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56 スフィアとの約束

俺達が移動を始めるとフレアとシルフィーは彼らが住む場所へと帰って行った。

精霊王を呼び続けるのは魔力の消費が激しいだろうという理由だ。

残りの戦力程度ならアクアが居れば十分だろうし守りならテラが居る。


そして俺達はまず地下牢へと向かいスフィアの両親の許を訪れた。

するとアクアは母親の傍まで来ると症状についての説明をしてくれる。


「まず、母親の方ですが彼女は酷い毒に侵されていました。私の力で毒を排出させましたが完全ではありません。内臓の損傷はある程度まで治りましたが、毒が残っている為完全には治せませんでした。恐ろしい程の効果の毒でまさか私が一瞬で治せない程の物がこの世界にあるなんて驚きです。時間を掛ければ解毒もできますがどうしますか?」

「それならここに解毒薬がある。これを使ってくれ。」


俺はそう言ってアクアに解毒薬を差し出した。

これはさっきの奴等が所持していた物の一つで予備は別の場所に保管してあるそうだ。


「分かりました。飲ませるのは容易いのでもう一度チャレンジしてみましょう。毒さえなければ治すのは簡単です。」


さすが再生と治療に特化した精霊王なだけはあり、その顔には明確な自信が見て取れる。

彼女に任せれば俺達が手を出すよりも確実だろう。


ちなみに精霊王にはそれぞれに特色がある。

アクアは治療、シルフィーは補助、フレアは攻撃、テラは防御に特化している。

それぞれに攻撃も防御もある一定以上は普通にこなすが並外れて高い能力を一つ持っているようだ。

これなら戦闘が終わった時点でフレアとシルフィーが先に帰ったのも頷ける。


そして今度は隣に倒れている父親へと移った。

しかし、その姿は一目でまだ治療途中と分る程しか回復していない。

何故かと思っているとアクアが説明を始めた。


「こちらも母親と同じ状態でした。しかし、ある理由から治療を途中で止めています。」


俺とアリシアは首を傾げるがアクアは何か言い難そうだ。

何か余程の理由があるのだろう。


「構いません。教えてください。」


しかし、アリシアは強い意志を込めてアクアに声を掛けた。

すると彼女も仕方なくといった様子で話を続けてくれる。


「下位精霊達が教えてくれました。この者はあなたの裏切り者だと。その顔に覚えはないですか?」


父親の方は体の傷は酷いが首から上はそれなりに綺麗に治っている。

それを見てアリシアは何かに気付いた様に手で口を覆った。


「この人は私の護衛の・・・。」

「そうです。彼はあなたを騙してゴブリンの巣に連れて行き襲わせた張本人です。命令したのはおそらくセドリアスでしょが実行犯に変わりありません。あなたが望むなら今ここで処分しますがどうしますか?もし死んでいてもこの状況です。助けられなかったと言っても誰も疑いませんよ。」


するとアリシアは俺の顔を笑顔で見詰めるとアクアに向けて首を横に振った。

その目には憎しみも怒りもなく、優しさと両親を待っているスフィアへの思いが感じられた。


「私はそのおかげで大事な出会いを果たしました。過去に受けた痛みと傷は消えませんが、何処かで恨みは断ち切る必要があります。私は彼を許せませんが、スフィアの為に彼は必要です。その為には彼には生きてもらいます。例えこの後どんな罰を受けたとしても。」


