表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/225

3 チートスキルを手に入れました

俺はホロを見てライラに待ったをかけた。


「少し待て。まずは朝食だ。」


先程から肉の匂いを嗅いでホロが涎を垂らしている。

早く準備しないと可哀想だ。

俺は追加でパンを焼くとマーガリン、バター、チーズを出してテーブルに並べる。

そして肉を一割ほど取り分け、皿に盛るとライラの前に置いた。

残りの9割そのまま足元へ。


それを見てライラは「何故?」という顔を俺に向けホロの前に置かれたお皿へと視線を向ける。

いや、そんな顔を向けても見れば分かるだろうに何が聞きたいのだろうか?


「今朝頑張ったホロにご褒美だよ。何か問題があるか?」

「え、動物の方が人よりも良い物食べるの!?」

「いや、犬はパンを食べられないだろ。犬はこれが標準なんだからこれでいいんだよ。それよりも早く食べないと冷えるぞ。」

「う、うん?それで良いような悪いような・・・。」


そして、ライラは何か納得していないような顔でパンに齧り付いた。

しかしその瞬間、彼女の不満の顔は霧散して消えていくと次々にパンを口へと運んでいく。


「何このパン。柔らかくて甘い。それにこっちの黄色いの(バター・マーガリン)も美味しい。」


どうやらこちらもライラの口に合ったようでとても美味しそうに食べている。

しかし、こうして人と朝食を食べるのは久しぶりだが、少し騒がしいけどこういうのも良いかもしれない。

するとその時、俺の下に一通のメールが届いた。

携帯がステータスに機能を移してまだ慣れないがこれはこれで楽でいい。

置き忘れや落とす心配も無いし慣れれば操作もかなり楽になってきた。

そして俺はメールを確認するとそこには驚くことが書いてあった。


『緊急連絡』


見るとメールを送ってきたのは知り合いではなく会社からだ。

俺は嫌な予感と共にメールを開くとそこに書かれている内容を確認していく。


『今朝、何者かが工場に侵入し機械を破壊して逃走。警備会社の話では子供の様な姿を目撃したという証言もあった。しかし、破壊の痕跡からその可能性は低いと思われる。その為、機械が直るまで臨時休業とする。』


どうやら内容からすると工場が魔物に襲われてしまったらしい。

見に行っても良いが今の職場にそれほど思い入れがあるわけではないので放置しておくことにした。

それにもし何かあれば追加で連絡が来るだろう。

そのため、俺は急にやることが無くなってしまったのでこれからの予定を考えることにした。


まずは寝室に寝ている酔っ払いの女を叩き起こそう。

アイツが起きないとゆっくり外出もできない。

そして次は精肉店かな。

確か、よく行く店のおっちゃんが牧場と付き合いがあるって言っていたな。

そこから牧場を紹介してもらおう。

知り合いを通せば少しは話を聞いてくれるだろしな。

後はこいつの服装が問題だから行きに少し寄って買い揃えるか。

これから冬になっていくから暖かい服が必要そうだ。

あの服は似合ってはいるがこれからの季節を考えればコートぐらいは買っておかないとな。

それに牧場は山の中にあることが多いから行った先が寒いかもしれない。


俺は朝食を食べ終えると女が寝ている寝室へと向かっていった。

そしてホロを呼ぶと突撃の指示を出す。


「GO!」

「ワウ!」

『ペロペロペロ。』

「う~ん・・・。待って・・・痛い!な、何何何?」


すると女はホロに舐められ目を覚ますと昨夜ゴブリンに受けた傷の痛みに体を丸めた。


(まあ、足、腕、顔に痣があって体のいたる所を爪で切られているからこうなるよな。)


