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38 兄姉の悪意

時は遡り、今は世界が融合する数日前。

ここはエルフの国、エルバニアの王城のとある一室。

そこに二人の王族がある企みを話し合っていた。


「本当にそんな事が可能なの?」

「既にアリシアの護衛は低レベルの者達にすり替えておいた。それに俺の手の者を一人潜り込ませてある。後は予定のポイントに誘導すれば魔物たちが始末してくれる。」


それを聞いて女は笑みを浮かべた。

その顔は少しアリシアに似てはいるが性格が顔に出ており、顔の作りが美しくとも何処となく醜く見える。


「あの子も一応女なのだからきっと奴らも喜ぶでしょうね。」

「ハハハ、例え生き残ってもゴブリンのお手付きだからな。下賤な女の娘にはお似合いだ。しかし、父上にも困ったものだ。いくら愛した女の忘れ形見と言っても市井の赤子を王宮に迎えるなど許されん事だ。」

「そうね。あれの顔を見るだけで吐き気がしそうよ。」


そして密談をする部屋に突然、ノックの音が響いた。


『コン・コンコン・ココン』


「許す。入って来い。」

「ハ!」


そう言われて入って来たのはエルフの戦士である。

しかし、その身を包む装備は低レベルの物で揃えられており王族の前に出るにはあまりにもみすぼらしい姿をしていた。

しかし、その動きは俊敏で隙が無く、まるで熟練の戦士の様である。

戦士は部屋に入ると彼らの前に膝を付き頭を垂れた。


「準備は整った様だな。」

「いつでも実行できます。いかがされますか?」

「愚問だな。すぐに実行に移せ。計画終了後は再び我の下に来て結果を報告しろ。」

「畏まりました。」


そして戦士は立ち上がると部屋から出て行った。

それを横で見ていた女はゴミを見る様な目を向け軽く鼻で笑って見せる。


「あれがアナタの言っていた?」

「ああ、あれがアリシアの所に潜入させている者だ。」

「信用できるの?あの女は人望だけはあるのよ。」

「大丈夫だろう。奴には家族を救ってやった恩がある。感情だけでは動かんよ。」

「恩ね~。また捏造じゃないの?」


女は男の言葉に疑いの目を向けるるが、それに男は鼻で笑うと口元を吊り上げた。

それを見て女は心の中で「やっぱり」と呟き小さな溜息を零す。


「救った事には変わりないだろ。」

「あなた、何時か殺されるわよ。」


女は男の顔を見て今度こそ本当に溜息を吐いた。

しかし、女もこんな事をしている時点で既に同じ種類の人間であるのに違いはない。

そしてその事を互いに理解しているからこそ、こうして手を組んで相手を陥れようとしているのだ。


「バレなければ良いのだ。その為に今回は手間もかけたんだからな。後は俺が王位を継げば全てが丸く収まる。その時はお前が第一王妃だ。」

「裏切ったらタダじゃ置かないわよ。」


ちなみにエルフの国は一つしかなく、近親者との結婚も通常の様に行われている。

まれにアリシアの様に外の血が入る事で保たれているが彼らがそれを知る由もない。

今代の国王はアリシアを男の妃と決めていたが彼はそれがどうしても納得できなかった。

王族は気高く尊いもの。

その偏った思考がこの後アリシアに不幸をもたらす。

またアリシアは裏の事情を一切知る事無く、この後に城から出発して行った。

その先に待ち受けるモノを何も知らないままに。


そしてその日の夜。

戦士は1人で城へと戻って来た。

しかし、装備は一新され、まるで騎士の様な鎧を身に纏っている。

