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52 助けた少女

俺はアキトから連絡を貰いヘザーをダウナーの商館へと送っていた。

そして到着するとそこには町の兵士が集まっており館の死体を処理していた。

どうやら異常に気付いた誰かが通報したようだ。

ヘザーは宿を出る前に老婆の姿に変わっているので年寄りを演じながら兵士へと声を掛けている。


「ちょいとアンタ。私の事は知ってるね?」


兵士はヘザーを見ると表情を緩め、胸に手を当てて敬礼をした。

どうやら彼女は周りからも慕われている存在の様だ。


「存じ上げております。ちょうど今から誰かを呼びに向かわせるところでした。そちらから来ていただいて助かります。状況を説明しますので皆様も中にお入りください。」


そしてヘザー達はそのまま庭に作られている仮設テントへと案内されていく。

俺も中に入ると周りを見回しアキトたちを発見することが出来た。


「アキトたちはどういう扱いなんだ?」

「俺達は通りすがりのAランク冒険者だ。偶然スケルトンの大量発生に出くわして身を呈して町を救った英雄だな。まあ、概ね間違って無いと思うぞ。」

「それならすぐに帰れるのか?」

「ああ、泊ってる宿は伝えてあるから何かあったらあちらから来ると言っていた。こういう時だから冒険者が優遇されている町で助かったよ。」


そして俺達は兵士に帰る事を伝え宿へ戻った。

すると宿に帰って来たのを知ったアリシアがこちらに駆け寄って来る。


「ユウさん。あの子が目を覚ましました。」


しかし、そう言ったアリシアの顔は悲しそうに歪んでいる。

するとその後ろから今度はメノウがやって来た。


「ユウさん。少し話があります。アキトさんも来てください。」


その様子に俺とアキトは真剣な顔になり頷きを返すとメノウについて階段を上がる。

そして俺達は3人で部屋に入るとそこには助けた少女が目を開けていた

しかし、その目は虚ろで瞬きはするがまったく他の反応が無い。

それに彼女の腕にはまだ痛々しい注射痕が残っており、解毒薬で治ると思っていたが無理だったそうだ。

そのためライラはあの解毒薬を調査し、完璧な物を作ってみると言っていた。

本当に俺の彼女は頼りになる。

これは俺もライラに頼られる程の男になるために頑張らなければならない。


そして反応のない少女の横に移動するとメノウは状況説明を始めた。


「ライラさんの鑑定で彼女の名前はスフィア。年齢が14歳である事までは分かりました。現在の彼女は完全に心を閉ざして夢に囚われた状態です。しかもその夢は悪夢の様で今も彼女は夢の中で苦しんでいます。そして心は既にボロボロで何時壊れてもしまってもおかしくありません。」

「壊れるとどうなるんだ?」

「次第に生命活動が弱まりいずれ死にます。体ならともかく心が壊れた者を救う手段は天使にもありません。」

「しかし、君が俺達を呼んだと言う事は何か手段があるのか?」

「1つだけあります。ユウさんとアキトさんが彼女の夢に入りそこから助け出します。ただ、夢とは言えそこで死ねば実際に二人も死んでしまいます。それでも行かれますか?」

「俺達の死はどういう状況で起きるんだ?」

「夢の中なのでダメージを負っても肉体へのダメージは少ないです。心が完全に折れた時が死ぬ時だと考えてください。」


(すなわち夢で怪我をすると多少なりと体も傷付くと言う事か。そちらは薬か魔法でどうにかなりそうだな。)


