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23 隷属

俺達は中古車販売店に来て購入する車を選んでいる。

目的は車の買い替えで今乗っている車では全員を乗せれないからだ。

そして今乗っているのは普通車で乗員の上限は5名迄。

今回ホロには犬の状態で乗ってもらったので何とか6人で来ることが出来たが今後を考えるとこのままでは買い物もままならない。

ここで余裕をもって8人乗りの大型車に変更するつもりだ。


ちなみに別に2人分余裕があるからと言って居候をもう二人増やそうとは考えてはいない。

余裕を持った車内空間の方が移動する際にはいいだろうという判断だ。

最悪キャンピングカーを買う事も考えており、そうすれば移動した先で料理も簡単にできるし便利ではある。

まあ、あまり言っているとフラグになりかねないのでそろそろ車選びに集中しよう。


そして今回はその店にあった車を1台即決で購入しそのまま買い物に出かけた。

同時に保険会社にも連絡して、掛け捨ての保険を掛けておくのも忘れない。

こういう時程、事故とは向こうからやって来るのだ。

すでに保険会社には車を変えた事も言ってあるので近日中には今までの車に掛けていた保険も有効になるだろう。




そんな中、ユウたちの後を追う者がいた。

その男の名は斎藤サイトウ ツカサ

アヤネが働いていた会社の同僚で彼女がリストラされた直後に卑猥なショートメールを送り付けた男である。

ツカサはもともとアヤネを狙っており彼女の弱みを握れる機会を待っていた。

既に周囲からの情報でアヤネの状況なども把握していたためツカサは必ずモノに出来ると確信していた。

結果としてはその日の内にゴブリンに襲われ、ユウに助けられる事になったために彼の思惑は崩壊したのだが

しかし、彼は諦めてはいなかった様だ。

今も密かに魔物を殺し、レベルを上げて機会を窺っている。


もっとも彼がステータスを手に入れたのは偶然の産物であった。

彼はアヤネからの連絡がない事に腹を立て夜の街を歩いていた所で魔物と遭遇し、それを憂さ晴らしとして殺したのだ。

それによりステータスを得た彼はその後もレベルを上げ続けた。

しかし、会社で働いた後に夜のレベル上げをしていては効率が上げられない。

その結果、ツカサは将来と欲望を天秤にかけて欲望を選び取った。

その後、彼はアヤネを探し出し、今に至る。


それに彼はこの短期間で人には言えない犯罪も犯している。

そんな人物がアヤネを見つけ、その周りにいる少女たちを見ればどうなるか。

そして、欲望に憑りつかれた者が、数日前の国会中継を見て何を思うか。

結果、ツカサは己の欲望のままに思考を働かせた。


『全てを俺の物に。言う事を聞かないなら強制的に言う事を聞かせてやる。』


そして、ツカサは息を潜め獲物を狙う狩人の様にチャンスを待ち続けた。

獲物が安全な群れから離れ、確実に仕留められるその時を・・・。




俺たちは車を購入した後、そのまま大手デパートのアイ・ミー・タウンへと向かっている。

そして今はカーナビをニュースにして地域の情報を聞いていた。


『連続行方不明事件の・・・』


ニュースを聞いていると最近この地域で行方不明事件が起きていると報道している様だ。

行方が分からない人物は3人で全員が若い女性らしい。

気になって信号で停止した時に視線を向けると捜査に行き詰った警察が女性3人の写真を公開している様だ。

どことなく顔の見た目や特徴が何処となくアヤネに似ている気がする。

それにどの女性も直前に男といた事までは確認されているが特定には至っていないようだ。

どうも情報を提供した者たちは女性の事はよく覚えているのに男の事になると顔がうろ覚えらしい。


その瞬間に俺はスキルの存在を疑った。

俺の持っている隠密系ならそういう事が可能かもしれない。

スキルのレベルが低いと意識は向けられるけど特徴が認識できずに今のような証言になってもおかしくはない。

しかし確証はなく、悩んでいると目的地であるデパートに到着した。


ここなら小物から家具までは一通り揃える事が出来る。

そして俺達は談笑しながら目的の店を見ては商品を買って周っていた。

すると並べられている商品を見ていて何かに疑問を感じたアリシアが俺の方へと寄って来た。


「ユウさん。家具はオーダーメイドが普通かと思っていましたが、ここのは全て中古品ですか?」


どうやらアリシアの住んでいた城では家具はオーダーメイドが主流のようだ。

それに彼女はこの世界に来て日が浅いのでメノウとあまり変わらない位には日本の事を知らない。

この機会に二人には色々教えておくと良いかもしれないな。


「この世界の多くの国では同じ形の家具を量産してコストを抑えているんだ。」

「そうなるとここにあるのは全部新品なんだね。」

「そうだな。他の店では中古やアウトレットって言って売れ残り品を扱っている店もあるけど、そういう所のは物が良くても傷があったり問題がある事もあるから注意しないといけない。」