だが彼は元々この国の騎士の一人なのでどちらかと言えば先ほどの低レベル装備こそが異常と言えた。

そして戦士は指示された通り男の下に向かうと報告を始める。


「予定通り、私以外の護衛は全員が死亡しました。王女はゴブリンの上位種に巣穴まで連れていかれた様です。その後はご想像にお任せします。」

「よくやった。ゴブリンに攫われた女の末路など決まっている。それよりも誰にもバレてはいないな?」

「はい。全ては秘密裏に行動しております。私もこれから国を離れますので扱いは死亡と言う事で。」

「そうか。大儀であった。もう逝ってよいぞ。」

「ハ・・・は?」


『ブス!』


男の言葉と共に背後から針の様な毒矢が戦士を襲った。

そしてそれを受けた戦士は体の自由が利かなくなりその場に倒れ込んでしまい掠れた声を洩らす。


「で・・デン・・カ。これ・は、いった・・・い?」

「お前達はもう用済みだ。しかし、ただ殺すのも勿体ないからな。ちょうど暗部がモルモットが欲しいというので明日からはそこで働いてくれ。」


すると戦士は怒りの籠った目で男を睨みつけた。

男はそれを受け楽しそうに顔を綻ばせると狂気に満ちた笑顔を浮かべて返す。

しかし戦士は男の言葉にハッと何かに気付いた様に目を見開いた。


「ちょ・・とま・て・・・。たち・・とは・・・誰の・事だ。」

「何を言っているんだ当然お前の家族の事だ。妻も娘も既にこの城の地下牢で待っているぞ。早く行ってやる事だ。そうしないと、フフフフフ。もう会えなくなるぞ。」

「き・きさまー・・・ああああ。」


男は毒針を放った暗部の男に顔を向け「連れていけ」と命令した。

その後、現在に至るまで男を含む一家の姿は城下から完全に消え行方を知る者は誰も居ない。


そしてその数日後、世界は大きな変化を遂げる。

それにより城はパニックとなり、あらゆる部署は情報収集の為の行動を余儀なくされた。

精霊との親和性の高い者はその目を借り、城に居ながら遠くの場所までその視界を広げる。

それである日、アリシアに似た女性を発見した暗部は、それを男に。

この国の第一王子であるセドリアスへと報告した。


「殿下。第5王女、アリシア様と思われる者を発見しました。」


するとセドリアスは驚愕し座っていた椅子から立ち上がった。

先日の調査ではゴブリンの巣穴が消えていて生死不明となっていたのだが、まさか生きているとは思っていなかったのだ。


「それは真実か!?他人の空似では無いのか。俺達が向かった時にはあの男の言った洞窟はおろか何も無かったんだぞ。」

「恐らく間違いありません。精霊たちもそう言っております。」


するとセドリアスは歪んだ顔を隠す様に口に手を当てると考えを巡らせた。

そして面白い事を思いついたというような表情になると暗部の者に指示を出した。


「確か呪いの便せんがあったな。」

「はい。過去の魔王。カオスエントの素材を使用した、致死の呪いの掛かった物がございます。」

「それを使いアリシアに手紙を送れ。筆記者には人間の奴隷を使う事を許す。」

「畏まりました。しかし、対象との距離はかなりあります。精霊を向かわせる事もできません。」

「ならば丁度いい物が宝物庫に眠っている。手紙を書き終えたら持って来い。私自ら穢れた妹に文を送ってやろう。」

「仰せのままに。」


そして暗部の男は恭しく一礼すると影に消えて行った。

その後、地下室では奴隷の男が手紙を書いていた。

奴隷は解放を条件に下書き通りの文章を書いて行く。

しかし、字を書くにつれ、込み上げる疲労と倦怠感に異常を感じ取った。

