30 海の魔物①
その家ではカキネさんが事前に連絡を入れてくれていたので深夜になっても明かりが付いている。
カキネさんが家のベルを鳴らすと目的の人物である青年の他に、家主と思われる中年の男性も顔を出した。
しかしカキネさんだけならまだしも初対面である俺達も居るのでどんな人物か様子を確認しに来たのだろう。
そして俺達は門の前で簡単な紹介をしてもらう事になった。
「こちらが今回、俺のトラブルをある意味で解消してくれたユウ君とその仲間だよ。」
「どうも、今回の事に対応したユウです。」
しかしお兄さんの眉が反応し訝しげな眼を俺達に向けて来る。
恐らくは同じ仕事をしている実の兄弟なのでカキネさんの状況も知って居るのだろう。
勿論、その事でも相談を受けて俺達にどんな依頼をするのかも知っていたはずだ。
それなのにカキネさんの説明にその事が出なかったので不審に感じたに違いない。
「ある意味とはどういう事だ?お前が頼んだのは巨大バチの駆除だろう。」
「そのつもりだったんだけどその蜂と和解できてね。これから一緒に蜂蜜を作っていく事になったんだ。これがその蜂蜜だから食べてみて。話はそこからだよ。」
彼は瓶の蓋を開けると色や匂いを確認しそれを口に含む。
すると彼の目がクワッと開いて家から飛び出した。
「何だこれは今までの物とは比べ物にならないぞ。」
「だから普通のじゃないんだよ。これが巨大バチの・・・ハニービーって言うらしいんだけど、そいつから貰った蜂蜜なんだ。これから俺はこれをメインに作っていこうと思う。」
するとお兄さんは蜂蜜とカキネさんを交互に見ると悩み始めた。
しかし、すぐに決心が着いたようで真剣な顔をカキネさんに向ける。
「巣分けは出来るのか?」
「それはまだ分からないよ。聞けば教えてくれると思うけどね。」
「もしかしてアイツ等、人の言葉が喋れるのか!?」
「違うよ。ステータスっていうモノを手に入れると能力が覚えられてこちらが相手の言葉を理解して話せるようになるんだ。」
「そんな事があるのか!しかし、お前は嘘をつく奴じゃないからな。巣分けの件はそいつ等に聞いておいてくれ。それと立ち話もなんだから入ってくれ。紹介が遅れたが俺は誠だ。こいつは息子の信也だ。歩が世話になったみたいで感謝するぞ。」
そしてマコトさんは興奮気味に言葉を並べると紹介を済ませ俺達を家の中へと入れてくれた。
ただ、夜に多くの女性が来たのでシンヤと言う青年はライラ達を意識してしまっている様だ。
それに町を歩けば数人に一人は視線で追う者が出るのでそこは仕方がない。
俺としても危害さえ加えようとしなければ全てスルーするつもりだ。
そして家に上がるシンヤから今の海についての話を聞く事が出来た。
「俺の事はシンヤと呼んでくれ。それで夜の海なんだけど既に何人か犠牲者が出てるんだ。死人こそ出てないけどそれなりの怪我を負ってる。」
「その人たちは大丈夫なのか?」
「傷を縫った人も居るけど入院する程じゃないから大丈夫だ。それに昼間なら漁が出来るから今の所はどうにかなってる。」
「魔物が出るのは海の上だけなのか?」
「港に行って船の前で襲われた奴も居るし、漁をしてて魚に噛まれた奴も居る。海の上で歌を聞いて意識が飛びそうになった奴も居たらしい。そいつは運よく一緒に乗ってたベテランの爺さんのおかげで助かったけど、もう少しで座礁して死ぬ所だった。だからこの辺の漁師連中を纏めてるその爺さんが夜の漁を禁止したんだ。」
それにしても想像以上に深刻な状況になってるな。
基本的な漁は昼間行われるけど、確かイカなどは夜に漁が行われるはずだ。
イカやタコは傷みやすい食材なので店ではあまり見ていなかったがまさかこんな事になっているとは思わなかった。
