31 海の魔物②
イソさんの船はかなり大型の漁船だった。
全長10メートルはあり瀬戸内海で使うならかなりのサイズがある。
その船のエンジンに火を入れると壊れるのも厭わず出港し、俺の示す方向へと船を進めて行く。
そして、俺のマップにはこの先の入り江の様な場所で複数の魔物に囲まれているのが確認できる。
どうやら陸上に追い込まれた様で先程までの素早い動きが無い。
そしてマーマンの姿をみてハルのピンチを感じ取ったイソさんは更にアクセルを押し上げて全速力で向かっている。
もしここで海上に流木でも流れていれば転覆の恐れもあるがそこは俺が船首から目を光らせているので問題ない
「イソさん。アイドリングも無しにこんな全力運転したらエンジンが壊れちまうよ。」
「うるせえ、男には迷っちゃいけねえ時ってもんがあるんだ!黙ってねえと海に叩き落すぞ!」
そしてイソさんの顔を見れば既に余裕が感じられない。
仲間の人魚ならともかく異種族がハルを捕まえて何をしようとするのか。
俺には分からないがイソさんは人魚と愛し合う程に仲良くなったのなら何かを聞いているのかもしれない。
そして、入り江が見えてくるとイソさんは船の操舵室から出て俺の横へとやって来た。
「やっぱりあそこは俺とアイツの思い出の場所だ。待ってろよハル!」
そして俺の目には既に浜の光景が見えていた。
五感強化のスキルのおかげだがマーマンたちはハルに圧し掛かっているのが見える。
何処から見ても強姦をしている様にしか見えないがもしかしたらその通りなのかもしれない。
そして船はブレーキなど付いていないのでそのままのスピードで浜に乗り上げ地面を削りながら滑る様に進んで行く。
イソさんはその勢いを利用してそのまま浜に飛び上がると周囲のマーマンに銛を投げ付け始末しながら見事な着地を決めた。
ちなみに俺もそれに習って船から飛び出し魔法で援護を行い魔物を始末して行く。
しかしそんな事が出来ないシンヤは早めに船から海に飛び込み必死に浜に上がって来ている最中だ。
「ハルー!今助けるぞー!!」
「亮、来てはダメ!こいつはただのマーマンじゃないのよ!」
そしてよく見ればハルの上に乗っていたマーマンは周りの者達よりも遥かに大きい。
恐らくは上位種か何かだろうが身長は俺達の倍はあり筋肉の付き方も他とは明らかに違う。
ただこのままでは危険と判断し、俺はイソさんが突っ込む前に少しアドバイスを送る事にした。
手伝ってもいいがそれでは彼の気も晴れないだろう。
イソさんは今の段階でもあのマーマンと互角以上の実力がありそうなのでスキルを強化するだけで充分に勝利をもぎ取れるはずだ。
「身体強化を上げておいた方が良い。それと周りの雑魚は俺に任せろ。」
「ああ、任せたぞ!俺はあのデカいクソ野郎をやる。ハルに手を出す奴は生かしておく気はねえ!」
そしてイソさんは俺のアドバイスを聞き入れ幾つかのスキルレベルを上げた様だ。
ここは一切の灯が無いので視覚系も上げたのだろう。
それに砂浜で足場が悪いのに走る姿が先程よりも安定している。
しかしあちらはそうでもなさそうなのでこの場所なら有利な戦いが出来るだろう。
俺は彼の3歩先を走り目の前のマーマンを一撃で切り捨て、遠くの奴は魔法で始末して行く。
それに一刀一殺の勢いで対応しても後ろのイソさんが追いつくよりも早く雑魚を始末することが出来る。
そしてイソさんは消えていくマーマンの間を駆け抜けボスの前に立った。
「ハルから離れやがれ!」
そう叫んでイソさんは銛を振るう。
するとそこでボスは避ける瞬間にハルを殴り気絶させると飛びのいて躱した。
魚顔のくせに頭が回る。
気絶させておけば逃げられないしイソさんの動きも制限される。
どうやら頭は悪くないみたいだ。
しかし、それは彼の心にとっては一つの起爆剤だったようだ。
イソさんの体からは先ほどまで無かったオーラの様な揺らめきが見え、魔装を纏っている姿にとてもよく似ていた。
もし槍術のスキルレベルを10にしていたとしたら俺の様に進化し、それと同時に魔装を習得したのかもしれない。
そしてイソさんは怒りの表情を浮かべ無造作に一歩を踏み出した。
するとその姿はブレて見え、次の2歩目は不自然に遥か先で地面を蹴っていた。
これはおそらく空間を歪めて距離を短くする縮地だろう。
横から見るのは初めてだが、こちらとしては初めて見る達人級の動きだ。
