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51 もう一つの奴隷商館

俺達が宿に着くとライラとメノウが外で一緒に出迎えてくれた。

しかし外は寒いので軽く声を掛けてみんなで中に入っていく。

するとライラはヘザーに近寄りさっそく声を掛けた。


「私はライラ、あなたがヘザーさんね。」

「ええ、でも私の事はヘザーで良いわよ。」


現在、彼女の姿は老婆ではない。

あの姿はこの町では目立つため俺達と出歩いていたのを知られるとそれだけで話題になってしまう。

そのため、変身していない美しい女性の姿をしていた。

その姿は髪も瞳も日本人の様に黒い。

しかし、顔立ちはモデルの様に美人で鼻は高く頬の線は顎にかけスラリと細くなっている。

目は切れ長で鋭いが軽く笑顔を浮かべている為、和らいで親しみやすい。

身長は165とこちらの世界の女性としては低めだがそのインパクトのあるボディーがそれを感じさせない。

変身スキルで盛ってはいないと思うがこの姿で昼間に出歩けば注目の的だろう。


「あなた、今変な事考えてたでしょ。」


すると突然ヘザーからそんな言葉とジットリとした視線を向けられてしまった。

しかし、どうして女性とはこうも鋭いのだろうか。

本人に問いたいがそれをすると彼女の言葉を肯定しなければならない。

仕方なく俺は誤魔化して視線を逸らす事にした。


「カンガエテイマセンヨ。」


するとジト目は睨みに変わるがその顔をすぐに笑顔に変わる。

どうやらこの場は上手く誤魔化せたようだ。


「フフ、そんなあからさまにしてるからすぐにバレちゃうのよ。男ならもう少し嘘が上手にならないと。彼女?奥さん?に手玉に取られちゃうわよ。」

(やっぱり駄目でした・・・。)


どうやらさっき言っていた相談に乗るという話の延長のようだ。

まあ、ヘザーが笑っているので少しは警戒が解けたのだろう。

ただ、この際だから開き直って反論をしておこう。


「別に嘘が下手でも良いんですー。やましい事はしてないからバレても気にしませんー。」


女性を観察して胸で視線を止めてしまうのは男の本能の様な物だ。

意志の力では如何ともし難く、人によっては男性の方が被害者だと言う者まで居る。

まあ、それは相手の服装にもよるが俺はそこまでの極論を言うつもりは無い。

しかし俺の態度が面白いのかヘザーはクスクスと声を抑えて笑っている。


「まるで家の子供みたいな事を言うのね。これだと他のお仲間も苦労してそう。」


するとどういう訳か周りから一斉に苦笑が向けられてしまった。


(おかしいな。俺そんなに苦労掛けてるだろうか。)


そう思いライラとメノウに視線を向けてみる。

するとライラからは温かい視線を向けられ、メノウからは満面の笑顔を向けられてしまった。


(あれ、メノウが笑顔を浮かべるって事はもしかしてかなり苦労掛けてる?)


俺はメノウの笑顔に不安に感じながらも周りでは俺を置き去りにして話が進み始めた。

それに女性ばかりだからか、アウエー感がヒシヒシと伝わって来る。


「それではお茶の準備がしてありますのでこちらにどうぞ。」

「ありがとう。それではご馳走になるわ。」


そしてメノウはライラと一緒にヘザーを連れて部屋へと向かって行った。

すると、それを確認してアキトが俺の横へとやって来ると周りに聞こえない様な小声で変更された予定を伝えてくる。


「俺達は今からダウナーの所に調査に向かう。ヘザーの言った事が真実か確認しないといけないからな。お前はここに残って警戒をしておけ。」


アキトの行っている事は正論で非の打ち所がない。

だが何処となく俺が行くとまた厄介ごとになりそうだからここに残れと言われている気がする。

それは真実なので反論は出来ないがヘザーの事は俺も気になっているので素直に頷きを返した。


「それなら任せるよ。何かあったら連絡してくれ。」

「・・・・・分かった。完璧に仕事をこなして来る事にする。」

「おい。その間と当てつけの様なセリフは何かな。確かに俺は失敗したが。」

「いや、他意はない。結果は予想外だがお前は良くやったと思っている。『普通』はこうはならないからな。ヘザーの言っている様にあちらが黒なら完璧に仕事をしなければ失敗が飛び火する可能性もある。それだけだ。」

(ならどうしてそこで『普通』と強調しているんだ?)


