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35 人工ダンジョン

俺達は結界内の魔物を倒しながら町を走り回っていた。

しかし魔物はアキトたちの向かう先に集中していたらしくあちらにはホブゴブリンなどの上位種の他にも俺の知らない魔物が複数待ち構えている。

それと俺のマップ上に映っていた一体の魔物が、赤から白に変わったのを確認できた。

その傍にはヒムロとチヒロが居り、連絡があって数分後なので目的の魔物のテイムに成功したと見て良いだろう。

どんな魔物をテイムしたのかは知らないので後の楽しみが増えた。

しかし、あの切羽詰まった声からして余程の魔物だったのだろう。


そしてアキト達の方に魔物が集中してくれていたおかげでこちらは意外と早く結界内の討伐を完了させる事が出来た。

強力な魔物は最初の頃に倒したキマイラとロックタートルだけで、その他は通常の雑魚ばかりだった。


そして俺達の中で最も働いたのは愛に燃えているイソさんだ。

彼にはハルを人の姿にするという大きな目的がある為に多くの経験値が必要で二人だけでパーティを組み見敵必殺、サーチアンドデストロイな勢いで魔物を狩っていた。

それに、俺はシンヤをある程度レベルを上げるつもりでいたがキマイラを倒した時に目的がほぼ達成されてしまった。

今では既にレベルが10まで上がりこれなら間違いなく弱い魔物には遅れを取ることは無いだろう。

ただしこのレベルだとオルトロスやキマイラは厳しいので注意をしなければ簡単に死んでしまう。

それでもライラがダンジョンを作る事に成功すればこの周辺の魔素が安定し強力な魔物は生まれにくくなる。

そうすれば昨日から立て続けに出会う強力な魔物の発生率がほぼ0になるのでこの周辺も安全になるだろう。

それでも可能性が0ではないので島の山頂にあるパワースポットには常時見張りが必要となりそうだ。

そこのところは俺達が一カ所に張り付いておく訳にはいかないので政府に頑張ってもらおう。


そして、俺達は魔物の討伐を終えたのでシンヤを彼女の家に送り届けに向かった。

そこは売店が立ち並ぶ表の道から外れており、周りにはありふれた家々が並んでいる。

その中の一つがシンヤの彼女であるアオイの家であり、到着するとシンヤはベルを鳴らし声を掛けた。


「アオイー。この周辺はもう安全だー。出て来ても大丈夫だぞー。」


すると家の中からゴソゴソと何かを動かす音が聞こえて来た。

どうやら扉を破られた時の事を考え、中にバリケードを作っていたようだ。

そして声を掛けて数分もすると中から声が聞こえて来た。


「少し待ってて!タンスが重くてなかなか動かせないの~。」


おそらく外の様子から危険を感じてタンスを急いで動かしたのだろう。

火事場の馬鹿力というが後になって冷静になると意外と重い事に気付くものだ。


そして更に数分待つと中の音がおさまり、一人の女性が扉を開けて飛び出して来た。

女性はその勢いのままシンヤの胸に飛び込むと顔を上げて笑顔を浮かべる。

おそらくこの女性がシンヤの言っていたアオイだろう。

とても元気で活発そうな女性だ。


「シンヤ!本当に来てくれたのね。それで、魔物はどうなったの?」

「そいつ等なら俺の後ろに居るこの人たちが全部倒してくれたんだ。それにテレビでやってた結界石って言うのを使って安全地帯を作ってくれてる。ただこの事を知ってるのは俺達だけだから他の人にも急いで伝えないといけない。」

