅には疲れ果てて眠り俺の姿があったとか無かったとか。

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― 新着の感想 ―
[一言] その片隅には疲れ果てて眠り俺の姿があったとか無かったとか。 →その片隅には、疲れ果てて眠る俺の姿があったとか無かったとか。
[気になる点] コメント②になります。 73話まで拝読しました。まだアキトの天使が報われていないようですが、どこかで描写されているのでしょうか? 折角、功を譲ると言われたので異世界側の天使信仰の対象に…
[気になる点] 失った翼は3枚ではなかろうか。ただ、2対とも3対とも取れる表現でした。 あと誤字脱字が散見されて読む力が弱体化しそうです。 誤字報告していますがシステム生きてますか? 誤字修正は作品の…
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