アクアはアリシアの言葉にニコリと微笑むと、父親の口に解毒薬を流し込み治療を再開した。

するとその傷はみるみる回復し見た目では傷は全く見えなくなった。

しかし、傷が癒えたとしても精神まで回復する訳ではない。

彼らが目覚めるのはいつになるか分からないが俺達がここを去った後になる可能性は高い。

そしてこの場で残っている事はあと少しだけで生き残りの暗部を城の兵士へ突き出す事だ。

それとアリシアの父でありこの国の国王の安否確認である。


俺達が地下から出ると空は白み始め、もうじき朝焼けが見られる時間帯になっていた。

すると俺達に気付いた兵士の一人が駆け寄ってきて誰何の声を掛ける。


「お前たちは何物だ!所属を述べろ!」


するとアリシアは先頭に出ると凛とした姿で名乗りを上げた。

なんだかいつもとは別人の様だが、これもアリシアが持っている一面だろう。

王族ならばそれに相応しい態度を示さなければならない様だ。


「私はこの国の第5王女アリシア・エアフルトです。いくつか確認したい事があります。」

「な!アリシア様は死んだはずでは?しかし、そのお姿は確かにアリシア様。失礼しました。すぐに他の者も来させるのでお待ちください。」


そう言って彼はステータスプレートを操作し連絡を送った。

すると城の至る所から声が聞こえ始め何人もの兵士がこちらに集まって来る。


「お待たせしました。それで確認とは。」


それは俺しか知らない事なのでなずは俺が声を掛ける。

王女の会話に割り込むので礼節には反していそうだが仕方がない。

見ず知らずの人間が王女であるアリシアに耳元で囁く方が問題だろう。


「それは俺が話そう。あの辺の部屋で誰か死んでいるはずだ確認を頼む。」

「そんな・・・あそこには第1王女様の寝室があるはずだ。」


俺はかなり城の上の方を指差して兵士に伝えた。

すると兵士たちはその方角に目を向け、顔色を変えて数人を向かわせてくれる。


「今確認に向かわせた。しかし、あなたは何物だ?どうしてここにいる?」

「この方は私の命の恩人です。先程も私の命を助けてくれました。」


すると俺を庇うようにアリシアが俺の紹介をしてくれる。

しかし、兵士の厳しい視線は一向に緩まない。

すると後ろにいたテラがアリシアの傍へと移動して来た。


「彼女の言っている事は真実です。彼女のこの手を見なさい。」


そしてテラはアリシアの手を取るとそこに刻まれた印を兵士たちに見せる。

そこには精霊王と契約をした時に出来た菱形の印があるが、それを見た途端に兵士の態度が劇的に変わった。


「まさかそれは初代国王陛下と同じ・・・。精霊王と直接契約した証。しかも4大精霊王全てと・・・。」


すると先ほどまで立って話をしていた兵士たちは皆がその場に膝を付いた。

どうやらこの印にはそれだけの価値があるようだ。

しかしアリシアは困ったような顔をして兵士たちを見つめている。

どうも彼女は出来るだけあの印を隠したかったようだ。


「その印は王の証。まさかあなた様が初代国王しか成しえなかった偉業を達成されるとは。今までの無礼をお許しください。」


(王の証?ならもしかしてこのままだとアリシアはこの国の王になるのか?それじゃあこのままこの国に・・・。)


