53 デーモン再び
アキトとデーモンが睨み合っている後ろで俺とスフィアは普通に会話をしていた。
「そう言えば互いに自己紹介をしていませんでしたね。私はエルフのスフィアです。」
「俺はユウだ。前でデーモンと睨み合っているのはいるのは仲間のアキト。きっとアキトお兄ちゃんと言って応援すると喜ぶぞ。」
すると睨み合いながらもこちらの話を聞いていたのかアキトから鋭い突っ込みが飛んで来た。
「誰がお兄ちゃんだ。スフィアもそいつの冗談を鵜呑みにするなよ。アキトと呼び捨てで良いかなら。」
そしてアキトの突っ込みが終わると同時にデーモンからオーラが立ち上った。
その顔は怒りの形相となり次第に人の姿からかけ離れて行く。
しかしどうしてアデルと言いデーモンはこうも短気なのだろうか。
姿は見ようによっては紳士的なのにとても残念だ。
「貴様らー!俺の餌を奪ったばかりかコケにしやがって。しばらくは餌として生かして置いてやろうと思ったが貴様ら二人は即殺だ。その娘を再び絶望に落とすために最大限の苦しみを与えて殺してやろう。」
「おお、アキトの挑発が効いたな。スキルレベルが上がったんじゃないのか?」
「馬鹿な事を言うな。挑発したのはお前だろう!」
『挑発のレベルが6に上昇しました。』
「あ、すまん。確かに俺だったわ。まあ、相手がやる気になってよかったな。後ろで応援してるから頑張れよ。」
「後で覚えてろよユウ!」
先程からアキトはデーモンから一切視線を外す事なく警戒したまま俺の言葉に返答している。
もし、隙を見せていたのなら既に戦闘は始まっていただろう。
怒りを感じながらも、その辺はしっかりと我慢しているのでこのデーモンも抜け目がない。
もし、怒りに任せて飛び込んで来てくれればアキトなら相手の腕位は切り取っていただろうに。
しかし、温い空気もここまでだった。
アキトとデーモンは次第に距離を詰めていき、それと比例する様に緊張が高まっていく。
そして二人の距離が5メートルになった瞬間アキトは手に持つ剣から手を放した。
「なに!?」
しかし、それに驚いたのはデーモンだけだった。
俺はその理由を既に先見によって見えているしスフィアには早すぎて見えない。
そして隙を晒したデーモンにアキトは腰のハンドガンを抜き放ち即座に発砲した。
「ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、・・・・」
その発砲と共にデーモンは蜂の巣になり後ろに倒れ込んだ。
さらにアキトは銃を仕舞い、落下途中の剣をキャッチするとデーモンとの間合いを一気に詰める。
アキトは俺とデーモンの闘いを一度見ているのであれがこの程度で死ぬとは思っていないのだろう。
しかも相手はアデルと同じ中級デーモン。
見た目は傷を負っているが、それが本当にダメージに繋がっているかは分からない。
そして案の定デーモンは倒れている途中で体を一気に起き上がらせ前方を睨みつけた。
しかし、その時には既にアキトの剣がデーモンの首に迫っている。
そしてその攻撃は見事にデーモンの首を斬り飛ばした。
(やったか?・・・・あ、悪いフラグかこれ。)
しかし、飛んだ首にデーモンの手が伸び頭をつかみ取ると、首に押し付けそのまま回復するという荒業を披露した。
見れば最初に受けた銃創も回復しており見た感じではダメージは無さそうだ。
やはり何の魔力も纏っていない銃弾ではあまりダメージに繋がらないのだろう。
首を飛ばしたのは魔刃による攻撃だがあれはデーモンへの特攻効果がない。
ダメージには繋がるが一撃で殺せる程のダメージはなかった様だ。
「やってくれたな貴様。油断していたとはいえ首を飛ばされたのは久しぶりだ。しかし、貴様の技では俺を殺しきる事は出来なかった様だな。」
そう言ってデーモンは首に手を当てコキコキと左右に振った。
どうやらまだまだ余裕の様で自分を殺しきる手札が無いと感じ余裕の表情を浮かべている。