俺はアキトの言葉に微妙に納得をすると彼らにダウナーの件を任せヘザーの許へ向かった。

しかし部屋に入るとそこは人外の魔窟と化していた。


シラユキはオオカミの姿になり床に寝そべり、そのお腹ではホロが犬の姿で寝息を立てている。

ハルはマーメイドの姿に戻り、メノウは翼を広げてお茶やお菓子を食べながら談笑している。。

ライラの姿は変わらないがドラゴニュートでアリシアはエルフだ。

その中で厳密に人間なのは俺とアヤネの二人だけでイソさんは子供たちの護衛でこの場にはいない。

こうして考えるとかなり人外が増えたものだ。


そしてその中でヘザーは楽しそうにお茶を飲んでいる。

すると俺が入って来た事に気付きこちらに来いと猫の様な仕草で手招きをした。

俺はそれに従い空いている席に着くとメノウがカップを準備してお茶を注いでくれる。


「ありがとうメノウ。お前も適当に寛げよ。」

「はい。」


そう言ってメノウも席に戻ると腰を下ろし再びお菓子を食べ始めた。

その音を聞き、ホロはムクリと起き上がると軽快な足取りでメノウの横にお座りをする。

人になって自分で食べればいいのに犬の時の癖なのかこの姿の時はああやってオヤツをくれるのを下から見上げて待っている。

今では威圧も高レベルなのでその目力は半端じゃない。

恐らくは一般人でホロに見られて耐えられる者は居ないだろう。

確実にスキルの無駄使いだ。

しかし、メノウはホロの威圧に負けるほど弱くはない。

その為ちゃんとお座りとお手をさせてからオヤツを与えている。


「はいご褒美ですよ~。」

「ワフ~!」


すると夜と言う事もあってホロは控えめに喜びの雄たけびを上げる。

そして一つ貰うと標的を変えてヘザーの下にやって来た。


すると今度はお座りではなくその場にコテンと横に転びお腹を見せる。

そして必殺の前足でクイクイ!を披露し撫でろと催促をした。


「仕方ないわね~。」


ヘザーは苦笑を浮かべながらも何処か楽しそうにそのお腹に手を伸ばし優しくと撫で始める。

ホロは幸せそうに目を細めるとその手を受け入れ体を捩って撫でて欲しい所を自分で調整する。

そしてしばらく撫でているとホロも満足したのか俺の横まで移動して来てそこで丸まって目を瞑った。

どうやら夜も遅くなってきたのでもうお眠の時間のようだ。

俺は毛布を出してそれを置くとホロはその上に移動して器用に包まった。


「お休みホロ。」

「ワウ~。」


そして場も整ったので俺達はヘザーと会話を始めた。

ホロのおかげで和んだ空気はそのままにお茶を飲みながら他愛無い会話を交わす。

その結果、何故か話の流れから彼女が俺達に同行する事になってしまった。

彼女曰く。


「私もそろそろ引退する歳になってるの。」


ようは彼女のこの町での姿は老婆なのでそろそろ仕事を若い者に任せなければ怪しまれるとの事だ。

確かにいつまでも元気に働く老婆などあり得ない。

それが長ければ長い程、その存在の異常性に気付く者が現れるだろう。


「もう、引継ぎもほとんど終えてるからあなた達に同行しても問題ないわ。それに昔のこの姿を知ってる人もまだ生きてるから普通に生活するためには新しい土地に行かないといけないしね。」


