48 防衛都市ガルクニル①
俺達が車を走らせて数分後、町の入り口へと到着した。
しかし、そこには50人を超える長い列が出来ておりすぐには入れそうにない。
だが、車を降りて列に並ぼうとするとアスカから声が掛かる。
「待ってください。私達が向かう入り口はこちらです。」
そう言ってアスカの誘導に従い進むとそこにはもう一つ、馬車が通れる程度の門があった。
しっかりと兵士もいるがこちらは並んでいる人は誰もおらずかなり暇そうだ。
そしてアスカはそこに向かいスタスタと歩いて行くと、それに気付いた兵士が槍を構えながらアスカに声を掛けた。
「止まれ!ここは貴族様と高ランク冒険者様専用の出入り口だ。そうでない者はあちらの列に並べ!」
どうやらこちらは一般の出入り口ではないようだ。
しかし、高ランクとはどれくらいのランクから言うのだろうか?
するとアスカはギルドカードを取り出し門番へと見せた。
しかもそのカードは俺達の様に鈍い鉄色ではなく光を反射して輝く白金色だ。
それを見て門番の態度が目に見えて急激に軟化していく。
「失礼しました。まさかSクラスの方だとは。後ろの方は同じパーティの方でしょうか?」
「一応みんなAクラスの冒険者です。子供は先ほどそこの盗賊から救出しました。その盗賊の引き渡しもお願い出来ますか?」
「分かりました。Aランクの方なら個人で来られても問題ありません。それと報奨金はどうされますか?」
「私のカードに振り込んでおいてください。」
アスカはそう言うと門番にカードを渡した。
すると門番は名前とカード番号を手元のメモ用紙に書き取ると丁寧な手つきでカードを返した。
「それでは近日中には入金されると思います。何かご質問はありますか?」
「ん~・・・なら一つ聞くけどこの町に奴隷商館が幾つあるか教えて。」
アスカは少し考える素振りをすると門番に視線を戻し問いかけた。
すると門番は撃てば響く鐘の様にスラスラと答えを返し、追加情報まで教えてくれる。
「この町で商館を持つ程の奴隷屋は2つだけです。それ以外の奴隷屋は小規模な物ばかりとなっております。」
「ありがとう。以前来た時と変わらなくて安心したわ。」
「は!お役に立てて光栄です。それではどうぞお入りください!」
そう言って門番は上から見ていた兵士に合図を送り門を開けてくれた。
俺達はアスカの後ろに付いて行く形で中に入ると再び門は独りでに締まり始める。
どうやらこの町では冒険者は優遇されているようだ。
ただ、ここはダンジョンが町の中心にあるので冒険者の質と量が高い程に安全が保障される。
これはきっと冒険者を集める為の優遇処置なのだろう。
そして、俺達はそのまま町を歩き適当な服屋に入った。
この店には子供用の服も数多く置いてあるのでまずは彼らには着替えてもらう。
ハッキリ言って今着ているのはまるで麻袋に手足が出せる穴を開けたのではないかと言える程に酷い。
魔法があるので汚れこそないが、生地は硬く着ているだけで肌が擦り剝けそうだ。
見方によっては新種のご当地キャラに見えなくもない。
服に羽模様を加えて名前は麻梟といった所だろうか。
「・・・。」
まあ冗談はこれだけにして、今いるのは男の子が1人に女の子が2人。
3人とも小学校低学年くらいの見た目で年齢は3人とも9歳だ。
何故わかるかというとスキルがマップに進化して条件検索が可能になったからだ。
だから本人たちが知らない情報もスキルの使い方次第で知ることが出来る。
この情報が一体どこからもたらされているのかは気になるが現代の日本でも完全に仕組みを理解して使っている物などほんの一握りだ。
気にして使わないよりも気にせず使った方が得だろう。
男の子の名前はユーリというらしく暗めの青い髪に青い瞳をしている。
女の子は一人がフィリスで赤い髪と瞳をしていて、もう一人はリンダと言って栗色の髪にこちらも赤い瞳のをしている。
フィリスとリンダは双子らしく顔立ちがとてもよく似ていて髪の色が同じだと見分けるのが難しい。
しかし、どちらが姉か妹かは本人達にも分からないそうだ。
小さい時に捨てられたらしく分かるのは名前だけらしい。
今の俺なら調べれば分かるだろうが本人たちは気にしていないそうなので、別に教えなくても良いだろう。
そして店に入るとすぐに待機していた男性店員が駆け寄って来た。
「いらっしゃいませ。今日はどのような服をお探しですか?」
「この3人の服を頼む。」
俺は子供たちを前に出し彼らが着られそうで動いても支障のない服をお願いした。