奴隷は恐怖から手を止めようとするが何故だか手が止まらない。

そして自分の魔力が、そして魂までもが抜けていく感覚に襲われた。


しかしこれが呪いの便箋にペンを走らせると言う事だ。

執筆者は己の命と引き換えに手紙を書きあげる。

そして書き終えた瞬間にその魂は呪いに組み込まれ、強力な呪詛を手紙に宿す事になる。


「誰か助けてくれーーーー!」


しかしそれに応えられる者は居らず奴隷は断末魔の叫びを上げながら次第に意識を薄れさせて行く。

そして奴隷は死という形をもって奴隷から解放さた。

しかし、その体は先ほどまでとは全く異なりミイラの様に干からびてしまっている。

これを見て先ほどまで生きていたと思う者はおそらくいないだろう。

そしてその目には先ほど流していた涙の痕すら残さず最後には砂となって崩れて行った。

暗部の男は作業が終わった事を確認し、対呪い装備で固めた手で手紙を掴むとそれを持ってセドリアスの下へと向かった。


「セドリアス様、こちらをお持ちしました。」

「良し貸せ!」

「お待ちください。この対呪のアイテムをまずはお付けください。」

「おお、そうだったな。危うく私が呪い死ぬ所だった。」


セドリアスはアイテムを受け取るとそれを装備し手紙を掴んだ。

そして手紙を手に持っている弓に近づけるとそれは一本の矢へと姿を変えていく。


「それは?」

「これはダンジョンの宝箱から出たレターボウというアイテムだ。これは相手が生きてさえ居れば如何に離れた場所。そうだな・・・世界の果てだろうとも手紙を届ける事が出来る。ただし、使用回数制限がり、あと一度しか使用が出来ないがな。」

「そんなに貴重な物を使われても良いのですか?」

「構わん。どうせこんな事でも無い限り二度とは使わん。それにこの弓の使用回数もあの愚かな父が下賤な女に文を送るのに使っていたそうだからな。そんな穢れた物など我が国の宝物庫には必要ない。」


そしてセドリアスは吐き捨てる様に配下の男に告げると窓から無造作に弓矢を放った。

すると矢は減速するどころか逆に加速していき、遥か彼方の地平線の先へと消えていく。

それを眺めていると弓の方は灰の様に形が崩れると跡形もなく消えて行った。

セドリアスはそれを満足そうに確認すると汚れて居ないはずの手をハンカチで拭いそれを開けていた窓から投げ捨てる。

どうやら、拭いたのは汚れではなく、それ自体が心理的に穢れていると思ったからのようだ。


「これで後は待つだけだな。それに、アリシアが生きているのもこれで確定した。」

「まさか、そこまでお考えだったとは。私の様な愚かな従僕には気付く事も出来ませんでした。」

「そうか。しかし、お前たちはそれで良いのだ。考えるのは常に私でお前は唯の手足なのだからな。それと今後も精霊を使いアリシアの動向を見張れ。」

「畏まりました。」


そして、次の報告を聞いたのはその数日後。

セドリアスがティータイムを楽しんでいる時である。

彼はアリシアが呪いにより悶え苦しんで死んだ報告を聞けると思っていた。

しかし、それは大きな勘違いであった。


「もう一度言ってみろ。」


セドリアスは自らの耳を疑いもう一度報告を求める。

しかし、その顔には怒りが浮かび上がり、報告に来ている男を強く睨みつけている。


「は、はい。アリシア様は複数の者と同じ家で共同生活をしており、手紙はその内の一人である天使が拾い浄化してしまいました。しかしあれほどの呪いを瞬時に浄化する事から中級以上の天使である可能性があります。しかも、その者達はアリシア様と共にこちらへと向かって来ております。」