実際に思い込みで体に変化が起きるのは珍しくないので納得できる現象だ。

しかし、昔に読んだ漫画の様に悪夢へ直接立ち向かう時が来るとは思わなかった。

そして俺は普段通りに了承を示しアキトに視線を移した。


「俺は行っても良いぞ。アキトはどうするんだ?」

「俺も当然行かせてもらう。日頃から鍛えている精神力を見せてやろう。」


どうやらアキトも行く気になったようだ。

先程戦って来たばかりだというのにタフな事だ。

そして俺達はスフィアの横にあるベットに入ると目を瞑った。


「それではお二人を彼女の夢に導きます。気分を落ち着けてください。」


俺達は大きく深呼吸をして精神を整える。

今の時点では眠気は少ないが他人の夢に入るのは初めてなので少し緊張してくる。


「それでは行きます。必ず生きて帰って来てください。コネクト開始!」


その瞬間、体が闇に落ちて行くような感覚に襲われた。

風も音もなく、ただ感覚のみの世界。

しかし、気が付くといつの間にか俺は地面に足を付け何処かの町の中に立っていた。

そして俺の横には同じようにアキトが並んでいる。

落ちていたのに急に足の裏に地面の感触があると凄く違和感を感じる。

それに周囲には人の気配は一切なく、あるのは街並みと血の様に赤い空。

夕焼けと違いそこには幻想的な美しさは無く、禍々しい気配を感じる。

そして周囲を観察していると頭の中にメノウの声が響いた。


『そこがスフィアが見ている夢の中です。もうじき彼女が現れるはずです。』


するとメノウの言葉通り俺達の前に黒ずくめの男たちが走って来た。

その姿から俺達がこの大陸に来てから何度も襲ってきた奴らの仲間だろう。

しかし、男たちはこちらを無視して傍にある家に押し入った。

そして中からは女性と思われる声と少女の幼い声が聞こえて来る。


「誰ですかあなた達は・・・!」

「ママ―・・・!」


しかし、声は一瞬で消え去り男たちは先ほどまで持っていなかった麻袋を担いで現れた。

どうやら誰かを誘拐して来たようだがここはスフィアの夢の中だ。

その中に彼女が入っている可能性は高い。

しかし、俺達が手を伸ばすよりも先に世界が闇に包まれ風景が切り替わった。

恐らくスフィアが気絶した事でこの間の記憶が無いのだろう。

そのため彼女にとっては一瞬でこの場所に移動した事になっているようだ。

そして、今の場所は何処かの地下通路。

左右は石壁に囲まれ、窓もなく気温も低い。

薄暗く、灯となる魔道具が等間隔に並んでいるが数が少なく通路での明暗が別れている。

しかもここには赤い霧の様な物が立ち込めていた。

俺はそれを見つめ鑑定を使用してみる。

すると鑑定は機能し俺にその正体を教えてくれた。


『呪いのミスト』


どうやらこれは彼女を取り込んでいた呪いの残滓のようだ。

彼女の心に憑りつき今も彼女を苦しめているのだろう。

俺は外から対処できないかメノウに声を掛けた。


「メノウ、スフィアにはまだ呪いが残っているようだ。外からどうにか出来ないか?」

『心を閉ざしていると浄化の光が心の奥まで届きません。今はユウさんで対処をお願いします。』


白魔法はレベル10まで上げているのでそれなりに浄化が使える。

俺は手を翳すと周囲一帯の赤い霧に浄化を掛けた。


「浄化。」


すると周りから赤い霧が消えるが一方の通路の先から再び霧が押し寄せ周囲を赤く染めた。

どうやら根源が存在するようだがそれよりもアキトは大丈夫だろうか?

俺には高レベルの呪い耐性があるが彼には無いかもしれない。


「これは呪いの霧だけど大丈夫か?」

「ん!?少し待ってくれ確認する。」


そう言ってアキトはステータスを開いて確認を行っているようだ。


(アキトのステータスには告知機能は無いのか。俺は戦闘中などの時には知らせてくれるんだが。)


アキトはステータスを確認し終えたのか視線を俺に戻した。


「呪い耐性のスキルレベルが5まで上昇しているな。状態異常には掛かっていないので大丈夫だろう。」


どうやらアキトも呪いのレジストに成功しているようだ。

以前のマンイーターの時には対応できていなかったが今回は安心できそうだ。


(それにしてもアキトも成長速度が速いな。夢の中だからか?)