彼女はこう言っているがどうやら俺達との話で日本にも興味を持ったようだ。

それに昨今のファンタジー小説などのおかげで日本なら彼女が来ても軋轢は少ないだろう。

それに彼女の歳『ギロリ!』・・・ゲフンゲフン。

彼女の人生経験ならきっと今の日本で必ず役に立つはずだ。

総理に相談すれば良い仕事も紹介してくれるだろう。


「それなら別に付いて来るのは構わないけど、ここにはもう帰って来れないかもしれないぞ。」

「大丈夫よ。追われる事も多かったからそういう事は慣れてるわ。」


ヘザーはそう言って少し寂しそうな顔で答えた。

気にはなるがここは彼女の覚悟を尊重しよう。

ならば俺の今できる事を全力でする必要がありそうだ。


そう思った時。

隣の部屋から強烈な気配が発生した。

どうやらアキトが総理に何かを伝えた様だ。

こちらにも遅れてメールがあり「総理を借りる」と言って来た。

恐らくこの調子なら今夜中にでも片が付きそうだ。


しかし、一歩遅れる形となってしまったな。

仕方ないから俺は呼ばれていないしこのまま留守番しておこう。

それに目の前で恐怖に震えるヘザーにフォローも必要だろう。

総理達の紹介は明日にしておいた方が良さそうだ。


「い、今の強烈な殺気は何!?ドラゴンの襲撃でもあったの!?」


ヘザーは震える体でなんとか声を絞り出した。

どうやら俺達は慣れてしまったがやはりあの殺気は強烈なようだ。


「いや、あれは俺達の国の代表者が出した殺気なんだ。普段は優しい爺さんなんだけど怒るととても怖い。剣の達人で殺し合いなら俺達の中で一番強いかもしれない。」

「そ、そうなのね。あなたの国ってのんびりしてるのかと思ったけどやっぱり国の中枢は魔窟なのかしら。目を付けられない様に大人しくしておかないとダメね。」


まあ、ヘザーなら普通にしてれば問題は無いだろう。

しかし、総理が必要な状況とはどう言ったモノだろうか?