「これからは俺のターンだ。貴様にはもう俺を倒す機会は永遠に訪れない。覚悟するんだな。」
そう言ってデーモンは剣を手にアキトへと一気に距離を詰めた。
不意の瞬動。
そしてそこからの横薙ぎの一撃。
しかし、それを読んでいたアキトは後ろに下がり剣を避けた。
だが完全に避けたと思われた一撃にアキトはその胸を大きく切り裂かれる。
「チッ!」
そして今度はアキトがデーモンに驚かされる番だった。
それを見てデーモンは口元を歪めニヤリと笑みを浮かべる。
「どうだ、驚いたか。俺は魔法剣の使い手でな。剣に魔法を込めることが出来る。今のは風の魔法で斬撃を飛ばしたんだ。どうだ貴様らには出来ないだろう。」
(・・・・・。俺出来ます。国会でやらかしました。)
しかし、そう言うとせっかく調子に乗っているデーモンが再び怒りだしてしまう。
俺は口にチャックを付けてここはアキトの為?に黙っておく事にした。
別にデーモンの自尊心を守ってやった訳ではない。
しかし、俺はアキトのサポート役だ。
その為回復魔法を飛ばしアキトの傷を回復させた。
するとその行為が再びデーモンの怒りを再燃させる。
「外野が余計な事するんじゃねえよ。お前はそこで俺に殺されるのを待ってりゃいいんだ。次やったら先に殺すぞ。」
しかし、そんな脅しに乗ってやるつもりはない。
だが、俺の横にいたスフィアはデーモンの怒りの波動に当てられ震えながら俺の手を強く握る。
恐らく威圧も飛んできているのだろう。
耐性があるので気付かなかったが彼女を守るために俺も威圧を放っておこう。
(威圧・・・レベル10)
「な!・・・貴様舐めた事をしやがって。よっぽど先に死にたいらしいな。」
(あらら、怒らせてしまったか。しかし、こっちに意識を割いてもいいのかな?後ろに怖~いお兄さんが来てますよ。)
俺がそう思っと瞬間にアキトはデーモンの後ろから剣を振るった。
それはもう手加減という言葉が思いつかない程の攻撃速度だ。
アキトは最初に腕を飛ばすと更に足を斬り背中を無数に切りつける。
更に首を飛ばしその頭をバラバラになるまで切り刻んだ。
アキトはそこまでやって息を整えると剣を構えたまま更に魔法を放った。
「ファイヤーストーム!」
その言葉と共に炎は渦を巻き巨大な火柱が燃え上がった。
しかし、そこまでやってもアキトは油断せずに剣を構える。
そして炎が消えるとそこに再び赤い霧が集結しデーモンの姿を形作った。
「やってくれたな。この世界でなければ今ので死んでいたぞ。しかし、ここは夢の世界。この程度で死ぬほど俺も甘くはないんでね。」
しかし、デーモンの言葉にアキトは動揺せず剣を構えた。
するとデーモンはその姿に再び怒りの形相を向ける。
「きさま!何故この状況で絶望しない。何故そこまで冷静でいられる。俺との差がまだ理解できないのか。貴様には俺を殺せないんだぞ。」
そして再びデーモンはアキトに攻撃を仕掛ける。
しかし、アキトには通用せず今度は正面からバラバラにされた。
そして再び復活したデーモンは怒りの表情を浮かべる。
しかし、これでは確かに時間の無駄だろう。
アキトの実力は既にデーモンを凌駕している。
この短期間に驚くべき進化と言えるが俺が言うと「お前が言うな」と怒られそうだ。
しかし、アキトにはデーモンを倒すための決め手が欠ける。
仕方ないので俺は奥の手を斬る事にした。
まだスフィアの両親も救わなければならないし他にもやる事は多い。
こんな所で無駄な時間を使う訳にはいかないのだ
俺はしゃがんでスフィアに目線を合わせ話しかけた。
「スフィア、君の力でアキトを助けてあげよう。」
するとスフィアは俺の服を掴むと俯いてしまった。
どうやらアキトを助けられる自信がないようだ。
「私の魔法じゃアキトの傷もあまり治してあげられないよ。力になれないよ。」
「そんな事はない。もっと自信を持つんだ。いいかい、見てればわかったと思うけどアキトはあのデーモンより強いよね。」