俺達はその後、霧が湧き出る方向へと進んで行った。

すると次第に周りから小さく弱々しい声が聞こえ始める。


「痛い・・・やめて・・・助けて・・・死なせて・・・」


その声は先ほど聞いた少女の声音と同じものだ。

そして更に耳をすませば他にも二人ほどの叫びが聞こえた。


「娘に手を出さないで・・・きゃーーー!」

「俺が全ての責め苦を受ける。だから家族には手を出すな・・・ギャーーー!」


どうやら言葉からして他の二人はスフィアの両親だろう。

そしてその叫び声に呼応する様に赤い霧も勢いを増していく。

どうやら目的地は近いようだが霧が濃くなり視界が悪くなっていく。

そのため俺は周囲の視界を確保するために浄化を使い霧を消し去った。

すると少し先にはこの通路の終わりがある。

どうやらそこがこの通路の終着点のようだ。

そこには薄い霧が立ち込めるだけで視界は開けている。

そしてそこにはスフィアと複数の何かがいるようだ。


俺とアキトは部屋の手前からその中を覗き込み中を確認する。

すると中には醜く歪んだ手足を持った何かが蠢いていた。

そしてその横には一糸まとわぬ姿のスフィアが石の台に固定されている。

しかもその腕には既に無数の針を刺した後がありそこからは血が流れ出ていた。

そしてその血が赤い霧へと変わり部屋から流れ出ている。

その量は彼女の苦しみにより変化するようで激しい叫びを上げる程に多くの霧を生んでいる

今の彼女が受けている傷は片耳が無く腹が何かで抉られている。

そして今も次の拷問として爪が剥された。


「もう嫌ーーー。お願い私を殺して!。」


しかしそう叫んだ瞬間に彼女からは大量の赤い霧が発生し部屋を満たした。

そしてそれは自然と流れ始め通路から外へと向かって行く。

するとスフィアが痛みと出血で意識がもうろうとし始めた時、奴らは小瓶を取り出した。

それをスフィアに見せつける様に顔の前に持って行くと彼女は半狂乱になり暴れ出した。

俺達は毒かと最初は思ったがそれは大きな間違いだった。

奴等はスフィアの口に管を押し込み無理やりそれを流し込むと傍にある器具を手にする。


「嫌・・・もう死にたいの。傷を治さないで・・・。」


すると次の瞬間、彼女の体が驚異的な勢いで回復し始めた。

その効果は俺達が持つ秘薬の効果を遥かに上回っている。

そして次第に回復する体を見て彼女は絶望に顔を染めた。

これでは新たな痛みを再び一から味わう事になってしまう。

その瞬間、再び赤い霧が発生するがその量は拷問を受けた時の比ではない。

まるで噴煙の様に発生した霧は俺達の視界さえも赤一色に染め上げた。


『呪い耐性のレベルが9に上昇しました。』

『呪い耐性のレベルが10に上昇しました。』


どうやらこの霧にはかなりの呪いの力が含まれているようだ。

耐性を突破し、俺の体に痛みが走る。

そしてステータスを確認するとそこには呪いの文字が刻まれていた。

初めて呪いに掛かったがどうやら呪いの部分をステータスで調べる事が出来るようだ。

確認するとそこには『激痛付与』『精神汚染』と書かれている。

どうやら痛みを与え、精神を蝕む呪いのようだ。


『痛覚耐性を習得しました。』

『痛覚耐性のレベルが2に上昇しました。』

『痛覚耐性のレベルが3に上昇しました。』

『痛覚耐性のレベルが4に上昇しました。』

『痛覚耐性のレベルが5に上昇しました。』


『精神耐性を習得しました。』

『精神耐性のレベルが2に上昇しました。』

『精神耐性のレベルが3に上昇しました。』

『精神耐性のレベルが4に上昇しました。』

『精神耐性のレベルが5に上昇しました。』


どうやら耐性を得られたようでそれと同時に痛みと精神が落ち着いて行く。

俺は再び周囲を浄化すると横でアキトが蹲っていた。

恐らく呪い耐性が低かったので俺よりも強い苦しみを感じたのだろう。

顔からは血の気が引き大量の冷や汗をかいている。

しかし、ここで手を出す訳にはいかない。

アキトの今の成長速度なら大丈夫なはずだ。


その予想が当たったようにアキトは汗を流しながらも立ち上がり大きく息を吐いた。


「みっともない所を見せた。もう大丈夫だ。」


アキトの状態を見れば今もまだ顔色は悪く強がっているのが一目でわかる程だ。

しかし、今は絶好のチャンスでもある。

奴等は今、次の拷問器具を準備しているようでスフィアは無傷のままだ。

そしてどうやら次は火責めに切り替えるらしく準備してある高温の火鉢に金棒が持ち込まれた。


俺はスフィアを助けた時の事を思い出した。

彼女には酷い火傷の痕があり、それは下腹部から下に集中していた。

どうやらこれで受けた痕だったようでスフィアは歯を鳴らして恐怖に染まった顔でそれらを見ている。

おそらくは呪いの核にされる前にこの拷問を受けて使い捨てられたのだろう。

そのため碌な治療もされず長い時間だ痛みと苦しみを味わったはずだ。

しかし、最後に受けた拷問がゆえにその記憶は鮮明に焼き付いている。

奴等はスフィアに見せつける様にゆっくり準備をしながらも耳障りな声で笑っている。

それを見て彼女の顔には絶望が浮かび上がった。


しかし、情報収集の時間は終わりだ。

俺とアキトは武器を手にして部屋へと飛び込んだ。


「悪夢の時間は終わりだ。スフィアは解放してもらうぞ!」


俺の声を聞きスフィアは絶望したままの目で俺達に視線を向ける。

その目にはいまだに希望は無くただ風景を見ている様に視線が定まっていない。


(もしかして俺達が見えてないのか!?)