しかし、これは俺の趣味を押し付けたのではなく、総理やアスカも納得している。
「分かりました。しばらくお待ちください。」
そして店員は嫌な顔一つせずに子供たちを連れて奥へと向かって行く。
するとそれに合わせる様にアスカも付いて歩き出した。
「店によっては高いだけの服を売りつける所もあるから私も行くわ。」
アスカは小声でそう告げると店員の後に付いて奥へと向かって行った。
それならと後ろでソワソワしているミズキとフウカに声を掛けるべきだろう。
「戦闘も考慮した服を買わせたいから二人も行って来ると良い。本人たちの意思に関係なくダンジョン探索には同行してもらうからな。」
すると俺の言葉を聞いた二人は元気に駆け出すと目を燃やして火花を散らせた。
しかし周りの服に引火すると困るからこんな所で魔法は止してもらいたい。
もし焦げて弁償になったら自分達で払って貰うからな。
「フィリスちゃんの事は任せてください。」
「負けないからね。リンダの方が可愛く変身するんだから。」
「ふ、フィリスちゃんの可愛さに後で悶え苦しむと良いわ。」
・・・どうやら俺は人選を間違えた様だ。
これならアヤネにでも任せればよかったかもしれない。
そう思いアヤネに視線を向けると。
「いいな~。私も混ざりたい。」
などと言葉を零していた。
こうなると先に向かったアスカに期待するしかない。
だが気のせいだろうか。
奥から先ほどの二人の声に交じってアスカの声も聞こえる気がする。
そう思っていると奥からユーリだけが戻って来たが、その恰好は町を歩く普通の少年と言っていい。
あの短時間で髪は整えられ幼いながらも精悍な顔つきでこちらを見ている。
「もう終わったのか?」
「うん、でも後の二人は時間が掛かりそう。お姉ちゃんたち3人が二人に色々な服を着せてる。」
それを聞いて俺は頭痛を感じたように額に手を当て小さく唸り声を上げる。。
それはアキトと総理も同じだったようで同じように頭痛を堪えていた。
「すまんな、孫が迷惑を掛ける。」
「俺の部下が迷惑を掛けた様だ。後で厳しく言っておく。」
「まあ、こういう時だから息抜きも重要だろう。」
そして3人が怒られることが確定して30分ほどが経過した頃、ようやく店員を含めて6人が戻って来た。
ただ可哀そうな事に店員は既に燃え尽きたようにゲッソリしている。
最初に見た時はまるで執事の様な精鍛な顔つきで服をビシッと着こなしていたのにその面影はもはや感じられない。
しかし、横に居る女性3人は何処となくホクホク顔だ。
そしてとうとうお披露目の時が来た。
「それじゃあ!まずはフィリスちゃんから登場です!」
そして、即席で作られた幕が開けられるとそこには和風な感じに整えられたフェリスが恥ずかしそうにポーズを取っていた。
その服装は赤いラインの入った白衣に朱色の袴。
ウェーブが掛かった髪は後ろで白いリボンで束ね、ポニーテールにしている。
しかし、どう見ても戦闘向きではなさそうだが何故か総理は納得しているのかリンダを見て頷きを返している。
(総理・・・。後でちゃんと叱ってくれるんですよね?)
するとアスカが横に立ち服の説明を始め出した。
「この白衣には鬼蜘蛛の糸が使われていて鉄の鎧並みの強度があります。後は上半身を守る胸当てを買えば大丈夫でしょう。赤い袴はワイバーンの被膜を使っていて滑らかで綺麗ですがこちらは皮鎧くらいの強度があります。」
そして説明を終えたアスカは胸を逸らし自信たっぷりにドヤ顔をした。
するとその後ろでミズキとフウカが再び幕を張って準備をしているので次はリンダを登場させるのだろう。
「続きましてリンダちゃんの登場だよ!」
「私達の力作をとくと見よ!」
そう言って幕が外されるとカジュアルに整えられたリンダが楽しそうな笑顔を浮かべて現れた。
どうやらこちらの方は本人も楽しんでいる様で両手を合わせてハートマークを作りそこを覗いてこちらを見ている。
そしてその服装だが、上は黒のTシャツでズボンは濃い紺のジーンズ。
その上から黒に近いグレーのフード付きコートを着せている。
彼女もリンダと同じく長めの髪を後ろで結わえているがポニーテールにはせずに綺麗な三つ編みにしてある。
なんだか後は帽子が揃えば何処かの暗殺者かスナイパーの様な姿になっている。
そしてその姿に何故かアキトは頷きを返し納得した表情を浮かべていた。
(アンタもか!本当に後で厳しく叱ってくれるのだろうか?)