そして女は目を覚ますとそっと痛む顔に手を当てて周囲を見回した。

すると俺とバッチリ目が合うとその顔を恐怖に染め、布団を掴んで俺から逃げるように離れて行く。

そして自分が殆ど服を着てないことに気付くと目に涙を浮かべて泣き始めた。

どうやら何か大きな勘違いをしているようだけど、これだから酔っ払いは嫌いなんだ。

酔うまで飲むなとは言わないが記憶が飛ぶならある一定以上からは自制してほしい。

俺は面倒になったので代わりの服を投げ渡し、部屋の出口に向かった。


「落ち着いたら色々と説明するからこっちに来てくれ。ホロ、行くぞ。」


するとホロはベッドから飛び降りて俺と一緒に部屋を出てきた。

俺はビデオカメラをテレビに繋いで準備をするとお茶の準備をして椅子に腰を下ろす。

するとほんの数分で疲れた俺の顔を見てライラが声を掛けてきた。


「あの女は?」

「昨日、魔物に襲われているところを助けただけだ。客でも彼女でも家族でもないから気にしなくていいぞ。」

「ユウはドライなの?あの女はそれなりに上玉だと思うけど。」


確かに助けた女は身長が165センチほどの美人ではある。

昨日は夜で分からなかったが髪は綺麗な黒のストレートで前はボブカットにして切りそろえている。

線も細く顔立ちもアイドルのように可愛らしい。

でも俺は酒に呑まれる女は好みではない。

酒は飲んで楽しむ物だからだ。


そしてしばらくすると女が服を着て俺達の居る部屋に現れた。

少しは落ち着いたのか今は俺を睨むように見ている。


「ところで、昨日の記憶はあるのか?正確には深夜3時30分くらいだ。」


女は小さく首を横に振り答えを返してくる。

どうやら一番面倒なタイプの酔っ払いだったようなのでカメラで撮影していて良かった。

下手をしたら助けたのに変な疑いを掛けられ警察に捕まるところだった。

どんなに世間が男女平等を謳っていてもこういう時には男は常に立場が弱く冤罪も受けやすいからな。


「なら今から映す映像を見てくれ。」

「脅迫映像ですか?」

「違う。」


俺は簡潔に答えると昨夜の映像を再生する。

映像は深夜のまだ暗い時刻だがゴブリンの姿をちゃんと映し出している。

それを見て女は不機嫌そうな表情を浮かべると俺に向かい声を掛けてくる。


「これは何かの映画ですか?」

「見ていればすぐに理解できる。」


確かに映画だったら幸せだろうな。

これから何が起きるのか。

その主役が誰なのかは見れば分かるだろう。

俺はあくまで通りすがりの町人Aだ。


そして叫びながら現れたのは今映像を見ている女本人だ。

するとゴブリンたちは女に襲い掛かり今の自分と同じ状態へと変えられていく。

それを見て自分だと確信した時、女は目を見開いて俺を見た。

なにせ先ほどまではレイプ魔を見るような目を向けていたのだ。

それが実は助けてくれた相手だとは思わなかったのだろう。

ホロがいるので平常心を心がけている俺だが、少しは不機嫌にもなるというものだ。

すると女は俺を見て何か言おうと口を開いた。


「あ、あの・・・勘違いして・・ごめんなさい・・・。」


蚊が消え入りそうな声だが何とか謝罪を口に出来たようだ。

まあ、態度さえ改めればこの女に興味は無いので実験に付き合ってもらってお帰り願おう。


「気にしていないと言えば嘘になるが謝ってもらったからもう気にしてはいない。でもすまないが一つ試したいことがあるから手伝ってくれないか?」


すると女は首を傾げて俺を見てくるのでライラの横の席を勧める。

さすがに真実を知ったとしても今の状態で男の傍には座りたくないだろう。


「そこに座って手を見せてくれ。」


俺は棍棒で殴られ青く腫れた手を指差した。

女は動かすだけで痛いのだろうが顔を顰めながら俺に腕を見せてくれる。

俺はそんな女の手に触れると白魔法のレベル1で覚えた治癒の魔法を使ってみた。

すると掌から光が生まれ傷へと降り注いで傷を包み込むように集まっていく。


「痛みが消えていきます。」


そして次第に痣は消えていき殴られる前の健康で白い綺麗な腕へと戻った。

どうやら回復魔法は成功のようでレベル1では回復にそれなりの時間が必要のようだ。

すると女は驚きに目を見開きながら治った腕を持ち上げて確認を行なっている。

しかし、治療が必要なのは腕だけではない。

