5 ゴブリンの巣
次の日の朝。
俺たちは装備を車に載せて家を出た。
出かける前にリョウタに魔法陣をパソコンに落としてもらうことも忘れずに頼んでいる。
ただ、スキャナで読み込んでも正確に線や文字を表現するためにはちゃんとした修正が必要になる。
しかし俺はそういった処理は苦手なので得意な奴に頼むしかない。
なので結界石を餌にしてリョウタに話を持ち掛けると喜んで引き受けてくれた。
これも適材適所なので別に親友であるリョウタ君を利用しているわけではない。
そして、最近はお出掛けができなかったので今日はホロも連れて出撃する。
もしかしたら戦いになるかもしれないが、たまには広い場所に連れ出して遊ばせてやりたい。
ホロはそのことがなんとなく分かっているのか、朝からいつも以上に落ち着きがなくソワソワしながら誰かに付いては歩き回っている。
そして、まず向かうのは知り合いの精肉店だ。
すでに事前の連絡は入れてあったので店に行くと店長はその前で俺たちを待っていてくれた。
俺は車を降りるとその傍まで移動し笑顔で頭を下げ、朝の挨拶を行う。
「店長、おはようございます。」
「ああ、おはよう。それで昨日聞いた話だがね・・・。」
「はい。」
しかしいつも元気な店長が不安そうな顔をこちらへと向けてくる。
そして開けていた店のシャッターを下ろしてそこに刻まれた幾つもの傷を見せてくれた。
するとそこには何かで殴られたような跡と爪か何かで引っ掻いたような跡が残っている。
恐らくはこの辺りにもゴブリンが現れ、肉の匂いに釣られて精肉店を襲ったのだろう。
しかし、奴らの力ではシャッターを壊すことができず諦めて去ったようだ。
ただ店長にとっては不運なことだが、これのおかげで俺たちの言葉を信じてくれたというわけか。
そして、俺は傷だらけのシャッターを見ながら昨日のうちに説明した話の続きを始めた。
「おそらくこの傷は魔物の仕業で間違いないでしょうね。それと昨日言っていた牧場の方は大丈夫でしたか?」
「それがな、既に牛が一頭と豚が二頭やられたらしい。君たちの話をするとすぐに呼んでくれと言われたよ。それとこれがそこまでの地図になる。任せてしまって悪いがこのままだと俺の店が潰れちまう。だから頼んだぞユウ。解決してくれたら最高の肉を譲ってやるからな!」
「ワン!ワン!」
すると店長からは切実な思いが伝わってくるが、ホロはそちらよりも肉という単語に反応して元気な声を上げる。
その声に犬好きの店長も少し元気が出たのか顔を出しているホロの頭を撫でて笑みを浮かべている。
それに俺もこの店でホロ用の肉を購入することが多いので潰れてもらっては困るのだ。
予定通りにこれから早速牧場に向かい牛と豚を盗んだ魔物を見つけ出そう。
その後、再び車を走らせると地図に従い山の中へと入っていった。
そして牧場の前に到着すると、車から下りて周りを見回し様子を確認する。
するとそこには放し飼いにしているはずの牛の姿はなく、魔物を警戒をして牛舎に避難させているようだ。
しかし、それは一時的な処置にしかならないだろう。
牛舎はそれほど頑丈そうには見えず、ここから見える範囲でも子供が通り抜けられそうな穴が幾つも空いている。
あれではかなり本格的な補強工事を依頼しなければゴブリンたちに侵入されてしまう。
それにこのままなら牛にストレスが溜まってしまい味に影響が出るかもしれない。
俺は早速スキルを使って人を探し反応のある牛舎の中を確認する。
するとそこには一人の男性が牛の世話をしており、餌をあげたり補強用の木板を運んでいる。
俺は他に誰も居ないことを確認するとその男性に声を掛けることにした。
「すみません。精肉店の店長から紹介してもらったユウです。」
「来てくれたか!」
すると男性は勢いよく顔を上げ俺の方へと振り向いた。
しかしあまり寝ていないのか顔には既に疲れが見え、牛を守るためかなり苦労をしているようだ。
そして男性は俺に駆け寄ると太く力強い手で肩を掴みホッとしたような表情を浮かべる。
「話は聞かせてもらっている。俺がここの牧場を管理する郷田だ。お前があの悪鬼どもを退治してくれるのか!?」