いや、俺の考えが甘かっただけか。
このままだと皆が大好きな海の幸が食べられなくなる日も近い。
ここは一つ試す必要がありそうだ。
「ライラ、結界石は船に積んでも有効なのか?」
しかしライラに問いかけてもすぐには答えが返って来ないので試した事が無いみたいだ。
そのため彼女はいつものポーズで少し悩むと今まで得てきた経験から結論を出した。
「試したことは無いけどきっと有効なはずよ。でも空気の振動を利用している呪歌は防げないわよ。」
「それは困ったな。」
そうなると最も危険と思われる呪歌が防げないのは問題だな。
毒と違って呪いはこちら側の世界では都市伝説や物語の中にしか存在していない。
俺が知らないだけかもしれないが、呪いを受けた事があると断言できる者は限りなく少ないだろう。
しかしそうなると、ここで一つの疑問が浮かび上がってくる。
「ならその爺さんは何で呪歌が効かなかったんだ?」
「そこは聞いてみないと分からないわね。気合とか根性でどうにかする人も居るけど事前に覚悟が無いと普通は耐えられないわ。」
そうなるとその爺さんが並外れた精神力を持っていると言う線もあるが、まさかライラの口から根性論が飛び出すとは思わなかった。
そして俺達の話を聞いていたシンヤが何か言いたい事があるのか手を上げて提案を口にして来た。
「それなら爺さんの家まで俺が案内してやるよ。あの爺さん、夜は遅くまで起きてるから大丈夫だ。」
「確かにここで悩んでいても答えが出ないか」
それなら一度行って聞いてみるのが一番早そうだ。。
皆にはここで待っていてもらってちょっと行って来るか。
「それなら俺が一緒に行って聞いて来る。みんなはここで待っていてくれ」
「分かった。こちらは任せろ。」
そしてここはアキトに任せて俺はシンヤと一緒に家を出た。
その爺さんの家はここから少し離れた海寄りにあるらしい。
すると歩きながらシンヤは表情を曇らせ困った様な顔で話しかけて来た。
「アンタの仲間綺麗なのばかりだな。誰かと付き合ってんのか?」
「1人とは付き合ってるな。まだ付き合いだして数日で恋人らしい事は何もしてないけどな。」
「そうか。俺も最近仕事ばかりで彼女とあんま話せてねえわ。少し前にもそれで怒らせたばっかりだ。」
するとシンヤは更にしょんぼりと肩を落としてして溜息をついた。
彼女居ない歴が長い俺にはあまり実感がないが、真剣に付き合っているならそういう悩みも出て来るだろう。
もしかすると俺もいつかは直面する問題かもしれないので真剣に耳を傾ける事にした。
「どうもあいつは俺に養蜂をして欲しいみたいなんだよな。そうすれば女でも仕事を手伝えるから一緒にいられる時間が作れるって。」
どうやら彼は仕事と彼女の板挟みになって苦しんでいるようだ。
ならここは男としてではなく年上としてアドバイスしてやるか。
「俺は犬を飼っているんだ。」
「何だよ急に。」
「まあ聞け。俺は仕事と愛犬を天秤にかければ愛犬を取る。要はお前にとって何が大事かだ。仕事か彼女か。大事な方を取ればいい。お前の親もお前に養蜂をして欲しいそうだから転職は簡単だろ。それと・・・。」
俺は蜂蜜を取り出してシンヤに渡した。
シンヤも養蜂家の息子なのでそれが何なのかすぐに理解したようだ。
「美味いな。でもそれだけだ。この蜂蜜には特徴が無い。いったいどうやって作ってるんだ。」
俺はハニービーが最初に作っていた蜂蜜をシンヤに渡したが彼も俺と同じ感想を持ったようだ。
ただ、そこで製法に目が行くとは流石は養蜂家の息子だな。
「その蜂蜜はハニービーという魔物が体内で作った蜜なんだ。ただ与える物によって味が変わる。」
「そりゃ面白いな。魔物って怖いイメージしかなかったけど共生できる奴も居るんだな。」