「あ!そうだったんだ!」


するとアオイはシンヤから離れ俺達の前に来ると頭を下げて来た。

それに続いてシンヤも横に並び同じように深く頭を下げて来る。


「色々助けてくれたみたいでありがとうございました。このお礼は後で必ずします。」

「俺からも礼を言わせてくれ。こうしてアオイと無事に再会できたのはアンタらのおかげだ。」

「それなら後でアナゴ飯でも奢って貰おうかな。それだったら難しくないだろ。」

「分かりました。美味しいお店に案内します。」


そしてアオイは再び頭を下げてから家の中へと戻り、シンヤもそれを追い掛けて中へと入って行った。

これでこの周辺の問題も解決できたので俺達はアキトたちと合流するためにあるフェリー乗り場へと向かう事にする。

そして到着するとアキト達は既に到着して、缶コーヒーを飲みながら待っている。

それにヒムロの横には見知らぬ女性が一人混ざっていて、こちらはコーヒーではなく子供にも人気な粒粒コーンだ。

味も気に入っているのか美味しそうに口へと運び、足元には既に3つの空き缶が積まれている。

そしてマップを見ればすぐに分かるが、この女性がヒムロがテイムした魔物で間違いないだろう。


「そいつがお前がテイムしたいって言っていた魔物か?」

「ああ、何とか戦いに勝ってテイムに成功したウェアウルフのシラヒメだ。ちょっとじゃじゃ馬だけど良い女だろ。」


そう言ってヒムロはシラヒメを抱きしめるが彼女は手をヒムロの横腹に伸ばすとそのまま抓って笑顔を向けた。

どうやらヒムロの言っている事は正しい様だが、真実を口にして常に許してくれるほど大人しい性格では無さそうだ。


「イタタタターーー!」

「私は馬じゃなくて誇り高きオオカミだ。そこを間違えるな。」

「イタタ・・・分かった。分かったから許してくれシラヒメ。」

「分れば良いのだ。」


そう言ってツンとそっぽを向いて手を放したがどうやら例えられた動物が気に入らなかったらしい。


「これがじゃじゃ馬だって言うんだ。」(小声)

