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59 スタンピード②

俺はその後、ヘザーの所に来ていた。

近代兵器を使わせえる為の人員を確保するためだ。

近代兵器を使えば初めて魔物と戦う者も簡単に倒すことが出来るだろう。

昔は農民でも槍を持たせれば武者を殺せたというので銃ならなおさらだ。

しかし、それを知らないこの世界のヘザーに説明するのは大変そうである。

現に目の前で彼女は鋭い視線でへの字口を作っている。


「アンタらはうちの子達を前線に立たせたいのかい?」


その声には明確な怒気が籠っている。

要約すればその通りだが実際は少し違う。


「まあ、長距離の矢を放ってもらうって事です。魔物がある程度まで近づいたら逃げてもらいます。」


そしてヘザーは唸りながらも条件を出して来た。

やはり状況が状況なのですぐには信じられないのだろう。


「希望者だけなら許したげるよ。でも、アンタがそんな事を言う男だとは知らなかったね。」


ヘザーはそう言って少し寂しそうな顔を向けて来る。

しかし、それはそんなに長くは続かなかった。

ヘザーは商館の者達を集め今の話を伝えた。


「まあ、最初だけらしいからね。私も近くに居るから危なくなったら一緒に逃げられるよ。」


すると全員が一斉に立ち上がりヘザーに駆け寄った。

しかしその顔は怯えてはおらず強い意志を宿した目はしっかりとヘザーを見詰めている。


「あなたが行かれるなら私達に行かない選択肢はありません。」

「お婆ちゃんは私が守ります。」

「僕だってマザーを助けるんだから。」

「死ぬときは一緒ですよ。」


どうやら彼女は本当に慕われているようで全員が命を賭ける事になっても良いと言っている。

子供の中にはマザーと言って親の様に慕っている者も居るようだ。


「お前たちは大馬鹿者だよ。こんな私の事よりも自分の事を大切におし。」

「「「マザー!」」」


そしてヘザーはしゃがんで子供たちを抱きしめると俺に向かって力強く頷いた。

どうやら覚悟が決まったようで俺達は彼らと共に町の門へと向かった。

彼らの人数は40人は居るので今回はレイドを組んでもらう。

リーダーは当然ヘザー本人でこれで経験値も分配されるようになる。

そして彼らは今、銃座に座りダンジョンを見詰めていた。

予定ではそろそろスタンピードが起きるはずだ。

そんな中でヘザーは俺に話しかけてくる。


「本当にあんなんで魔物が倒せるのかい?」

「まあ、見てればわかると思うよ。上層の魔物は俺らには全く旨味が無い。でも彼らには良いレベルアップになる。レベルが高いとそれだけでスキルを得て働き口も増えるだろ。」