それに、シンヤはまだ若いので思考もアユムさんより柔らかい様だ。
魔物だからと言って否定をせずに在るがままを受け入れて納得している。
そして俺は今度は別の瓶を渡すが今度はメロンを材料にした蜂蜜が入れてある。
それを口にしたシンヤはその違いに驚くと楽しそうな顔でこちらに顔を向けてきた。
「何だコレ!さっきのと全然違うじゃないか。これは別の蜂が作ったのか?」
「いや、一緒の蜂が作った物だ。ただ材料にメロンが使ってある。興味があるならアユムさんに聞いてみろ。彼はそれを作った魔物と会話ができる。」
「あ、ああ。ちょっと興奮しちまったな。」
どうやら彼は養蜂に興味が出てきたようだ。
若いと転職もしやすいので後は彼の周りが上手く導いてくれるだろう。
そうしている内にも目的の家に到着しシンヤが言っていた様に中からは明かりが漏れ出ている。
マップでも人が居るのは分かっているので家の前に行くとベルを鳴らし声を掛けた。
「爺さん起きてるか~。」
そう言って彼は返事も返って来ない内から家の中に入って行った。
「俺は寝室を見て来るからアンタは居間で待っててくれ。あの爺さんは必ずあの部屋だけは電気を点けてるからな。」
「分かった。こっちで見つけたら声を掛ける。」
そしてシンヤは寝室を見て来ると言って行ってしまい、俺は居間に続く襖を開けて中に入った。
しかし人の反応がここにしか無いのは分かっているが目的の人物とは明らかに特徴が違う。
その酔い潰れている男は爺さんではなく良くて30代前半の男性に見えこれを爺さんと言うのは流石に失礼だろう。
しかもかなり美形な感じがするが髪だけはボサボサで手入れがされていないようだ。
白髪も無いのでちゃんと整えれば20代後半にも見えるかもしれない。
そして俺は部屋を見渡すと棚の上に古い白黒写真を見つけた。
そこには水着を着た女性と目の前で酔い潰れている男が写っている。
しかもその下半身は殆どが枠外に切れて見えないが僅かに鱗の様なモノが見える。
俺はもしやと思い目の前の男に視線を落とした。
するとシンヤが部屋に入って来ると目の前の男を揺すり、起こし始めた。
「何だここに居たのか。アンタも見つけたなら教えてくれよな。爺さん起きろ。客だぞ。」
しかしこの様子だとシンヤの言っていた爺さんとはこの男で間違いないらしい。
だが、もし写真に写っている人物が本当にこの男で、わざわざ白黒写真で撮影したのでなければ年齢的には間違っていないはずだ。
「シンヤ、ちょっと聞くけどその男は何歳に見える?」
「何を変な事聞いてるんだ?どう見ても80歳くらいの爺様だろ。こいつが俺やアンタみたいに若く見えるのか?」
(見えるから聞いているのだが見えない者に言っても理解してくれないだろうな。)
しかし、それなら目がおかしいのは俺の方と言う事になる。
彼の言う年齢が事実なら老人でない方がおかしい。
ならどういう事だろうかと考えていると頭の中にいつもの声が聞こえて来た。
『看破を獲得しました。』
すると俺の耳にスキル獲得の声が聞こえて来たので俺の中に第3の選択肢が生まれる。
(と言う事はおかしいのは俺ではなくこの爺さんか。)
俺は彼を観察し、その指にある指輪に目を止めた。
それは鑑定によると幻影の指輪と出ているのでこれは魔道具の一種の様だ。
ならどうしてこんな物を持っているのだろうかが気になったが、まずはこの男を起こす事が先決だろう。
そして魔法で酒を中和するがこれはアンチドーテで解決できる。
俺は男の体内からアルコールを中和すると強く揺さぶって起こしに掛かる。
「う~ん・・・フア~~~~。誰だいったい?」
すると男は欠伸をしながら目を覚まし周りを見回しているが俺の目には違和感しかない。
声のトーンや仕草は老人っぽいがまるで演技でもしている様だ。
