24 行方不明者救出
自分で過去に書いていてなんですが少し気持ち悪いです。
気分が悪くなった方にはごめんなさい。
俺達は3台の車で移動している。
1つは俺達が今日購入した車であそこから離れてすぐに俺だけで抜け出して密かに回収して来た。。
そして1つはアキトたちの乗る車と、最後の一つはツカサの乗る救急車だ。
ちなみにあの時来た救急隊員はアキトたちが変装した偽の救急隊員で本物は一人も混ざってはいない。
ただし救急車は本物の様なので何処かから借りて来たのだろう。
京都でも同じように警察に顔が利いたので彼らには色々な権限が与えられていると推測できる。
聞いても詳しくは教えてくれなかったので秘密にしなければいけない内容なのだろう。
しかし、そのおかげで俺達は無事にあの大量の人だかりを脱出し、なおかつ犯人であるツカサを捕まえることが出来た。
そしてアヤネは俺達が車に戻る頃には目を覚まし、得ていた情報を全て教えてくれた。
その事から裁判所は今日にでも令状を取りツカサの家を捜索するそうだ。
アヤネに言ったツカサの言葉が真実ならば行方不明になった者たちもまだ生きている可能性が高い。
しかし、早く救出しなければいけないのも事実なので早期の発見を期待するしかない。
もし見つからなければアキトが体に直接聞くと言っていたのできっと俺達の知らない恐ろしい事が待っているのだろう。
そして俺達はそのまま車を進めて自衛隊の駐屯地に到着した。
そしてアキトが身分証を見せるとチェックすらせずに中へと通してくれる。
そして車を降りた時、ツカサは目隠しをされ体は拘束具で固定されて身動きどころか呼吸すら不自由な姿にされていた。
だが、これ位しなければ俺達の知らない危険なスキルを他にも持っているかもしれない。
その対応策の為、後日ライラには政府から依頼が来るだろうと話していた。
仕事の内容はスキルの詳細とあちらでの対応について。
それを参考にして今後の取り決めや人材の育成が行われるようだ。
人によって持っているスキルが若干違う為、危険なスキルの把握は急務だろう。
現在はそれに対しての法も整備されていない為、今回のような事件やモラルの低下を防ぐためには素早い対応が求められる。
そして、自衛隊の駐屯地に入り数時間ほど過ぎた辺りで連絡が届いた。
しかし、それはいい知らせと言う訳ではない。
確かにツカサの家には3人の女性が囚われていたがその姿はとても酷い有様だったそうだ。
彼女達は手足を切り取られ一人は一階の食堂に。
1人は風呂場に。
そしてもう一人は寝室に鎖で吊るされていたらしい。
傷はどうやら魔法で塞いだようだが切断の向きなどから片腕以外は自分で切り落としたと推測された。
恐らく、隷属させられた彼女たちはツカサに命令され自分達で手足を切り落としたのだろ
う。
そして最後に残った腕を切り落としたのはツカサ自身だと推測された。
「酷い事をする。」
そして彼女たちは今もツカサの家に居る。
隊員が連れ出そうとタンカに乗せて敷地から出した途端に大声で苦しみ出したのだそうだ。
それまで反応すらしなかった彼女たちが突然苦しみ出したため、彼らは急いで家の中に戻したらしい。
すると再び人形の様に動かなくなったので対応もそこでしか出来ず、治療も不十分な状態で止まっているそうだ。
これはおそらくツカサが彼女達に家から出るなと命令をしているからだろう。
それがたとえ本人の意思に関係が無くても結果は同じなので奴隷紋が反応したと考えられる。
そして今俺達が取れる手立ては一つなのでそれが可能であろうメノウに視線を向けた。
「頼めるかメノウ?」
「ユウさんがそれを望むなら。」
「なら頼む。彼女たちの奴隷紋を消してやってくれ。」
「分かりました。それと記憶はどうしますか?」
「腕や足は生やせるのか?」
「新たな物は今の私には無理です。」
そう言ってメノウはライラに視線を向ける。
しかし、ライラは首を横に振った。
どうやら生やす事は今の段階では無理そうだ。
メノウはアキトに向きを変え確認を取る。
「切り離された手足はどうなっていましたか?」
するとアキトは言い難そうに俺達を見るが諦めたように口を開いた。
どうやらそちらもかなり酷い状態のようだ。
もしかして放置されて腐っていたりしたのだろうか。
「1人分は燻製に、もう一人分は切り分けられて冷凍庫に、一人分は量が足りないそうだ。」
どうやらツカサはかなり狂っていたようで俺が想像した以上に酷い状態のようだ。
恐らく彼女たちの手足はツカサの腹か彼女たちの腹に消えていたのだろう。