「何か言ったかの?」

「ナニモイテマセン。」


しかし、ヒムロの小声での愚痴はしっかりと聞かれていたようだ。

そして今度は抓るのではなくヒムロの足をグリグリと踏んづけている。

喧嘩するほど仲が良いと言うが、傍から見れば喧嘩というよりもじゃれ合っているように見える。

俺はそんな二人を見て苦笑し、仲は良さそうだと邪魔をしない様に放置して話を勧めた。

シラヒメ的には例えが悪いが俺も馬には蹴られたくないからな。


「そっちも上手く結界が張れたみたいだな。」

「ああ、予想以上に魔物が多かったがどうにかなった。そちらも問題なかったみたいだがシンヤは置いて来たのか?」

「もともと送り届けるのが目的だったからな。それじゃ山頂に向かうか。」

「そうするか。あそこをどうにかしないとこの周辺の問題が解決したとは言えないからな。」


ちなみにアキトの言う事はもっともで俺達が結界を設置した事で魔物が発生する面積が減ってしまった。

それによって魔素が偏り更に強力な魔物が生まれたり、今度は陸ではなく海中で大量発生が起きるかもしれない。

それを防ぐために俺達は山道を歩いて山頂にあるパワースポットを目指していた。

季節がよければ赤く染まった綺麗な紅葉が楽しめたのだが今は葉も色を失い寂しく風に揺れながら落ちているのが見れるくらいだ。。

もし来年も無事に秋を迎えられるなら弁当を持って行楽に来ても良いかもしれない。


すると途中でホロが俺の傍までやって来た。

その姿は犬となっているがまるで子供がせがむ様に足へと飛びついて来る。

どうやら抱っこして欲しい様だがこういう時に我儘を許してはいけない。


「ダメだぞホロ。」

「ユウ・・・言ってる事とやってる事が違うわよ。」

「うお!いつの間にこうなった!」


頭では分かっていても心と体がそうしたいと思ってしまえば民主主義の原則によって抱っこする事に軍配が上がる。

俺は気が付けばホロを両手で抱え上げてしまっていてライラにツッコミを受けてしまった。

しかし、何故かホロの視線はシラヒメへと向いて張り合う様な顔を向けている。

そして舌を出して口角を上げているが、こちらは普段通りの表情なので俺には何がしたいのか分からない。

それでもシラヒメには感じるものがあった様でホロと同様に獣の姿になるとヒムロへと飛び掛かった。


「ちょ!どうしたんだシラヒメ!」

「グルグルグル!」


きっとあちらも抱っこを要求しているのだろうけど、根本的な所で問題がある。

それはホロの体重は14キロ前後だが、あちらは体も大きく100キロは超えていそうだ。

相手は魔物であっても女性なので声に出しては言わないがアレを抱えて山を登るのは不可能に近い。

それにどちらかと言えば乗るよりも乗せる方が正しい大きさをしている。

魔物なら体の作りも頑丈で人が乗っても問題にはならないだろう。

まあ、俺ならホロがそれくらいだとしても限界を超えて運んで見せるけどな。


しかし俺も自衛隊の訓練で何十キロもある荷物を背負って山道を行軍する事は聞いた事があるが、100キロもの荷物を両手で抱えて行軍するなんて聞いた事が無い

あの様子ではせいぜいが背中に背負って移動するのが限界だろう。


もしかするとさっきまで二人が引っ付いて仲良く歩いていたからホロも嫉妬して意地悪がしたくなったのかもしれない。

それに心なしか抱っこしてからは尻尾が嬉しそうに揺れている気がする。

そして、ヒムロは大事なパートナーを抱えると足を落ち葉で滑らせない様にしながら慎重に歩き始めた。


「グ!グォ~~~!・・・重い!」

「ガウ!」

「ギャ~~~!タイムだタイム!今のは嘘から出た真だ!」


すると本音が口から洩れたのかヒムロは言ってはいけない禁句を吐き出した。

その瞬間にシラヒメは大きな口で頭に噛みつきその場に押し倒してしまう。

しかし、今の諺は嘘を言ったら本当の事になったという意味だった気がする。

そうなると最初の通りに重いと言っているのと一緒だろう。

シラヒメは魔物なのにその事に気が付いたから口を離さないのだろう。


「シラヒメ、マジで謝るから口を離して!刺さってる!牙が頭に刺さってるから~!」


そして、しばらく二人のジャレ合いは続き、結果としてシラヒメの背中にヒムロが乗る事で落ち着きを見せた。

すると今度はシラヒメが胸を張った凛々しい姿でホロを見詰め鼻息を上げて見下ろして来る。


「ワン!」

「あ、降りるのか?」

「ワン!」


するとホロは地面に降りて自分の背中に視線を向け俺に乗る様に意思を伝えて来る。

しかし、今度はこちらが不可能な要求だ。

絵面から言えば大人が子供用の三輪車に乗る様な物で下手をしたら虐待に見えるかもしれない。

なので俺は不安そうな顔になっているがホロを抱え上げて歩き出した。


「ホロはこれで良いんだよ。」

「ワウ・・・。」

「この温もりが俺に無限の力を与えてくれるんだからな。」

「ワン!」


どうやら上手く説得が出来た様でホロは俺の腕の中で納得してくれた。

ただ、ちょっとだけ周りから呆れ混じりや羨ましそうな視線を向けられている。

しかし、ホロはこの中では一番に付き合いが長く、世界がこうなる前からの家族だ。

俺が犬好きであること以上に大切な存在なので少し甘やかすくらいは大目に見て貰いたい。


その後、枯れ葉が絨毯の様に積もっている山道を進み頂上に到着した。

そして山頂からは大量の魔素が蒸気の様に噴き出しているのが見える。

恐らくメノウに教えられて取得した魔素感知のおかげだろう。

通常は目に見えない程に薄まっていてもゴブリンやコボルトが生まれる原因になるので、これだけの魔素があれば強力な魔物が生まれるのも分る気がする。


そしてライラはパワースポットの中央に行くと魔法陣の描かれた大きなクリスタルの柱を取り出し地面へと突き立てた。

どうやら視覚的には間欠泉の様に噴き出して見えるが、物理的な影響は無いらしい。


「これを核にしてダンジョンを作るわ。起動するから少し離れてて。」

「分かった。危険はないんだな?」

「大丈夫よ。」


ライラはそう言ってクリスタルに手を翳すと魔法陣が反応し光を放ち始めた。

しかも噴出していた魔素を全て取り込みながら光は次第に激しさを増して行く。

そして最後に赤い閃光を空に放つと大地が揺れ始めクリスタルは地中へと向かい沈み始める。

するとそこには大きな穴が口を開いたが穴は勝手に形を変え階段を作りだした。

俺は中を覗きこんで確認するとクリスタルが奥へと消えていくのが見える。

どうやらクリスタルは周囲の魔素を取り込みそれをエネルギーにしてダンジョンを形成しているようだ。

これで周囲の魔素が薄まり魔物の発生が抑えられるだろう。

そしてライラが言うにはダンジョンが完成すれば地上に現れていた魔物がダンジョン内で現れる様になるらしい。

ただし、ダンジョンが完成するまでは魔素が消費され続けるのでこの辺一帯に魔物が出なくなるそうだ。

それまでは危険も極端に減るので今の内に人員を派遣してもらえば良いだろう。


「これで後は待つだけね。魔素は全ての根源と言えるモノだからダンジョンが完成すれば後は勝手に資源も発生するわ。ただ何が出るかはその時まで分からないから出来てからのお楽しみよ。」