「でも今はお金が無いので私達は買えそうにないですね。」

「う~ん。そうだね。『チラリ』」


するとメノウはあからさまな態度で俺を横目で見て来るので何が言いたいのかはすぐに分かった。

それに、お金が無いのも承知しているのでそんな目で見なくても考えてある。


「それでだ。家具だから少し値段は高いけど気に入った物があったら教えてくれ。アリシアの分は俺が立て替えておくから。」

「ありがとうございます。一生懸命働いて返しますね。」

「え~!わ~た~し~は~~~!」

「はいはい。お前のも買ってやるよ。その代わり家の仕事は任せたからな。俺も手伝いが必要なら言ってくれれば手伝うから。」

「やった~!ありがとうございますご主人様!」

「こら!こんな所でそんな言葉を使うな。」


そしてアリシアは嬉しそうに笑顔を浮かべて家具を見始め、メノウは笑いながら抱き着いて来た。

ただ、周りの人からは変な目で見られているので適当な所で離れてもらいたい。

店員にいたっては何処かに電話まで掛け現れた私服の警備員と思われる人達がこちらの様子を窺っている。

もしかするとさっきの報道を見て俺の事を犯人と勘違いしているのかもしれない。

一緒に見て回っているアヤネには行方不明になっている女性達と似た様な特徴があるからな。


「メノウ、悪いけどアリシアの事は任せたからな。」

「畏まりましたご主人様。」


だからそれを止めろと言いたいが今はこの場を離れるのが先決だ。

俺はアリシアをメノウに任せると隣の店に向かったライラの所へと向かって行った。



アリシアは今の自分ではユウに返せる物が何も無い事を自覚していた。

しかし彼女にとっては借金だろうとユウとの大切な繋がりに感じられている。

それも何時かは消えてなくなってしまうが、それまでに次の繋がりを作れば良い事だ。

そして彼女は王族としての思考からそれは当然、子作りの事を指す。

そのためアリシアはアピールポイントの一つである自分の部屋を整える為にいつもよりも真剣な顔で商品を物色し始めた。

先を越されてしまっているがライラに追い付く為には手段を選んではいられないようだ。



その横ではライラが隣の食器店でカップを見ていた。

そこには同じ柄の物が並び、見るからに量産品だと分かる。

しかし、ライラの中ではお揃いのカップで休日をみんなで過ごす風景が思い浮かんでいた。

それに父親と別れて十年以上の時が過ぎており、母親が死んでからは更に長く数十年の時が過ぎ去っている。

その長い間を1人で寂しい時間を過ごしていた彼女にとって、今のこの時は掛け替えのない時間であった。

例え永遠に続かず寿命と言う絶対的な隔たりがあったとしても、今この時だけは彼女にとって人生最大の幸せの中にあった。

するとそんなライラの横にユウが現れ声を掛けながら肩に触れる。


「ライラは何を買うかは決めたのか?」

「ひゃあっ!」


しかし思い出と妄想に沈んでいたライラはユウの接近に気付かず、驚いてコップを手から離してしまった。

しかし、ユウは地面に落ちてしまう前にキャッチして何もなかったかの様に棚へと戻す。


「あ・・・。」


しかし、ライラからは切なそうな声が聞こえ、ユウは苦笑を浮かべてカップをライラの手に戻した。

それを受け取ったライラは恥ずかしそうにカップで口元を隠すとそっとユウへと視線を向ける。


「ユウはこれをどう思うかな?」

「ん~欲しいんなら買えば良いと思うぞ。同じ柄ならみんなで仲良くお茶が出来るから人数分揃えるのも良いかもしれないな。」


するとライラは妄想が現実へと変わる瞬間を目にしてお日様の様な笑顔で籠を手にし食器を選び始めた。

ユウはそれを見て笑顔を浮かべるとその場を離れて移動して行く。



そして俺は次に周りを確認し残りの2人を探すと近くのベンチに座るホロを発見し、その横に腰を下ろした。

しかしホロは暇そうに足をぶらぶらさせながら天井を見上げているようだ。


「暇かホロ?」

「うん、私はああいうのに興味ないから。ユウが傍に居て暖かい寝床と美味しいご飯があれば幸せだよ。」


実際、細かな事まで言えば色々あるが何とも犬であるホロらしい考えである。

俺はそれを聞いて頭を優しく撫でてやるとホロはこちらに体を預け今は嬉しそうに足をぶらぶらさせている。

するとその横にメノウが現れ俺に声を掛けて来た。


「頂いたお金で家具などは買えました。出来れば後学の為に食品売り場を確認したいのですが。」


俺は少し悩んだが後で行く事は決めていた。

メノウなら問題ないだろうと俺は彼女の提案に許可を出すが条件を付ける。


「後で向かうからそれまでは見ててもいいぞ。但しアリシアとライラが買い物を終えてからだ。今は俺の目の届かない所で単独行動はさせたくない。何かあったらこちらから呼びに行くからしばらく面倒を頼む。」