「行くぞアキト!」

「任せろ!」


俺達は一気に駆け寄ると剣を振るい奴らを切り裂いた。

しかし、その傷はすぐに再生し何も無かったかのように奴等はその場に立ち上がる。

それが何度も何度も続きあまりの手応えの無さに俺達は一旦距離を取った。


「おかしい。手応えが無さ過ぎる。」

「そうだな。何か決定的な物を見落としている気がする。」


すると再びメノウからの声が届いた。

どうやら俺達が苦戦している事に気付いたらしい。


「彼女との接触には成功したみたいですね。」

「ああ、でも敵が倒せない。どうなってるんだ。」

「それは二人がスフィアから認識されていないからです。そこは彼女の世界です。彼女が認めない、認識しない者は影響を与えることが出来ません。どうにかして彼女の認識を得てください。」


そう言われてもいったい何をすれば認識されるのかが分からない。

そして悩んでいる間にも拷問の準備を終えた様だ。

奴等の一人が火鉢から焼けた鉄棒を取り出すとそれをスフィアに見せつける様に顔に近づけた。

その途端に彼女の目からは涙が流れ落ち、そいつは焼けた棒でそれを掬い取った。


『ジュッ!』

「ああああーーーー!」


そして鉄棒は頬を掠めそれと同時に彼女は悲鳴と人の肉が焼ける臭いをあげる。

それを見てもうスフィアの心が限界なのを感じ取り俺は覚悟を決めた。


「悩んでいる時間はないな。」


俺は駆け出すと金棒を払い除けて彼女を抱きしめた。

年齢に比べると体が良い債のでこれなら俺がこうしていれば簡単には手を出せないだろう。


「おい!何をやっている!」


するとアキトから慌てた声が聞こえて来るがスフィアの心は俺達が来る前から既にボロボロだと聞いている。

これ以上痛みが与えられると壊れてしまうかもしれない。

それにこれは彼女が最後に受けた拷問の可能性が高い。

ならこれが彼女にとって最後の拷問になるかもしれない。

しかし俺が彼女を胸に庇っても奴らの手は止まることは無かった。


『ジュワーーーー!』

「ああああーーーー!」


そして俺の背中はスフィアの代わりに焼き鏝が当てられ激しい痛みが伝わって来る。

さらに同時に今まで感じた事のない程の痛みが俺の精神を直接殴り付けるのを感じる。

これがメノウの言っていた精神へのダメージか!