「うん。」
ここまでは問題なさそうだスフィアはアキトの戦う姿を見て彼を信頼している。
しかし、その途端にデーモンから激しい怒りの声が飛んできた。
「俺が人間なんかより弱いだと。舐めてんのか貴様!」
しかし俺は瞬時に風の魔法で音を遮り、飛んで来た威圧は俺の威圧をぶつけて相殺する。
それによりスフィアはデーモンの叫びに気付かず俺との会話を続けた。
「なら、アキトがデーモンを倒せるように一杯お祈りしよう。さあ俺に続いて。アキトお兄ちゃんならあいつを倒せる。」
「アキトお兄ちゃんならあいつを倒せる。」
「おい待てユウ!・・・後で覚えておけよ!」
俺達の声にアキトは歯を噛みしめ顔を歪める。
しかし、この世界の主であるスフィアがアキトを信じて念じた事でアキトに計り知れない程のブーストが掛かった。
その瞬間、アキトの手に持つ剣に光が灯り白い輝きを放つ。
それを見てステータスを一瞬確認し何が起こったか理解した。
「聖刃。デーモンに対しての特攻効果か。」
それを見てアキトは笑みを浮かべ、今あるスキルポイントで一気に聖刃のレベルを最大まで上昇させた。
すると聖刃の輝きが増大しデーモンの顔に恐れが浮かび上がる。
そしてアキトは一気にデーモンへと駆け寄り聖刃で攻撃を仕掛けた。
「貴様らは何だ!?なぜ急にこんな急激な成長してやがる!?」
デーモンの叫びに俺は笑みを浮かべて答えを返した。
今となっては何をしても奴が俺達に構う余裕はなく、意識を逸らすだけでも命取りになる。
「さっき、自分で言ってただろ。自分の世界が壊れたと。ならここはもうスフィアの世界だ。彼女が信頼し願えば何でも出来る。今は自分に対する自信はないみたいだがこの子は俺達の事は信頼してくれている。それなら彼女の願いさえ受けることが出来ればそれが大きな力になる。お前は人間を舐めすぎなんだよ。」
俺の言葉にデーモンは悔しそうに牙を剥いた。
そして次の瞬間その標的がアキトからスフィアに変更される。
「ならもう良い。こいつさえ殺せばこの世界は終わる。お前たちは次の機会に殺してやるよ。」
しかし、そんな攻撃が届くはずはない。
俺は即座に聖装を纏いスフィアの盾になった。
「な、貴様もか!このドーピング野郎が!」
スフィアの夢の中に巣くい、呪いの力で自身を強化している奴には言われたくないな。
そして、闇に閉ざされていた空に朝日のような光が差し始める。
どうやら悪夢の時間が終わるのももうじきの様だ。
「残念だがこれは自前だ。言っただろ。お前は人間を舐めすぎだと。どちらにしてもお前には最初から勝ち目なんて無かったんだよ。」
「この野郎。ハメやがったな!」
(いやいや、ハメるも何も最初に向かって来たのはお前だろ。)
「そんな事より良いのか?後ろに来てるぞ。」
「な!?しま・・・。」
しかし、この最大の隙をアキトは逃す事はしなかった。
ブーストされた力で一気にデーモンを切り刻みその息の根を止める。
するとその体は光へと変わり空へと登って消えていった。
そして空は光りに包まれると青く澄み渡り、太陽の光が降り注ぎ始める。
するとここで久しぶりにメノウの声が聞こえて来た。
『デーモンが倒せて呪いも完全に消えたようで何よりです。それではこちらに呼び戻しますね。』
「少し待ってくれ。」
俺達はその声を聞くと今一度スフィアの傍に向かった。
そこには笑顔を完全に取り戻したスフィアが居るが少し不安そうでもある。
「それじゃあスフィア。あっちで待ってるからな。」
「最後は助かった。礼はお前が起きてから必ずするからな。」
「うん。私こそありがとうユウお兄ちゃん、アキトお兄ちゃん。」
俺は笑顔を浮かべるスフィアの頭を撫でてやると笑顔を返し背中を向けた。
これなら目覚めるのにそれほど時間は掛からないだろう。
しかしアキトはお兄ちゃん呼びが納得できないようだ。
それとも意外と恥ずかしがり屋なのか?