顔の方もかなり酷く腫れていて綺麗な顔が台無しになっている。

恐らくはこの状態でここから出ると何かあったのかと通報されてしまうだろう。


「次は顔だな。」

「・・・はい。」


すると意識をして痛みを思い出したのか女は痛みを堪えて恐る恐る顔を突き出してきた。

俺は傷に触れないように手を近づけ魔法を使い治療を始める。

そして顔の傷も消えて無事に治り左右対称な綺麗な顔に戻った。

女は痛みが引いたことで顔の傷も治ったことを感じ取ったようで、ゆっくりと触れて異常がないことを確認する。

俺は近くの棚から鏡を出して女に渡すとそれを見て女は再び涙を浮かべた。

寝室には大きな鏡が置いてあるので既に傷は確認していたのだろう。

俺はその後、彼女の全身を治療すると最後に確認を取った。


「他に痛い所はあるか?」

「いいえ、ありません。あの、ありがとうございました。それとこれはいったい・・・。あ、ごめんなさい。聞いたらいけなかったですよね。」


どうやら彼女は俺の力を見て再び勘違いをしたようだ。

しかし、これは別に秘密でもなんでもない。

いずれ多くの人ができるようになることなので、ここは少し時間を消費しても説明が必要だろう。


「先に言っておくけどこれはもうじき誰でも出来るようになる事だ。今から説明する事をしっかり聞いてくれ。」


俺は置いてあった女の荷物を返し説明を始めた。

結果だけ言えば女はしっかりとステータスを得ているようだ。

そして俺と同じように携帯の能力も取り込むこともできた。

彼女にはステータスを得た際のボーナスは3つらしい。

他の人は知らないがそれは置いておこう。

ここで問題なのはそのボーナスで彼女には成長力促進のスキルが無かったことで取得できるスキルには個人差があるらしい。

そのことをライラに聞くと。


「ユウは成長力促進が取れたの!!それ私の世界だと100年に一人出るか出ないかって程の超レアスキルよ。噂では数十億人に一人らしいけど。」


どうやらこのスキルはチートスキルの匂いがしたので取っておいたが、もしかしたらとんでもないものかもしれない。

俺はここでついでとスキルポイントについて聞くことにした。


「スキルポイント?ああ、それでスキルのレベルを上げるのよ。スキルはポイントを1消費して覚える方法と修行して覚える二通りがあるの。スキルレベルをスキルポイントであげる時はレベル1・2・3が1ポイント。レベル4・5・6が3ポイント。7・8・9が9ポイント。レベル10が20ポイント必要なの。」


どうやらスキルを習得してレベルMaxにするには最大で59ポイント必要みたいだ。

そして俺は早速スキルポイントを割り振ることにした。

現在所持しているのは20ポイント。

だが俺はこのポイントをどう割り振るかは既に決めていた。


(成長力促進に極振りだ。)


俺はスキルポイントを全てこのスキルに注ぎ込んだ。


『成長力促進がレベル3に上がりました。』

『成長力促進がレベル4に上がりました。これにより全スキルがレベル4までスキルポイント1で上昇可能です』

『成長力促進がレベル5に上がりました。これにより全スキルがレベル5までスキルポイント1で上昇可能です』

『成長力促進がレベル6に上がりました。これにより全スキルがレベル6までスキルポイント1で上昇可能です』

『成長力促進がレベル7に上がりました。これにより全スキルがレベル7までスキルポイント1で上昇可能です』

『成長力促進がレベル8に上がりました。これにより全スキルがレベル8までスキルポイント1で上昇可能です』

『成長力促進がレベル9に上がりました。これにより全スキルがレベル9までスキルポイント1で上昇可能です』

『成長力促進がレベル10に上がりました。これにより全スキルがスキルポイント1で上昇可能です』


俺はボタンを連打したためメッセージが遅れて俺の頭に流れ込んできた。

しかしその声を聞いて一瞬全ての動きが固まってしまう。

どうやらこのスキルは予想以上にチートだったようでレベルを上げる為に必要なスキルポイントも減少させてくれるらしい。

他の者がレベルを6上げてやっとMaxになるレベルを1上げるだけで良くなってしまった。


(これは流石に他人には言えないな。残りのポイントは後で剣術と白魔法にでも突っ込んでおこう。)