するとヘザーは俺を見て笑顔を浮かべた。

その時だけは老婆なのにとても輝いて見える。


「あんたはそんな事を考えてたのかい。とんだお人良しだね。でもそういう事はもっと早く言っておくれ。」

「それでも子供に戦わせるのは変わらないだろ。だから駆け引きをしないで来て欲しかったんだ。」

「フフ、アナタのそういう所は良いと思うわよ。」


そして、最後には俺にだけ聞こえる小声で呟くとこちらを見上げて笑みを浮かべた。

するとその直後にダンジョンの方向から魔物が溢れ出した事を知らせる鐘が鳴り響いた。

そして道の先から魔物の叫び声と地鳴りにも似た足音が聞こえ始める。

しかし、今はまだダンジョン周辺の空き地に魔物が停滞しているのだろう。

城壁からはまだその姿を確認できない。

そしてここからダンジョンまでは約1キロほどあるので十分な射線が確保できている。

メインストリートには合計で10の重機関銃が並び給弾ベルトは既に装着済みだ。

その後ろには自衛隊組がサポートとして並び発射のタイミングを計っていた。

そして、とうとう魔物もダンジョンの防護壁から溢れ出し、結界に沿って向かって来ている。

その姿が500メートルのラインを越えた所でアキトは合図を出した。


「最初はゆっくりで良い。まずは打つ事に慣れるんだ。撃てー。」


そして彼らは魔物に向けて発砲を始めた。

最初は反動などで上手く打てなかったが、慣れるとすぐに水平に打ち出せるようになった。

これはレベルの恩恵で力が俺達の国の一般人よりも遥かに強いからだ。

しかも魔物は波の様に押し寄せている為、一発当たる軌道を取るとその後ろの魔物数匹が犠牲になる。

そして馴れて来た者達は単射を止め連射をし始めた。

するとその経験値が彼らの間で分配されそれが更に射撃精度を高めて行く。

彼らには投擲のスキルを低レベルでも取ってもらっている為その恩恵で次第に戦闘も楽になっていった。

そして弾が切れれば素早く自衛隊組が重機関銃を後ろに下げ、新たな重機関銃をセットする。

その連続で銃を一定時間休ませて放熱させながら魔物を駆逐していく。

そして魔物の種類が上層から中層に変わってもそれは続けられた。

経費は掛かるが大量の魔石と素材、あとは報酬が手に入るのでそれでどうにか相殺できるだろう。

そして、数千の魔物を始末したころには彼らのレベルは20に届きそうな程に上昇していた。

じっさい、中層の魔物だと乱獲するだけで俺でもレベルが上がる。

そんなモノを大量に殺せば俺達がレベルを抜かれたとしてもおかしくはない。

現に下層の魔物を相手にしていたアスカはレベル40を越えているのだ。


そして、次第に巨大な魔物が現れ始めた頃になると遠距離からの攻撃は中止された。

まだ倒せない事も無いが次第に効果が低くなり、弾を弾く魔物も出始めたのだ。

これだと跳弾の被害が出るかもしれない。

そしてアキトたちは誤射を警戒して重機関銃を回収すると彼らに声を掛けた。


「よくやってくれた。君たちの仕事はここまでだ。危険なので横の結界に入り退避してくれ。」


それを聞き彼らは笑顔で結界内に入っていく。

ちなみにギルドにはお金がそのまま残されているので今倒した魔物の魔石を提出すれば彼らは晴れて自由の身となり十分な蓄えをもって新しい生活を始められる。

これはヘザー達には話していないが最後にちょっとしたサプライズだ。

そして出番の来た俺達は獰猛な笑みを浮かべて向かって来る敵を見据えた。


現在向かって来ているのはオーガの群れだ。

しかし、俺達にそれを恐れる理由はない。

そしてまずは俺、アキト、総理はオーガに対して全力の威圧を放った。


「グウウガアアアアーーーー!」


すると先頭の集団は一斉に白目をむいて倒れこんだ。