少し気になるのでマップを確認するとその理由が何処となく分かった。

マップには大量の魔物を示す赤い光点がある。

その種類はゴーストとスケルトンであちらの奴隷商館では大事件が発生しているようだ。




しかし、この事件がアキトという勇者がその場に現れたから起きたと言う事を知るのはメノウ以外誰もいない。

アキトすら知らないそのトラブル体質に現場では阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていた。


「ダウナーさん。逃げてください。ここはもう持ちません。」

「何を言っているんだ!商品を置いて逃げられるか。この程度の魔物に何を恐れている。」


確かにスケルトンは弱い魔物だ。

準備さえして挑めば問題はない。

しかし、それは準備をしていればの話でスケルトンには斬撃と刺突に高い耐性がある。

そのためハンマーやメイスなど、弱点である打撃武器が必要だがこの館の護衛に雇われている者でそれを持っている者はいなかった。

彼らは街中で警備の仕事をしているため人間だけを想定した装備しか持っていない。

そのため手元にあるのは剣や槍や弓だけであった。

まさかこんな町の中心近くでゴーストとスケルトンが大量発生するとは考えていなかったのだ。

しかも既に館の中まで踏み込まれているが雇い主の命令で弱点属性である火の魔法が使用できない。

命が掛かったこの場面で愚かとしか言えないが彼らにはそれに逆らう事は出来なかった。

もし、命令に逆らい館の賠償を請求されれば彼らに払う力はない。

そうなれば借金奴隷として売りに出される事になり、もしこの男の所に来てしまえば命を失う確信があった。

彼ら護衛もそれだけの物をここで見てしまっているが為に奴隷商の言葉は拘束力を持ち、逆らう事が出来なくなってしまっている。


もし、逃げるにしても不安材料であるこの奴隷商が死ぬ必要があるのだ。

そして彼らが押し止めているがスケルトンとゴーストの狙いは確実にこの奴隷商である。

彼らはその事に気付いている為、この男を見捨てる機会を狙っていた。

しかし、そんな彼らの前に新たな敵が現れれ逃げる機会を完全に失ってしまう。


「な、ラージ・スケルトンだと!」


ラージ・スケルトンとは複数の骨が寄り集まって生まれる巨大なスケルトン系の魔物である。

形状は核になる素材で変わり人の姿やワニの様な姿。

またはドラゴンの様な姿になる事もある。

しかし、それが発生するには一つの絶対的な要素があった。

それは核となる者は生前高いレベルと強い怨念が必要だと言う事だ。

そしてそういう者に彼らは心当たりがあった。


「もしかしてヨハンじゃないのか?」

「馬鹿な。じゃあ奴の目的は・・・。」

「裏切り者として奴を殺した俺達全員だろうな。」


彼らは先日仲間であるヨハンを殺害している。

そうなった理由は彼らの言う通り裏切りという行為だが、ヨハンは良心の呵責に耐えられなかっただけである。

そのため彼らのしている行いを密告に走ったのだが寸前で捕らえられこの館で彼らに殺されてしまった。

その怨念が彼をスケルトンとして復活させ、更にラージ・スケルトンへと進化させてしまったのだ。

そして彼が密告に走ったのは当然、貴族でもこの国の機関でもない。

彼が向かった先はヘザーの商館であった。

もし、彼女以外の許へ向かえばその情報は握り潰されていただろう。

それ程までにダウナーとこの町は癒着していた。


そして彼らは目の前のスケルトンと戦いながらも部屋に入って来た巨大なラージ・スケルトンを見上げ絶望がその思考を埋め尽くされる。



その頃のアキトたちは初のスケルトンとの戦いで苦戦していた。

スケルトンには痛みを感じる器官が無いため手足を砕いても時間が経てば足りない部分を繋いで復活してしまう。

しかも剣やナイフによる攻撃が効き難く対策に悩んでいた。

ただ、アキトとヒムロは魔刃が使える為2人の攻撃だけは有効である事は分かっている。

そのため2人が中心となって戦っているが手数が足りず仕方なく総理に手伝いを依頼したのである。


そして連絡をして数分で総理が到着した。

しかし、到着してそうそう彼はアキトたちに喝を入れる。


「お前ら不甲斐ないぞ!この手の妖には核になる部分が存在する。それを見極めて破壊するのだ。」


そう言って総理はスケルトンに襲い掛かり頭や胸、腰や肩などを小太刀で破壊して行く。

その際に剣に魔刃を込めている様で一撃で切り裂いているがスケルトンは糸が切れた様に力を失いその場でバラバラに崩れ灰となって消えた。

どうやら総理の言っている事は本当のようだ。


「看破のスキルがあれば核の場所を見極められる。その場所は淡く光っている様に見えるはずじゃ。しかし、ここまでの亡者が発生するとは。ここの奴らはクズ揃いの様じゃな。しかも子供の骨も多いようじゃ。奴隷にされた者が居らず、奴らだけなら殺されるまで放置する所じゃぞ。さあ、お前らも気張れよ。一秒の遅れが人命に関わるぞ!」