今後のことを考えれば必要なことだと思う。

レベル1でもかなりの回復能力があったのでレベルを上げれば瀕死の命だって救うことが出来るかもしれない。


そして、スキルポイントの振り分けが終わると俺達は用事があるので女には帰ってもらうことにした。


「それじゃ、俺たちはこれから出かけるから君もそろそろ帰ったほうがいい。」


すると女は何故か縋るような目を向けてくる。

どうしたのだろうかと思わないでもないが名すら名乗らない相手に優しくするほど俺も暇ではない。

本人にも伝えたが俺もそろそろ出かけたいのだ。

今日は急に会社が休みとなったがやることは多い。

恐らくもうじき魔物に気付いた町の人々で騒ぎが起きるだろう。

そんな所に女を一人帰らせるのもどうかと思うがこういう事態だからこそ線引きは必要だ。

しかし、座ったまま彼女が動かないので俺は仕方なく行動を起こした。


「仕方ないから送っていくよ。家はどの辺?」

「・・・・ません。」


女は先ほど謝ってきた時よりも小さな声で呟いた。

その為俺は聞こえなかったので彼女に近寄り耳をすませた。


「ないんです。私の家。アパートに住んでましたが・・そこが火事になってしまって・・・。全て燃えてしまいました・・・。」


俺は聞かなければ良かったと本気で悔やんだ。

そうすれば罪悪感も何も感じないまま追い出すことが出来たのに。

たとえ死んだとしても俺の目の前でなければ別に構わないが、話を聞いて追い出したのでは気になって仕方がない。

俺は頭を掻くとホロの顔を見た。

するとスキルを通じて『仲間』と伝えてくる。

まあホロは人が好きなので増えるのは構わないのだろう。

俺はホロの意思と俺の罪悪感に負け、彼女をしばらく家に置いてやることにした。

そうなれば彼女にも何か仕事が必要だ。


俺はそこまで考えて深い深い溜息を吐いた。


「は~~~~。仕方ないか。昨夜居候が1人増えたばかりだしな。」


すると俺の言葉に女はビクリと反応する。

通常なら断る時の定番の言葉だからだ。


「もし君が何処にも行く当てがないならしばらくこの家に居ると良い。俺は最上 夕。ユウと呼んでくれ。もしそれでいいなら君の名前を教えてくれないか?」


すると女は勢いよく立ち上がると早口で自己紹介を始めた。

顔が真っ赤なのでいまだに名も名乗っていないことにでも気付いたのだろう。


「わ、私は加藤カトウ 彩音アヤネです!アヤネと呼んでください!二十二歳で彼氏はいません!よろしくお願いします!」


そう言って彼女は頭を下げて握手を求めてくる。

なんだかいつか見た深夜番組みたいだ。

別にそこまで聞いていないし名前さえ分かれば良かったんだが。

俺は拒否して今後に差し障りが出ると困るので仕方なくその手の指先だけチョコンと摘まんだ。


(今はこれで精一杯・・・。)


しかし、そんな俺にアヤネは顔を上げて笑顔を向けてくる。

何がそんなに嬉しいのか分からないが俺は今後の予定を変更することにした。

実は彼女をこの家に置く最大の理由はその横にいるライラだ。

彼女は俺達の世界の常識を知らない。

そのためアヤネにはそれをライラに教えてもらおうと考えたのだ。

まさか、水洗トイレの使い方から風呂の入り方まで俺が教えるわけにはいかないだろう。

女性が居ると言う事はそれだけ問題が解決したということに等しい。

そして、一番の問題は彼女たちの服だ。

それもアヤネに頼めば問題はない。

男の俺が行って女物の下着を選ぶよりもアヤネが一緒に買い物するほうが周りの視線も気にならない。


「それじゃ出かけるか。」


そして現在は朝の9時。

俺達は買い物をするためにまずは大手服屋の白黒へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ポイントが足りないのに何故レベルが上がる? 4に上げた時に当該レベルまで1ポイントで上げられるようになる描写はあるけど… もしかして3ポイント使ってレベルを上げたけど、消費量が変わっ…
[一言] ないんです。私の家。アパートに住んでましたが・・そこが火事になってしまって・・・。全て燃えてしまいました・・・。」 火事になったのが、いつの話なのかな。夜中の三時半ころ酔っぱらってどこに行…
[気になる点] 長文失礼します。 成長力促進のレベルに応じて同レベルまでのポイントが下がるということですよね? それはわかってるんですが成長促進のポイントは減少しないと思うんですよ 『成長力促進がレベ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