「ありがとうございます。それとお気をつけください。」

「分かってる。」


そう言ってメノウはある方向に一瞬視線を向けると注意を促して来る。

俺は視線も動かさないで軽く頷いて返すだけだ。

既にマップにはその人物がマーキングされているのでこの建物内に居るなら何処に居ても把握が出来る。

それに俺達が家に帰ってから何者かが監視しているのは気付いていた。

しかも俺の危険察知に反応があるので只の興味本位とは違うだろう。

そしてそいつの事に関してはもちろんアキト達も気が付いている。

しかし、昨日の集会所からの帰りに少し泳がせて欲しいと言われたので放置しているだけだ。

出来ればこういう奴らは事前に威圧で排除したいが今はアキトの頼みを聞いて控えている。

それでもこいつが俺の仲間に手を出すならその時は容赦をしないつもりだ。


そして、マップの動きからこの人物の目標はアヤネだと推測できる。

そのためアヤネには少し悪いと思うが囮になってもらう事になる。

当然、安全を考慮してアヤネには既にこの事は伝えておいた。

緊急時も考慮し異常があれば俺にメールを即時送信できるようにしてある。


そうして待っているとアヤネは囮として行動を開始したようだ。

アヤネは周りの商品を見ながら俺達から離れ自然な動きで遠のいて行く。

するとマップにあるマーカーもアヤネを追うように動き出した。


(やっぱり狙いはアヤネか。)


そして次第に近づく二つの光点はその距離が2メートルになって数分すると俺にメールが届いた。

これは既に決めていた異常を知らせるサインだ。

俺は立ち上がると何も無い空間を足場にして全力で向かって行った。




そして時間は数分遡る。

アヤネは小物などを見たりしながら仲間たちから距離を取っていた。

すると彼女の下に一人の男が現れる。

その男は斎藤 ツカサ

アヤネにとってはこの世界で5本の指に入るくらいに会いたくない相手だった。

そのため彼女はツカサに冷たい目を向けると感情のままに睨みつける。

それに今もあの切迫した時に送られたふざけたメールの事は忘れていない。

恐らくはあの時に感じた屈辱と、一瞬でも期待を持ってしまった自分への怒りは一生忘れられないだろう。

そう考えているとツカサは冷笑を浮かべながらアヤネの前までやって来た。


「まさか俺を拒んであんな男の所に転がり込んでるとはな。まさかお前がそこまでビッチだったとは思わなかったよ。それでアイツとはもうやったのか?」


そして出会って最初に口にしたのはあの時と同様に怒りを抱く物で中身も相変わらずのようだ。

それどころかその目に宿る狂気から以前よりも悪化しているとアヤネには感じられた。


「答える必要はないでしょ。それにあの人はとても優しい人よ。弱みに付け込むアナタとは違うの。」


それにアヤネは会社にいた時にツカサが相手の弱みに付け込み女漁りをしている噂を聞いていた。

そしてリストラ直後のショートメールでそれが事実であったのだと確信する。

するとツカサは少し考えると口角を吊り上げアヤネに暗い笑顔を向けた。


「もしかしてお前、相手にされてないのか?そうだよなあー。アイツの周りはお前以上の上玉ばかりだ。お前みたいな地味な女に目が行くはずはないよな。それでどうだ。今からでも俺の所に来いよ。他の雌同様に歓迎してやるぜ。」