するとセドリアスは報告を聞きテーブルの上のティーセットを手で払い床に叩きつけた。


「クソがーーー!悪運だけは人一倍にありやがる。何で俺の思い通りに死なねーんだ。それに天使だと。あの気狂いの狂人共が、俺の邪魔をしやがってーーー!」

「お、王子。落ち着いてください。」


そしてセドリアスの突然の豹変に暗部の者も驚いて諫めに掛かる。

それを見てセドリアスも素が出た事に気付き咳払いをして椅子に座り直した。


「まあいい。ここに向かっているなら好都合だ。お前たち。奴らが海から上陸したらそこで始末しろ。この国をあの女に穢れさせるな。」

「畏まりました。死体はいかがされますか?」

「今度はすぐに持って来い。前回はゴブリンなどという下等な魔物に任せ、時間を与えたのが間違いだった。それにあの女の死に顔を見ればこの苛立ちも少しは収まるだろう。」


その後、暗部はユウ達を殺すために動き出した。

そして海岸で待ち構えていた彼らはユウ達を発見し包囲を開始する。


「もうじき包囲が完了します。」

「合図と共に精霊を召喚。その後一気に畳掛ける。」


しかし、先に動いたのはユウ達であった。

彼らは持ってきていた高機動車のハマーを取り出しそれに乗り込むとエンジンを掛けた。


「な、何だ、あの鉄の塊は!もしかしてゴーレム馬車か!?しまった。急いで攻撃に当たれ。」


しかし、その判断は遅すぎたようでユウに察知されていた彼らは待ち伏せも虚しく、包囲の穴を突かれ逃げられてしまった。

悪路で全力運転出来ないと言ってもそれでも70キロ以上は出ている車に追いつくのはそんなに容易い事ではない。

後ろから全力で追っていた彼らも体力と魔力の限界を迎え一人また一人と脱落して行く。

元々目立つ表舞台に立つ事のない彼らなので基本的な身体能力は飛びぬけて高くない。

彼らが得意とするのは隠密や潜伏を生かした奇襲作戦なのだ。

それが崩れた以上、その時点で彼らはユウ達に負けていた。


そして、その頃の車内では。


「ユウ、なんでジグザグに走ったの?」


そう問いかけたのは何も気付いていないライラだ。

彼女は後部座席からユウの顔を覗き込み疑問を口にしている。

フローティングボードのおかげで縦揺れは減少するが横揺れまでは緩和されない。

車酔いも魔法で治ると言っても、こうもジグザグに走られたらすぐに気分が悪くなってしまう。


「ん?なんだか待ち伏せしてる奴等がいたからな。早めに突破しただけだ。相手しても良かったが今は先を急ぎたいだろ。だからもし追いついて来たらその時に相手してやるよ。」


そしてユウは何でもない事の様にライラの疑問に答え、その目は今も次の町がある方向に向いている。

するとライラはユウの横の空いてる助手席まで移動し腰を下ろすといつもと様子が違う真剣な顔を向けた。


「ユウはこれからどうしたいの?」


しかしこの質問はユウにとって多くの意味に取れる意地悪な聞き方だ。


王都に行って何がしたいのか?

エルフの王族に何を求めるのか?

アリシアをこれからどうするのか?。


しかし、ここに来るまでの間でも自分の中に明確な答えは出ていない事ばかりだ。

それに他にも意味があったとしても今のユウにはそこまで思考を割く余裕はなかった。


「そうだな。ここに来るまでに総理と話したんだがまずは適当な街に行ってギルドを確認する。その後は・・・。」

「ちょっと待って。そうじゃなくて・・・。私が聞きたいのはアリシアをどうするのかよ?」

「ああそっちか。ライラはアリシアの事嫌いか?」


ユウは先ほどまでとは違い真剣な顔で問いかけて来る。

しかし、応えの出ていないユウと違いライラは即答で返した。


「好きよ。今ではみんなで家族だと思ってるわ。」


するとユウは胸に暖かい感情が浮かび満足した様に笑顔を作ると頷いた。

そして今の思いを素直な言葉にしてライラに応える。


「俺もしばらく一人・・・ていうかホロと二人で過ごしていたが、今の生活はその時よりも楽しくて気に入っている。それを邪魔する奴には遠慮するつもりはない。王族だろうと誰だろうとな。」


そう言ってユウは黒い顔で「フッフッフ!」と笑った。

彼は時々こうやって子供っぽい一面を見せるがライラはそれを見て苦笑を浮かべるとユウの頭を撫でた。

何時もは撫でられてばかりなのでこうしてユウを撫でるのは珍しいが彼は運転しながらそれを受け入れた。

そして聞きたい答えを聞けたライラも決意を言葉にしてユウに返した。


「それなら、私もこの生活を全力で守るから一緒に頑張りましょ。皆もそれで良いわね。」

「「「おう~!」」」


そしてライラが後ろを見て声を掛けると会話を聞いていたアリシアは嬉しそうに目に涙を浮かべる。

すると他のメンバーもどうやら思いは同じなのか嬉しそうに頷きを返す。


そして、個人的には現状維持とユウにとっては優柔不断な答えに落ち着いたが、彼らが出会って二ヶ月と経過していない。

そこで切っ掛けも無く常識人(自称)なユウが法律に引っ掛かる程の決断を簡単に下せる筈はないのだ。


その後、車を走らせること数時間。

彼らは無事に目的地へと近づき、最初の村に到着した。

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