虚を突く事に成功したイソさんは間合いに入ると同時に銛を横薙ぎに振るった。
それに対し、ボスはかろうじて対応し、腕でガードの態勢に入る。
通常、刃の付いていない銛で殴られても切れることは無いのでこの判断は正しい。
返しに引っ掛かれば別だがそれ以外では打撃とそれほどは変わらない筈だった。
しかしあの銛は今、魔装によって覆われている。
すなわち魔装の形状を変えれば打撃を斬撃に変えられるのだ。
そして、思った通り銛を受けたボスの腕は綺麗に切り取られ宙を舞い傷口から血が噴き出した。
しかし、それだけでは銛は止まらず身体強化された肉体はそのまま銛をボスの体まで届かせた。
そして銛は最後まで振り切られボスは切られた場所からズレて行き、悲鳴を上げる事もなく絶命させられた。
上位種のマーマンは消え魔石へ変わると地面に落ちて砂に埋もれた。
イソさんはそちらは気にせず、銛を投げ捨てると急いでハルの下へと駆けだした。
しかしそこに先ほどまで怒りに燃える男の顔はない。
今は愛しい者をその手に抱き締め、痛々しく傷つけられた顔に優しく触れている。
俺は歩み寄るとその傍にしゃがみハルの傷に魔法を掛けた回復させた。
「それが魔法か?」
「白魔法だ。回復に役立つから余裕があれば覚えておくといい。便利なのは生活魔法だな。掃除、洗濯、灯と使い所が多い。それと一つ言っておく。」
「なんだ?」
「変化のスキルをレベル10にまで上げると人の姿になれる。もし彼女のスキル欄にあるなら試してみると良い。魔物、動物には珍しくないスキルらしいからこの人も持っているかもしれない。」
するとイソさんは頷き、それと同時にハルの瞼が震える。
その顔も写真で見た顔とそっくりで長い年月を生きている様には見えず、美しく若々しい姿をしている。
イソさんはそんなハルから視線を逸らす事なく待ち続けていたが、意識が覚醒させて目を開けたハルはイソさんの顔を見てその腕を掴んだ。
「リョウ!あいつは!?あなたは大丈夫なの!?」
「俺は大丈夫だ。アイツは倒したからもう安心だ。それよりもハルこそ大丈夫だったか?」
すると先ほどまでの事を思い出したのか彼女は体を震わせながらイソさんの胸に飛び込んだ。
それをイソさんは抱き止めると今までの想いを込めて強く抱きしめた。
そして、それはハルも同じだったようでイソさんを強く抱きしめると内に秘めた想いを互いに口にし始めた。
「リョウ、本当は寂しくて怖かったの。あなたに会えない50年は私にとって拷問と一緒だったわ。」
「俺もだ。ハルの居ない世界は白黒のようだった。でも、お前との思い出と一枚の写真だけが俺に生きる気力を与えてくれたんだ。」
「それに最近は海にも魔物が出る様になったって分かって、どうしてもアナタに会いたくて少しずつ倒してレベルを上げていたの。するとあの上位種に見つかってしまって・・・。私達は奴等の子供を身籠ることが出来るからそれで目を付けられたの。」
「あの時に俺が不甲斐なかったばかりに苦労を掛けてしまったんだな。これからは何があっても俺が絶対に護る。だからもう何処にも行かないでくれ!」
「私もずっとアナタの傍に居たいわ。もし次に引き裂かれるなら死んだ方がずっとマシよ!」
二人はこの50年の想いを爆発させ、まくし立てる様に喋りながら更に絆を強めて行った。
そして暫くするとハルも落ち着いてきたようで体から震えが収まり始め涙で濡らしていた頬が赤く染まっている。
それに今では二人とも抱き合いながら幸せそう表情を浮かべ自分達の世界へと入ってしまった。
しかし、本人らの為に幾つか聞いておく必要があるのでこちらへと帰って来てもらわないといけない。
「その感じだと変身のスキルの事は知っているんだな。」
「あ・・・ゴホン。し、知っているわよ。私達マーメイドは人の姿で社会に溶け込んでいる者も多いから。」
(そうなのか。それは初めて知ったがおそらくこの世界ではないだろうな。)
しかし、この反応だと俺の事も目に入ってなかったんだろうな。
今頃になって態度を改めても最初から最後までバッチリ見せてもらった。
ただし、いくら俺でもここで深く追求しないだけの節度は備えているつもりだ。
「それならそこは省くがお前は何処から来て何処にんだ?」
イソさんからは50年前にハルと知り合ったと聞いているが世界が融合したのは最近の事だ。