「だから俺の事はアキトで・・・。」
しかし、ここで時間切れのようだ。
俺達の前から街並みもスフィアの姿も消え去り、ここに来る時とは反対に上昇していく感覚に襲われた。
「さてと、まずはスフィアが起きる前に約束を果たさないとな。」
恐らく彼女の両親が生きているなら城の地下だろう。
アリシアの事だけならもう少しゆっくり向かうつもりだったが、予定を変更して急がないといけないようだ。
そして上昇する感覚が消えると俺は光を感じ目を開けた。
するとそこにはメノウと見知らぬ天使が俺を見詰めている。
横を見ればアキトも無事に目を覚ましたようだ。
しかし、反対を向けばスフィアはいまだに眠っており目覚める気配が無い。
俺は起き上がるとメノウに速攻でジト目を送った。
「あの・・・ユウさん。何ですかその目は?」
「デーモンの事知ってて黙ってただろ。サプライズにしては酷くないか?」
するとメノウはそっぽを向いて口笛を吹き始める。
しかも何処で覚えたのか俺が知るアニメのエンディング曲だ。
緊張感を崩すのなら絶好のチョイスだが俺はそんな事では騙されんぞ。
俺は立ち上がるとメノウの頭を左右から拳で挟みグリグリと万力の様に締め上げた。
「ぎゃあああーーーー。ごめんなさい。もうしませんから許してください。ああーーー頭蓋が、頭蓋が割れるーーー。」
俺はその叫びを聞きながらしばらくはお仕置を続けた。
そしてメノウから手を離した時には肩で激しく呼吸をしながら床に這いつくばっていた。
なんだか目が死んいる様に見えるが自業自得だろう。
そして俺は次にその横の天使に視線を移した。
「君がさっきアキトが倒したデーモンが天使になった子かな?」
その天使はエメラルドの様な鮮やかな髪に青い瞳。
身長はメノウと同じくらいの150センチ程度しかない。
体はスレンダーで目はなんだか眠そうにトロンとしている。
しかし、彼女は俺を見ると肩をビクンと跳ねさせてアキトの下に走って向かった。
そして袖を掴むとその後ろに隠れてしまう。
どうやら今のを見て怯えさせてしまったようだ。
まあ、もともとアキトが倒したデーモンが変化した天使なので問題は無いだろう。
一緒に行動していればすぐに普通に接してくれるようになるはずだ。
そしてその光景にアキトは苦笑を浮かべ、天使はアキトの袖を軽く引き声を掛けた。
「メノウから聞きました。だから私は貴方に付いて行きたい。その・・私でも良いですか?」
なんだかメノウに比べるととても謙虚に見える。
こうして見ると天使と言っても個性が分かれるようだが床に倒れて放心してる奴よりは真面そうだ。
そしてアキトは頷いて答えると天使は笑顔を浮かべその手を強く握った。
「なら契約はなされました。私は貴方の天使として全力でサポートします。これから一緒に頑張りましょう、私の勇者様。」
(勇者?何かの例えだろうか。夢見がちな性格なのかな?)
「よろしく頼む。後で仲間も紹介するからそれまではのんびりしておいてくれ。」
「分かりました。それと名前を付けていただいても良いですか?」
「ああ、すまない。それじゃあ君の名は楓にする。花言葉は美しい変化と大切な思い出だ。これで良いか?」
「カエデ・・・カエデ・・・。分かりましたマスター。これからよろしくお願いします。」
「ああ、よろしく頼む。」
そして二人は朗らかに笑うとアキトも立ち上がった。
しかし俺達の次の行動は既に決まっており、スフィアの両親を見つけ出し救わねばならない。
そして、俺達が行動を起こそうとした時、予想していなかった事が扉の向こうで巻き起こった。




