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46 次の町へ

ここは王城の地下にある暗部の本部。

そこでは今、恐ろしい事件が続いていた。


「来るな・・来るなーーーー!ぎゃーーーー!!」


それはフとした時に訪れる。

1人で歩いている通路だったり、トイレに行った時だったり、一人で寝ている時だったり。

それは少しずつ、しかし確実に彼らを蝕んでいた。

事件に巻き込まれた者は誰も生き残る事無く、全員が枯れ木の様にミイラの姿で発見される。

しかも死ぬのは必ず暗部の物ばかりでそれ以外の城の住人には一人として被害が出ていなかった。


そしてユウ達が少女を救う少し前、第一王子セドリアスに暗部からの報告がもたらされた。

それを聞きセドリアスは再び憤怒の表情を浮かべる事になる。


「どういう事だ!?あのガキが移動中に盗まれただと!」


セドリアスが言うガキとはユウの助けた少女の事である。

彼は魔石と奴隷の血を媒介にして水の精霊王を召喚した。

それにより穢れた状態で顕現した精霊王をそのまま精霊石に閉じ込め呪いの核としたのだ。

しかし、それに気付いた何者かに盗まれ今に至る。

結果としてユウの下に届く事になったが全てを知った彼らの行動により一人の死者も出さず、最悪の未来も回避される事になる。

しかし、何も知らないセドリアスは怒りのままに部屋で暴れ回った。

その結果、報告に行った男は切り捨てられ、その骸を晒す事になったがそれを咎める者は誰も居ない。


「クソ!クソ!クソがーーー!!」


そして怒りに震える彼の下に、不幸が訪れる日もそれほど遠くはない。

既にそのカウントダウンは始まっているのだから。




俺達は朝になると宿を出てギルドへと向かっていた。

昨日トレスに言われた通りこの町に結界石を売るためだ。

彼が町の有力者を集めてくれているはずなので早ければ1時間も掛からないだろう。

そしてギルドに入るとさっそく笑顔のトリニアが駆け寄って来た。

恐らく尻尾が生えていれば激しく振られているだろう。

すると総理はいつものようにアイテムボックスから食べ物を取り出した。

しかも今日出て来たのはホットケーキでその上には既にバターが程よく溶けている。

何故そんな物を持っているのかと問いただしたいが、そう言えば今日の朝に旅館でホットケーキの匂いがしていた気がする。

そして横を見ればホロが今にも涎を垂らしそうな勢いで総理のホットケーキをガン見していた。

あれはホロの大好物でもあるので俺も後で焼いてあげよう。


そして総理はそれをトリニアに渡すとその上に決め手の蜂蜜を垂らし、使い捨てフォークを手渡した。

ここまで来れば彼の用意周到さに感服しそうだ。

そしてカウンターの奥でも同じようにトリニアをガン見する女性スタッフたち。

恐らく食べたいのだろうがトリニアはまったく気付いていない。

そして彼女は大口を開け嬉しそうにホットケーキに齧り付いている。

しかし彼女がああやって食べていると大人のはずなのに子供に見えるから不思議だ。

総理と手を繋げばまるでお爺ちゃんと孫の様でもある。


そして、トリニアは背後から注がれる視線に最後まで気付く事無く完食した。

すると何かを思い出したのか総理の手を取ると急ぎ足で駆け出して行く。


「すみません。偉い人たちが待っているのを忘れてました。皆さんこちらにどうぞ。」


どうやら彼女にとってその偉い人達よりも総理のくれる甘味の方が重要だったようだ。

その後、俺達はトリニアに案内され奥の会議室へと通された。

そこには商人風の男が3人と身ぎれいな服を着たエルフの男が一人、それとトレスも椅子に座り俺達を待っていた。

そして、代表者で部屋に入ると最初に口を開いたのは全員と面識があるトレスだ。


「思ったよりも遅かったがよく来てくれた。まあ、時間を決めていた訳じゃないからいいが冒険者は普通もっと早くに活動するものだぞ。」


時間はまだ8時だが彼が言うように冒険者としてなら既に遅い時間だろう。

彼らは日の出と共に目を覚まし行動を開始する。

まずは依頼の争奪戦があるので彼らの朝は意外と早いのだ。

しかし、それは冒険者を本業としている者だからであってそれに俺達は当てはまらない。

だが、今はそんな事言っても意味が無いので本題に入るとしよう。


「それで、いくらで買うかは決めたのか?心ある商人としては買えない程の金額を提示する気はないんだが。」


この世界の人間はとても逞しいので交渉で値切るのは当たり前と考えている。

その為どの店でも定価よりも少し高めに値段設定されているらしい。

善良な日本人からすれば面倒なだけなのだがそれも彼らの文化の一部なのだと考えれば理解するしかない。

俺達にとってこの国の金貨の価値は一枚5万円程度と見ている。

これは現在の金の価値が1グラム5千円で金貨が一枚10グラムだからだ。

こちらの世界では金の抽出は錬金術で行うらしく故意的に不純物を混ぜない限りは24金(金100パーセント)だそうなので安心らしい。

そして金貨は国が統一した物を作るので、もし不純物を混ぜると信用を失うそうだ。

何でも高位の鑑定を持つ物は作った人間まで見抜くらしく個人で行った場合は確実に死刑と教えてくれた。

俺達の世界でもお金の偽造は重罪なのでそれは仕方ないだろう。


俺がライラに教えてもらった事を思い出していると彼らの中央にいるエルフの男が立ち上がり胸に手を当て丁寧に頭を下げた。


「私はこの町の長であるエドと言います。以後お見知りおきを。我々に結界石を提供してくれると言う事で参りました。しかし、あなたも酷な事を言う。」


俺は彼の言葉の意味が分からず首を傾げ周りを見回した。

すると何人かは俺と同じように首を傾げ、総理とアキトには言っている意味が理解できたのか苦笑いを返されてしまう。


前を見れば商人の3人は不機嫌そうに顔を顰めトレスは笑いを堪えている。

するとエドも苦笑を浮かべるとどういう事か教えてくれた。


「あなたは町の安全とお金を天秤にかけろと言っているのですよ。いやはや交渉がお上手だ。しかし、そう言われてはこちらで話し合った金額をまずは提示しましょう。」


そう言って彼は袋を取り出してテーブルに置いた。

どうやら金貨の入った袋の様で置いた時に硬質な音が聞こえて来る。


「これ一つで金貨100枚入っています。」

(すなわち、あれ一つで日本円で500万ってところか。)


エドはそのまま立て続けに袋を取り出してテーブルに積んでいく。

そしてそれが10に達した所で手を止めた。


「我々はその結界石に金貨1000枚の値段を付けましょう。ここにはダンジョンがあるので町が安全になれば人が更に集まりこれ位なら回収できるでしょう。どうしますか?売っていただけますか?」