そしてその視線がシンヤに向くと軽い感じに声を掛けた。
「よう、シンヤ。どうした。それとそいつは誰だ?」
しかし俺はシンヤが紹介するよりも早く前に出ると先ほど見た写真を男に見せた。
更に女性の下半身に並ぶ鱗の部分に指を当てて無言で何が言いたいのかを伝えておく。
それだけで男の目の色が変わり俺に鋭い視線を向けて来た。
「シンヤ、ちょっと部屋を出ていろ。すぐに済む。」
「あ、ああ。ユウさんもあんまり酷くするなよ。この爺さんも結構齢なんだからな。」
俺は何も答えずシンヤを見送ると腰を下ろして写真を机に置き視線を男に移した。
そるとあちらもこちらを睨むように見て来ると机に片腕を付いて冗談にしか聞こえない様な名を名乗った。
「ユウと言ったな。俺は磯野波平だ。」
「あからさまな偽名はやめてくれ。面倒だからそのままナミヘイって呼ぶぞ。」
すると男は「チッ」と舌打ちをして視線を逸らした。
「最近の若い奴は冗句も通じねえのか。磯野は本名だ。みんなイソさんって呼んでるからそう呼べ。」
「分かった、イソさん。それであんたは俺を若いと言ったがあんたの姿も十分若いよな。その説明をしてくれるのか?」
するとイソさんの目つきが再び厳しくなるとこちらを睨んで来る。
どうやら俺の目は間違ってなかった様であちらには気付かれると困る類のようだ。
「どうやって気付いた?」
「そういうスキルを持っている。それだけですよ。」
「そうか。このステータスっていうモンのおかげか。」
どうやら彼は既にステータスを手に入れているようだ。
それによって呪歌を聞いても正気を保つことが出来たのだろう。
「それで相手の歌の効力を打ち消したんだな。」
「よく分からんがそう言う事だろうな。まだ手を付けてないが俺のスキルって所には身体強化や釣り、呪い耐性がある。」
「呪い耐性はいくつなんだ?」
「そこなら6あるな。これのおかげか?」
「ああ、それで相手の呪歌を跳ね除けたんだな。それにしても高いな。俺の知る所だと異常だぞ。」
するとイソさんは机の上の写真に目を落とし女性のところに手を添えた。
その目はさっきまでと違い穏やかになっているが、同時にとても寂しそうにも見える
「俺も最初から平気だったわけじゃねえ。俺の惚れた女の歌を聞いてるうちに大丈夫になっただけだ。そうか。あの時に俺だけが無事で仲間を救えたのはお前のおかげだったんだな。」
そう言って懐かしそうな目をして涙を浮かべると添えていた手で写真を撫でた。
「俺がこいつと会ったのは今から50年も前の事で浜に倒れていたこいつを見つけたんだ。その当時はまだ食べ物が少なくてな。こいつが助けた礼によく魚を取って来てくれたんだ。」
「それなら今は居ないのか?」
「ああ、俺達は互いを愛していたが俺は人間でこいつは人魚だ。見つかったらどうなるか分からねえ。だからこいつが元気になった後に少しして別れた。この指輪はその時にそいつが置いて行ったもんだ。」
「でもその指輪で姿は誤魔化せても老化は止められないぞ。何か心当たりがあるんじゃないか。」
「確かにその時に切り分けられた魚の肉が幾つか置いてあった。きっとその中に何かは入ってたんだろうな。それ以来俺は年を取らなくなってな。指輪の効果に気付いたのは別れた20年ぐらいしたころだな。あの頃は老けない俺に周りが疑問を感じ始めた頃だったから助かった。」
そう言ってイソさんは指輪を外すと机の上に置いた。。
俺の目には変わって見えないがおそらく幻影が解除されたのだろう。
「それで、その人魚にはそれ以来会っていないのか?」
「そうだな。ハルと言う名の人魚だった。まあ、俺の青春の1ページって所だ。」
しかし、イソさんは青春の1ページと言うがその目にはまだ諦めの色はない。