そして俺達はダンジョンの設置を見届けたので山を下りて麓へと戻って行った。

すると町ではアオイたちが現状を知らせてくれたおかげでかなりの人が出歩いている。

観光客はまだ来ていないようだが、店も開き始めているので昼からは通常営業が出来そうだ。

それに海沿いを歩いている時に丁度シンヤとアオイに会うことが出来た。


「見つけましたよ。約束通りアナゴ飯をご馳走します。」

「それは楽しみだな。」

「既に準備を済ませてありますからこちらにお願いします。」


アオイはそう言うとアナゴ飯を専門に扱う店に案内してくれた。

ただこの島には幾つか飲食店はあるがアナゴ飯を扱う店は少ない。

しかし、今は観光客は殆どいないので貸し切りにしてくれたようだ。

店もそれほど大きくは無く俺達だけでも満席になりそうなので丁度いい。

そして俺達がアナゴ飯を食べていると今度は外から差し入れが持ち込まれた。


「お前達がこの島を助けてくれたって言う連中だろ。牡蠣を焼いて来たから食ってくれ。」

「私はお好み焼きを焼いて来たわよ。」

「俺ん所はお土産の紅葉饅頭を焼いて来たぞ。」

「家は揚げ紅葉だ!」

「私ん所は特別肉まんを作って来たよ!」


そして次々と持ち込まれる食べ物で店の周辺は宴会の様な様相へと変わっていく。

人が人を呼び、俺達の事を聞いた人たちが更に集まって来る。


「儂の店は酒を大放出だ!芋に日本酒、ビールに地酒。どんどんやってくれ!」

「「「お~~~!」」」

「おっちゃん太っ腹だな!」

「この酒は美味いな。後で買いに寄らせてもらうよ。」


そして次第に集まる人々に誘われるように逃げていた鹿も寄って来る。

どうやら魔物に襲われる前に逃げ延びていたようだ。

よくよく考えると角のある雄鹿なら一般人よりも強く足も速い。

弱い魔物なら撃退したり逃げるのも容易いだろう。

もしかすると高レベルの鹿が生まれる事もあるかもしれない。


そして俺達が食事をしていると俺の横に一人の男が腰を下ろした。

そちらに顔を向けるとつい先日会った男だが、まさかの再会に言葉が出ない。

どうやらアキトも知らなかったのかその男に驚愕の顔を向けている。

そして俺はようやく驚きが治まり声を掛ける事が出来た。


「総理がこんな所に来て良いのか?てか、どうやってここに来たんだ?」

「ハハハ、そんな事か。あの後、装甲車を出して東京からここまで急いで来たのだよ。道路上にいた魔物は全て踏み潰したから何とステータスまで手に入れることが出来たぞ。しかし、レベルが上がるとは素晴らしいな。」


・・・なんて非常識な事をする総理大臣なのだろうか。

この調子なら次は戦車まで使いそうだ。

しかし、そうなると海はどうしたのだろうか?

装甲車には水上を走れる物もあるが目の前にあるのは川ではなく海だ。

可能かと言えば無理ではないだろうがそんな事で装甲車に負担を掛ける様な事をするとは思えない。


「それで海はどうしたんだ?装甲車だとここまで大変だろう。」

「ここは近くに海自の船が停泊している。それをチョイっと使って送ってもらったのだ。この周辺は浅瀬も多いから途中からはボートだがな。」


何という職権乱用だろうか。

そんな事して周りから何か言われたり攻撃されないだろうか?

この総理とはなるべく長く付き合いたいのでそんな事でトラブルになると困るんだが。


「そんな事して大丈夫なのか。せっかく国会も落ち着いて来たんだろ。」

「その事か。みんな快く送り出してくれたぞ。私1人が動いてもここまで簡単に装甲車や艦艇を動かす事が出来るはずないだろう。」


そう言ってハハハ~と笑っているので大丈夫なのだろう。

それで問題が無いならこの際ついでなので色々話す事もある。

しかし、総理。

その手にある薄く黄色がかった飲み物は何だろうか。

もしかして既に酒が入っているということは無いよな。

若干だが顔が赤い気もするし口調が以前と変わっている。

この様子だとこれがこの人の素なのかもしれないな。

まあ、こちらの方が俺も自然に話が出来て楽ではある。


「それで、今日は何をしに来たんだ?」

「う~ん。この地酒は美味いな。」

「おい、あえて何も言わなかったのになんで自分から酒を飲んでいるのをバラすんだよ!」

「ユウは知らないのか?国会で話されてる議題の何割かの落としどころは酒の席で既に決定しているんだぞ。別に気を張って決める事じゃないんだから良いだろ。」


確かに本人がそれで良いなら問題は無いか?