金貨の袋を見て俺とライラは互いに顔を見合わせて苦笑を浮かべる。

これだけあればしばらく遊んで暮らせるだろうがそれは俺達の目的ではない。

そのため俺達は結界石をテーブルに乗せると金貨の袋に手を伸ばし、互いに一袋だけ掴むと後ろに下がった。

元々金貨なら最高で200枚、日本円なら最高1000万円を想定している。

恐らく状況に応じて値下げをするがこの結界石は以前のと比べると効果範囲が広い。

ライラは二倍と言っていたが面積が二倍ではなく効果範囲、半径1キロが2倍になっているのだ。

その為、効果範囲は今までの4倍になっており一つあればこの町を覆い更に発展させていけるだけの広さの結界を張ることが出来る。

これでこのお値段なら互いに納得できるだろう。

ちなみにこの結界石だが既に試験運用するために幾つかの場所には無料提供している。

例えば京都駅周辺や俺達の住む町。

国にもいくつか提供しているので国会議事堂や皇居などには既に設置してある。

袖の下と思われようとああやって目立つところに使ってくれると無料の広告塔になるのでこちらとしても助かると言う物だ。


話は逸れたがエドたちは俺達の行動を見て目を丸くしている。

そして立ち直ると今度は怪しげな目を向けて来た。

どうやらこの世界にも安い物には裏があるという考えがあるようだ。

しかし、これは俺達で決めた適正価格なのだからそんな目で見られても困る。

すると困っていた俺達の代わりに総理が前に出た。


「そんな心配そうな顔をせんでもこの結界石は本物じゃ。」


そう言って総理は魔石をセットし結界を起動させる。

自分の家にもあるので手慣れたものだ。

起動させると結界石は淡い光に包まれ、町の周囲に結界を張った。


「「「「「おーーー!」」」」」


彼らは結界石の起動と共に立ち上がると遠くに淡く光る結界を見て喜びの声を上げた。

これで家族や仲間の安全が高まり、商売もしやすくなるだろう。

店の営業時間も伸ばす事が出来るので1日の売り上げも伸びるかもしれない。


「見ろ、王都と同じように町が結界に包まれたぞ。

「これで子供を安心して町に出せる。」

「それもあるが今後の町の発展だ。結界には外周までかなりの距離がある。これからも町を大きく出来るぞ。」

「ああ、それに夜の営業もだ。この町には冒険者も多いからな。昔、爺さんに聞いた様に飲食店の経営や祭りも出来るぞ!」

「まあまあ皆さん落ち着きましょう。まずはこの事を町の人々に伝えなければ。」


彼らは結界を確認しそれぞれに喜びの声を上げる。

ただ一つ問題があり、これだとテイムした魔物が町への出入りが出来ない。

その為、もう一つアイテムを売らなければならないが今回はサービスでもいいだろう。

喜んでいる彼らから追加料金を取るのはなんだか忍びない。

商売人からすれば甘い考えなのだろうが、俺達は商人は商人でも今回は善意の商人なので気にしなくてもいいはずだ。

俺は彼らの中からトレスだけ捕まえて魔物用のタグを渡した。

ちなみに以前辺境の村でもらったものは只の札だったがこちらはちゃんとした魔道具だ。

俺達の仲間でも魔物の者は既に装備しているので結界があっても通り抜ける事が出来る。

トレスには現物を100個と製作方法を記した紙を一緒に渡しておく。

この世界に来て、まだ魔物をテイムした者を直接見た事は無いがテイム証が存続している以上、何処かには居る筈だ


「良いのか?これは魔道具の一種だろう。金を出しても良いんだぞ。」