そしてこちらの説明役はフウカの様で自信があるのかその顔には笑みを浮かべている。
助けた子供で何を遊んでいるんだと言いたいが、偶には息抜きも大切だと思って見守る事にした。
「このシャツはヘルリーバっていう芋虫型の魔物の糸で作られてて伸縮性と耐久性の高い物にしてあるわ。ズボンはハイオーガの皮で剣でも斬れないんだから。それとこのコートはインビジブル・シャドーウルフって魔物の皮で出来てて魔力を流すと隠密性が向上するのよ。」
そう言って二人は腕を組むとドヤ顔を浮かべてリンダの左右に立った。
俺としては呆れるしかないが子供服で何故そこまで機能性に拘ってしまうのか。
成長すればすぐに着れなくなるのにお金の無駄にしかならないだろう。
しかし、店員の疲れた顔を見てしまうと買わないといけない気になるのは俺だけだろうか。
この状況で「普通の服にしてください。」と言うのは流石にハードルが高すぎる。
しかし、このまま成長すれば1年かそこらで着れなくなる服だ。
ここは心を鬼にして断らなければならないだろう。
そう思い俺が口を開こうとすると別の店員が奥から何かを持って来た。
「店長持ってきました。」
「ああ、そこに置いてくれ。」
どうやら俺達の対応をしてくれたのはこの店の店長だった様だが、この素材は何の為の物だろうか?
見た目はフィリスとリンダが着ている服に似ているが、新しい服を作るには小さすぎる。。
そう思い鑑定すると予想した通り二人の着ている服の素材だった
こうして持ってきてくれると言う事は何か考えがあるのかもしれない。
「こちらがご注文の今着ている服の素材です。高レベルの錬金術師なら合成で服のサイズを調整できます。こちらとしては不良在庫が出せて良いのですが本当によろしいのですか?」
「大丈夫よ。ありがたく貰って行くわ。それでお値段はいくらですか。」
そう言ってアスカはギルド証をチラつかせる。
あの輝くギルド証は少し暗いこの店内でも嫌という程に目についてしまう。
その為、店長は深い溜息をついて指を5本立てた。
しかし、それにアスカは納得しなかった様だ。
その手を取ると一本、また一本とその指を曲げさせていく。
そしてその指を3本にすると店長は涙目になりもう割り引けないと必死に3本目を死守した。
その余りにも鬼のような所業に俺達は後ろで見ているしか出来ない。
そしてとうとう指が2本になった所でアスカは納得して手を放した。
「それでお願いします。」
店長はガックリと肩を落とすと観念したかのようにその場に膝を付いた。
どうやら彼女はこちらの世界で逞しく生きていたようだ。
とても俺には真似が出来そうにないので俺が買う時は半額くらいで勘弁してやろ。
そして店長は涙を呑んで立ち上がると俺に声を掛けて来た。
「お支払いはあなたからと聞いていますのでお願いします。金貨20枚と銀貨一枚です。」
どうやら彼女達の服は最初250万円もしたようだ。
追加の材料込みな上に不良在庫なので正確な値段は不明だがかなり高い。
それが今では100万円に値下がりしている。
ちなみに銀貨は1枚1000円といった所でユーリの服の値段だ。
その違いを見ると少し可哀そうになるが本人は気にしてないようだ。
俺は金貨を20枚出し、密かに10枚追加して店長に渡しておいた。
それに気付いた店長は涙を浮かべて俺に頭を下げている。
(いや、さすがに半額以下はやり過ぎだろ。)
もし、ここで再び買い物をする事があれば次からは断られてしまうかもしれない。
そう思うのは俺が真っ当な日本人だからだろうか。
そして支払いを済ませるとアスカ達はホクホク顔を浮かべ、子供たちは戦々恐々とした感じで俺達に頭を下げる。
どうやら言われるままに着せられてしまい値段を知って緊張しているようだ。
(ユーリは良いんだよ。君のは普通の服だから。)
店を出ると次は子供用の皮鎧を購入するため防具屋へと向かった。
そしてアスカは店に入ると近くで商品を整理している店員に声を掛ける。
「この子達用の防具を頂戴。」
「分かりました。普通ので良いですか?」
「そうね。今はそれでいいわ。」
どうやら子供でもダンジョンに入る者はいる様で普通に小さい防具も売っていた。
俺達はここで金貨1枚支払い店を出た。
それを見れば二人の服がいかに高いかが分かる。
そして次は武器屋だ。
そこで子供でも使えるショートソードを数本購入する。
何故かここでは店員を呼ばず総理が真剣に剣を選んでいた。
何を考えているのか微妙に分かる行動だが、彼もそれなりの歳なので思う事があるのだろう。
後でライラを行かせて相談に乗ってもらおう。
ライラなら間に合わせ程度でも総理が求める物が作り出せるはずだ。
そして今日はそこで終了し俺達はアスカに案内されて宿を取った。
そこは何処となく高級感がある宿で、内装もかなり綺麗でベットまである。
しかもこの世界の安い宿と違い藁ではなく反発性の強い素材を使ったマットが使われていた。
まるで俺達の世界のホテルの様でお値段は一室で金貨2枚と高いが、明日からダンジョンに入るので問題ない。
初めての者もいるのでまずは慣らしとして慎重に行く予定だ。
恐らく明日は進むとしても中層までだろう。
そして食事を取った後、俺達はそれぞれの部屋に戻り夜になるのを待った。