それなら総理が酔う前にとっとと話を終わらせてしまおう。

俺は横に座るライラに目を向け話を切り出す様に声を掛けた。


「それじゃ、ここからは私が話すわね。」


そう言ってライラは数枚の紙を取り出すとそれを総理へと手渡した。

総理の方も今は一切を外部に洩らす訳には行かないのですぐにアイテムボックスへと入れて保管する。

それに昨日の段階で話は終えていて報酬に関しては後回しにしてある。


「それが昨日の夜に話した魔力機関に使う魔法陣にその周辺設計図。これで分からない事があったらその時は連絡して。」

「分かった。まずは専門家を招集して検討させよう。おそらくこれだけあれば問題ないだろう。試作品は近日中に完成されるようにする。一つ出来ればそこから一気に研究も加速するだろう。こういうのは最初の一つが大変だからな。それで、この報酬は何がいい?」

「それなら、この島に設置した結界石を政府が払ってくれたらいいわ。それとダンジョンへの自由な探索権もお願い。ここの山頂に設置したからそこの管理もお願いね。」

「それだけで良いのか?」


実際ライラの出した物は知識としては莫大な価値がある。

特許を申請すれば一生を遊んで暮らせる程の利益が得られるだろう。


「良いのよ。もう十分にお金は稼いでるから。それに、ダンジョンの探索権があればここだけじゃなく他の所のダンジョンも探索できるでしょ。ここは私達の都合で人工ダンジョンを作ったけど当然自然発生のダンジョンもこれからは生まれるのよ。早めに政府からの認可があればトラブルも避けられるでしょ。」


すると総理は納得したようで頷いて笑顔を浮かべた。

それにライラにとってはお金やその他の報酬よりもダンジョンから手に入る素材の方が価値があるようだ。

きっといずれは一緒に素材を取りに行く事もあるだろう。


「そう言ってくれるとこちらも助かる。ダンジョンへの探索権は問題なく渡すことが出来るだろう。出来ればダンジョンが出来る仕組みや発見に役立つスキルなどを後で教えてもらえると助かるのだが。」

「それなら後でレポートにしてアキトに渡しておくわ。それで良いでしょ。」

「ああ。それなら問題は無いな。それとこちらからの伝達として結界石を作るスタッフは着実に育っている。どうやらクリエーターや技術者の中に必要なスキル習得者が多いみたいだ。傾向が分かって来たので効率よく育成が進んでいる。各国も此方が提示した金額で情報を買ってくれているので近日中に売り出す予定だ。」


そう言って総理は少し渋い顔をしてライラを見た。

しかし何故そんな顔をするのかが分からずライラは首を傾げて総理を見返した。


「実は他国より情報がもたらされた内容に気になる事が含まれている。どうやら君を犯罪者だという者が現れたそうで捜索と引き渡しを要求している。その国は取り合わなかったが複数の国で似た事を言う者が現れているようだ。」

「それで、この国はどうするの?」

「この国は国民である君を全力で守る方針を固めているから安心してくれ。それは結界石の情報を取引した国も同様だ。」

「良かったわ。まだしばらくはここで過ごせるのね。」


そう言ってライラは俺の手を強く握って来る。

だが、しばらくと言っているので大きな期待はしていないのが分かる。

しかし、それなら俺がこの国をライラの安住の地にして見せる。


「それにしても、どの国も気前が良過ぎないか。相手が何処の国か知らないが、所詮は個人だろ。」

「これは技術を殆ど無償で提供してくれている事が大きい。それに彼女の知識は金の卵どころの話ではない。おそらく本気で利益を得ようとすれば世界最高の金持ちになる事も可能だろう。」

「そんな物には興味がないわ。私が求めているのは愛する人と安らかに過ごせる環境だけよ。」

「ならば私の権限の及ぶ範囲でその願いを全力で叶えよう。しかし、君たちも気を付けてくれ。そういう輩はテロリストと同じで何をするか分からん。」

「分かってる。ただ、もし攻めて来たら?」

「好きに潰しても構わん。ただそうさせない為にアキト達を付けておる。」


そう言って総理は立ち上がると空いてない酒瓶を手に去って行った。

フットワークが軽いのは良いが大丈夫だろうか。

しかし、最後に総理は良い情報をくれた。

それは俺が欲しかった情報でもあったからだ。

ライラは今、不安そうな顔で俯いているがどうやらその不安を晴らす事が出来る日はそう遠くなさそうだ。

しかし、相手はスキルがある世界に生まれた者達なので一筋縄ではいかないだろうし高レベルの者も存在するだろう。

今は慢心する事無くレベルと実力を伸ばしていくしかない。

そして俺達は動き出したフェリーに乗り家路へと着いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだしばらくはここで過ごせるのね。 →未だ暫くは此処で過ごせるのね。
[一言] 試作品は近日中に完成されるようにする。 →試作品は近日中に完成出来る様にする。
[良い点] 話は面白く楽しく読ませてもらってます。 [気になる点] そもそもこの世界の人が魔物に殺されるのは全てライラのせいなのにそこは流されてるのが気になります。自分で魔物の世界と融合させてそれを封…
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