アヤネはその時、ツカサの目に狂気が宿っているのを感じ取った。

そしてその言葉から既に犠牲者が複数出ている事を知ると不意に先ほどの移動中に聞いたニュースが頭を過った。


「まさか、3人の行方不明って・・・・・。」


しかし、アヤネの言葉は最後まで発せられることは無く、突然に痛みと嫌悪感が襲って来た。

体中を虫が這いずり、心臓を鷲掴みにされるような感覚にアヤネは体の自由が奪われ声も出せなくなる。

それと同時に訪れる胸元を焼くような痛みにアヤネは困惑しながらも僅かに動く指先を動かしユウにメールを飛ばして異常を知らせた。

そして、アヤネの抵抗はここまでだった。

アヤネは痛みが治まると同時に意識と体が切り離される奇妙な感覚に襲われる。

それに意識はあるのに体が言う事を聞かない。

周りを見て聞く事も出来るのに声を出すことが出来ない。


その時アヤネの前に怖い顔をしたユウが現れた。

しかし今のアヤネの体はツカサに肩を抱かれ、アヤネはツカサの腕をその胸に抱き締めまるで恋人のようだ。

その目には意思の光はなく何処か淀んだ色をしている。

それでも好きでもない相手の腕を取るアヤネは自由の効かない体で苦しんでいた。

しかもその姿を見ているのは思いを寄せるユウ本人である。

その苦しみも悲しみも彼女が今まで体験した事のない程、辛く苦しい物であった。

アヤネは涙も流せず何もできない自分を呪い、まるで自分が汚されている様な感覚に陥ると心が壊れそうな程の悲鳴を上げる。


しかし、そんな彼女の前に見覚えのある一人の少女が現れた。

それは先日仲間にしたメノウであり、アヤネを優しく抱きしめるとその純白の翼で包み込んだ。

それだけでアヤネから不安も恐怖も薄らぎまるで寒い冬の夜に愛する相手と毛布で包まれている様な安らぎが込み上げて来る。


そしてアヤネが見ている前でユウとツカサのやり取りが始まった。




「アヤネを離せ。」


すると俺の口からは自分でも聞いた事が無い程の冷たい声が洩れだした。

その言葉をツカサは鼻で笑い見せつけるようにアヤネを更に抱き寄せて見せる。

その瞬間に俺の中にあるモヤモヤが増幅され明確な怒りへと変わって行く。


「見て分からないのか?これはこいつの意思なんだよ。そして今この瞬間からコイツは俺の物になったんだ。だからどんなに泣いて叫んでもお前は既にお払い箱なのさ。そうだよなアヤネ。」


するとアヤネは表情を一切変えずに無言で頷いた。

その様子はまるで人形のようで明らかに様子がおかしい。

それでもこれがアヤネの本心ならこのまま見送っても良いと思っているが、今のアヤネは見るからに異常だ。

いつもの優しい笑顔も消え失せ、まるで能面のような顔になっている。


すると騒ぎに気が付いて駆け付けたライラが俺に耳打ちをして情報をくれた。


「恐らく隷属のスキルを使われているわ。胸に印があるはずだから調べれば分かるはずよ。通常奴隷商が使うスキルだけど私の世界では厳重に管理されていたスキルね。無断使用は死刑もあり得る重罪行為よ。」