そしてこの世界には幽霊の正体見たり枯れ尾花と言う言葉があるがまさか世界に点在するスクープ映像の幾つかは彼女なのではないだろうか。
(ははは、まさかな。)
「きっと別の世界から来たのだと思うわ。彼が助けてくれて意識を取り戻した時に海の全てが違うと感じたの。でも魔物が海に出る様になってからは昔と同じ匂いが混ざり始めてるわ。きっと魔素が生まれる仕組みがこの世界にも出来たのね。おかげで体も軽くなって動き易くなったわ。」
どうやら世界融合の事は知らないようだが海の変化は現在進行形で進んでいる様だ。
そうなると地上の方も同じ感じだと考えれば変化は今も進んでいると言う事になる。
もしかするといずれは本当に昼間でも魔物が生まれて歩き回る時が来るのかもしれない。
しかし、そんな不安もハルの落とした爆弾によって意識の彼方へと消え去ってしまう。
「それと今までは色々な海を旅してたわよ。時々人に見られて騒がれちゃったけど。何人かは何か光を放つ道具を持ってたわね。」
「・・・・」
ゴホン!まあ、これで俺は3つの事がわかった。
このマーメイドが魔素が存在した世界から来た事と、変身スキルの事を知っている事。
そしてこいつが近年、仰天番組で報道された人魚。
U・M・Aである事も確定した。
実は去年の年末辺りの特番で生きている人魚が流氷の上で寛いでいる映像が公開された。船に驚いてすぐに海の中へと逃げてしまったが、あの時の映像を思い出すと確かに似ている気がする。
(良かったなハル。世界がこんなになってなければ相手が悪いと捕まって売られてたかもしれないぞ。)
まあ、その場合は鬼神になったイソさんによって血の雨が降っていただろう。
そして最後の一つは置いておくとして、最初の2つが分かれば十分だろう。
何か忘れている気がするが何故この世界に来たのかは分からない様だし、この世界にも神隠しなどの伝説はある。
こちらからの異世界転移があるならその逆があっても不思議ではない。
そして、そろそろ帰る事になり船に戻るとそこでは呆然と船を見ているシンヤの姿があった。
(これは確かに困ったな。)
勢いに任せて浜に突っ込んだがあの船はこれからも使えるのだろうか?
しかも、最後の方ではエンジンもかなり悲鳴を上げていて変な音が聞こえていた。
もしかすると壊れてもう動かないかもしれないがライラに頼んだらどうにかしてくれるだろうか?
俺は船に近寄ると船ごとアイテムボックスに仕舞い横に居るシンヤに声を掛けた。
「無事か?」
「なんとか・・・。爺さん?は無理をし過ぎだぜ。もうちょっと後先考えろよな。」
「あれが女を選んだ時の男の姿だよ。お前も女性関係で悩んでるならしっかりと見て参考にするといい。」
「・・・あんたはどうなんだ?」
「俺のところのメンバーはみんな訳ありなんだよ。一緒にいるなら最初から命を賭ける位の覚悟が無いと無理だな。」
「クソー。なんで俺の周りの奴にはまともなのが居ないんだ。」
(何を言っているんだ、失敬な。)
偶然そうなっただけだし別に自分の命くらい安い物だ。
それに俺は軽く命は掛けるが死にたくないからこうやって必死に強くなろうとしている。
特に今は強さや努力が目に見えやすく確実に形となるので以前よりも良い世界だと思う。
「どうするにしても俺から言えるのは一つしかない。どんな世界でも好きな女を守れるだけの力は必要だから後悔しない様に強くなっておけよ。」
もし世界が融合していなくても男なら何らかの手段で大事な人を守らなければならない。
それが力であったり経済力であったりと色々ではあるが、これからの事を考えれば両方が必要になる時が来るだろう
俺はそれだけはしっかりと伝えるとイソさん達のところに歩き出した。
そろそろ帰らないと遅くなってしまい皆を心配させてしまう。
そしてイソさんの所へ行くとハルはその姿を猫の姿へと変える所だった。
おそらくスキルレベルが足りなくてまだ人にはなれないのだろうけど、代わりに他の動物にはなれるようだ。
そしてそのままイソさんの服の中に潜り込むと襟元から顔を出した。
あれなら何処から見ても仲睦まじい飼い主と飼い猫にしか見えない。
「にゃ~~。」
ハルはそこで甘えた声を出しイソさんはヤレヤレといった顔を向けているがその手はしっかりとハルが落ちない様に抱きかかえている。