正確には少し違うが大まかには間違っていない。
ライラの話では魔物は根絶できないので排除するだけでは不十分だ。
倒してもゲームのように一定時間で新しく生まれ再びここを襲うようになる。
なのでアフターケアこそが大切で、そのために必要なのが魔物の侵入を防ぐ結界石なのだ。
それにこれがいくらの価値があるのかを正確に把握しなければならない。
そのために、この日本では結界石設置の一号牧場になってもらい恩を売って正当な評価と意見を貰う。
そしてここを広告塔にして全国へと宣伝し効果の実証を行なって俺たちが詐欺師ではないという証拠になってもらうのが今回の計画だ。
そのためにはまず今夜の被害を防ぐために結界石を設置しなければならない。
「ゴウダさん。魔物を倒す前に一つ見てほしい物があります。」
「ん?何を見ればいいんだ。」
するとゴウダさんは真剣な顔で俺から離れ、落ち着きを取り戻して聞く姿勢に入る。
そして事前に決めていた流れでライラに声を掛けると結界石を取り出し足元に置いた。
ゴウダさんはそれを見て「何処から出したんだ?」と首を捻り頭に『?』を浮かべる。
「これは結界石と言って魔物を寄せ付けなくする石です。範囲は半径500メートルほど。これの価値を今の危機的状況を踏まえてお聞きしたい。」
するとゴウダさんは説明を理解するなり目を見開いて驚愕するが、すぐに真剣な顔に戻って腕を組んだ。
確か以前に聞いた話だと高価な和牛は一匹で数百万円~一千万円以上はするはずだ。
ここの牛は地元ではブランド牛として有名で部位にもよるがグラム単価で1200円以上はしていた。
その牛の安全を確保するために彼はいくらの値を付けるのだろうか?
「ハッキリ言えば1000万でも欲しい。しかし、被害が出ているのでそこまで出せないのが現実だ。今回は俺個人の意見では500万が限度だと思う。」
そう言って表情を歪めるゴウダさんだがその答えで十分だ。
それに、今回はモデルケースとして安く売るつもりだったのでその値段でも満足できる。
ただその代わりと言ってはなんだが条件を付けさせてもらう。
「それならあなたにはこれを100万円で譲りましょう。」
「ほ、本当か!?」
するとゴウダさんは再び俺の肩を掴んでくるがその手は明らかに震えている。
そして俺を見る目も先程に比べれば真剣みもかなり増していた。
ここで嘘と言えば確実に拳が飛んでくるだろう。
だが俺は嘘などは言っていないので大丈夫だ。
「その代わり他の牧場も紹介してください。ここをモデルケースとして宣伝します。そうすればここの状態を確認して信用もしてくれるでしょう。それとあなたには一応500万で売ったことにします。今回は特別サービスなのでこれは私たちだけの秘密にしてください。」
するとゴウダさんは唾を飲み込むと納得したように大きく頷いてくれた。
これで広告塔ができたので後は次の客が来るのを待つだけだ。
それに高い買い物になるので家などのモデルルームのように直接見てもらえる場所が確保できたのは大きい。
なにせこんな高額な物を突然売り出して誰が信じると言うんだ。
どんな謳い文句を並べたとしても嘘だと決めつけられた挙句に誹謗中傷の的になるのがオチだ。
「それとあなたも今回私たちに同行して魔物を退治してもらいます。それで得る物が沢山あるはずです。」
そして俺はこれからの付き合いも考えて今ある知識をゴウダに伝えた。
別に隠して得することは何も無いし、リョウタを通して必要な情報は分かり次第拡散させるつもりだからだ。
俺たちには知識を持つライラがいるが、新しい常識は共通認識として持っておくに越したことは無い。
するとゴウダさんは何故かホロを見ると外へと走り出してしまった。
「少し待っててくれ。家のロクを連れてくる。」
ゴウダさんはそう言って出ていくと大声で「ロクー」と叫んだ。
そして少し待っていると遠くから大きな犬がやってくるのが見えるが見た目からして秋田犬だろうか。
あの犬種は忠誠心が強く体も大きいのでパートナーにするには適しているだろう。