それを聞いてスキルの中に隷属耐性がある事を思い出した。

それに奴が使っているスキルがライラの言っている隷属なら精神支配系に該当するので今の状態にも納得できる。


ちなみにこの世界にも奴隷は存在するが、この国からそういう存在が消えてもはや長い月日が過ぎている。

今では本の中だけの存在だが、そんなファンタジーな世界が今の世の中なのでそんなスキルを使う奴も居るのだろう。

現に俺のスキル欄にはギアスというスキルがある。

中二病っぽい名前だが、これは互いに同意がある時のみ発動するいわば契約をする為のスキルだ。

間違えても片方の意思で相手の思いを捻じ曲げる様な卑劣な物ではない。


そこまで思考した時、俺の体は自然に一歩を踏み出していた。

それを見てツカサは俺を笑い罵倒を浴びせて来る。


「愛し合う俺達を見て逆上でもしたか?周りの皆さ~ん。今から起きる事をしっかり見ていてくださ~い。」


ツカサは何も知らない周りの野次馬たちを証人にするために声を上げた。

普通ならここまですれば周りの目を気にして何もできない。

しかし、そんな事は俺には関係ない。

俺は威圧を段階的に上げツカサを睨む。


「ヒッ、ヒィーー。お前こんな大衆の前で俺に何かして後でどうなるか分かってるのか!?やめろ、来るなーーー。」


そう言って狼狽えるとツカサは声を荒げ横にいるアヤネに視線を向ける。

しかし、そこで口にした命令は周りで見ていた無関係な野次馬でも目を見開いて驚愕するものだった。


「アヤネ、俺を守れ!盾になって死んでも奴を足止めしろ。」


するとその命令は周りで見ていた者達の視線を集め特に女性からはゴミを見る様な視線を向けられる事になる。

そして、アヤネは表情を一切変える事もせず手を広げて俺の行く手を阻んだ。

そしてこんな状態になってしまったが考え無しに命令を下したツカサに若干だが感謝していた。

もしこの命令が「撃退しろ」や「殺せ」なら俺はアヤネを倒さなければならなかった。

俺はそっとアヤネに近寄ると目を手で覆いスリープの魔法を掛けて彼女を眠らせた。

例え命令されても意識が無ければ聞く事は出来ないからだ。


「な、アヤネ起きろ。これは命令だぞ。」


しかし、起き上がらないアヤネにツカサは歯を食いしばり俺に憎悪の籠った目を向けて来る。

次の瞬間ツカサは邪悪ともとれる顔になるとアヤネに命令をしようと口を開いた。

その時、俺の危険察知が最大に警鐘を鳴り響かせそれにライラの声が重なる。


「そいつの意識を刈り取って!」


その瞬間俺は威圧を最大限に、更に手加減を少しだけ故意的に間違えた一撃をツカサに放った。

その一撃は周りの野次馬の認識出来る速度を超え、気が付いた時にはツカサは顎を砕かれて宙を舞っていた。

それと同時に警鐘は鳴り止み、ライラからは安堵の溜息が聞こえて来る。

そしてライラは眠ったアヤネに近寄るとその胸元を広げ確認を取った。

するとそこには炎に似た印があり点滅を続けている。


「やっぱりね。これは隷属させた相手に与えられる印よ。一般的には奴隷紋と言われているわ。点滅しているのはアヤネがあいつの命令を無視して眠っているから。起きていれば地獄の様な苦しみを感じているはずよ。でもそろそろかしらね。」


ライラがそう言うとアヤネの奴隷紋がスーと消えていく。

そしてアヤネの体から光が放たれそこから天使の姿のメノウが姿を現した。

それと同時に周りで見ていた野次馬からは大量のシャッター音が響き渡る。

どうやら魔物である程度の耐性が付いても天使となると話が変わってくるようだ。

悪を象徴するのが魔物なら、天使であるメノウは正義を象徴するような美しく穢れの無い姿をしている。

そんな者が目の前に突然現れれば当然こうなってしまうだろう。

中身はかなり庶民的でフランクだがそれは周りの人は誰も知らない事だ。

そしてそんなメノウは演出する様に宙に浮かび翼を広げると胸の前で手を組んで祈る様な姿を取った。


「アヤネさんの隷属は解除しました。思っていたよりも高レベルだったので時間が掛かり申し訳ありません。」


するとメノウの言った隷属と言う言葉に周りからどよめきが生まれ次第に周囲へと広がって行った。

そして天使がアヤネという女性を救ったと周りの者たちは理解し始め、それと同時にこの出来事で誰が悪で誰が正義かが決定した


俺は感謝を込めてメノウの頭を撫でてやると素直な気持ちを口にする。


「ありがとうメノウ。」

「構いません。彼女はあなたのお嫁さんの1人なのですからあんな者に触れさせて良い者ではありません。私が悪魔なら今頃あの男を焼却処分している所です。」


メノウはそう言うと鼻息荒く腕を組んだが見た目が可愛いので怒っているようには見えない。

周りもかなり騒いでいるので俺達の会話は聞こえないだろう。


(それよりもそのお嫁さんと言うのは止めてくれないのだろうか。)


そして俺はアヤネを床に寝かしたままにしない為にその体を抱き上げ腕に抱え上げた。

そしてその顔には今は僅かな笑みが浮かんでいるように見えるが深く眠っているのだから気のせいだろう。

すると何処からともなく救急隊員が現れツカサへと近づいて行った。


「人が倒れたと聞きましたがこちらで間違いありませんね。すぐに病院に搬送しますので皆さん離れてください。それとあなた達も同行をお願いします。」


そして流れに乗る様にユウたちは指示に従いその場を離れて行った。

周りで見ていた人たちはその急な展開に呆然となり立ち尽くしたままで動く事も出来ていない。

俺達はそのまま到着していた救急車に乗り込むと揃ってその場から離れて行った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更に手加減を少しだけ故意的に間違えた一撃をツカサに放った。 →更に手加減を少しだけ、故意に間違えた一撃をツカサに放った。
[一言] その瞬間俺は威圧を最大限に、更に手加減を少しだけ故意的に間違えた一撃をツカサに放った。 →その瞬間、俺は威圧を最大限に、手加減を少しだけ、故意に間違えた一撃をツカサに放った。
[一言] 「人が倒れたと聞きましたがこちらで間違いありませんね。すぐに病院に搬送しますでの皆さん離れてください。それとあなた達も同行をお願いします。」 救急車に同行できるのは、身内だけですよ。警察の…
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