その様子を後ろで見ていたシンヤは驚いている見ているが俺達はそれを無視してイソさんと一緒に歩き出した。
「帰り道は分かりますか?」
「ここには時々来ているからな。昔はここでハルと一緒に過ごしたもんだ。」
そう言えばここはハルとの思い出の地だと船の上で叫んでいたな。
そして帰り道はイソさんが知っているようで少し歩いた先に小道を見つけるとそれに沿って進み始める。
そして1時間ほどかけて俺達はイソさんの家の前に到着し、そのままみんなの待つ家へと向かって行った。
その頃、ライラ達は。
「連絡があったとはいえ遅い気がしない?」
「そうですね。まさか何かあったんでしょうか。」
ライラは壁の時計を見て呟き、それにアヤネが心配そうに答えた
ユウがこの家を出て行ってそろそろ2時間になる。
連絡があってからは1時間半は経過しているがいまだに連絡がない。
簡単に死んだりしないと信じているがそれでも危険である海に出たので不安ではあった。
実際に彼女たちは出会ってからほぼ毎日一緒に行動している。
特にライラとアヤネに関してはこの世界が変わってずっとだ。
そして、その中でいくつもの戦いを経験したが水上での戦闘経験はない。
しかもどんな人間でも水中では実力の全てを発揮する事は出来ないのだ。
もし、何かの拍子に海に落ちて魔物に襲われていたり、不意を突かれ窮地に陥る可能性は十分にある。
ユウは異常な速度で強くはなっているがまだまだ経験が足りていない。
緊急時の対応力は低く最悪の時には呆気なく死んでしまう可能性が常に付きまとっていた。
そしてライラ達はステータスを開きそこにあるパーティメンバーの名前に目を落とす。
そこにはユウの名前がありそれがいまも無事に生きている証でもある。
それを見てライラ達はそっと溜息を吐いて名前の部分に指を向けた。
「そろそろメールしてみる?」
「そうですね。そろそろ帰って来てもいい頃ですから送ってみましょうか。」
「ユウさんは一人で行動させるとまた何か拾ってきそうで心配です。」
「「あり得る。」」
しかし、心配の種はどうやら1つだけではない様でアヤネの言葉にライラとアリシアは揃って頷いた。
するとその様子を見てここの家主であるマコトが話に加わって来る。
「ははは、なんだあの兄ちゃん。あんな顔で物を拾って来る癖でもあるのか?」
すると3人、特にライラとアヤネは微妙な顔で苦笑を浮かべた。
実際に言葉の解釈を広げれば自分達も拾われたと言えなくもないが、それ以外にも幾つかの前科がある。
それを思い出して二人は沈んだ笑みを浮かべるとタールでも吐き出す様にボソリと呟いた。
「物ならいいのよね。物なら・・・。」
「そうですね。物は物でも魔物を拾って来るから大変なんです。」
するとライラとアヤネの言葉を聞いてマコトは大笑いを始めた。
しかし、それに自分の弟が巻き込まれている事を知らず、知っていれば次は自分かもしれないと慌てた事だろう。
「なんだそりゃ。冗談がきついぜ。」
「「「は~・・・。」」」
しかし、3人の顔は深刻そのものだ。
そしてこの事に関してユウの信用は米粒ほども存在しない。
先程もオルトロスをテイムした所で、お持ち帰りこそしていないが何時かは連れて帰ってきそうだ。
特にケルベロスとかケルベロスとかケルベロスとか。
その顔を見てマコトも冗談でない事に気付くと笑った顔を引き攣らせた。
そしてアリシアはおもむろに立ち上がると傍にある窓を開け、外でのんびりとしている魔物に声を掛けた。
「来なさいオルトロス。」
そして蜂蜜の瓶を取り出して蓋を開けると窓の外から2本の首が突き出しねだる様に頬擦りを始めた。
その光景にマコトは声が出せなくなり、その場で固まって動けなくなってしまった
「はあ~。この子も先程ユウさんがテイムして弟さんのアユムさんに譲渡したのです。アユムさんが断ったら家に連れて帰らないといけない所でした。」
そう言って蜂蜜を舐め終えて上機嫌なオルトロスの双頭を撫でてやる。
そしてマコトはオルトロスの迫力に負けて今では顔を青くして頬を引き攣らせている。
するとアリシアは再びオルトロスに待機を命じると素直に従って窓の外へと戻って行った。
それでようやくマコトも安心して体の硬直が緩み、大きな溜息と共に胸を撫で下ろした。
「お、お前等もそれなりに苦労してるんだな。」