そしてその後ろは倒れたオーガに躓き面白いように転げて行く。

それに対しミズキとフウカはその頭にライフルでヘッドショットを打ち込み始末して行った。


「何とも情けない鬼どもじゃな。もっと気合を見せんか。」


すると総理の声に答える様に後ろから巨大な雄叫びが上がった。

その声には威圧と共にスキル・ウォークライという仲間を鼓舞する力が込められている。

その為、その声を聞いたオーガたちの狂暴性が増し威圧に負けずに突撃してくる。

それを見てアキトは以前、厳島での戦闘から分析を行った。


「上位種がいるみたいですね。奴らがいると下位種は統率された行動を取る様になる。ヒムロ、上位種は発見できそうか?」

『う~~ん・・・発見しました!』

「頭を打ち抜いてみろ。」

『了解』


それと同時に発砲音がこだまし、後方のハイ・オーガの頭を打ち抜いた。

しかし、ハイ・オーガは倒れる事が無く傷もすぐに塞がっていく。

それをスコープ越しに見たヒムロは呆れた声でアキトに報告をした。


『オイオイ!反則だろ。アキトさん。狙撃が効きません。』


しかし、そこは予想していたのかアキトに動揺はない。

そして遠距離攻撃が通用しないと判断したアキトは部下たちに指示を下した。


「分った。お前たちはそこで待機。抜けた魔物がいた場合それを処理しろ。」

「「「「了解」」」」


そしてとうとう俺達が出動する時が来た。

敵は下層の魔物。

油断すれば死ぬ可能性すらある。

しかし、俺達は死地にしか見えないその場に足を踏み出した。


そして俺は速度を生かして一番に魔物と剣を交えた。

飛翔によるスキルで周囲を飛び回りオーガの首を正確に飛ばしていく。

そしてアキトと総理はほぼ同時に到着すると俺と同じように飛び上った。

しかし、それはまだ天歩の段階の為に動きは直線的で足を動かす必要がある。

それでもオーガはパワーには優れているが動きはそれほど早くはない。

攻撃は掠りもせずに全て躱され切り落とされ蹂躙されていく。



「ははは、アキトよ楽しくなってきたぞ。」

「総理、無理はしないでくださいよ。後で腰を痛めても助けませんからね。」

「何を言っておる。そんなのは魔法を使えばその場で治せるわい。いい世の中になった物じゃ。」


どうやら、この世界の法則は一匹の眠れる獣を呼び覚ましたようだ。

総理は縦横無尽に剣を振るい、後ろに目があるのではないかという程に全ての攻撃を回避する。

そして、とうとう獣が獅子へと進化する時が来た。

それは彼の長年積み重ねて来た事への天からの贈り物。

総理のスキル、剣術レベル10は急激な進化を遂げた。

スキルは二つに分かれるとそこには進化したスキル剣聖と剣魔が発生する。

そしてそれと同時に新たなスキル聖装と魔装を習得。

さらに特殊スキル聖魔融合を獲得した。

ちなみに剣魔は魔物だけでなく天使にすら特攻をもつスキルだ。

これは彼が神も悪魔も邪魔な物は切り捨てるという信念から習得したものだ。

そして聖魔融合は相反する性質を融合し強力な力を得られるスキルである。


しかし、それには達人以上の力のコントロールが必要で今のユウとアキトがこのスキルを手に入れても使いこなす事は出来ないだろう。

まさに総理に相応しいスキルなのである。

そして急な体の変化を感じたためアキトに声を掛けていったん下がる事にした。


「アキトよ、儂のスキルに大きな変化があった様じゃ。少し下がるぞ。」


そう言って総理は下がりスキルを確認していく。

するとそこには話に聞いていた進化したスキルが目に飛び込んで来た。


(これがスキルの進化か。聞いていたのより凄まじいのう。こりゃ飼い慣らすのが楽しみじゃ。)