(そう言えば俺があの時ツカサを気絶させなければどうなっていたんだ)
その事をライラに確認をすると。
「奴隷の主はいつでも隷属させた相手を殺せるの。あのままだとアヤネは奴隷紋で心臓を破壊されてたわ。」
ライラの説明で俺の危険察知が働いた理由が分かった。
一瞬でケリを付けたから良かったが怒りに任せていたぶっていたら危なかったと言う事だ。
そして今もメノウはアキトから聞いた情報を吟味し悩んでいるようだ。
しかし、悩んでいたメノウは決意を固めた目で前を見るとアキトに声を掛けた。
「ならその手足をどうにか修復してみます。もしかすると上手く治せるかもしれません。」
「分かった。まずは送って行くからそこで治療を頼む。人払いは必要か?」
「お願いします。あまり人が見て気分の良い物ではありません。」
そしてアキトは頷くと連絡を入れながら自らメノウを送って行った。
俺達は一息つくと気分を切り替えるためにお茶にする事にした。
時刻は既に17時を回っているがさっきの話の後では食欲があまり湧いて来ない。
それにもうじき日が沈み夜が訪れる時間なのでいつもなら狩りに向かうが今日はそんな気分でもない。
そして熱いお茶を淹れて暫く休憩をするとツカサの事は彼らに任せ、俺達は帰る事にした。
「家に帰ろうか。アヤネもそれで良いか?」
「はい。それと・・その・・・手を握って貰っても良いですか?」
「ああ、それくらいならお安い御用だ。」
きっと今までずっと我慢をしていたんだろう。
握った手はいつもよりも遥かに冷たくて小刻みに震えている。
しかし俺がもっとしっかりしていればこんな事にはならなかったと思うのはただの自惚れだろうか。
こんな事になる前に止めるつもりだったのに男として情けない限りだ。
(男として・・・か。)
俺は自分の中での葛藤でどうやらアヤネの事も女性として意識し始めている事に気が付いた。
だからあの時にツカサに対してあそこまでの怒りが湧いていたんだろう。
恐らくは一部は自分に対する不甲斐なさに怒っていたのだろうけどあの時は気付く事が出来なかった。
こうして時間が経って冷静さを取り戻しアヤネが傍に居るから気付けたことだろう。
しかし、そうなると俺もツカサと同様に碌でなしかもしれないな。
思いを寄せてくれていると知ってはいても同時に複数の女性を好きになり、尚且つ自分勝手に独占しようとしている。
もし彼女達が俺の事を見限って家を出て行った時に俺は今の様な冷静な自分で居られるだろうか・・・。
その頃メノウはツカサの家に到着し、並べられた手足を見て唸り声を上げていた。
「燻製になってる足は生活魔法で塩を抜いて白魔法で回復させれば使えそうかな。切り分けられた肉は骨も揃ってるからどうにかなりそうだけど・・・。でもそれをすると業がマイナスに振れそうだし。ん~・・・でもユウさんの望みだからやってみせます。それにマイナスに偏っても一度で堕ちる事は無いだろうからまたゆっくり戻していきましょう。おそらく10万人くらいに希望を与えれば大丈夫よね。」
すると後ろで見ていたアキトが心配そうな顔でメノウに話しかけた。
ハッキリ言ってこの場所には一般人なら即座に口から胃の中を吐き出す様な酷い匂いが漂っている。
それに話だけ聞くと料理の下拵えの様にも聞こえないではないが目の前に並んでいるのは人の物で、寝かされているのは息も絶え絶えな程に弱っている3人の女性だ。
そして、アキトもメノウが話していた業については聞いており、下手をすれば悪魔に戻ってしまう事も理解していた。
「聞いてた話だと人を救えばマイナスに行かないんじゃないのか?」
「そうだけど生命を弄ぶ行為は天使にとっては禁忌の一つなの。これからする事はマイナスがプラスを大きく上回るから出来るだけ控えて置きたいけど、それだとパーツが足りないから一人は片腕が無くなるわ。」
それを聞きアキトは顔に渋面を浮かべた。
そして傍のベットに今も虚ろな目をして体を横たえている3人の女性を見て怒りに歯を食いしばった。
アキトは自分の無力さに怒りを覚えている。
どんなに国の為に働いても、国の中の膿は無くなる事が無い。
そして、力を持つ事により暴走する者はツカサ一人ではないだろう。
そう考えれば普段と変わらずにいるユウがとても貴重な存在に思えて来た。
そこに希望を感じるアキトだが、それが何故なのかまでは分からない。
メノウはそんなアキトを見てクスリと小さく笑い声を零した。
しかし、アキトを笑うメノウ自身も自分の変化には気付いていないようだ。