そしてゴウダさんはロクを引き連れ、牛舎へと戻ってきた。
「こいつは家で番犬をしているロクで、頼りになる俺の家族だな。」
そう言って自慢するようにロクを俺たちに紹介してくれる。
最初はホロと喧嘩をしないかが問題だったが、不審者以外にはとても穏やかな性格のようで互いにニオイを嗅ぎ合うと挨拶を終えて仲良くじゃれ合い始めた。
どうやら互いの相性も良いようでこれなら問題なさそうだ。
そして俺たちは改めて装備を整えると、魔物狩りに出かけていった。
するとここで活躍したのはさっき合流したばかりのロクだ。
ロクは番犬をしている間に魔物のニオイを覚えていたらしく先頭に立って俺たちを誘導してくれる。
それに俺のマップの範囲は50メートルしかないのでそれよりも遠くの相手は感知できない。
その穴を埋めるように大まかな方向をロクが鼻で案内してくれたので、無駄に歩き回ることなく山肌にある洞窟を発見できた。
そこの周辺には魔物と思われる足跡が幾つもあり地面が荒れている。
数の特定はできないが、状況からかなりの数が居るのは確かだろう。
そうでなければ牛や豚を殺して運ぶことができるはずがない。
しかし、洞窟を見たゴウダさんは持っていた地図を広げると地形から現在地を確認して首を捻った。
「こんな所に洞窟なんてないはずだが・・・。」
「そうなんですか?」
「ああ、間違いない。こんな立派な洞窟があると獣の巣になってしまう可能性があるからな。この辺は熊が少ないと言ってもゼロじゃない。だから何年か前に猟友会に協力してもらって周辺の森を調査してもらったんだ。」
それならゴウダがそう言うようにここに洞窟なんて存在しなかったのだろうな。
しかしそれは先日までの話で世界が融合する前の話でもある。
きっと牧場の近くに魔物の巣が世界融合と共に出現してしまったのだろう。
なのでここを確実に潰しておかないと更に被害が増える可能性が高い。
「皆、聞いてくれ。」
「どうしたの?」
「スキルに魔物の反応がある。それに夜ではないけど洞窟の中は真っ暗だ。だから無理をせずに慎重に進んでくれ。」
「分かりました。」
「聞いてた以上にスキルって奴は凄いんだな。それと言ってることはもっともだ。それなら陣形はどうするんだ?」
「俺が先頭を歩きます。ゴウダさんはロクが勝手な行動を取らないように注意してください。それとライラに最後尾を任せたいができそうか?」
「後ろからの奇襲を警戒してるのね。」
「その通りだ。地の利はあちらにあると考えている。ロクとホロの耳と鼻があると言っても洞窟内はニオイが籠り易いし音も反響して方向が掴み難い。下手をしたら一番危険かもしれない。」
「分かったわ。これでも戦闘経験は豊富なの。危険だと言うなら私が適任よ。」
するとライラは危険だと知りながらも殿を引き受けてくれた。
こうして見ると出会った当初は碌でもない奴に見えたが意外と良い奴なのかもしれないな。
そして準備が整った俺たちは隊列を組んで洞窟の中へと入っていった。
明かりは俺が生活魔法のライトで後ろを照らしライラが前を照らすように分担した。
何故ならライラの方が俺よりも魔法が強力で広範囲を照らすことができるからだ。
それに二人で魔法を使っているのはどちらかが魔法を使えない状況になっても光を確保するためでもある。
できれば松明も欲しかったが、現代人には急にそんな物は用意できない。
これは今後の課題として松明だけでなくランプやライトなども準備しておこう。
警備員が使っているライトならいざという時に相手を殴っても簡単には壊れず、武器にもなる。
そしてゴウダさんには足元に落ちている手ごろな石を拾い幾つか持ってもらっている。
別に接近してダメージを与える必要はなく、石を投げてダメージを与えられればその後に俺が殴り殺せば良いからだ。
一応ゴウダさんも牛の世話で使うフォークという農具を持ってきているので魔物を倒すことに慣れれば使えるようになるだろう。
ロクには倒れて死にかけの魔物にでも攻撃してもらってステータスを手に入れてもらう予定だ。
そして中に入り少し進むと俺たちの鼻に先日嗅いだモノに近いニオイが届いた。