「はい、でも基本的には優しくて良い人なんです。」
「そうね。困ってる人はよく助けてるわね。」
「まあ、そこが良い所で私達が一緒にいる切っ掛けですけどね。」
そしてだんだんと惚気になって来たのでマコトは逃げる様にその場を離れて行った。
今なら砂糖の入っていないコーヒーもカフェオレの様に甘くなりそうだ。
そして彼女たちの惚気が終わる頃、忘れられ掛けていた本人がようやく帰って来た。
「今戻ったよ~」
ライラ達が惚気話をしていると玄関からユウの声が聞こえて来る。
するとその声と共に彼女らは立ち上がり大急ぎで迎えに走った。
その胸中には不安や心配が渦巻いていたがその殆どの理由がまた変なモノを拾って来たのではないかという思いが占めている。
そして玄関に立ちユウとシンヤを確認し、その後ろにいる見慣れない男を見てホッと胸を撫で下ろした。
男の胸元からは猫が顔を覗かせているがどうやら人間の様だ。
「お帰りなさい。海はどうだったの?」
ユウは海に出てくると言う事と少ししたら戻る事しか伝えていない。
何のために海に出るかは伝えていないのでライラから来たこの質問は当然と言える。
「マーメイドが追われているのを助けに向かったんだが相手のマーマンに上位種がいたみたいだ。それはそこにいるイソさんが倒してくれたんだが。」
「「「・・・・・」」」
すると3人は急に笑顔が崩れ不審な者を見る目をユウに向けた。
そして3人を代表してアヤネが問いかける。
「まさかマーメイドを連れ帰って来たとか?」
「ん?ああ、連れ帰って来たぞ。そのまま海にいると危険だろ。仲間も近くにいないみたいだしな。」
そう言ってユウはハルに視線を向けた。
ハルはそれを受けてイソさんの服から抜け出すと地面に下りてその場で元の姿に戻って見せる。
しかし彼女の足は魚の形をしている為、立つことが出来ない。
結果として見下ろす形になっているのが多少気になるが、この姿でなければ今は話す事が出来ないので仕方ない事ではあった。
しかし、その後ろに立つイソさんはその横にしゃがむと目線を合わせる為にハルの体を抱き上げた。。
どうやらライラ達の内心を読み取って気を使ってくれたようだ。
しかし、二人のその顔からはこちらに気を使ったというよりもただ触れ合いたかっただけの様にも見える。
その為アヤネはその行為には触れる事無く本題に入った。
「そちらのマーメイドはあなたの・・・?」
「妻だ。」
イソさんは一切の躊躇なくアヤネの問いに即答で返した。
するとハルは顔を赤らめながら口元に手を当てフフフと笑みを零す。
「少し会わない間にリョウも大胆になったのね。昔はあんなに奥手だったのに。」
するとイソさんはそっぽを向いて頬を赤くした。
その見た目と仕草からは既に80歳を超えているようには見えない。
「50年待ったんだから俺も変わるさ。それよりも俺が旦那だと嫌か?」
しかし、その問いにハルも一切の迷いなく首を横に振った。
そこに人間であるとか、魔物であるとかの種族の隔たりは無く、ただ愛し合う男性と女性が居るだけだ。
そして今ではここに集まる女性陣の全てを味方に付け羨ましそうな視線を一身に集めている。
「そんな事あるはずないわ。あなたが望むなら私は貴方の傍にずっと居る。例えこの世界の誰も私達の事を認めてくれなくてもアナタが望む限りずっと・・・。」
ハルはそう言ってイソさんの胸に顔を埋め、その姿を見たライラ達はその視線が自然な動きでユウへと向かって行く。
そして今回はユウが連れ帰ってきた訳ではなさそうなので3人は一安心して肩の力を抜いた。
その様子にユウの顔は微妙な物へと変わるが前科があるため何も言えない。
その後シンヤは海に落ちたため風呂場に向かい、それ以外は居間へと向かった。
そこで海の状況をイソさんから聞き、その日は夜はもう遅いためそのままこの家に泊まる事になった。
みんなで雑魚寝だが文句をいう者は誰もいない。
ユウたちはライラ達5人と固まり、イソさんは猫の姿に変わったハルを抱いて眠りに付いた。
アキトたちはそれぞれで毛布に包まり床ではなく壁に寄り掛かって眠っている。
するとハルの姿にホロは対抗心を燃やしたのか犬の姿でユウに寄り添うようにして眠っている。
そして冬の夜は冷えるためアリシアが火の精霊を召喚し部屋を暖かくしてくれたので風邪ひく心配はなさそうだ。