そしてアキトたちも必要なスキルを取ると攻撃を再開する。

先程の総理のアドバイス通り、看破を取れば相手の弱点が見える様になったので普段通りの殲滅速度となり溢れていたスケルトンの群れを次第に駆逐して行った。

すると新たな魔物、ゴーストが彼らに襲い掛かった。

しかし、ゴーストは物理攻撃が通用しない。

その為ここでは総理、アキト、ヒムロが中心になって対処を行った。


「チヒロ、ミズキ、フウカは引き続きスケルトンを討伐しろ。俺達が抜かれた時は魔法で牽制してくれれば十分だ。」


スケルトンの数が減った事で部隊としての機能が復活し、指示を出す余裕が生まれて来た。

もともと今回の魔物は弱点さえ分ればアキト達の敵になりえるモノではない。

そして館にまで到着するとまずは奴隷たちがいる場所を探した。

その結果、どうやら奴隷たちはこの館の地下に集中しているようだ。

アキトたちは地下への階段を発見するとその扉を開けて中を確認した。

しかしそこからは酷い匂いが漂って来る。

腐ったような臭いやアンモニア臭など、どう受け取っても劣悪な環境が想像できる。

そのためアキトたちは生活魔法で周囲を浄化しながら階段を下りて行った。

するとそこにはまだ動けそうな者から、既に死にかけている者までもが同じ牢屋に入れられ怯えた目を向けている。

しかもどの奴隷も栄養状態が悪いのか手足はやせ細り、病気の者もいるのか不自然な咳をしている者も多い。

それを見てアキト達は何故魔法という物がありながらここまで酷い扱いが出来るのか理解できなかった。

まさにヘザーの商館とは真逆の環境でありあちらが天国ならこちらは地獄と言えるだろう。


そしてどうやらここにスケルトンは居ないようだ。

しかし、今の状況だと檻の中に死体があれば何時ゾンビ化するか分からない。

現に、この騒動の中でも既に動く力も無いのかピクリとも反応しない者が何人か居る。

そのため目の前の命を救うために迅速な行動が求められる。

アキトたちは彼らを牢屋ごと綺麗にすると鍵を破壊して扉を開けた。


「さあ、早く避難するんだ!」


しかし、アキトたちの声に動く者は一人としていなかった。

どうやら彼らには檻から出ない様に奴隷として命令がされているようだ。

そうなると過去の事例から考えて外に連れ出せばそれだけで奴隷紋が反応し彼らを苦しめる事になるだろう。

仕方なくアキトは現在の状況を鎮静化させるための行動に切り替えた。

ただ、ここで彼らを放置する訳にはいかない。

彼らを手当てする者や護衛する者が必要になる。

そして彼らの対処をする為には専門家の力も必要だろう。

その為にアキトはユウに連絡を入れた。


「すまないがヘザーに協力を要請したい。ここには犯罪奴隷も多い。確認もせずに開放する事は避けたい。」

『分かった。少し待ってくれ。確認をしてみる。』


そして1分もしない内にユウから返事が返って来た。


『問題ないそうだ。ヘザーの商館から人員を派遣してくれるらしい。』

「了解した。分かっていると思うが気を付けてくれ。」


そして電話を切るとアキトは次の指示を出した。


「チヒロ、ミズキ、フウカ。お前たちはここに残って彼らの手当てと護衛をしてくれ。ヒムロは俺と来い。総理、すみませんがもう少し付き合ってください。」

「「「「了解」」」」

「まあ、この際だからな。元凶の腐った果実も見ておくか。」


そしてチヒロたちを残し、アキトたちはダウナーの許へと向かった。

その間にも当然スケルトンやゴーストは居たが対処法が分かっている彼らに敵うはずもなく、即座に討伐されていく。


そして問題の部屋に到着すると、そこには巨大なラージ・スケルトンが人の骨で作られた無骨な棍棒を振り回し護衛の人間を薙ぎ払う所だった。


するとその攻撃に耐える事の出来なかった様で壁に叩きつけられ赤い染みを作ると命を落として床へと倒れ込んだ。

既にそう言った死体が辺りにいくつも散乱しており、残るはダウナーのみとなっている。

彼はアキト達に気付くと焦りに満ちた顔で助けを求めた。


「貴様らが誰かは知らんが今すぐ私を助けろ。礼として大金をくれてやるぞ。」


しかし、ダウナーはその傲慢な性格から、頼むという事を完全に忘れ去っている。

その結果、命令しているとしか思えない言葉をアキトたちへと投げつけた。


「アキトさん。ああ言っているけど助けなくて良いんですか?」

「お前は助けたいのか?」

「いえ、まったく。」


そして、この状況にアキトはおろか総理さえも動きを止めて静観する事を選び取った。

その目には冷たい光が宿り氷の様な視線を送っている。


「何をしている。金が欲しくないのか!クソ、それなら女を付けてやる。それに俺の所に連れて来ればどんな女でも奴隷にしてやるぞ!それならどうだ!」

「総理、立場上助けなくて良いんですか?」

「儂が助けるのは人間と心ある者だけじゃ。儂には奴が醜い餓鬼に見える。」

「そ、そうですか。」


しかし、更なるダウナーの言葉に、3人にはやはり動く気配は無い。

そうしている内にもダウナーは残ったスケルトンとラージ・スケルトンに囲まれ逃げ場を失っていた。

そしてスケルトン達は恨みを晴らすべく、その手に持つ狂気をダウナーに向かい大きく振り上げる。


「ぎゃーーー。助けてくれ。頼む。何でもするぞ。」


しかし、ダウナーが今までそう言った者を救った前例はない。

彼は使い潰されると知っていてそういう相手に奴隷を売っていたのだ。

貴族だろうと冒険者だろうとここで奴隷を買う者は死んでも良い者を購入しに来る。

そして買われて行った者の扱いはまさに物の様な扱いを受けた。

貴族には拷問の玩具にされ、冒険者には魔物を誘き寄せる囮として使用される。

通常そう言った事は犯罪奴隷に対してさえ禁止されているがそれを守る様な者はヘザーの所で真っ当な奴隷を購入している。

そしてここの奴隷たちの環境が特に悪いのはそういう理由があるからだ。

すなわち売られる前に心を折り死んだ方が楽になれると思わせる為である。


そのためここは一部の者、特に心無い貴族から重宝されてきた。

その末路が現在、赤い染みとなって床に広がっている。

ダウナーはスケルトンに滅多打ちにされ、更にラージ・スケルトンの一撃で原型を留めないほどの状態に潰されていた。

もう、これを人間と認識するのは難しいだろう。

あれではゾンビやスケルトンとしてすら復活は無理そうだ。

そして恨みを晴らしたスケルトン達はそのまま灰へと変わっていった。

通常はそんな事はなく恨みが無くなれば無差別に生者へとその矛先を向けるのだが、彼らは最後の意地を突き通し自己消滅したようだ。

そしてその後には悲しく光る魔石のみが残された。


しかしその時、赤い染みとなったダウナーの上に炎が灯った。

それを目にしヒムロは軽い感じに憶測を口にする。


「あれはダウナーのゴーストですかね?」

「多分そうだろうな。ヒムロ、やってしまえ。」

「えー俺がですかー!?」


そう言ってヒムロが嫌な顔をするとゴーストとなったダウナーから怨嗟の声が聞こえ始めた。


「殺す、貴様らは何があろうと殺す。奴隷共も全て道連れだ。この町を死の町に作り替えてやる。」


「・・・・・ファイヤーボール。」

「ギャアアアーーーー。儂の新たな野望がーーーー。」


しかし、復活した直後の事。

ヒムロの容赦ない弱点属性の魔法が言葉の通り火を噴いた。

それにより元々レベルの低いダウナーのゴーストは完全に消滅し、小さな魔石へと変わった。


「まあ、これで結界石の燃料になれば少しは世界の役に立つじゃろう。最後位は人の役に立ってもらわんとな。」


そして、ダウナーは死にこの町に僅かな平和が訪れる事になった。

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