『痛覚耐性のレベルが6に上昇しました。』

『痛覚耐性のレベルが7に上昇しました。』

『痛覚耐性のレベルが8に上昇しました。』

『痛覚耐性のレベルが9に上昇しました。』

『痛覚耐性のレベルが10に上昇しました。』


『熱耐性を習得しました。』

『熱耐性のレベルが2に上昇しました。』

『熱耐性のレベルが3に上昇しました。』

『熱耐性のレベルが4に上昇しました。』

『熱耐性のレベルが5に上昇しました。』

『熱耐性のレベルが6に上昇しました。』

『熱耐性のレベルが7に上昇しました。』

『熱耐性のレベルが8に上昇しました。』

『熱耐性のレベルが9に上昇しました。』

『熱耐性のレベルが10に上昇しました。』


スキルのレベルが上がり多少は楽になったが数百度の熱に人間が耐えられるはずがない。

今も背中は鏝に焼かれ煙を上げていた。

アキトはそれを止めようと必死で剣を振るうが霞を切る様に剣は通り抜け奴等の手と笑い声は止まらない。


『再生のレベルが7に上昇しました。』

『再生のレベルが8に上昇しました。』

『再生のレベルが9に上昇しました。』

『再生のレベルが10に上昇しました。』

『再生が高速再生に進化しました』


これで傷は治るがこの世界ではたいして問題ではない。

傷を負っても精神さえ耐えられれば死ぬことは無いはずだ。


『精神耐性のレベルが6に上昇しました。』

『精神耐性のレベルが7に上昇しました。』

『精神耐性のレベルが8に上昇しました。』

『精神耐性のレベルが9に上昇しました。』

『精神耐性のレベルが10に上昇しました。』


これだけスキルレベルが上がればしばらくは耐えられる。

そして下に目を向け、スフィアの顔を見るとそこには僅かだが希望の色が垣間見えた。


「スフィア助けに来たぞ!俺達を見ろ!」


俺は久しくした事のない程に声を荒げスフィアに語り掛ける。

するとその目に初めて俺の顔が写り込みその色を取り戻した。


「あ、あなた達は誰ですか?」


そしてその瞬間、アキトの剣が初めて敵に対して有効に働いた。


「ギィエーーー!?」


それと同時にアキトの剣は奴等を切り裂き呆気なく霧散させる。

どうやら俺達が認識される事でこの世界に影響を与えられるようになった様だ。


「俺達は君を助けに来た。一緒にこの夢から脱出するぞ!」


俺達はスフィアの体を解放しながら自分達の目的を説明する。

しかし、夢の中だからか理解がなかなかしてもらえず、会話が上手く成立しない。


「夢?ここは夢なのですか?なら外でママとパパが待っていますか?」


そして突然出てきたその問いに、咄嗟に答える事が出来なかった。

夢とは言え恐らくこれは彼女が受けた現実が元になっているのだろう。

それなら彼女の両親はいまだに何処かの地下に囚われているはずだ。

だが、それはまだ生きていればという前提が必要になる。

そのため俺は彼女に現実を話す事にした。


「これは夢だが君が受けていた苦しみが元になっている。だから君の傍には両親はいない。でも現実に戻ればすぐに助けに向かう。信じて付いて来てくれないか。」


俺は嘘を言うのが嫌いだが今はこう言うしか手段がない。

それに今は嘘かもしれないがそれを現実にしてしまえばウソではなくなる。

そしてスフィア落ち込むかと思ったが力強く頷きを返してくれた。


それに彼女は長い苦しみの中で急に現れた俺達を信じて希望を託してくれた。

それを裏切る事はしたくないので、まずはここからの脱出を阻む真の敵をぶっ飛ばさなくてはならない。


すると周囲が激しく揺れ始め、ここに来た時と同じように風景が切り替わる。

そして気が付けば俺達が最初に降り立った場所へと帰って来ていた。

しかし、俺の右手にはワンピースに身を包んだスフィアが強く俺の手を握っている。

そしてその目にはしっかりと力が宿り、空を睨みつけていた。


すると赤い空が渦を巻き、一点に集まり始める。

恐らくあの赤い雲は全てスフィアから溢れ出した赤い霧なのだろう。

そして、一点に集中した霧は次第に人の姿になり俺達の前に降り立った。


「よくも私の世界を壊してくれたな。そのガキは返してもらうぞ。」


そう言って現れたのは禍々しい貴族の様な服を着た男だ。

その背には蝙蝠の様な翼が生えており、まるでアデルのようだ。

俺が奴の正体を確認するとそこには『悪魔族・中位デーモン』と表示されている。

どうやらスフィアには悪魔が取り付いていたようだが、それならメノウはなんで何も言わなかったのだろうか?

彼女なら俺達を送る前に気付いているはずだ。


そして俺はいつもと違うメノウの行動に気付きアキトに顔を向けた。

するとその顔には獲物を見つけた猛獣の様な笑みが浮かんでいる。

それだけでメノウの今回の目的に気付くことが出来た。


「ユウ、すまないがサポートを頼む。こいつは俺の獲物のようだ。」

「分かった。後ろから応援してるから頑張れよ。」


俺はアキトにデーモンを譲るとスフィアと一緒に後ろへと下がる事にした。

どうやら今回のステージはアキトの為に用意された場所のようで俺は最初から補助として送り込まれたらしい。

ただアデルの時は能力面から戦闘に参加できずに後ろから支援してもらっていた。

それなので今回は互いに立ち位置を変えて参戦を挑むのも良いだろう。

するとスフィアは握る手に力を入れて心配そうな顔で俺を見上げて来た。


「あの人、大丈夫なの?」

「アキトは強いからスフィアが頑張って応援すれば大丈夫だよ。だから一緒に応援しよう。魔法は使えるかな?」

「少しだけなら白魔法が使えるよ。」

「それは凄いな。俺が君くらいの時には魔法どころか剣も握った事も無かった。だから自信をもって魔法を使うと良い。」

「うん、頑張る!たくさん応援してパパとママを早く助けてもらうの。」


そう言って力強く頷くと俺達は足を止めてアキト達へと顔を向けた。

すると既に二人は剣を構えて睨み合っている。

しかし、スフィアの応援がどれ程効果があるか楽しみだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 年齢に比べると体が良い債のでこれなら俺がこうしていれば簡単には手を出せないだろう。 ↓ 年齢に比べ体が小さいので、俺がこうしていれば、簡単には手を出せないだろう。
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