天使は他者を助ける事に至上の喜びを抱く存在なのでその為のリスクを通常は考慮しない。
それなのにメノウは彼女達を助けるうえで自身の身を僅かだが優先し少しでも長く主であるユウの傍に居たいと思っている。
しかし、それに気付く者はここには居らず、その変化にメノウが気付くのはもっと長い時間を必要とした。
そしてメノウは覚悟を決めて主の願いを叶える為だけに術を行使する。
すると燻製にされた手足は次第に茶色から肌色に戻って行きメノウは慎重にその手足を患部に当て向き等を確認した。
恐らく鋸の様な物を使い壮絶な苦しみの中で切断したのだろう。
その断面には明確に一致する痕跡があるが、今回はそれが本人と手足の判別を助けてくれた。
メノウは本人の物である事を確認すると何の躊躇もなくナイフを取り出して傷を塞いでいる部分の肉を切り落とした。
「げああっ・・あっあっ!」
切られると同時に女性は泣き声に似た叫びを上げその目から涙を流す。
そして切られた傷からは赤い血が流れているがメノウが準備した足を添えて回復魔法を使うと足は綺麗に元通りになった。
メノウはそれをまるで作業の様に3回続けその女性は2回目を過ぎた時には全てを放棄したかのように動かなくなった。
恐らくは痛みに精神が限界に達し壊れてしまったのだろう。
それに拷問の経験があるアキトですらここまで容赦のない者は見た事が無い。
するとアキトはメノウの翼に黒い染みがある事に気が付いた。
しかしそれはよく見れば染みではなく、メノウの翼の羽が白から黒に変わり始めていたのだ。
しかし、これはメノウも覚悟の上の行動のためアキトには止める事が出来なかった。
そして、次に並んだのは4本の足と4本の手の骨である。
するとメノウは冷凍の肉に以前ライラが使った解凍を掛ける。
それらに更に手を翳すと肉は蠢き骨に向かいスライムの様に動き出した。
「クッ!」
この時にメノウは初めて苦悶の表情を浮かべ、それと同時に彼女の翼の色は急速に黒く染まって行った。
「これはもともと悪魔が使う力なので天使の私には負担が大きいのです。でも、絶対に成功させてみせます。」
そしてスライム状になった肉は次第に骨に定着し、片腕を残して全て綺麗な手足へと戻った。
それを手にメノウは先ほどの行動をなぞる様に手足を繋いでいく。
しかし既にその顔には明確な疲労と苦悶の表情が見て取れる。
そして最後の腕を繋いだメノウは疲労が限界に達したのかその場にバタリと倒れてしまった。
しかしその口からはいまだに声が洩れている。
「次は隷属解放を・・・。」
しかし、メノウはそう呟くがそのまま意識を失った。
そしてその翼は殆どが黒く染まり今では数枚の白い羽を残すのみとなっている。
どうやらメノウは予想を誤ったようで彼女が予想した10倍、もしかしたら100倍の負荷がかかったのかもしれない。
そして今の彼女は天使から悪魔へ変わる境界線に立っていると言ってもおかしくはない。
限界まで力を使い果たし、今は荒い息で目を閉じる彼女を見てアキトは考え巡らせた。
それは今の状況をどうすれば好転できるのか。
恐らく個人の力で100万、1000万人と言う規模で希望を与えるのは難しい。
可能だとしてもそれに掛かる年数を考えれば何時になるか分からない。
しかし今日の出来事を利用すればもしかするとどうにかする事が出来るかもしれない。
アキトは携帯を取り出すと総理の直通回線に電話を入れた。
「総理、ユウの使役している天使が悪魔になろうとしている。彼女を救うために力を貸してくれ。」
「わかった。理由は後で聞こう。何をすればいい?」
すると総理は打てば響く様に迷いなく返事を返した。
「これから送る映像を国際メディアに公開してくれ。それだけでおそらく大丈夫だ。」
そして総理はネットを介してデータを受け取りそれを確認する。
すると電話口から大きな笑い声が聞こえて来た。
「はははは!これなら何処のテレビ局も食い付くぞ。任せておけ既に各国とは結界石の件でラインが繋がっている。国さえ的確に選べば問題はない」
その結果、まずは日本のメディアが食い付いた。
『天使降臨』、『天使は実在した』、『天使、女性を魔の手から救う』
すると日本のメディアは総理の意向を受けてその様なタイトルで映像を流した。
ある局では緊急速報として画面にテロップを流し、ニュースを放送していた局では内容を差し替えてまで報道してみせた。
それに何処の局もこんな映像はそうそう流す機会はない。
我先にとCMなどの時間も利用し視聴者へ訴えかけた。
ちなみにこの映像はアキトが記録映像としてフウカとミズキに撮影させたものだ。