逆に決意と信念が宿った目で話をしているので恐らく本気で愛していたのだろう。
それには50年分の時間を感じ取る事が出来、熟成された強い想いを感じる。
「また会いたいって顔だな。」
「当然だろ。俺はハルと別れてからは誰とも恋をした事が無い。今なら絶対にあいつを幸せにして見せるさ。周りには言えねえがこんな世界になって有難いと思ってるくらいだ。今なら必ず何処かに俺達の暮らせる居場所があるはずだ。」
確かにハニービーの蜂蜜が有名になれば友好的な魔物が存在する事が実証される。
但し俺のマップには海にいくつもの赤い光点が映し出されており、その中に何故か先ほどハルと言う名前が追加された。
どうやらまたマップの性能が上がったようで直接見なくても相手の事が分かる様になった様だ。
それに今は効果範囲が半径1㎞まではが伸びているがかなり近くに来ているのが分かる。
ここは海から50メートルほどの位置にあるが魔物の位置はかなり近く他の魔物から追われているようだ。
理由までは分からないが俺は即座に行動する事に決めた。
これだけ思っているなら結果はどうあれ再会させてやりたい!
「なら会いに行ってみるか。すぐそこまで来てるみたいだぞ。」
「本当か!」
するとイソさんは声を上げて立ち上がりながら机を下から投げ飛ばした。
(まさかリアルちゃぶ台返しを見れるとは思わなかったな。)
「ああ、そっちが良いなら少し出かけようか。」
「当然だ!その代わり嘘だったら海に沈めるから覚悟しろよ!」
「それなら再会出来たらあんたには厳島まで船を出してもらう。それで良いか?」
「その程度ならどうって事ねえ。ハルに会えるなら地球の裏側でも連れてってやるよ!」
そして俺達はそのまま海へと向かって走り出しシンヤも予備の運転手として同行させる
一応はイソさんが操船をするが何かあった時に代わりに船の面倒を見る者が必要だからだ。
俺はアヤネにメールを送り少し海に行って来ると伝えた。
しかし、港に着くとそこにはマーマンが待ち構えて行く手を遮っている。
その為、俺が出ようとするとイソさんはそれを手で制し銛を取り出した。
「任せろ。こいつらはいつも狩っている奴だ。」
どうやら夜の港に魔物が出ると聞き、彼がそれを退治していたようだ。
これはレベルも確認しておく必要がありそうだな。
「レベルはどれ位なんだ。」
「14って所だな。」
「武器は?」
「この銛があれば十分だ。」
銛か。
なら槍術が有効か。
「なら槍術のスキルレベルを上げてみるといいぞ。きっと役に立つ。」
「わかった。しかし、今はこいつらを始末するのが先だ。」
そう言って飛び込んだイソさんは華麗な銛さばきで的確にマーマンを貫き、あっという間に処理を終えた。
その姿から槍スキルもかなり高レベルではないかと予想できる。
考えてみれば彼は何十年も漁師をしている。
もしかするとそれは愛する物を探す為だったのかもしれない。
それに見つかっても今度は彼女を守らなければならないので銛を手足の様に使えるように鍛錬していたのだろう。
「俺がステータスを得た時。槍のスキルは6あった。それに昔は実戦を売りにしてる道場にも行ったからな。これ位は出来て当然だ。」
どうやら彼の実力は俺と違い努力で身に付けた本物の様だ。
ライラが言うには借り物ではなく完全に修行による習熟で身に付けた場合、レベル7あれば達人と呼ばれるらしい。
すなわち彼は既に達人の一歩手前にいるという事になる。
そして俺達は船に乗るとエンジンを吹かせて海に飛び出した。
そこは危険と分かっている真っ暗な闇が支配する海原で比喩ではなく本当に魔物が出る場所だ。
しかしイソさんの行動には一片の迷いすらない。
彼はこの時を50年待ち続けて準備を重ねて来たのだから。