これは魔物の放つ独特のニオイで重たく鼻の奥を圧迫するような酷いものだ。
それに獣とは違うその臭いは嫌でも魔物の存在を俺たちに意識させる。
するとロクとホロはその臭いを嗅ぎとると「くしゅん、くしゅん」と揃ってクシャミをしている。
その姿に僅かに和みを感じたため俺たちは少し緊張を解すことができた。
ただしこれは2匹の鼻が無効化されてしまったことの証でもあり、こちらの持っている手札の1つが消されたとも言える。
しかしまだ入り口からほど近い場所なのに緊張ばかりしていては先が持たない。
こんな時に不謹慎かもしれないが愛犬家にとって犬は癒しに最適な存在だ。
その後、俺たちは洞窟を進んでいくと、進行方向の通路から3対の光る何かが近づいてきた。
すでにマップで気付いていたがこうして直接対面すると緊張で手に汗を握ってしまう。
(これも課題だな。帰ったら滑り止めの付いた手袋を買っておかないとな。)
柄には映画や漫画で見る様な滑り止めを巻いてはいるが、手に掻いた汗は意外と滑るので対策が必要だ。
手を守る意味合いでもライラに頼んで革と金属を使い新しい装備を作ってもらおう。
そして光りが近づいてくるまでに今後の対策を考ていると相手がライトの範囲へと入ってきた。
すると光の正体は3匹のゴブリンの目で醜悪な顔でこちらを見てくる。
しかし視線をぶつけ合ったのも束の間のことで手に持つ棍棒を振り上げると躊躇なく襲い掛かってきた。
「「「グギャギャギャ!」」」
隊列は俺を先頭に組んでいて後ろがゴウダさんとアヤネ。
そして一番後ろで後ろがライラが周囲を警戒している。
俺のスキルにも近くにこの3匹以外は居ないようなので、まずは牽制としてゴウダさんとアヤネに石を投げてもらった。
「ギャギャー!」
すると二人の投げた石が見事に命中しゴブリンたちを怯ませ足を止めさせることに成功した。
その隙に俺は一気に駆け寄ると木刀でゴブリンの両腕を殴り持っていた棍棒を落とさせると同時に攻撃の手段を奪った。
殴った時に何かが折れる感触があったので骨でも折れたのだろう。
それに剣術のレベルを上げているので素人同然でも流れるように木刀を振るえる。
俺はスキルの効果を実感しながらゴブリンの足にも攻撃を加えて行動不能にした。
「もう大丈夫だから一旦集まってくれ。」
「ああ。それにしても見事な動きだったな。頼んどいてなんだがここまで手際が良いとは思わなかった。」
「これくらいならゴウダさんもすぐにできるようになりますよ。」
そしてレベル上げが必要なメンバーには念のために一撃ずつ攻撃を加えてもらった。
後は俺が木刀で止めを刺せば終了だ。
これによりゴウダさんもステータスを手に入れることができたので、奥に進む前に説明を行なっておく。
ロクの方はテイムしているわけではないのでまだ確認はできないが、ホロと一緒なら既にステータスを得ているはずだ。
そしてゴウダさんがステータスでスキルを確認すると、俺と同じようにテイムのスキルがあったので後で取得すると言っていた。
俺たちはその後も順調に進み、ゴブリンたちを狩りながら奥へと進んでいった。
それと手に入れた魔石は今日からでも必要なゴウダさんに全て譲る予定だ。
今でも20個を超えているので交渉して何か別の物と交換してもらえば良いだろう。
そして、時計を確認すると洞窟に入り既に1時間が過ぎていた。
その頃になると更にゴブリンを倒しその数も30を超えている。
俺たちはここで落ち着ける場所を見つけると無理をせずに休憩を取ることにした。
敵が弱いと言っても戦いの連続で肉体よりも精神が疲労している。
それにここまでに俺のレベルは2上昇して5になっているので自分を強化する時間も欲しい。
恐らく他の人もレベルが上がっているだろうから安全性を高めるためにも余裕があるうちにスキルポイントを割り振って自身を強化した方が良い。
それと生活魔法のライトと気配察知を継続的に使用しているからかスキルレベルが2に上昇している。
俺は確認後、手に入れたスキルポイントを割り振り、まずは剣術を8から10に白魔法を5から10に上げる。