そのため携帯に比べ映りも良く、角度も問題はない。
そしてその映像が流れて数分後、メノウの翼に変化が訪れた。
数枚しかなかった白い羽が次第に増えて行き今では20枚を超えている。
しかし、それでも羽の9割以上はまだ黒いままだ。
メノウは最初に比べれば顔色も良くなっているがまだ危険が無いとは言えない。
そして更に1時間が過ぎた時、それは訪れる。
メノウは意識のないままに、突然その体を宙に浮かせると光に包まれ、一瞬でその羽を純白へと変えた。
恐らくはキリスト教圏の信者がこの映像を見始めたのだろう。
こちらは夜だがあちらはそろそろ早朝だ。
きっと多くの者が今の世界に怯える中で希望を見出しただろう。
その結果が今のメノウの姿である。
そして目を覚ましたメノウはその希望を受けて姿を変えていく。
幼かった姿は成人女性へと変わり羽も1対から5対へと変わる。
そして意識を覚醒させたメノウは自身の姿を見て首を傾げた。
「あれ、下級天使から上級天使になってる?」
とても軽い反応だが本人は疑問で頭がいっぱいでまともな反応を取る余裕がない。
しかし天使は希望を力に変えて行使する。
上級天使になるまで希望を集めるには数億人に希望を与える必要がある
逆に悪魔は人に絶望を与えて強くなっていく。
そして、気を失う寸前のメノウは既に力を使い果す寸前だった。
あの状況なら何かがきっかけでいつ堕天してもおかしくはなかったはずだ。
しかし、目が覚めると状況は逆の方向に向かっていた。
そんなメノウにアキトは苦笑を浮かべサムズアップを突き付ける。
それでメノウは彼が何かしたのだろうと感じ取るが、今のメノウならば目の前の彼女たちを救うのは簡単だ。
メノウはその身に宿る力を手に込め彼女達へと放った。
すると光を受けた彼女たちはその身を光に包まれ次の瞬間には元の姿に戻っていた。
元の姿とは言葉の通りの意味である。
服は失踪当時に戻りその体どころかやつれていた顔も健康的な物へと戻った。
1人に関しては無かった腕が元通りになり全員が手足が生え揃っている。
その急な展開にアキトは目を見張りメノウに視線を向けた。
「何が起きたんだ!?」
「力が高まったので完全回復させられるようになりました。記憶も消して奴隷からも解放してあります。もう彼女達を保護しても大丈夫でしょう。」
そして地面に降り立つと5対の翼を仕舞い『ポン』と煙を立てると元の少女の姿に戻った。
「今の姿はユウさん達にはしばらく内緒でお願いしますね。聞いてくれるなら少しだけあなたに報酬をあげます。」
するとアキトは報酬と聞き眉根を上げた。
「報酬?何をくれるんだ?」
「アナタを勇者と仮認定し、ユウさんと同じく成長力促進のスキルを与えましょう。あれは通常、私達が認めた者が手にするスキルです。まあ、ユウさんは最初から持ってたみたいですが。どうですか?」
アキトは流れて来る情報を精査し即座に頷きを返した。
ユウの異常性には気付いていたが、それをもたらしたのがそのスキルなら大きな力を手に入れる切っ掛けになる。
先程も無力感を感じたばかりなのでその判断は早かった。
(しかし、仮認定とはどういう事だ?)
するとそんなアキトの心を読んだかの様にメノウは説明を付け加えた。
「仮認定とはアナタのスキルがまだ上位スキルへ進化して無いからです。それを果たした時。あなたは勇者と認定されます。ユウさんは既に上位スキルに進化を遂げていますよ。それと通常は勇者には天使が付きます。でも私は既に『ユウさんの!』天使なので他を探してください。」
そしてメノウの雰囲気が忽然と変わり幼いメノウに戻る。
「それじゃ、私は帰るから約束は守ってね。」
そう言ってメノウはウインクをして浮き上がると一対の翼を広げて帰って行った。
その方向が自衛隊の駐屯地ではないのを見てユウたちは家にでも帰ったのだろうと予想する。
そしてアキトは外から医療班を呼び入れ彼女達を保護させた。
アキトはまだレベルがそれほど高くないので今から鍛えればユウに追いつく事も可能だろう。
必要とは思いたくないが個人が巨大な力を手に入れたのなら、それと同等の力が抑止力として必要になる。
しかし、メノウは何も言わなかったが勇者には一つの呪いとも言える運命が与えられていた。
それはトラブルがあちらからやって来るという厄介なモノだ。
そんな人間が二人で同じ所にいると言う事は、その運命がどの様な働きを見せる事になるのか?
しかしそれはその運命を知るメノウでさえも予想する事は出来ない事であった。