「気にしないで。ここでは十分に稼いだから。」


するとトレスは苦笑を浮かべるとギルド証を取り出して渡して来た。

それを確認するとどうやら俺達の新しいギルド証のようで、しかもそこにはAランクの文字が書かれている。

俺が首を傾げているとどういう事か教えてくれた。


「もともとこれも値引き交渉の為に用意したものだ。貴族がギルドランクを金で買うのは珍しくないからな。不用になったがせっかく作ったからお前らにやるよ。それがあれば何処のダンジョンでも入れるからな。」


しかし、ここで人の良さそうな笑顔を向けて来るがその顔がどうも胡散臭い。

昨日の件で何となく分かったがトレスがこうして笑う時は何か別の理由があるはずだ。

俺は怪しさを感じると念の為に尋問スキルを使い問いかけた。


「その心は?」

「お前らみたいに面倒な奴等は早く次の町に言ってくれ・・・あ!」


どうやらこれが本音だった様だ。

上手い具合に話をまとめ俺達を追い出そうとしたわけだ。


すると今度は総理が彼に近寄り邪悪にしか見えない笑みを浮かべてその耳元に囁きかけた。

なんだかこの人もだんだんと化けの皮が剥がれて行くな。


「実を言うと儂は人材を探しておるのだ。数名引き抜いて良いなら今回の事は不問にしてやろう。」

「さ、流石に急には・・・。」

「ん~~~?」


総理の悪魔の囁きにはあからさまな威圧が含まれている。

あの威圧を至近距離で受けて首を横に触れる者が果して何人いるだろうか。

そして案の定トレスは最後まで拒否する事が出来ず、青い顔で人形のように首を縦に振り総理の提案を受け入れた。

その後、総理は会議室から出ると嬉しそうに歩き去って行ったので引き抜きの筆頭はトリニアだろう。

そして少しすると扉の外から悲鳴と歓声が聞こえて来たので恐らくは選ばれなかった者と選ばれた者の声だろう。


そして、エドは結界石を大事に抱えるとライラに歩み寄った。


「あなた方に感謝を。何か困った事があれば言ってください。必ず力になりましょう。」


そう言って礼をすると彼も部屋を出て行った。

それに続く様に他の者たちもお礼の言葉を言って部屋を出る。

そして俺達も外に出ると総理と合流してギルドを後にした。

ここでの用事はギルドランクを更新する事だったがそれが果された以上はもう用はない。

宿に戻ると俺達はフロントに次の町に向かう事を伝えた。


「そうですか。またのお越しをお待ちしております。」

「ええ、この町に来た時はまた来るわ。」


そして軽い挨拶を終えて俺達は町の外に向かい歩き出した。

アリシアの背には今も目を覚まさない名も知らない少女が背負われている。

アリシアもなかなか眠りから覚めなかったのでいったい何時になったら目覚める事か。

それに預けられる相手も居らず、昨日の様子から命を狙われている可能性もあるので連れて行くしかない。


そして次の町は王都の手前にあり、そこにもダンジョンがあるそうだ。

しかし、そこはここと違い町の中心にダンジョンがある変わった町だ。

どうもダンジョンの周りに人が住み着く事で発展して行った町らしく、名称は防衛都市ガルクニル。

ダンジョンを抑え込み魔物の脅威から王都を守る町なのだそうだ。

高ランクダンジョンではないが階層は49階層と危険なダンジョンに変わりはない。


そして俺達は門から出て車に乗り込み次の町へと走り出した。

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