これで残りのポイントは13なのでまだ取れていないスキルの中から普通に考えて取ることが難しい物を選択する。
そちらも既に決めていて並列思考、身体強化、格闘でいいだろう。
レベルは並列思考を4、身体強化を5、格闘を4にしておく。
これで木刀を失くしてもある程度は戦えるだろう。
そして俺が終わる頃には皆もスキルの振り分けが終わりライラに貰ったお茶を飲んでいた。
するとライラは俺が終わったことに気が付くと手に持っていた2つの紙コップの内の片方を俺に差し出してくる。
俺はありがたく受け取るとコップに口を付け中に入っている程よく冷めたお茶を胃へと流し込んだ。
「ふ~、ありがとう。ここまで考えが回らなかった。」
俺はコップから口を離すと感謝の言葉を口にして伝える。
やはりスキルがあっても慣れない戦闘で緊張し、思考が硬くなっていたようだ。
するとライラは嬉しそうに顔を綻ばせて笑顔を向けてくれた。
「これも経験の差よ。戦闘や探索をするにしても食料と飲み水は持っておいた方がいいわ。最悪、水は魔法で出せるけど食料を現地で調達するのは大変なのよ。」
「ああ、覚えておくよ。」
それにしても普段は子供のようなのにこういう所は年上のお姉さんのような印象を受ける。
しかし知識や技術だけでなく戦闘も余裕でこなせる彼女がどうして世界を融合させようと考えたのだろうか。
こんな世界なら結界石を作るだけでも左団扇な生活が保障されるはずだ。
そして俺は疑問を感じていたがここは魔物の巣の中なので雑念は消し去り、20分ほど休憩して再び洞窟の奥へと進み始めた。
その後は更に30分ほど進みゴブリンを20匹以上倒したところで前方に大きな空洞が現れた。
俺のマップにも入りきらないのでおそらく50メートルはあるだろう。
俺たちは警戒を強め部屋の前で止まると中を静かに覗き込んだ。
その部屋はここまでの通路と違い明るく中を見渡すことができた。
「デカいのがいるな。」
俺が見た先には普通のゴブリンの3倍はありそうな巨大なゴブリンがいた。
その横を見れば牛と豚と思われる骨と人間と思しき骨が散乱している。
おそらく牛と豚はゴウダさんの牧場から盗んできたモノの成れの果てだろう。
だが、人間は何処からだろうか?
既に犠牲者が出たのか、それともあちらの世界の住人か。
それに数も多くここに来るまでに50匹以上は倒しているのに大部屋の中にはまだ50匹以上のゴブリンが残っている。
しかも最悪なことにまだ生きている人間が一人いるみたいだ。
その姿は一糸まとわぬ姿で体中に傷があり、首にはロープが巻かれすぐに逃げ出せなくしてあるようだ。
離れたここから見てもかなり酷い扱いを受けたことが窺えた。
恐らくアヤネをあの夜に見捨てていればあのような姿で発見されていたか殺されて食べられていただろう。
そして俺たちは作戦を考えるために来た道を戻り、周囲を警戒しながら話し合いを始めた。
普通に考えれば一時撤退だろうが生存者がいるので俺が良くても他の者が反対するだろう。
特にアヤネからすると自分のこともあって感情移入していそうだ。
ただここに居るのが俺だけなら見なかったことにして確実に見捨て撤退するだろう。
なのでここは経験が豊富で実力も備えているライラに聞いてみる。
「ライラ、すまないが何か方法は無いか?」
困った時の〇〇えもんじゃないがここは頼らせてもらうしか手が無い。
今の俺には確実に手に余る状態なので軽はずみなことも口にできない。
しかし、それはアヤネやゴウダさんも分かっているようで、期待の籠った目をライラへと向けている。
「私の魔法で眠させてしまえば救出はできると思う。でもあの数に魔法を掛けたら効力が分散して30秒くらいで目を覚ますわ。しかもちょっとした音でも起きるかもしれないわよ。」
俺はその言葉から並列思考を使い幾つもの方法を検討する。
そしてステータスも確認したところでレベルが1上がっていることに気が付いた。
俺はスキル表を出し、そこに書かれている最も適しているであろうスキルを探す。
その結果、ある一つのスキルを発見した。
(これならどうにかなるかもしれない。)