そして総理はさっそく魔装を纏いオーガに向かって行った。

その一刀は魔装により延長され体格のいいオーガを股から頭までを真っ二つに切り捨てる。


「ほほう、まるでスサノオの様な感触じゃ。しかし、あれと違い感情に変化はない。あれは精神依存じゃからな。」


そしてスキルが進化した事で縮地なども進化し総理は一つ一つ確かめる様に剣を振るった。

すると次第に体の性能を理解し始めた総理の動きはまるで暴風の様に変わっていく。

そして気が付けばアキトを後ろに置き去りにしユウの横に並んでいた。


「あれ、総理。スキルが進化したんですか?」

「ほっほっほ、その通りじゃ。若いもんには負けてられんからな。」

「まあ、総理なら最初から進化したスキルを持っててもおかしくなかったですけどね。」


そしてオーガやハイ・オーガが尽きると今度はクロコダイルが現れ始めた。

それに混ざる様にレッサードラゴンや少数だがバジリスクも存在している。

それを見てユウは纏っている魔装を変更し聖装にする。

毒は大丈夫だが石化耐性はまだレベル1だ。

こちらは状態異常に高い耐性のあるスキルなのでこちらにしておく方が安心だろう。

そして横を見れば総理も聖装に変更した様で体に光を纏っていた。


「儂は耐性があまりないからの。絡め手は苦手なんじゃ。このスキルのレベルは重点的に上げた方が良いかもしれんな。」


そして総理はステータスを操作し始めた。

すると聖装の厚みが増していき、光も強まっていく。


「まあ、5まで上げておけばいいじゃろう。後は自分で鍛えればいい事じゃ。」


一体どこまで現役でいるつもりなのか疑問に思うが人生には目標は大切だ。

それを失くした人間は簡単に老いるというので彼には丁度いいのかもしれない。


「それじゃ、ちょっと試してみるかの。」


すると総理は先ほど以上の動きで蹂躙を開始した。

どうやら今まではまだ慣らし運転だった様だ。


「こりゃこちらもウカウカできないな。」


そしてユウも総理に倣って突撃して行った。

しかし、それをアキトだけは後ろで追う事しか出来ず、その顔には悔しそうな表情が浮かんでいた。

それは次第に離される距離によるもので、つい少し前までは見えていた背中が見えなくなってしまっている。

その様子に総理は当然、ユウですら気付いていた。

しかし、二人にはアキトに手を伸ばす事は出来ない。

ユウは何も知らない故に。

総理は師として這い上がって来るのを待っている故に。


そして、そんなアキトに後ろから声が聞こえて来た。


「マスターは力が欲しいのですね。なら私がお手伝いします。」


アキトが声に気付き後ろを振り向くとそこには昨日、出会ったばかりのカエデが立っていた。

しかし、彼女は宿で待機しているはずである。

そして、アキトは以前見たメノウの事を思い出した。


彼女は主であるユウの命令を守り命を賭けて3人の民間人を救った。

なら彼女の今の言葉から推測して・・・。


「まさか!」

「マスターが力を手に入れるにはこうするしかありません。」


そう言ってカエデは魔物に無防備に向かって行った。

その行動を見てアキトも走り出そうとするが周りの魔物が邪魔をして前に進めない。

そんな中で1匹のハイ・オーガがカエデをターゲットに選んだ。

ハイ・オーガは拳を振り上げてカエデを殺そうと襲い掛かる。

するとアキトの目の前がスローになり思考が加速していった。

この時、アキトの思考加速と並列思考が10に上がる。


「クッ!間に合わない!」


この時点で縮地と瞬動もレベルが10へと上がるがいまだに手は届いていない。

そんな中でカエデはアキトに振り向き笑顔を浮かべた。

その笑顔がスローモーションで拳に打つ抜かれ羽を撒き散らしながら拳の下に埋もれた。


それを見てアキトの脳裏に昨夜の事が思い出される。

カエデはユウではなく自分を選んでくれた。

震える腕で袖を掴み契約をして名前を付けた。

その時に自分は何と言った?


『それじゃあ君の名はカエデにする。花言葉は美しい変化と大切な思い出だ。』


しかしまだカエデには何も変化を与えていない。

思いですら与えてやれていなかった。


アキトは停止しそうな程に緩慢になった世界でハイ・オーガの拳を見つめる。

その拳の下にはカエデが倒れており大きく血を吐き出した。


「まだ間に合う!諦めるな!」


アキトは自分に言い生かせるように叫ぶと一歩を踏み出した。

しかし、無情にもバジリスクの瞳がアキトを見詰め、その身を石へと変えて行く。

この瞬間、アキトの石化耐性が1から10に一気に上昇した。

しかし、それでも未だにスキルは進化しない。

アキトは石化を振り切りカエデの下に向かうとハイ・オーガの腕を斬り飛ばし、カエデを抱え上げた。

その瞬間にスキルが切れるとカエデは息も絶え絶えにアキトを見詰めた。


「まだ・・・足りない・・・よう・・ですね。それなら・もう・・・一度。」


カエデはそう言ってアキトから離れ立ち上がった。

そして更に危険なユウ達の下へと手を伸ばす。

しかしここも既に魔物に囲まれているので安全ではない。

アキトはそれを思い出してスキルを再び使った。

そして再び訪れる緩慢な世界。

しかし、カエデを見れば周囲にいる複数の魔物から狙われていた。

アキトはカエデに降りかかる攻撃を全て切り裂き、逸らしながら魔物を退けて行く。

その様子は傍から見れば既に剣の結界であった。

しかし、その中でカエデは今も歩みを止めない。

しかもその進みは次第に早くなっていくような気さえした。

そしてアキトはスキルを確認しながら焦りを感じている。

今は護りきれているが更に強い魔物が出ればそれも不可能になるかもしれない。

アキトのスキルは次第にレベルを上げているがそれも全て10で止まっていた。

その事実に焦燥感を感じている時に別の声が聞こえて来る。


「見てられませんね。一つアドバイスをあげます。」


聞こえて来たのはユウの天使であるメノウの声だ。

その声には明らかに呆れの感情が含まれていた。


「スキルを進化させたいなら考えるでもなく、悩むでもない。ただ願いなさい。強く、何よりも強く。それじゃ後は任せたからね。その子を死なせたらお仕置ですよ。」


メノウの声は最初は威厳があったのに途中から威厳は無くなりお道化て消えていった。

しかし、アキトは思う。


(願いか。苦手なんだがな俺はーーー。)


そして心の中で叫びながら剣を振るった。

するとアキトの中で何かが歯車の様に動き出し次第に広がると大きな動きとなって変化を引き起こした。。

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