「私は王になる気はありません。この身は既に穢れた身です。その意味が分らないあなた達ではないでしょう。私に王の資格はありません。」


しかし心配をしているとアリシアはハッキリした声でそれを否定し、言いたくは無かっただろうに自分の秘密まで晒している。

すると兵士たちは絶望に突き落とされた様な顔になり奥歯を噛みしめた。

アリシアも辛いだろうに兵士たちには毅然とした態度を貫いている。

俺はアリシアの傍によるとその肩にそっと手を乗せた。

すると彼女はその瞳を涙で濡らすと俺の胸で顔を隠した。


その姿に兵士たちは少しだけホッとした顔になり俺に視線を集めてくる。

俺は兵士たちに小さく頷きを返すと彼らは立ち上がり一瞬だけ表情を緩めた。


「それで、そちらのお二人はもしや精霊王の方々ですか?昔、文献で見た絵によく似ておられますが。」


するとアクアとテラは頷きを返すとその問いを肯定した。

それを見て兵士たちは沸き立ち、その姿を目に焼き付ける様に見詰め始める。

恐らくこれが日本なら、携帯のシャッター音が連続で鳴り響いていたかもしれない。


「お目に掛かれて光栄です。今後ともアリシア様をよろしくお願いします。おそらく我らがお守り出来る時はもう殆ど無いでしょう。」

「任せておきなさい。それと細かな所は後で説明があるでしょうが我々精霊王は彼女と共にしばらくこの地を離れます。」

「しかし、精霊の加護が失われた訳ではないので安心しなさい。」

「ありがとうございます。それでそちらの者達は?噂に聞く暗部の者に似ていますが。」


しかし、答えるべきアリシアは俺の胸で涙を流しているので説明できる状況ではない。

そのためその問いにはアクアが答えてくれるようだ。


「この者たちはあなたの言う通り暗部の生き残りです。」

「生き残りとは穏やかではありませんね。何か事件でも?」

「この者たちはアリシアの暗殺を計画し失敗した者達です。彼女が穢された原因もこの者たちにあります。」


するとその事を知った兵士たちの目つきが急に厳しくなる。

暗部とは言え、その様な蛮行に及んだ事に怒りを感じたのだろう。

しかも今ではアリシアは4大精霊王と契約した伝説に残る王族なのだ。

形はどうあれそれを失う形になった彼らの心中は穏やかではないだろう。

しかし、アクアの話はまだ終わっていない。


「しかし、アリシアは国の法律に彼らを委ねると言いました。そのためこの者たちの処罰はそちらに任せます。」

「畏まりました。アリシア様の意思に従い正当な裁判によってその者達を罰しましょう。ただ王族への反逆はどんな形であっても国家反逆罪が適用される可能性があります。その事だけはご理解ください。」


すると、アリシアの寛容な行動に兵士たちから感嘆の声が漏れていたが次の発言は彼らへと大きな驚きと動揺を与えた。

たしか俺の知っている国家反逆罪は一族全員が罰を受けるのだったかな。

最悪な時は全員が死刑になる事も有るはずだ。

周りの反応からするとそれに近い感じの罪になるんだろう。

しかし次にアクアが告げた事は更に周囲へ衝撃を与えた。


「ちなみにこの国の第一王子セドリアスは自己の掛けた呪いを返され既に死亡しています。彼は精霊王全員の怒りに触れたので塵すら残さず消滅しました。」


すると兵士たちから聞こえていた一切の声と音が止んだ。

彼らは立ち尽くしたまま微動だにせず鎧の擦れる音すら聞こえて来ない。

しかし余程のショックなのだろうが先ほどから話していた兵士がアリシアに戸惑いながらも声を掛けた。


「アリシア様。ここを去られる前にどうか陛下に会っていただけませんか?きっと陛下も最後にあなたに会えれば喜ばれるでしょう。」


そう言っている兵士の声は辛そうだが俺はこの感じに覚えがある。

それは俺の両親が緩和ケアに入り殆ど会話すら出来なくなったころだ。

最後に顔を見ようと知り合いが訪ねて来てくれた時に何度も言った記憶がある

するとアリシアは顔を上げると勢い良く兵士に視線を向けた。


「お父様に何かあったのですか!?」

「現在、陛下は原因不明の病気で床に着いております。エルフの秘薬も効かず日に日に悪くなる一方です。おそらく後数日の命でしょう。きっとアリシア様が戻られたと聞けば喜ばれるはずです。ですからどうか。」


するとアリシアはすぐにアクアに視線を向けた。

そして俺の手を引くと城内へと走り出し何処かへ向かい始める。

しかし、相手が何処に居るかも聞いていないのにアリシアは真直ぐそこへと向かっている。

最初からその場所を知っているのか、それとも何かを感じ取って底へ向かっているのか。

もし後者ならやはり家族の絆とは素晴らしいものだと思える。


そしてアリシアは階段を風の様に駆け上がり一つの部屋の前で足を止めた。

その前には護衛の兵士が立っていたが俺が前に出て遠慮なく扉を蹴破った。

するとベットの上では皮膚を爛れさせ今にも死にそうな国王の姿がある。

アクアは兵士を無視して転移を使い一瞬で傍に移動すると何も言わずに治療を始めた。

しかし、その様子に護衛の兵士が槍を向けて来る。


「貴様ら何をやっている。セドリアス様の許可なく勝手な事をするな!」


どうやらこいつにはセドリアスの息が掛かっていたようだ。

俺はアリシアを部屋に入れると兵士の傍へと向かった。


「貴様を国家反逆罪で処刑する。」


しかしそう言って槍を突き出して来た兵士は一瞬先には床にめり込んでいた。

何故なら俺は槍を飛んで避けると天井を足場にして拳を握り頭上から一撃くらわせたのからだ。

そして兵士はシャチホコの様な格好になるとそのままガシャリと鎧の音を立てて地面で気を失った。

この男もエルフなので運がよければ秘薬を使ってもらえるだろう。

もし、死んでも俺の関知する事ではない。


そして俺が兵士を倒しアリシアの傍に行く頃には既に殆どの治療を終えていた。

やはり、俺が予想した通りセドリアスは王位の簒奪を目論んでいたようだ。

考えてみればエルフの生は長いので簡単に王が変わる事はないのだろう。

それが賢王ならばなおさらだ。

どれ程の期間この男が王であったかは知らないが俺達が回っていた町や村は一つを覗いて平和そのものだった。

恐らくは王都もそうだろう。

そして俺の前に眠る男もそうだがエルフなのでまるで若い少年の様だ。

この、何時訪れるかもしれない王位の継承にセドリアスが不安を感じたのなら頷けると言う物だ。

納得は出来ないが理解は出来ると言う所か。

そして回復してすぐに国王は目を覚ました。


「ここは何処だ。私はトゥルニクス。ここは私の寝室か。しかしなぜ死んだはずのアリシアがいるのだ?ここはやはり天国か?ならお前の母のアイリスもいるはずだ。アリシアよ。アイリスは何処にいるのだ?」


どうも傷が癒えたばかりで頭が混乱しているようだ。

しかしそんな彼に対してアクアは笑顔で拳を振り下ろした。


「いったーー!何をするのだアクア。・・・って、なんでお前がここにいる?不滅の精霊王が死ぬはずはないだろう。・・・と言う事はここはあの世ではないのか。ならばアリシアも本物・・・。い、生きていたのだなアリシアーーー!」


するとトゥルニクスは涙を浮かべながらアリシアに飛び付いた。

回復したばかりなのに元気な事だがそれは横に居るテラによって阻まれた。

テラの力によってアリシアの前に強固な石の壁が作られたからだ。

トゥルニクスは服こそ脱がないが見事なルパンダイブを石壁に阻止され顔面から地面に落ちて行った。


「イテテ~・・・テ、テラもなのか。しかし、親子の再会を邪魔するとは酷い仕打ちだな。」


すると彼はぶつけた顔を自らの魔法で癒しながらテラに視線を向ける。

しかし、慣れているのか手際も良く、すぐに起き直ってベットの縁に腰を下ろした。


「そう思うなら息子の面倒くらいしっかり見なさい。あなたが寝ている間に世界が滅びる所だったのよ。」

「息子?もしかしてセドリアスの事か?」


するとトゥルニクス首を傾げるが何だかあまり興味が無さそうに見える。

アリシアに対しては親バカ丸出しなのにまるで感情をなくしてしまった様だ

その頃には土の壁も消え去りアリシアの間に隔てる物は無くなっていた。


「そうよ。アイツはこの子を殺そうとして失敗し、自分の呪いに殺されたわよ。」


テラは不機嫌そうにトゥルニクスにいっているが彼はあまり表情を変えない。

どちらかと言えばアリシアの方が辛そうに見える。


「そうか。あのバカには日頃から言い聞かせていたが意味がなかった様だな。」


そしてトゥルニクスは素っ気なく言いセドリアスを呆気なく切って捨てた。

それはまるでいくらでも替えの利く道具を失くしたような印象を受ける。


「それでお前たちがこの子を守てくれたのか?」

「違うわよ。守ったのはそっちの男よ。」


そう言ってテラが俺を指差すとトゥルニクスは初めて気付いたかのように驚いた眼を向けて来る。

しかも強力な威圧のオマケ付きだ。

しかし、俺もこの世界の文化についてはしっかりと学んだので挨拶として素直に威圧を送り返す。

その間は俺とトゥルニクスの間に笑顔が絶える事は無く威圧の嵐で兵士たちは誰も近づけなくなった。


どうやら最後にもう一悶着有りそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] それでお前たちがこの子を守てくれたのか? →それで、お前達がこの子を守って呉れたのか?
[一言] それは俺しか知らない事なのでなずは俺が声を掛ける。 ↓ それは俺しか知らない事なので、先ずは俺が声を掛ける。
[一言] スフィアの父親、他の暗部の者と同様にこの国の法律で裁かれるのですから、王女を殺害しようとした罪で死刑ですね。
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